新山詩織、成長と深化掲示の東名阪ツアー最終公演に溢れた多幸感
『新山詩織ライブツアー2018「しおりごと-BEST-」』東京公演を開催した新山詩織
シンガーソングライターの新山詩織が12日、東京・マイナビBLITZ赤坂で東名阪ツアー『新山詩織ライブツアー2018「しおりごと-BEST-」』東京公演を開催。1月に発表した初のベストアルバム『しおりごと-BEST-』を引っ提げた同ツアー。昨年12月12日にアーティストデビュー5周年を迎え、今年4月でメジャーデビュー5周年を迎える新山が、5年の軌跡を辿りながら、成長と深化を提示するというコンセプトと様々な人への感謝の思い、そして未来への希望を感じさせるステージとなった。
多幸感に満ちた会場
―私はあの頃(昔)も今も自分の気持ちには嘘をつけないんだなと。そんな頑固で生意気なとっても扱いにくい面倒な私でも優しく、時に厳しく、たっぷりの愛情を注いでここまで連れてきてくれた家族、友人、スタッフさん、メンバー、そして遠くのあなた、目の前のあなた…受け入れてくれる人たちが居たから、一人じゃないって気付けたから、私は私を変えていきたいと思いました。そして精一杯人を好きになること、信じることを教えてもらいました―
これはアンコールで読み上げられた新山からの手紙の一節だ。
5周年記念の特別なライブゆえの多幸感に満ちたBLITZに開演の時が訪れ、場内はゆっくりと暗転。ステージ中央に降りてきたスクリーンには、5年を振り返る映像とともに、「あっという間だったけど1年1年がたっぷり色んなことがあったので、それを思うと、ゆったり進んでいたようにも感じられる」といった現在の率直な心境を語る新山のインタビューボイスが流れた。
そして、バンドメンバーに続き姿を現した新山は、オーディエンスからの大きな歓声を浴び、それに応えるかのように深々と一礼。愛用のテレキャスター(エレキギターの名称)を肩に掛け、凛とした表情を客席に向けると、メジャーデビューシングル「ゆれるユレル」で華々しく幕を開けた。
続いて、美麗な音色を響かせたピアノソロから、新山がアコギのボディーをコツコツコツと叩いた3カウントを合図に始まった「Don’t Cry」、高校生だった彼女の人間的な成長が当時感じられた「ひとりごと」と、訴求力の高い楽曲が披露されていった。3曲目が終わったところでこの日初のMC。
「ツアーファイナルにようこそ! 今日は今のありのままの私の声でベストアルバムの1曲1曲を大事に届けていたらいいなと思っています。こうやって皆さんと同じ場所にいられることを心から感謝して、次の曲を歌いたいと思います」そう語って届けられたのは「今 ここにいる」。
この楽曲は、新山と同世代のアスリートであり、奇しくもこのライブと同じ日におこなわれた平昌五輪のスキージャンプで悲願の銅メダルを獲得した高梨沙羅選手に触発されて綴られた歌詞になっている。リリース当初、新山は「あと少しで高校卒業というところで、これから前に向かって進んで行かなきゃという自分の思いも自然と投影された内容になっていると思う。色々な場面や状況で頑張る人の支えになる曲になって欲しい」と語っていたのが思い出される。
次の「絶対」では、サビのフレーズをアカペラで歌い始めるライブアレンジバージョンで披露。歌詞がくっきりと浮かび上がるようなエモーショナルな歌声が会場を包み込んだ。
バンドは特別楽しい感じ
中盤はバンドメンバーとの会話を交えつつ、特別編成で届けるコーナーへ。まずはキーボードの山本健太の伴奏に乗せてミディアムチューン「ありがとう」が届けられた。MCでは「『ファインダーの向こう』ツアーの時も猛吹雪だったし、今回もリハの初日が大雪の次の日で。誰なんだろう、雨男、雪女は?」と言う山本に「私は自称晴れ女をずっと言い続けてきたんですけど、確か私が生まれたのが大雪の日だったと両親に聞いたことを、ふと思い出しました」と返す新山。「埼玉出身で、その確率はアウトでしょ!」という山本の突っ込みに、場内は大きな笑いに包まれた。
2番手はギターの金子健太郎と新山のアコギ2本により、アコースティック編成で届けるのは初めてという「隣の行方」が披露された。青春の情景を呼び起こす、ほろ苦くて甘酸っぱいナンバーに手拍子が自然と折り重なる。金子が、「どの会場のお客様も温かくて、こちらも楽しくなるような雰囲気を作ってくれる」と感謝を述べると、客席からも「ありがとう!」の声が返ってきた。
ラストはドラムの橋谷田真、ベースの柳原旭のリズム隊2人と新山のエレキギターという初のトリオ編成で、「もう、行かなくちゃ。」をドロップ。デビュー当初からの付き合いとなる橋谷田と柳原は、「なんとも感慨深い」と懐かしそうに当時を振り返った。
バンドメンバーとの和やかなコーナーの後、ステージには再びスクリーンが登場。ライブのリハ風景の映像に乗せて、「バンドは特別楽しい感じがあります」と、ライブやバンドに対する思いを語る新山のインタビュー映像が映し出された。
前半の革ジャンに赤いパンツルックというロックテイストな衣装から、黒のブラウスに赤と紺のストライプがキュートなロングスカートというガーリーな衣装にチェンジした新山。「再びメンバーも全員揃いました。ここから盛り上がっていきたいと思うんですけど、行けますか? 行けるか? もっともっと行けるか?」というエネルギッシュな煽りに、オーディエンスの歓喜はさらに熱を帯びていった。
そしてKANの名曲「愛は勝つ」のカバー、さらにノンストップで「あたしはあたしのままで」へと、気高い歌声で独自のライブ空間が作り上げられていった。「あたしはあたしのままで」のエンディング、“この先にある未来を信じて”のフレーズ部分は、ひと際心を強く突き動かすパワーを宿していたように思う。
楽曲が終わるたびに降り注ぐ熱い拍手と声援。穏やかな笑顔を浮かべ、「次の曲で私のことを知ってくださった方もたくさん居るんじゃないかなと思います」と告げた「恋の中」は、自身初のドラマ出演も果たし、主演の福山雅治がプロデュースした特別な一曲だ。憂いと切なさを秘めた唯一無二の歌声は、続く中島みゆきの名曲「糸」のカヴァーでも感動を生んだ。そしてこの季節にもぴったりな「Snow Smile」を豊潤な歌声で届けた後、ついにエピローグへ。
「毎回ライブをやるたびに、あっという間に時間は過ぎるもので、最後の曲になりました」という新山の言葉に「え〜!」と一斉に悲鳴を上げるオーディエンスたち。すると、「駄々こねないで(笑)」と優しくなだめる新山。そんなさりげなくも濃密なやり取りから、彼女の成長を感じずにはいられなかった。
「最後の曲はベストの中でも新しい曲です。未来がどんな形になるかは分からないけど、誰かを思う気持ちはとっても尊いもので、とても温かく優しい大事な気持ちだと思います。最後にそんな思いを込めて、皆さんに向けて大切に届けられたらと思います」そう語り、自らの歌声を今この瞬間に、そして大切な人たちの胸に刻むように届けられた「さよなら私の恋心」で本編はフィナーレを迎えた。
彼女から放たれる「歌声」と「人柄」
熱烈な“しおりコール”に包まれた場内に、三度スクリーンが降り、新山のインタビュー映像が現れた。「私にとって音楽は彼氏のような存在でした」と心情を吐露する彼女の姿からは、10代から20代へ、学生から社会人へ、子供から大人へ…、多感なこの5年間を、音楽とともに生き、真摯に向き合ってきたことが窺えた。
ツアーTシャツに着替え、1人アンコールのステージに戻ってきた新山は静かにアコギを手にし、そしてデビューの夢を掴んだオーディションで歌った初オリジナル曲「だからさ」と、椎名林檎のカバー曲「丸の内サディスティック」を渾身のアクトで披露。客席から惜しみない拍手が贈られた。
そして、最後はバンドメンバーを再びステージに呼び寄せ、「ラストもっと行けるのか!」と激しく凛々しくアジテーション。ゴキゲンなロックンロールナンバー「Everybody say yeah」でこの日一番の盛り上がりを見せ、祝祭感満載の5周年記念ツアーファイナルステージは大団円を迎えた。
守ってあげたい衝動に駆られる「繊細さ」や「儚さ」と、包み込んでくれるような「優しさ」や「包容力」とが混在する新山詩織の魅力。この日のステージで際立っていたのは、計算など一切ない、そんなありのままの彼女から放たれる「歌声」と「人柄」だった。この純真さを武器に、これからさらにキャリアを重ねどんなアーティストに成長していくのか非常に楽しみである。
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