3ピースバンドのThe Wisely Brothersが4月7日、東京・渋谷WWW Xでリリース記念東名阪ツアー『YAK YAK TOUR』のファイナル公演をおこなった。2月にリリースされたメジャー1stアルバム『YAK』の発売を記念し、3月31日の大阪・LIVE HOUSE Pangeaを皮切りに、東名阪3カ所回るというもの。この日は『YAK』に収録された全曲と「メイプルカナダ」やインストナンバー「モンゴル」など全20曲を披露し、The Wisely Brothersのサウンドで会場を包み込んだ。新たな旅路への幕開けとなった東京公演のもようを以下にレポートする。【取材=村上順一】

フォルダの中はヤクだらけ

The Wisely Brothers(撮影=石戸ひな)

 軽快なSEが鳴り響くなか、3人がステージに登場。楽器を手に取り準備は整った様子。その刹那、真舘晴子(Gt、Vo)は蜃気楼を彷彿とさせるユラユラとしたアルペジオをギターで奏で、『YAK』に収録された「give me a mileage」でライブの幕は開けた。静かな導入、透明感のあるコーラスが神秘的だった。続いての「メイプルカナダ」では和久利泉(Ba、Cho)の包み込むような低音。緩急をつけた構成は人の心を表現しているかのような危うさを感じさせる。徐々に熱を帯びていく演奏。

 挨拶もそこそこに立て続けに「キキララ」へ。ポップで軽快な渡辺朱音(Dr.Cho)のリズムに乗って楽しそうに歌い紡ぐ真舘。「東京に帰ってこれて嬉しいです。楽しんで行きましょう」と投げかけ、イントロから景色が思い浮かぶような音色のギターとベースのユニゾンが印象的な「サウザンド・ビネガー」を届ける。ギターソロの時の和久利と渡辺のコーラスワークがキラリと光る粋なアレンジ、続いてイントロの渡辺のドラムフィルからグッと惹き寄せられた「鉄道」、アルバムのオープニングを飾る不思議な世界観を見せた「グレン」と様々なカラーの楽曲を放つ3人。

 ライブは止まることなく続いていく。和久利のベースラインが印象的な「彼女のこと」では体を躍動感で満たしてくれる。彼女たちならではの独特なグルーヴは、いつまでも浴びていたいと思わせてくれるような心地良さ。そして、若干テンポアップし、渡辺のタイトなキックドラムが前へとのめり込ませた「八百屋」は久しぶりの演奏となったナンバー。

 MCでは、今回このライブハウスの装飾をお客さんと一緒に制作した背景を説明。ファンと共に作業をすることで、内側から外側に向かっていく心情をこのMCから感じ、そして、彼女たちならではの独特なトークの空気感は楽曲の雰囲気にも通じていると感じさせた。続いては「waltz」へ。浮遊感のあるサウンドは美しくも儚さを感じさせ、凛とした空気感を振りまく。

 ここまでで一番力強いビートが体を震わせたミディアムナンバー「Thursday」へ。サビでは溜めていたものを爆発させるかのようにスピードを加速させ、人間のバイオリズムの変化をこの一曲のなかで表現しているかのよう。続いての「おいで」ではイントロでの不思議なコード進行から、心の底から湧き上がってる感情を、木が生い茂るシルエットをバックに歌に込め届ける真舘。

 MCではアルバムタイトルの『YAK』からヤクというウシ科の動物を知り、かわいさのあまり、今では携帯のフォルダの中はヤクだらけだと明かすメンバー。そして、和久利が相撲をやってみたいとメンバーに語りかける。「相撲で有名な国ってどこだろう?」と言う振りから、まさかの客席から「モンゴル〜」のコールが飛び出しインストナンバー「モンゴル」へ。大陸を感じさせるアクティブで壮大なリズム、真舘もセクションによってシェイカーでグルーヴを作り出し、情熱的なサウンドで楽しませた。

「みんなと仲良くなりたい」

ヤクのコスプレをするメンバー(撮影=石戸ひな)

 ライブは「アニエスベー」を皮切りに後半戦へ。裏に入るギターのカッティングに南国を感じさせるエンディングの流れが秀逸だった「マーメイド」、ヤッホーとフロアに向けて呼びかける「MOUNTAINS」、そして、「明るい曲行きます!」と宣言し届けた「Season」、続いての「The Letter」では<I can feel something♪>と語りかけるように言葉を放つ真舘。観客は大きく体は動かさずサウンドを堪能するかのように小刻みにリズムにあわせ頭を揺らす姿も印象的だった。

 ここでなぜ『YAK』というタイトルがつけられたのかエピソードを語る3人。それは、ラジオのMCから言われた言葉から会話と自分たちの音楽がリンクしていると気づき、自身たちも「確かにそうかも」と確信したという。そこからおしゃべりの英語のスラングである“YAK"と命名したと明かした。

 渡辺は「私たちは自分たちの中に閉じこもりがちなので、こうやってみんなと同じ場所で楽しんでいけたら...」と想いを語り、「今回一番言いたいことはみんなと仲良くなりたいんです!」と話す。そんな外側への一歩を踏み出すかのように届けられたのは「トビラ」。ほどよくバウンスしたリズムに乗っていたかと思うと、嵐のようにやってくるセクションで一筋縄ではいかない展開。そして、ここでハプニングが。ラストの「庭をでて」に入ろうとしたところで完全にブレイクしてしまい、仕切り直す3人。ライブならではのハプニングもありながら、全霊のグルーヴを叩き付け本編を終了した。

 アンコールではメンバーによるヤクのコスプレ⁉︎ で登場。獅子舞を彷彿とさせる3人での共同作業でステージを動き回る。ヤクになりたいという和久利の希望から、被り物を自作したと嬉しそうに話す。今日でその役目を終えるヤクについて「これで終わりではなく今年のハロウィンで着る」と和久利は宣言。そして、真舘は「変哲があるようでないような砂漠が続くと思うので、どこかで出会えたら嬉しいです」と言葉を投げかけ、アルバムでも最後を飾る「マリソン」を届ける。唯一無二のセンスで構築したサウンド。内側から外側に発信していくアティチュードが見えたステージは、新たな世界を求め旅をする彼女たちの幕開けを感じさせた。

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