ポップ・ロックバンドのNulbarich(ナルバリッチ)が12月6日に、2ndEP『Long Long Time Ago』をリリース。ボーカルのJQを中心に2016年に結成、同年リリースした1stアルバム『Guess Who?』が、タワレコメンの2016年間チャートで6位を獲得した他、日本テレビ系『バズリズム』で「これはバズるぞ2017」に選出、さらに第9回CDショップ大賞にノミネート。今年9月にはジャミロクワイの来日公演でサポートアクトを務めたことでも、注目を集めている。「昔のソウル/ファンクやレアグルーブが自分の教材」と話す彼らの音楽は、世代を問わず流行に敏感な人たちの間で話題に。「マディソン・スクエア・ガーデンでのライブが野望」と話すJQの音楽的なルーツは? 作品作りやバンドに対する考え方など話しを聞いた。【取材=榑林史章】
みんなのお口に合えば良いなとドキドキ
――今年9月にジャミロクワイの武道館公演の2日目で、オープニングアクトを務めましたが、そのときはどんな感じでした?
向こうのバンドのみなさんからは、「格好良かった」と言っていただいて。マニピュレータの方も「意外とやるじゃん!」みたいなテンションで褒めてくれたので、本当にすごく嬉しかったです。彼らのライブも本当に感動的で、全盛時代から年月を経てはいるけど、ステージでマイクを持った瞬間は昔と変わらないジェイ・ケイさんで、声も衰えていなかったし。バリバリに刺激をもらいました。
――そんな刺激も得てリリースされたEP『Long Long Time Ago』は、本当に格好いい作品ですね。70年代のディスコ、フィリー・ソウル、ブラック・コンテンポラリー、アシッドジャズといった様々な時代のソウルミュージックのエッセンスを感じましたが、どういうきっかけでそういう音楽に触れたのですか?
最初はヒップホップからだったんですけど、トラックに使われているサンプリングネタに興味を持って、それを掘っていく形で、ソウル/ファンクやアシッドジャズなどに出会っていきました。
サンプリングという手法自体にも衝撃を受けました。ヒップホップの文化は、ある曲の一節をつまんでサンプラーでつなぎ合わせ、それをひたすらループさせるだけで曲として成立させる。Aメロ、Bメロ、サビのような一般的な曲構成が当てはまらない、その自由さに衝撃を受けました。
気づけばサンプラーを買っていて、アナログレコード屋でネタになりそうなレコードを漁るようになっていて。自分でやりながら、さらにハマっていった感じです。正統な聴き方ではなかったと思うけど、自分がトラックを作る上での教材が、昔のソウル/ファンクやレアグルーブでした。
――曲作りは、全部おひとりでおこなっているのですか?
そういう曲もありますし、スタジオでメンバーと詰めるときもあって、曲によっていろいろです。たとえば「In Your Pocket」という曲は、サンプリング主体で作りました。メンバーにギターを弾いてもらって、その中から格好いいリフをつまんで、それを元にして作りました。
――ヒップホップやクラブミュージックのアーティストは、ビートから作るという方が多いですが。
そのほうが楽だと思いますけど、僕はそういう縛りを設けてなくて。最初に暫定的なビートを組んで、いろいろ音を足していって、最終的に最初のビートがなくなっている場合もあります。最初に完成図をイメージしていないことが多いので、作りながらどんどん変わっていきますね。メンバーからこういう感じの曲はどう? とアイデアの種をもらって、出来たら最初の曲とは違っていても、格好良いからそれで良いじゃんっていう感じが多いです。
――どこか夜っぽいイメージがありますよね。残業をしながら23時くらいに聴くラジオから流れて来そう。
そういう感想は、すごくうれしいです。でも明確に夜とか昼とかは決めてなくて。<good morning>と歌っている曲もあるけど、明確に朝ってわけではないし。夜っぽく感じるのか、朝っぽく感じるのか、それは聴く人の状況によって変わるのかな。いつでもと言うとアバウトだけど、僕らの曲がリスナーさんの日常の一部になってくれることがいちばんです。こちらから聴くシチュエーションを押しつけずに、みんなのどこかにハマれば良いなと思います。
――ネットよりも、ラジオで広がっていきそうなイメージがありますけど。
そうですね。実際にラジオのDJさんに気に入っていただいて、曲をかけてくれたことが始まりですから。そういう部分では、引き続きラジオで耳をひくような曲を作りたいと思っています。
――ラジオは“ながら聴き”をするので、そこで耳を止めてもらうには、それ相応のキャッチーさが必要になりますよね。
はい。どこをつまんでも格好良いとかインパクトがあること、雰囲気が良いとか、メロディがキャッチーであることは常に意識しています。僕自身コアな難しい曲が好きとか、テクニカルな曲が好きというわけではないし。いろいろなジャンルが好きだし、その中でもそのジャンルのキャッチーなところが好きなので、自然とそういうところに寄って行っていると思いますね。だから、意識してそうやっていると言うよりは、今は自然と、自分が出せるグッドミュージックが“ここ”っていう感じです。
今作もラジオでたくさん流してもらえたらうれしいですけど、でもどうなのかな〜(笑)?
――自信がないとか? まあ、採点するのはリスナーですからね。
自信がないわけではないです! 毎回フルスウィングで一生懸命作って、僕はめちゃめちゃ格好いいと思っているんですけど、「どうですかね? みなさんは」っていう感じです。毎回みなさんのお口に合えば良いなと思いながら、ドキドキしているんですよ。
音楽という魔法を通して救ってあげたい
――歌詞は基本英語で、ところどころで日本語が印象的に入ってきますね。
僕は、移動中とか何かしながら音楽を聴いたり、“with music的な感覚”で常に周りで流れていることが多くて。そういう部分では、パンチラインが常にあると疲れますよね。だから聴き流せる英語を多めにしていて、日本語は、ここらへんにあると気持ちいいよねというバランスで、自分の感覚で配置しています。
――そのバランスが絶妙なんでしょうね。
自分の中では、日本語を格好良く歌うのはハードルが高いんです。日本語は語彙(ごい)も多いので、言葉のチョイスも英語より難しい。そこはもっと勉強して、今後はもう少し日本語を増やして行きたいと思っています。
――じゃあ逆に、英語がけっこう得意?
海外の友だちが多いので、わりとナチュラルに生活の中にある感じです。とは言え、友だちと話すときは、単語を並べてボディランゲージで伝わるので、特別得意というわけではないですね。だから、大事な主語が抜けていることもあるし、スラング的な言い回しも多いと思うし。きっと、頭の良さそうな人の英語ではないと思います(笑)。
――例えば「Spellbound」なんかは、どんなイメージで歌詞を書いたのですか?
タイトルは「魔法にかかっている状態」とか、「魅了されている」といった意味です。歌詞の主人公がなんとなくいて、その人は周りから見れば不憫に思われている状態だけど、本人はそれに気づいていない。それを僕が、音楽という魔法を通して救ってあげたいなという感覚で作りました。だからAメロBメロでは、日常で何かに縛られているような状態を表し、サビでそこから解放してあげるようなイメージです。
――子どもの声も使われていて、それも良い具合にフックになっていますね。
子どもの声はサンプリングですけどね。そこは、目を閉じて10までカウントして、目を開けたら魔法にかかっているみたいなイメージです。
――音楽は、ある種の魔法であるみたいな。
そうですね。音楽を聴いているときは、一瞬の現実逃避みたいな感じがあるのかなと思うし。…でも、こういう風に歌詞を語る機会ってほとんどないので、緊張しますね(笑)。
――ハイトーンとかファルセットで歌っている曲が多いですが、そこはJQさん独特の雰囲気ですね。たとえば「Onliest」とか。
「Onliest」は、自分としては挑戦した曲です。強めのファルセットという部分では、ディアンジェロとかネオソウル系の人たちのボーカルに対する憧れ的なものが、少しあるかもしれないです。
本当はもっと力強く、ザ・ブラックミュージックと呼べるようなパワフルな声で歌ってみたい気持ちはありますけど、いかんせんもともと持っているものが違うので。自分の声質がこうだし、歌い方にしてもまだ手探りなところがあって。今のベストはこれだけど、今後は変わっていくかもしれないですし。僕にしか出来ないことを探し続けないと、唯一無二にはなれないと思っています。もちろんいろんな人の影響を受けながらも、自分のオリジナリティをもっと探っていきたいと思っています。
――どんなボーカルを目指しているのですか?
何かゴールを決めているわけではないです。でも今回のEPは、新しい発見もあったし、自分自身で新しい伸びしろみたいなものも感じました。「In Your Pocket」が特にですけど、やりたかったことを少し形に出来た部分がありました。
バンドというスタイルに、こういう音楽を落とし込むことについて、最初はあまり想像がついていなかったんです。でも意外と上手く出来たので。今後はこの音楽性や歌を研ぎ澄ませていけたらと思っています。
マディソン・スクエア・ガーデンが野望
――来年にはツアーが。『ain’t on the map yet』というツアータイトルは、どういう意味で付けたのですか?
僕たちはまだ地図に載っていない、まだ認知されていないという意味です。気持ちとしては、「これから載ってやる!」「おまえら見とけよ!」という心意気ですね(笑)。
――ライブでは、どんなステージを魅せてくれるのでしょうか。
音源をそのままやるわけではないので、そこは見どころでしょうね。ドラムが生だというだけで、音源とはだいぶ違うと思うし。テンポ感も含めて、ライブはライブならではのものを追求出来たらと思っています。メンバーもけっこうわがままで、決めたことをその通りにやってくれないし(笑)。その点ではセッションっぽさもあるんじゃないかな。僕自身も今回の曲が、ライブでやり続けることによってどこまで化けていくのか、すごく楽しみです。
――二度楽しめるわけですね。
僕たち自信を唯一何も包み隠すことなく表現しているのが、ライブという場です。僕以外のメンバーは公表はしていないし、僕も顔写真を出しているわけではないけど、ライブではそれもさらけ出している。ぜひ一度、体感してほしいです。
――こういうタイプのソウルミュージックは、なかなか日本のメインストリームにはならないですけど、そういう部分はどんな風に思っていますか?
でも、やっている人はたくさんいるし、好きな人もたくさんいると思うし…。メインストリームかどうかは分からないけど、僕らは、好きなものを変えることが出来ないし、きっとこの先も変わらずこのスタイル、この音楽性でやっていくと思います。それをどれだけみなさんに受け入れてもらえるか、どれだけシェアを獲得出来るかは、やり続けていかないと分からないですよね。
――何か目標はあったりしますか?
デビューのときに、マディソン・スクエア・ガーデンでライブなんてことを言っていたんですけどね。あくまでも野望です。大きい夢を持っていないと、それこそブレちゃうと思います。一歩一歩も大切ですけど、一個大きくて漠然とした野望を持っていれば、道に迷いながらでも進む方向は間違えずにいられると思う。そういうやり方が、僕には合っているんだと思います。マディソン・スクエア・ガーデンは、本当に漠然としたでかい野望ですけど、本気で目指しています!
- SUMMER SONIC 2017 東京
- SUMMER SONIC 2017 大阪
- 2ndEP『Long Long Time Ago』
- Nulbarich
作品情報
Nulbarich
2nd EP『Long Long Time Ago』
12月6日発売
1200円(税抜)NCS-10174
▽CD収録内容
1. In Your Pocket
2. Spellbound
3. Onliest
4. NEW ERA (88 REMIX)
ライブ情報
▽ONE MAN TOUR 2018“ain’t on the map yet”
3月14日 大阪・なんばHatch
3月16日 東京・新木場STUDIO COAST
3月17日 東京・新木場STUDIO COAST
3月28日 宮城・仙台Rensa
4月6日 広島・広島クラブクアトロ
4月7日 福岡・イズムホール
4月13日 愛知・名古屋ダイアモンドホール







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