シンガーのバトンを受け取った、村上佳佑 更なる高み目指す1枚
INTERVIEW

シンガーのバトンを受け取った、村上佳佑 更なる高み目指す1枚


記者:編集部

撮影:

掲載:18年05月30日

読了時間:約8分

 シンガーソングライターの村上佳佑が5月23日、3枚目となるミニアルバム『Upstairs』をリリース。TBS系アニメ『新幹線型ロボ シンカリオン』のエンディングテーマ「Go One Step Ahead」やクリス・ハートととのコラボ曲「ファンファーレ」など全5曲を収録。メジャーデビューから約1年、経験を積み歌いたい歌い方や理想のトーンに近づいたという。各曲の制作背景からアルバムタイトルに込められた思いなど話を聞いた。

より高い位置へ

――『Upstairs』は、村上さんの多岐に渡る可能性がギュッと凝縮された1枚ですね。3rdミニアルバムということで、これまでと何かご自身の変化はありましたか?

 デビューとともにクオリティの高いレコーディング環境をいただけるようになったんですが、1、2枚目を作り終えたときは、「もっとこうできたかもしれない」と思う点が多かったんです。もちろん、僕自身のシンガーとしての身力とか技術的なこともあるんですが、それ以上に環境に慣れていないという部分が大きかった。たとえば、マイクとの相性や理的な距離。それで声の質感がだいぶ変わるんですが、そのどれがベストなのかがまだ把握できてなかったために、出せるはずの力が出し切れないというジレンマがあったんです。今回も引き続きいろいろと試行錯誤はしましたけど、以前よりは確実に自分の歌いたい歌い方、出したいトーンみたいなものが出せるようになってきたと思います。

――経験値が上がってきてるわけですね。『Upsairs』というタイトルにも通じる気がします。

 曲先行でどんどん作っていったので、もともとこのタイトルがあったわけじゃなかったんです。ただ、最終的に並べてみたときに、誰かの背中を押すような曲が多かった。それを括る何かいい言葉がないかなと探していたときに、『Upstairs』という言葉が浮かびました。「上の階」とか「より高い位置へ」といった意味が、もっともっと上っていきたいと思う自分の気持ちにもピッタリだなと。

――では、1曲ずつ紐解いていきましょう。まず「空に笑う」。こんなふうに大切な人を思いながら生きていこうと思った曲でした。

 作ったのは震災があった2011年。当時僕は大学生で京都にいたので、物理的なダメージは何もなく、どう共感していいのかさえわからない状態でした。それが自分の中である種の後ろめたさにもなっていたんです。あるとき、母に電話でそんなことを話していたら、「だったらあの曲に託してみたら」と、母は以前僕が聞かせたことのあるメロディを思い出してくれた。それがこの曲なんです。大変な思いをしている人がいるのに自分は何もしてない、今からでも自分にできることがあるなら…という、いてもたってもいられない思いで曲作りに取り組みました。

――作ることが気持ちの整理につながりましたか?

 はい。この曲が出来上がったとき、自分でも不思議なくらいボロボロと泣いてしまいました。すぐに「空に笑う」というタイトルのワンマンライブもやりましたし、その後も7年間ずっと大切に歌い続けてきました。実は2年ほど前、年の初めと年の終わりに、父方、母方どちらの祖父も他界しまして、本当に悲しかったんですけど、この曲が寄り添ってくれました。

――そうなんですか。

 たぶん、僕の祖母にも寄り添ってくれてたと思います。「<空に笑う>がいちばん好き」と言ってくれてましたから。泣けちゃいますよね。いつだったか僕のライブを観に来てくれた祖母が、客席で「佳佑ありがとね」とつぶやいてたと、たまたま近くに座ってたファンの方が教えてくれました。

――村上さんのプライベートに結びついている曲なんですね。シンプルなサウンドにもジンとします。

 アレンジは、クリス(ハート)さんのツアーに僕がコーラスで参加させていただいたとき、バンドのバンマスだった堀倉彰さん。ご一緒してそのセンスに全幅の信頼を置いていたので、頭の中でこういうアレンジにしたいと音が鳴ったとき、すぐに堀さんが浮かびました。

――村上さんからはどんなリクエストを?

 歌詞が運ぶメッセージが濃い分、着飾ったアレンジでは逆に伝わらないと思ったので、「最低限の音数でうっすら景色を足すくらいのシンプルさでお願いします」と伝えました。

――アコギとピアノとバイオリンが、まさに温かい景色になっていますよね。

 バイオリンは堀さんの奥様が弾いてくださったんですよ。ハンドメイド感のある仕上がりになったと思います。

――ステージでこの曲を歌うときはどんなことを考えてますか?

  たとえば、そこに聴いてくれる人が100人いたとして、その100人に届けようとはしないですね。あくまでも目の前のひとりに歌うよう心がけてます。ひとりに届けば、その濃さが100人に伝わる気がして。

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