波長は合わない合わせない、Brian the Sun 違うことが一番の共存
INTERVIEW

波長は合わない合わせない、Brian the Sun 違うことが一番の共存


記者:村上順一

撮影:

掲載:17年12月08日

読了時間:約14分

 4人組ロックバンドのBrian the Sunが11月15日に、メジャー3枚目となるシングル「カフネ」をリリース。表題曲はアニメ『3月のライオン』のエンディグテーマで、母性のような大きな愛情をテーマに制作されたミディアムバラード。松田聖子やスピッツも手がけるプロデューサーの笹路正徳氏がアレンジを全面的にバックアップし、曲の流れを重視したレコーディングで仕上げた。その笹路氏とのレコーディングエピソードや、日々進化し続ける現在のバンドの状態について話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

わかったつもりになっているのが一番危ない

「カフネ」通常盤ジャケ写

――7月にはミニアルバム『SUNNY SIDE UP』、そして今作「カフネ」と良いスパンで音源をリリースされていますね。

森良太 ありがたいです。メジャーでやる以上は、どうしても興行的な部分もついてくるじゃないですか。CDはバンバン出したくても出せるものではないとわかっているし。それでリリース出来るという状況はありがたいです。

――作詞・作曲に追われるという状況があると思うのですが、今のところ追われている感じでもない?

森良太 締め切りには追われていますけど、精神的には大丈夫です(笑)。

――むしろ追い込まれてからの方が?

森良太 そうですね、大事な事こそ、後回しにしてしまう傾向にあります。

白山治輝 夏休みの宿題は最後にやるタイプだ。

森良太 免許の更新とかも、大体ギリギリで(笑)。

――ちなみに皆さんは車の免許は持っていますか?

白山治輝 全員持っています。

――インディーズ時代は自分たちで運転をしてツアーを回った?

森良太 もちろんそうです。僕らメンバー4人だけで。今は主にスタッフが運転してくれています。

――ちなみに一番運転が危ういのはどなたでしょう?

田中駿汰 確実に僕ですね…。自分はペーパードライバーなんで、誰も信用してくれないんです。お前にはハンドル預けたくない感が凄いです(笑)。僕、信号の黄色で止まるか、行くかの判断が凄く遅いみたいで…。

森良太 よく試験に受かったな(笑)。

森良太

――さて、インタビューの本題ですが、新作はアニメ『3月のライオン』のエンディングテーマです。作品のどこにポイントを置きましたか。

森良太 まずは原作を読ませていただいて、相当考えて書かれている作品だと感じたので、あまり代弁した気持ちになって書くのはやめようかなと。自分の内面にあるものと作品を読み進めていく中で重なる部分があったので、その部分を歌えたらいいなと思いました。

――確かに怖い部分ありますよね。作者とすり合わせが出来たら良いのかもしれないですけど。

森良太 あくまで自分たちの作品でもあるので、これを背負って自分たちは活動していくし、もちろんしっかりと理解はしたいと思って読むんですが、わかったつもりになっているのが、一番危ないなと思いました。それぞれの解釈もあると思うので余白を設けたような感じです。

 あと、エンディング曲というのは作品の読後感を担っていると思ったので、今回のストーリーに沿った上で、使わない方が良い言葉や曲調など、あらかじめ決めてから制作に入りました。

――タイトルの「カフネ」はポルトガル語ですよね。どこで出会った言葉なのでしょうか。

森良太 僕はこういう変わった言葉を、読んだり、集めたりするのが好きでして。「カフネ」は「優しく髪に手を通す仕草」という意味なのですが、あまり男女間の愛情を、恋愛みたいな感じで描きたくはなかったんです。それこそ男女間でも、”母と息子”というようなニュアンスの方が、自分としてはしっくりくるかなと思います。だからと言って、母との愛情というわけではないのですが。

――意味がわかるとタイトルから情景が見えて来ますね。

森良太 そうですね。根源的なところで母性の方が強いです。

外食ができたレコーディング

小川真司

――「カフネ」はアレンジャーに松田聖子さんやスピッツさんを手がけた、笹路正徳さんが入られています。

森良太 経験値が全身から滲み出ている人でした。でも、「ここはこうするべき」とか、「こうしていきましょう」という引っ張り方ではなく、僕らの進むべき方向性を肯定しながら進めていってくれました。

――懐の深さが見えるやり方ですね。

森良太 はい。でも、僕らが良い演奏をしなかったら意味がないので。逆の意味でストイックで、「あなたたちに責任があるんですよ」っていうのがしっかり伝わってくるレコーディングでした。

――アレンジも無駄がないですよね。隙間がしっかりあって、スケール感も感じました。

森良太 まさしくその通りで、極力なくていいもの、例えば余計なコーラスは入れないようにしたり。

――その変わりに出てくるストリングスのラインが切なくて、インストゥルメンタルもいい感じです。アレンジ面ではどの辺に関わってもらったのですか。

森良太 全てです。レコーディングの時もずっと一緒で、ピアノも弾いてもらっています。ストリングスのラインも笹路さんが考えてくれました。設計図を書く作業と、それを組み立てていく作業全てを笹路さんがやってくれました。

――レコーディングでのエピソードはありますか。

白山治輝 レコーディングは今までにないくらいスムーズに進みました。基本的にいつもレコーディングはスタジオから出られなくて、食事は出前を取ることが多いんですけど、笹路さんとのレコーディングはあまりにもスムーズにいったので、外に出てスタジオの近所にある中華を食べに行きました。そのお店は「満腹」という名前で、そこで満腹になるという(笑)。

――外食ができたという貴重なレコーディングですね(笑)。今回ベースの聴きどころは?

白山治輝 「カフネ」のベースラインは、デモを元にはしているのですが、僕なりにアレンジさせてもらいました。結果ダメだしはなかったんです。あと、笹路さんに褒められたのが、サビの折り返しで音程が上がるところがあるんですが、そこを褒めて頂けたのが嬉しかったです。そこは是非聞いて欲しいです。

――小川さんはいかがでした?

小川真司 色々ありますけど、基本的にはワンテイクで録ったものがそのまま作品になっているというのは一番大きいです。全員で一斉にレコーディングのブースに入って、それぞれ楽器持って、一回試しに録ってみましょうか、と全員で録音したんです。で一旦聴きましょう、とコントロールルームで聴いたら、「もうこれでいいね」と。

森良太 それをベーシックで使って、歌は後からもう一回録ってるんですけど、ほとんどワンテイク目の状態です。後からやったこともそんなに多くはなかったです。

小川真司 音色を変えたり、基本的には後から重ねる部分も、曲を頭から流して、最後までやりました。「曲の流れを殺したくない」という笹路さんからの提案があって、今までの流れを汲んでということに凄くこだわりました。曲自体の流れも凄くスムーズで、今回はより自然になったと思います。

――確かに自然というのは感じます。ミディアム系の曲は意外とドラムは難しいと思うのですが、田中さんはどうでしたか。

田中駿汰 あまり派手な事をやるような曲でもないので、細かいニュアンスなどちょっとしたフィルは、考えて入れました。引き算で上手くバランスをとるというのを意識してやりました。

――ベーシックが1発で終わってしまったみたいなので、そのあと暇ですよね(笑)。

田中駿汰 そうなんです。ドラム組んでちょっと叩いて、ちょっと休憩してと言われて、自分で叩いた音も聴かずにみんなで初めて合わせた状態で初めて聴いて、それで終わっちゃったので。物凄いスピード感でしたね。

――こういうスタイルのレコーディングはバンドとしては理想ですよね。テイク数を重ねると上手くなっていくとは思うのですが、結局最初の方が良かったなとなりますよね。

森良太 なります。どこを聴くかという話でもあって、テイクを重ねていくと色々聴こえてくるんです。1発目にやってるときは大事な箇所しか聴こえてないから、余計な事を考えなくて済むのですが、自分の音も、別に音量も変わっていなくても大きく聴こえたり。

小川真司 ワンテイク目が一番みんなの音を聞いているんだと思います。どんどん2、3回目になってくると自分の音しか聴こえなくなってくるんですよ。それでで、どんどん自分のニュアンスは良くなっていったり。

白山治輝 自分のプレイはだんだん良くなっていくんですけど、他とのバランスがですね。

――グルーヴがなくなっていくという。

森良太 そうなんです。

小川真司 それに関して笹路さんに音楽的なやり方を教えてもらった感はあります。

――今後こういう方法論で録っていく可能性も?

森良太 基本的にはそうやりたいんですけど、それは笹路さんの経験値があっての判断でもあるので。僕らだけで録るときは、今は自分達が納得いく所までやるのが正解だと思っています。

――今回もチューニングは444Hzなんですか?

白山治輝 今回は生ピアノなので、それに合わせて441Hzです。ちなみに「フォレルスケット」は444Hzです。

――チューニングが変わりますけど、「カフネ」はライブの時はどうされているのですか。

森良太 ライブではエレピなので444Hzに出来ちゃうんです。生のピアノを444Hzでチューニングすると良くないみたいで。ピアノ自体がそういう設計ではないらしくて。

波長は合わせないスタイル

白山治輝

――「フォレルスケット」はノルウェー語なんですよね。

森良太 はい。言葉の響きで選んでいる節もあります。この曲は日本語でもないし、英語もイメージと違うなと。独特ですよね。

――タイトルは新鮮でオシャレだなと思いました。意味を調べたくなるといいますか。タイトルが「カフネ」にリンクするような部分もあると思うのですが、そこの関係性は?

森良太 「カフネ」にしても「フォレルスケット」にしても欠落しているもの、満たされないみたいな所が、どちらの曲にも歌われています。愛とか、感情もそうですけど、自分があると思っている形のないものが崩れ去っていくのか、それを見つめているのかという違いと言いますか。でも、自分の中ではこの2曲は対極ですね。

――音も対極ですね。「フォレルスケット」はロックっぽい感じでギターソロも前半と後編で分けたり。

小川真司  そうですね。ここは2人でツインギターで回してます。

森良太 最初に真司が弾いて、次に僕が弾いて。

――ツインギターでギターソロの掛け合いみたいなものじゃないですけど、過去にもそういった曲は。

森良太 2、3曲かな。

――割と少ないですね。「フォレルスケット」はレアパターンじゃないですか。

小川真司 そう言われてみるとそうですね。

森良太 僕らがギターソロをガンガンやりまくるのも、またちょっと違うかなと。

――でも良いと思います。最近はギターソロが入っているバンド自体が少ない気がしています。どういった心境でギターソロを2人でやってみようという話に?

小川真司 リハで合わせているときに、僕の中でこの小節数だったら「後半弾いてみる?」みたいな感じでした。言わなくても良太が勝手に入って来たり。もしくは途中でやめたりするときも(笑)。

――Brian the Sunは大きな意味での愛を一つテーマに掲げている所もあると思うのですが、それがバンドにも出ていると。

森良太 難しいですね。それが愛なのかどうなのかわからなくなります。めんどくさいけど、すり合わせていくのが愛という人もいるし、単純に良くなればいいなと思ってみんなでやっているだけかもしれないです。

――目標があればOKみたいな。そういったお話はメンバーとされます?

森良太 今までは特になかったんです。というのも、目標などを僕は決めなくてもいいと思っている派で。逆に治輝はちゃんと興行としてのバンド活動も考えたりするタイプで、「結果も出ていないのに、わがまま言えないでしょ」と。でも、こういう曲書きたい、こういうアルバムを作りたい、という話はしました。

――今までは自分から出てくるものを提示して。

森良太 割とそういうやり方をしていました。しっかり自分で作っていって、責任感というほど綺麗なものではないですけど、エゴもあるので。そんなに美しい言葉を使うのは適切かどうかはわからないけど、「俺がやらないと」という思いが当時はありました。

今は全員でいいなと思うものを作ることが、このバンドに関しては本当の正解だと思っています。それをなんとなくやりたいなって思ってから、ちょっとずつ空気も変わってきた感じはあります。

――ステップ的には1段上がってきているなと。

森良太 上がっている感じはします。めちゃくちゃポジティブな意味で、どうでも良い事が増えました。

――なんだかんだで、この4人は波長が合うのでしょうね。

田中駿汰

森良太 むしろ合わせないです(笑)。

小川真司 合わないし、合わせないし、それでも共存は出来ています。

森良太 草原でライオンとキリンが共存しているような感じです。まあ食われますけどライオンに(笑)。

白山治輝 決着がつくの早かったな(笑)。

森良太 好きなものが違うので、奪い合いにならないんです。これは「俺が欲しい」みたいな事にはならないので。何か全員が違うって良いかもしれないです。それが一番の共存です。

――その反発しあっていたものが上手く合わさった時に、凄いものができるのかもしれませんね。

森良太 自分ではわからないです。正直、優れた作品と言われているものというのは、単純に演奏が良かったりします。曲の構成とか骨組みも勿論大事なんですけど、そのメロディーに生えるのは駿汰のドラムがこうきてるからとか、後から見てみると、根幹の骨組みが優れているというよりは、全員がその曲を理解している、その曲を上手く演奏しているというものが、名曲と言われている気はします。

――分析してみると面白いですね。最後にバンドにとって「カフネ」はどのような作品になりましたか。

田中駿汰 今までシングルで出しているもので、ここまでしっとりした曲ってなかったんですが、「カフネ」を表題曲で出せたというのがバンドにとって凄く良い経験になりました。こういう楽曲も僕らには出来る、ということを世に出せたのは良かったです。笹路さんに入って頂いてストリングスが入ったりしたので、バンドの幅がまた更に広がりました。

白山治輝 「カフネ」も「フォレルスケット」もBPM(テンポ)の速さは全然違うんですけど、この季節に聴くと凄く良い感じだと思います。今の中高生の子たちが大人になって、このCDを10年後に聴いたときに、今のこの季節を思い出してくれるような曲になったと思います。

小川真司 「カフネ」もそうですが、これからが見えるような作品を出していきたいです。聴いてくれる人が、これからの僕らに期待しながら、次はどういう作品が出るんだろうとか、楽しみにしていて欲しいです。

森良太 ここから変わっていくということを毎回シングルをリリースする度に思います。変わっていけるという実感を持ちながら進めていければいいなと思っています。ちゃんと今回もそれが出来たので安堵しています。

(おわり)

作品情報

3rdシングル「カフネ」

発売日:11月15日

品番/価格:

ブライアン盤(DVD付初回生産限定盤)ESCL-4926~7 / 1759円(税抜)
ライオン盤(DVD付期間生産限定盤)ESCL-4929~30 / 1759円(税抜)
通常盤:ESCL-4928 / 1,000円(税抜)

★ブライアン盤DVDには、パトスとエートスTOURファイナル公演のLIVE映像を収録
★ライオン盤DVDには、TVアニメ「3月のライオン」エンディングのノンクレジット映像を収録、同エンディング映像の絵コンテブックレット付き、特製トールデジパック仕様

イベント情報

「ブライアンザサンタ クリスマススペシャル」

日時:2017年12月24日(日)16:00開場17:00開演
場所:新宿BLAZE
席種/料金:全自由/前売3,000円(税込) 全自由(男女ペアチケット)/前売5000円 全自由(学割チケット)/前売2000円 全てドリンク代別・クリスマスプレゼント付
問い合わせ:SOGO TOKYO 03-3405-9999

ツアー情報

Brian the Sun TOUR 2018『the Sun』

2月22日 千葉 千葉LOOK <対バン>
2月24日 横浜 横浜BAYSIS <対バン>
2月25日 宇都宮 HEAVEN'S ROCK VJ-2 <対バン>
3月3日 松山 Double-u studio <ワンマン>
3月8日 広島 CAVE-BE <対バン>
3月11日 北海道 北海道BESSIE HALL <ワンマン>
3月14日 鹿児島 鹿児島SR HALL <対バン>
3月15日 宮崎 宮崎SR BOX <対バン>
3月17日 大分 大分カンタループⅡ <対バン>
3月21日 宮城 仙台 LIVE HOUSE enn 2nd <ワンマン>
3月24日 兵庫 神戸VARIT. <対バン>
3月25日 香川 高松DIME <対バン>
3月31日 京都 KYOTO MUSE <対バン>
4月1日 岡山livehouse IMAGE <ワンマン>
4月7日 新潟 新潟CLUB RIVERST <ワンマン>
4月8日 石川 金沢VANVAN V4 <ワンマン>
4月14日 愛知 名古屋CLUB QUATTRO <ワンマン>
4月22日 東京 赤坂BLITZ <ワンマン>
5月19日 福岡 福岡BEAT STATION <ワンマン>
5月27日 大阪 なんばHatch <ワンマン>

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