シンガーソングライターの村上佳佑が11月15日に、2nd miniアルバム『Beautiful Mind』をリリース。今年6月にEP『まもりたい』でメジャーデビューし、7月には東京・恵比寿The Garden Hallのワンマンも成功させた。前作では、「ハナミズキ」のカバーで自身が在籍していたアカペラグループA-Z(アズ)とのコラボを見せたが、今作ではフィリピン出身の女性シンガーBeverlyや、ダンス&ボーカルグループDa-iCEのメンバーである雄大とのデュエット曲を含む全5曲を収録。今作のテーマについて村上は、“Beautiful Mind”=美しい感情は「自己犠牲の愛」だと話す。彼が思う「自己犠牲の愛」とはどのようなものなのか、楽曲の制作背景や、レコーディングやライブでのジンクス、シンガーとシンガーソングライターとしての感覚の違いなど話を聞いた。【取材=村上順一/撮影=片山 拓】
テーマは「自己犠牲の愛」
――メジャーデビュー後、初の夏はいかがでした?
フェスなど今までに経験したことのない充実した夏でした。初めましての方もたくさんいたので、自己紹介ができた部分もあって、凄くいいライブができました。
――昨年からCMなどでガンガン掛かっていたデビュー曲「まもりたい」という、誰もが知っている曲があるのはフェスでも心強いですよね。
本当に恵まれていると思います。デビュー前に大きなタイアップを頂けて、そのおかげでデビューができたと言っても過言ではないんです。この曲との出会いは“村上佳佑史”において大きな節目だと思うし、これからもずっと歌っていく曲だと思っています。
――佳佑さんは現在、東海ラジオ『Oh! Keiラジオ』でパーソナリティーを務められています。感触はいかがですか。
ずっと一人で喋っているのですが、話すのも聴くのもラジオは好きなんです。小さい頃から親と一緒に聴いていました。一人喋りは最初難しいかなと思ったのですが、少しずつ慣れてくると凄く楽しいです。自分の好きなことを自分の好きなテンポで話せるというのがいいですね。
――好きな曲もかけられますしね。
本当にそうですよね(笑)。ライブでのMCもラジオの経験で培ったことが活きてきそうです。
――そんな中、2nd miniアルバム『Beautiful Mind』がリリースされます。このタイトルに込められた意図は?
『Beautiful Mind』は「美しい感情」とか「美しい考え」などといった意味なんですが、僕が生きている中で美しいと思っていることが「自己犠牲の愛」なんです。誰かの為に何かをしてあげるということもそうだし、自分の為にならなくても身を呈して、何かをしてあげるということが美しいと思っています。
今作収録の5曲を並べたときに「自己犠牲の愛」ということが一本、柱として通じるものがありました。それでこの5曲をまとめる一つのフレーズとして『Beautiful Mind』と名付けました。
――「美しい人」はどういったシチュエーションで出来たのでしょうか?
「美しい人」と「二人だけの愛」は作詞・作曲を、「Doubtless」では作詞をさせて頂きました。基本的に家でメロディを書くのですが、「美しい人」はベッドの上であぐらをかきながらでした(笑)。
――あぐらなんですね? 片膝を立ててシャープな姿勢で、というイメージでしたが(笑)。
いえ、あぐらです(笑)。まずサビが出来上がって、そこからAメロとBメロを二転三転して今の形が出来ました。テーマは「ありのままで美しいんだ」というメッセージです。例えば、着飾らなくたっていいんだよと。そういうテーマを届けたいという想いのもとで、書き始めた曲なんです。
――先にテーマがあった曲なんですね。テーマありきの制作が多いのでしょうか?
ものによります。「二人だけの愛」もそうですし。これは雄大さんとの共作なのですが“愛してる”という言葉を使いたいと言うところから始まった曲でした。重たい“愛してる”ではなくて、もっと軽い気持ちで歌えるような曲調で“愛してる”を入れたい、というテーマで書いた曲です。もちろん先にテーマが無い曲もあります。前作に収録された「泣いてもいいよ」はメロディを作ってからテーマができました。
――ちなみに佳佑さんにとって「美しい人」とはどんな人でしょう?
何かを一生懸命に頑張っている、見てくれの着飾る美しさではなくて、本質の人としての美しさという点において「美しい」と感じることが多いです。自分の身を挺して誰かのために何かをやっていたり。例えば、それが誰かの母親だったり、友達だったりします。生き方として人間の崇高な部分に美しいと感じるんです。
――見た目は一番ではない?
見た目が美しい人は、もちろん美しいですけど、人として美しくなければ、それは美しくないものになってしまう。表情や、笑っている顔が美しい人は間違いなく心も美しいんじゃないかなと思います。
――「美しい人」のレコーディングはいかがでしたか?
サビのキーが少し高いので、そこが強くなり過ぎないように意識して歌ったというのと、アレンジが音数的にシンプルなので、その中でいかに声を気持ち良く聴いてもらえるか、ということを大事にしました。
――確かに音数は多くないですよね。空間を感じられると言いますか。あと、この曲のイントロはジョン・メイヤー(米シンガーソングライター、ギタリスト)の雰囲気を感じました。
意識はしていませんが、とても影響を受けている方なので、それはあると思います。実はワン・ダイレクション(英バンド)の曲をアレンジに関しての参考にしている部分もあります。ストリングスの感じなど、クラシカルな要素を入れつつ壮大に、という感じにしました。
――アレンジ的にはアコースティック系の方が好みでしょうか?
エレクトロな感じでも、音数が少なく入っていれば好きです。基本的には、楽器編成が少なくて一つひとつの楽器の役割が発揮している方が好きです。
――確かに楽器の存在感がはっきりしているものが多いです。続いての「二人だけの愛」は雄大(from Da-iCE)さんとのデュエットです。
“愛してる”って、日本のシーンでそうそう聞く言葉ではないじゃないですか? 男子の不器用なりの優しさや素直さだったり、女子よりも男子の方が不器用だし、ちょっと器が小さいなと感じるところがあるなと2人で話していて。そこから2人で歌詞を書き始めました。今年の1月の段階でこの曲は完成していたので、すでにライブでは2人で歌っていました。なので、今作に収録できて本当に嬉しかったです。
――雄大さんとのお付き合いは長いんですよね。
2009年からなので長いですね。アカペラグループの「A-Z(アズ)」の頃に出会って、その時から仲が良かったです。ギター持ってコブクロさんのカバーをやっていたりしていましたね。“モノクロ”と名乗って(笑)。
――それでは、今回のコラボは満を持してですね。
2人の中では待望のオフィシャルコラボです!
――雄大さんとは普段どんな会話をしますか?
本当に些細なことを話しています。「最近どうしてる?」とか。「こんなの見つけて買おうと思っているんだよね」など。スケボーなどの趣味的なことが多いですね。音楽的なことはあまり話してないかもしれません(笑)。
――スケボーが趣味?
「ペニー」という小さめのスケボーがあるのですが、美容室にペニーで行ったりしています。最近の趣味ですね。
“誰かが僕の歌う曲を書いてくれる”というスタンスが好き
――3曲目の「Doubtless」はソウルやR&Bの洋楽要素があって、収録曲の中でも毛色が違いますね。
この曲ではメロディは書いていないのですが、歌詞を書かせて頂きました。洋楽ライクな楽曲が今回1曲欲しいということで、書いてもらった中で、これが一番しっくりきたお気に入りの曲です。振り幅が広い音楽をこれからやっていこうと思う中で、5枚目、6枚目を出せたとすると、そのときにこういった楽曲を出したら遅いと感じていて。急に提示したら、お客さんが驚かれる人もいるかなと思いまして。だから、今チラッとルーツを見せておこうかなと(笑)。
――ジャブを打っておくような感じですね。日本語と英語のバランス的に、英語の方が割合は多いですね。
メロディとの相性で、日本語だと乗せられないメロディというのがあります。日本語で乗せちゃうと、なんかダサくなってしまったり。ここだったら日本語でも格好いい、というところに日本語を入れています。そこはバランスです。オールイングリッシュだと伝わりづらいという点もありますし。
――英歌詞の部分だけ聴くと、ほとんど洋楽と変わらずに聴けますね。レコーディングは大変ではなかったですか?
この曲は、それなりに楽ではなかったという感じでした。コーラスワークもあったりして、歌う量が多めだったんです。
――こういった楽曲を歌う際に注意しているのは、やはりリズム面でしょうか?
そうですね。グルーヴと発音という点です。単語としての正しい発音というより、音楽として聴いたときに気持ちよく聴こえる発音を意識しました。「音楽に乗るうえでの英語」ですね。
――「Doubtless」というタイトルはどういう意味でしょうか? あまり聞きなれない言葉だなと。
言葉の意味は“疑いようのないこと”なんです。「僕の、君への愛というものは疑いようのないものなんだ。君もわかってきているんでしょ?」とい意味のサビなのですが、「美しい人」にも通じるような感じがあります。「Doubtless」が一言でこの曲を表すのに適していました。個人的にはBメロが洋楽みたいに言葉とリズムがハマって、お気に入りのパートです。こういう風にリズムがあるメロディのときほど英語を乗せるのはすぐなんです。ここの部分は本当にすぐに書けました。
――このBメロの部分に関しては、最初から日本語を乗せるという発想では無かったのですね。
全くなかったです。こういうメロディに日本語を乗せたら、おそらくダサくなっちゃうんです。そうならない様に、ここはもう英語だなと。そう思った瞬間に凄く早く出来ました。言語として、英語はリズムに乗せやすいんです。そういった意味で、メロディに乗る言葉が早く見つかります。日本語だと「このメロディにこの言葉で言いたいけど、この言葉だとメロディと合わないから言えない。違う言い方を考えよう」ということがあるのですが、英語だとそれがないんです。そこが早く書けた理由です。
曲が成長するということを感じた「あいたい気持ち」
――4曲目の「RED」はBeverlyさんとのデュエットですね。
Beverlyさんとは、以前に他の作品で共演して面識もあったんです。ちょっとしたイベントで一緒に歌ったりもしました。お互いにデビューしたばかりということもありまして。
――「RED」の制作はBeverlyさんサイドなんですよね。
そうです。それはそれで僕が凄く望んでいる形でもあります。全部僕が手がける部分があると、「村上佳佑」というその枠で収まってしまうという気がしました。シンガーソングライターでありながら、ボーカリストとしての側面もあると自分の中で思います。だから“誰かが僕の歌う曲を書いてくれる”というスタンスが好きなんです。自分の世界だけではなくて、他の世界が生まれたりすることが往々にしてあると思います。だから、僕が楽曲制作に関わっていない曲を1曲入れることができたのが凄く嬉しかったです。
――いかに歌だけでいくか、というところですね。
はい。自分の声でいかに料理するか、というのが楽しくて。役者に近い感覚でしょうか。僕が書いた言葉ではなくても「歌を歌として届けたい」という感じです。シンガーとしてのアウトプットと、村上佳佑という、いちアーティストとして作詞作曲をして歌ったアウトプットしたものは、別物として存在しているのが、僕の中ではしっくりくるんです。マイケル・ジャクソンもそうだと思います。自分で書いた曲もあれば、誰かに書いてもらった曲もある…。それはボーカリストであるが故にできることだと思います。
昔の時代だと、誰かが書いた曲を歌うのがシンガーで、それが弾き語るシンガーソングライターという存在が出てきて、今のシンガーソングライターという文化が生まれてきたと思うんです。そういった意味では、もともとのシンガーという存在、「歌を歌う存在」という立ち位置が僕の中にあるので、それを大切にしていきたいです。
――それらの2つのスタンスが軸にあるのですね。
自分のだけだと可能性を潰しかねないと思うんです。
――デュエットをしてみて感じたことは?
デュエットをすると、自分一人で歌うときはしなかった表現や、トーンの出し方に気が付くときがあります。Beverlyさんとも雄大さんとも、2人で歌うということは凄く勉強にもなりました。
――レコーディングでもデュエットならではの得るものはありましたか?
たくさんありましたし、メチャクチャ刺激を受けました。Beverlyさんをレコーディングブースの後ろからこっそり観察したりして。マイクとの距離なども見て「そうなんだ!」という感じで勉強になりました。
――ずいぶん細かいところまで見ていたんですね。
はい。Beverlyさんは意外とマイクとの距離が離れていまして。マイクによっても違うのですが、「RED」のレコーディングで使用したマイクは、もの凄く感度の高いマイクで、いつもの僕のマイクとの距離で歌うとなかなか上手くいかなくて。それに気付いたのがレコーディングの現場だったりと、勉強になりました。
――そんな中でレコーディングやライブ前におこなうジンクス的なことはありますか?
自然体でいるということを意識しています。ライブでは早めに衣装を着ます。出る直前に着ると、気持ちが上ずったまま「行くぞ!」となってしまうので。事前にできることを1時間前あたりで終わらせておいて、あとは待つだけという状態で自分のニュートラルな状態にしてから臨みます。力が入ってしまうので「よし行くぞ!」という感じにはしないようにしています。
――その自然体を保つのに食べるものなどありますか?
特にこれというのはないのですが、逆に、食べないようにしているのは白いご飯です。好きなんですけど、体質的に白米を食べると眠くなってしまって。レコーディング前もライブ前もそうですし、何かを一生懸命やる前は白米は食べないんです。あと、100%はちみつの「マヌカハニー」という飴があるんですけど、それを一日2個は食べるようにしているんです。あるところには売っているのですが、どこでも買えるわけではないので、見つけたら買い溜めしています。
――収録曲ラストの「あいたい気持ち」は佳佑さんらしい歌声が聴けますね。私は一聴した時、佳佑さんが書いた曲だと思っていたのですが。
僕が書きそうな曲ですよね(笑)。昨年あたりから歌い始めた曲なんですけど、そのときよりも、今の方がこの曲がさらに好きになりました。1年くらい経ってからやっとリリースとなった曲なのですが、面白いなと思ったのは自分のなかの立ち位置が変わってきたことです。この曲を大切に想う気持ちや、この曲が気持ち良いと思うレベルも昔より高くなっています。曲が成長するということを感じさせてくれる1曲なんです。
――そうなってくると昔歌ったバージョンも聴いてみたいですね。
今回収録のバージョンがレコーディングされたのは昔なんです。なので、CDに入っているのが当時のバージョンなので、ライブで今の歌が聴けます。ライブに来て頂いて、聴き比べてもらうと面白いと思います。わかりやすいくらい、だいぶ違うと思います。今作の最後の曲として「あいたい気持ち」があるのは、凄く意味のある立ち位置だと思います。この「あいたい気持ち」が最後にあることで、一本筋が通ったと言いますか、アルバム全体のバランスが取れたと思います。
――それでは最後に全国ライブツアーの意気込みをお願いします。
自身初の全国ツアーが来年の2月25日から始まるのですが、クリス・ハートさんのツアーで全国をまわらせて頂いた時とは、気持ちの持ちようも全然違います。自身のツアーということで、その時よりも自由なマインドでライブに臨むという部分もあって凄く楽しみです。全国の自分のお客さんの待つ各地に行けるということはシンプルに嬉しいし、もちろんプレッシャーもあるのですが、楽しみの方が大きいです。是非、遊びに来てくれたら嬉しいです。
作品情報
●通常盤(CD) (UPCH-20463)<1667円>税抜+税
【CD】
1. 美しい人
2. 二人だけの愛/村上佳佑×雄大(from Da-iCE)
3. Doubtless
4. RED/村上佳佑×Beverly
5. あいたい気持ち
●初回盤A(CD+DVD)(UPCH-29269)<2315円>税抜+税 【CD】※上記の収録楽曲同様+ 【DVD】Music Video(美しい人/二人だけの愛:村上佳佑×雄大(from Da-iCE) RED:村上佳佑×Beverly)+Music Videoメイキング映像 ●初回盤B(CD+DVD)(UPCH-29270)<2315円>税抜+税 【CD】※上記の収録楽曲同様+ 【DVD】Live(あいたい気持ち/空に笑う/ハナミズキ(by A-Z)/STORY) (from メジャーデビュー記念ライブ「Kei’s LIVE 2017」 2017年7月16日 恵比寿The Garden Hall)