みんなで作り上げる、寿君 ジャマイカで学んだ音楽の楽しみ方
INTERVIEW

みんなで作り上げる、寿君 ジャマイカで学んだ音楽の楽しみ方


記者:小池直也

撮影:

掲載:18年04月13日

読了時間:約13分

リアルなレゲエを噛み砕いて日本人に届けたい

——レコーディングはいかがでしたか?

寿君

 録音も今までは自分が指揮をとってきていたので、僕の気分に合っていればOKみたいなところがありました。でも自分では気づかない所で、癖の強い歌い方をしていたみたいです。それに対して「リリックが全然聴こえない」と指摘されたりして。まさか人に聴こえない歌い方をしているとは思いませんでしたね。

 だから今回は「リリックの聞き漏れがないか」、「もっとここ声張った方が良い」、「滑舌良く」など皆でチェックして、皆でOKを出しました。なので、今までで1番良いんじゃないかと思います。今まで10年以上やってきた自分の美学やプライドがあって、それなりにキャーキャー言われた自負もあったし、「これが正解だ」というのもあった。だから最初は受け入れるのが、すごく嫌だったんです。何か言われたら「でもね…」みたいな(笑)。

 ただ、その「でもね」を1回我慢して、取り入れてみて、それでも違和感があるなら反論しようと思ったんですよ。それで意見を聞いてみた方の録音を何度も聴いていると「こっちの方が良いかも」となってきたり。もちろん、それでも納得できなかった場合は反論もしましたよ。やっぱり、皆で意見を出し合った方が完成度が高い物ができるという事が今回わかりました。

——興味深いです。後から聴いて「やっぱり違うな」と思う事もなかった?

 むしろ1人で作っていた時の方が「世に出したら、皆どう思ってくれるんだろう?」と不安でしたね。これだけ皆で意見出しあって、僕も何度もチェックしたから大丈夫でした。かなり自信が持てました。

——5曲で思い入れのある曲などありますか?

 「マンマ・ミーア feat.APOLLO」はRED SPIDERがプロデュースで、DOZAN11(旧・三木道三)さんにはリリック指導をお願いしたんです。DOZAN11さんは地元の町内の先輩で、小学校の時から知っているんです。それから僕のライバルであり、盟友であるAPOLLOとのコンビネーションも見せられるので、完成した時は大好きだったんですよ。レゲエ的な思い入れが深いです。

 でも初めての経験を沢山させてもらえたので「一人じゃない」が1番好きですかね。ミュージックビデオには真野恵里菜さんに出演してもらいました。演技を目の当たりにして驚きましたね。今まではモデルさんにお願いする事が多かったので、プロの演技は格が違った。スタッフさんの人数もストリートレベルでやっているのと全然違いますし。

 本当にこのEPから協力してくれている人が変わったし、見える景色も立ち位置も変わったんです。これからもっと変化していくと思いますし、楽しみですね。

——東名阪2マンツアー『not Alone tour?一人じゃない?』も5月からスタートしますね。

 レゲエ界って、対バンという文化がないんですよ。ワンマンばっかり。2マンライブは今までもやった事はあるんですけど、豪華ゲスト(名古屋:AK-69、大阪:HAN-KUN、東京:APOLLO)を迎えてというのは初めてです。AK-69さんはレーベルメイトの先輩で、そういう縁ができるまでは現場で一緒になった際にご挨拶させて頂く程度でした。

 でも、今回AK-69さん達に華を添えてもらうからには、自分も適当はできませんし、負けてられないなと思います。これからはこういう方たちと同じステージに立たなければならないんだと考えると、気が引き締まる想いですね。全力で行くしかない。

 やっぱり皆が持っていないものを僕は持っていたいという気持ちはあります。後輩たちが「寿君みたいにメジャー攻めて、自分の音楽を知ってもらいたい」という奴がもっと増えたら、僕らがレペゼンしている音楽をもっと広められるんじゃないかなと思います。

——やっぱりレゲエを広めたいという想いが強い?

 はい。でも、それだけをするためにメジャーに来たわけじゃないので、今までしてきた事と全然違う事をやっていきたいんです。日本人としてはレゲエを理解している方だと思いますし、それは消えないと思うので、マニアックなところを追及しすぎずに自分に足りない大舞台でのスキルをつけていきたいですね。

——先日、日本のヒップホップについての論争がSNS上で起こりました。ラップの普及に対して、本質的なヒップホップがおろそかになっているというものでしたが、レゲエについてはいかがですか?

 それはレゲエにも色々あるんです。結局ジャマイカに行っている奴がリアルなのか。日本人に向けてジャマイカの事をジャマイカの言葉で歌っても「どういう意味なんですか?」と絶対聞かれますし。結局そういう本場の事を全力で振り切ってやるのもこの日本ではリアルとは違うと思うんですよね。お客さんに目線を合わせるのは大切。それに日本は銃社会じゃないし、同じリリックなんて歌えないですよ。

 ただ、ボブ・マーレーから繋がっている今のジャマイカ音楽がある。それを踏まえて僕は日本でやらなければいけない事があるなと思っています。リアルな音楽そのままではないけど、その人たちがやった様な事を噛み砕いて、日本人に向けてやらなきゃと。

——確かに文化や言語の違う音楽をそのまま輸入するのは、かなり難しいと思います。

 はい。実は僕、ジャマイカに行って、ジャマイカの言葉で曲を書いて日本で出した事もあるんですよ(寿君 & JASON SWEETNESS「BAD WE BAD」)。でも、それで盛り上がるのはレゲエ好きな人だけでした。僕はリアルな事をやっているつもりなのに「何で理解されへんのやろ」と歯がゆかったですね。

 SNSでも「今の音楽はチャラい。チャラいレゲエを歌う奴がレゲエを語るな」と言う人もいるけど、その人にまず「ジャマイカの曲歌ってくださいよ」と言いたいです、僕は。若い奴の音楽をどうこう言う前に自分が背中を見せなきゃいけませんよね。結局、色々言う人は背中を見せてくれなくて、実際に背中を見せてくれる人は何にも言わないんですよ。だから僕も背中を見せれる人になりたい。

 僕は日本人として、日本に向けて曲を書いています。AK-69さんやHAN-KUNさん、事務所のback numberさんやWANIMAさんだったり、視野を広げて活動する色々なアーティストがいます。必要とされる人が日本にたくさんいるので。僕もそこで肩を並べてメジャーのフィールドで、日本の歌い手としてちゃんとやっていきたいんです。

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