全ての感情変えられる、横山だいすけ×石橋陽彩 感じた音楽の力
INTERVIEW

全ての感情変えられる、横山だいすけ×石橋陽彩 感じた音楽の力


記者:木村武雄

撮影:

掲載:18年03月25日

読了時間:約9分

 NHK Eテレ『おかあさんといっしょ』で9年間、うたのおにいさんを務めてきた横山だいすけ。番組卒業後は活動の場を、舞台や映画、テレビなどに広げ、多くの笑顔を届けている。子供だけでなく親からも人気を集める彼だが、16日公開のディズニー/ピクサー最新作『リメンバー・ミー』では初の父親役の声を演じた。自身も経験がない父親という役は「挑戦」だったという。また、同映画の主人公を演じるのは13歳の石橋陽彩(ひいろ)。テレビのカラオケバトルで一躍注目を集めた彼は、劇中で圧巻の歌声を披露しているが苦労もあったという。音楽と家族愛をテーマにした本作。劇中で“親子”を演じた2人が思う家族愛、本来の音楽の役割とは何か。【取材=木村陽仁/撮影=冨田味我】

言葉に出ない想い、挑戦

 本作は、ミュージシャンを夢見る少年・ミゲルがカラフルな“死者の国”に迷い込み、そこで出会った<家族が恋しいガイコツ>のヘクターと冒険を繰り広げる物語。ミゲルの家族は代々、音楽を歌うことも、聴くことも禁じられている。しかし、ミュージシャンの夢を諦めることができないミゲルは“死者の日”に伝説のミュージシャンのギターを奏で、それがきっかけで“死者の国”に迷い込んでしまう。ミゲルが暮らす生者の国に戻るためには、“ご先祖ガイコツ”からの許可が必要だが…。主人公ミゲルの声は陽彩、そのお父さんの声は横山が担当した。

(C)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
(C)2018 Disney. All Rights Reserved.

 先日、米国でおこなわれた『第90回アカデミー賞』で、長編アニメーション賞と主題歌賞を受賞。共演者や試写を見た人は「感動した」と口々にするなど話題を集めている。16日の公開を控え、2人は今、どのような心境にあるのか。

 石橋陽彩「SNSでは『感動したよ』というコメントもあるんですが、まだ公開されていないのでどんな反応があるのかが楽しみです。でも不安な気持ちでもあります。正直、緊張しています。公開されたら友達に『どうだった?』って聞きたいです」

 横山だいすけ「もともと素晴らしい作品だと思っていましたので、多くの方に見て頂きたいという気持ちもありました。賞を獲ったことは大変素晴らしいと思いますし、そのことで映画を知らない人にも知ってもらえるきっかけにもなったと思っています。日本で、一人でも多くの人に見てもらって家族の温かさを感じてもらいたいと思います」

 『おかあさんといっしょ』卒業後も、“だいすけお兄さん”として慕われ続けている横山だいすけ。子供からその親まで人気を集めている彼が演じるのはミゲルのお父さん。家族の掟に習い靴職人を受け継いだ。その掟を守る側としてミゲルに夢を諦めさせなければならない立場でもある。しかし、劇中では、どこか心に留めている言葉、親心がにじみ出ているような気もする。

 キャスト発表当時、横山は「自分ではない誰かを演じるにあたり、“間”が違うといいますか…。“どう話せばいいんだろう”、“どうすればお父さんのようになれるのだろう”とすごく悩んだり、非常に勉強になりました」と語っていたが。

 横山だいすけ「私は父親にもなっていなので、父親として子供に話すときにどういう言葉をかけるんだろうかと思いました。役どころが夢を応援している家族というよりかは家業を継いでもらいたい、どちらかと言うとミゲルの夢を諦めさせるという想いです。逆に、私が育ってきた環境はどちらかというと家族みんなが応援してくれたので、そのテンションや、役柄としてどう諭せばいいんだろうか、どんな言い方になるだろうか、というところは一つ大きな課題でした。やりたいことを賛成することも反対することも家族の愛情ではありますので、愛情の部分が役として引き出せることが出来たらいいなとを思って取り組みました」

(記者)言葉と言葉の間にも意識されたのでしょうか?

 横山だいすけ「間もそうですが、その“言いまわし”や“言い方”は私にとってチャレンジでした。声優としても経験は浅いので、とにかくやってみるという気持ちでした。自分の想像したものをやってみて、それが監督やスタッフの皆さんにどういうふうに聞こえているか、ちゃんと役として合っているのか、自分だけでなく、まわりの皆さんと一緒になって(キャラクター像を)作ってもらいました」

(記者)ミゲルの父親からは言葉に出ない思いが感じられました。お父さんとして言いたいけど言えない気持ちが。

 横山だいすけ「そうですね。お父さんとしてはミゲルの気持ちも応援してあげたいけど、親がこの先いなくなっても君の人生は続いていくんだよ、そのなかで、君(ミゲル)が本当に幸せに感じられることはこの仕事、代々継いでいるこの仕事なんだよ、という思いがあるんだと思います。応援してあげたいけど、気持ちは大事にしてあげたいけど…という親の気持ちをうまく表現できたらいいなと思って挑みました」

 劇中では、お父さんがミゲルを応援する描写はない。しかし、横山は、その描かれていない父親の心情とも向き合い、限られた言葉でそれを表現しようとした。

温かみのある歌声、歌詞が日本語になり歌いやすく

 一方、ミゲルを演じた石橋陽彩は劇中で「リメンバー・ミー」などを歌っている。歌うことが大好きで幼い頃から歌とダンスのレッスンを始め、若干13歳にして“歌うま天才少年”の異名を取り、数々の歌番組に登場している。この取材の冒頭で記者は「取材はまだ慣れない? 不安はある?」と聞いたが、「取材やイベントに参加する機会も増えて、慣れてきています」と堂々としていた。その姿勢は劇中でヘクターの声を演じた藤木直人も太鼓判を押し、歌声についても「金メダルです」と絶賛した。

横山だいすけ×石橋陽彩

 石橋陽彩「小さい頃から音楽が好きで、歌を習い始めたのが、幼稚園のとき、4歳ぐらいからなんです。最初に歌ったのは確か大塚愛さんの『PEACH』。その時から(J-POPなどを)歌ってきたので、頑張ってきたことが少し活かせていたらいいなと思います。そして、聴いてくれるお客さんが感動してくれると嬉しいです」

(記者)劇中ではへクターと歌う「ウン・ポコ・ロコ」なども歌っています。歌うのは難しくなかったですか? 感情を表現する高音や巻き舌で歌うところもありましたが。

 石橋陽彩「発音とかも難しかったです。歌っていくうちに歌詞が色々変更になったので、歌詞の意味とかを考えるのも難しかったです。最初は面白い歌詞だなと思っていたんですけど、スペイン語から日本語に変わった歌詞もあって、それで歌詞の意味が分かってきて、歌いやすくなってきました。叫ぶことがあんまりなかったので、“その場でやってみて”というところで緊張しました。3テイクぐらい頂いたんですけど、成功するかどうかで…」

 主にJ-POPを聴いてきた彼は、洋楽がベースにある今回の音楽は「挑戦」だったようだ。しかし、難しいフレーズや歌いまわしも完璧にこなした。一方、横山は彼の歌声からどう感じたのか。

 横山だいすけ「ただただ素晴らしいなと思いました。13歳という年齢でこれだけ表現できるというのは、彼が聴いてきた音楽、そしてきっと家族のみなさんが、彼が好きという音楽をどれだけ応援してくれたのかなと思います。歌っている姿もちょっと見させて頂いたんですけど、伸びやかに歌っている姿とかそこから奏でられる歌というのが聴いていて温かくなるというか、僕も心から素晴らしいな、いつまでも聴いていたいなと思いましたね。この『リメンバー・ミー』という歌を彼が歌うことでより好きになったし、そういう力を持っているんだなと感じました」

 数多くの音楽を子供たちに届けてきた横山もその温かみある歌声を評価した。

家族の絆、細かい描写も見どころ

 家族と音楽をテーマにした作品。印象に残っているシーンを聞いた。

 横山だいすけ「ネタバレになるので詳しくは言えないですが、一番最後のシーンです。自分も似たような経験をしたことがありまして、音楽は、言葉に表せないほどの不思議な力をもっているなと思っていて、人の心に届くんだなと凄く感じました。それがあって、家族の絆を改めて感じられる。映画の一つのシーンから、自分の家族を思い出したり、自分の家族を感じられるというのは、これは一つの映画ですけど、自分の人生を良くしていけるというか、人生を明るく見出してくれるというか、そういうシーンだなと思いました」

 石橋陽彩「僕も最後のシーンが好きです。それ以外のところの細かいシーンも好きで、ダンテ(犬)とミゲルが、お座りとか伏せとか、タッチとか楽しそうにじゃれ合っているシーンが凄く好きだなと思いました」

 細かいと言えばミゲルが作ったギターのフレットは釘が使われている描写もあった。横山も「細かいですよね。手作り感を出していて。それと映像も綺麗です」とそうしたこだわりも見どころであると語った。

だいすけお兄さんが感じた音楽の役割

 本作の題材となった、メキシコの“死者の日”は、家族や友人達が集い、故人への思いを馳せて語り合う日だ。劇中では、幼い頃に、父親を“失った”ミゲルのひいおばあちゃんのココが100歳近い高齢になっても、父親の姿を求めて「パパ」と呼ぶシーンがある。離れていても親子の絆は永遠にあるということを感じさせる描写だ。そこで、横山に聞いた。9年間うたのおにいさんとして子供と向き合ってきて感じるものとは。そして音楽の力とは。

横山だいすけ×石橋陽彩

 横山だいすけ「子供たちに会うときにいつも思うのは、子供は、僕らが言葉を発していようが発していまいが、僕らの感情を読み取る力があるというか、見透かされているような気がするんです。なので、収録の時とか、コンサートの時とか、子供たちに会う時には、自分自身が心から元気であること、皆と一緒に遊びたいという気持ちがいっぱいになってから会いに行くということを心掛けていました。ちょっとでも僕らが今日は疲れているなと思ってたりすると、子供たちに『こんにちはー!』と言った瞬間に反応が全然違って。ちょっと緊張しちゃうんですね、子供たちって。僕らや関わるみんなが元気であると、『こんにちは!』と言った瞬間に『こんにちは!』と大きな声で返ってくるんです。子供といられる時間はだいたい1時間ぐらいなんですが、その1時間のなかで子供の本来の元気さや、笑顔を届けられるかどうかは僕らの気持ち一つで変わっちゃうんだなと。だからこそ、心持ちを大事にしないといけないなというのは子供から教わったことです」

(記者)そのなかで音楽というのはどういう役割を果たしましたか?

横山だいすけ「元気がなくても、悩みがあったとしても、すべての感情というものが、音楽で変えられるという凄い力があるなと思います。親御さんから良く聞くのは、初めての育児とかいろんな悩みがあるなかで、最初は子供に見せていたものが、自分自身も気が付いたら“この歌好きかも”と、“あ! この歌元気もらえるかも”と親御さんが元気をもらうこともあるようです。音楽というものはそういうエネルギーを持っている素敵なものだなといつも思います。歌っている自分自身も力がもらえます」

 ミゲルは初めこそ、ミュージシャンを目指すために、いわば自分自身のために歌っていた。しかし、物語を通して、音楽への意識が変わっていくようにみえる。歌唱力で脚光を浴びる石橋にも重なるが…。

石橋陽彩「ミゲルは、自分の音楽を色んな人に聴いてもらいたいという気持ちで音楽を弾いていたんですけど、だんだんと音楽の大切さというか、音楽の重みと家族の重みが平等になっていったと思います。僕は、ステージとかに出るとお客さん一人ひとりの心に響かせたいと思い歌うようにしています。でも普段のときは自分の好きな歌を普通に歌っている感じです(笑)」

 音楽を通じて繋がる家族の物語。音楽とは何か、家族とは。シーンにないところにも意識しながら挑んだという本作。家族愛ももちろん、セリフや音楽、細かな描写にも注目してもらいたい。

(おわり)

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