<記者コラム:オトゴト>
 ロックバンドのTHE COLLECTORSが、3日に東京・中野サンプラザでおこなった『THE COLLECTORS 30th Anniversary TOUR “Roll Up The Collectors”』のファイナル公演を取材した。そのオープニング曲「地球の歩き方」に、忘れていた衝撃を思い出したような感覚に包まれた。以前、ボーカリストの加藤ひさしのインタビュー記事でも少し触れたが、それはその響きにある。

 この曲の特徴は、音楽理論的な話でいえば、曲の基本となる響きであるトニックの響きを、ドミナントコードにしている点にある。少し難しい話になるが、西洋音楽で多用されている12音階、ダイアトニックコードの理論でいえば、基本となる響き(=トニック)は、通常トニックコードと呼ばれる響き、ダイアトニックコードで示される一番目のコードが使用される。これに対してドミナントコードとは、ダイアトニックコードの5番目のコード、表現上トニックコードに比べて“不安定”なコードとされている。

 “不安定”があるから、“安定”したときにより強い“安定感”を感じられるものとなるため、コード進行理論としては基本的なものとして、ジャズなどでは決まりごとのように扱われているもの。しかし、例えば「地球の歩き方」は、その“不安定”なコードがトニックとして扱われている。

 分かりにくいかもしれないが、コードの響きとしてはコードの安定、不安定を決定する要素となる7thという音が、トニックではどちらかというとメジャー7thという音になる。しかしドミナントでは、その半音下となるマイナー7thという音。たった一音だけの違いだが、機能的には“過去の理論”としては「おかしなもの」である。

 それ故黒人が広めた“ブルース”という音楽は、そもそもが変な音楽、または誤った音楽という認識だったという。しかしそれがロックの誕生で、堂々と白人までが“変な音楽”をプレーするようになり、いつの間にか“変ではない”、スタンダードなものになっていった。

 しかし、その誕生には“間違っている”といろんな非難を受けたことだろう。それをプレーすること自体にいろんな面で非難されながら、それでも“この音がいい”という信念でこの音楽は今認められ、生きている。

 私的な認識なのかもしれないが、意外にこのサウンド、近年のロックやポップスではこの「地球の歩き方」ほどにあからさまに響かせる曲を、近年の新譜からはあまり聴いたことがない。それ故に余計に新鮮な雰囲気を感じた。

 ある意味この響きは、非難を受けながらも負けずに、生き残った響きである。改めて今、音楽にはそんな風に、何かに抗うことがあっても敢えて自立しようとする、そんな動きが必要なのではないだろうか?言葉にすることが難しいのだが、THE COLLECTORSのライブを見ながら、ふとそんなことを考えた次第である。【桂 伸也】

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