米シンガーソングライターのアンドリュー・マクマホンが19日、赤坂BLITZでジャパンツアーの東京公演をおこなった。楽曲「FIRE ESCAPE」がパナソニックのCMに抜擢された事も記憶に新しい彼だが、今回のツアーでは大阪と東京の2カ所で公演をおこなった。アンドリューは、この日のライブで、過去のプロジェクトであるサムシング・コーポレイト、ジャックス・マネキンからのファンにも敬意を払いつつ、現行プロジェクトの『アンドリュー・マクマホン・イン・ザ・ウィルダネス』としての進化した表現を見せた。ダンスミュージックなどの影響を受けながらも、ピアノの鍵盤を踏みつけるロック性も健在。パフォーマンスの中で彼の変化と変わらず持ち続ける芯の様なものを感じた。【取材=小池直也】

表現豊かなステージ

アンドリュー・マクマホン(C) Yoshifumi Shimizu

 この日はあいにくの雨模様。しかし、開場前から会場には沢山のファンが列を成していた。そして開演時間になると、アンドリューを大きな歓声が迎える。そしてドラムのカウントとともに演奏がスタート。1曲目から、日本のファンとの距離がぐっと近づくきっかけともなった「FIRE ESCAPE」を披露。ステージ中央に設置されたグランドビアノを弾きながら、ワイルドに歌うアンドリュー。彼はこの日、2本のマイクに挟まれている。ピアノに向かって声を出す用のものと、観客に向かって歌う為の物だ。

 エンディング後、椅子に立ち「What's up Tokyo!!」とシャウト。ハンドマイクでステージを歩きながら「CANYON MOON」を続けた。オーディエンスにアピールしたり、ドラムを煽ったり、豊かな表現でオーディエンスを楽しませていくアンドリュー。「WALKING IN MY SLEEP」では、再びピアノを弾く。楽曲とシンクロする照明が視覚的にも刺激的だった。少し早めのリズムとシンセサイザーの音が心地良い「HIGH DIVE」に繋がる。その後「アンドリューです。ここにいられる事が光栄です」と切り出し、英語でMC。

 「DEAD MANS DOLLAR」、「ISLAND RADIO」では、最近のエレクトロミュージックを意識したサウンドをバンドで再現する。バックバンドの3人は、ベースとアコースティックギターを持ち替えたり、タンバリンを叩きながらシンセを弾いたり、1つの楽器に固執しない多彩さを見せていた。ここまでのセットリストでは『ピアノロックのカリスマ』と称される事もあるアンドリューが、時代の音楽を取り込んで自己更新する姿勢が表れていた。

 そして、彼が以前組んでいたバンド、ジャックス・マネキンの「DARK BLUE」がドラムの低い音から始まり、印象的なピアノのリフが鳴り響くと大きな歓声が起きた。先程までとは打ってかわって、「ピアノロック」が高らかに提示される。さらにアンドリューが額の汗を拭ってから姿を消すと、アヒル型のゴムボートに乗り込んでフロアに飛び込んでいった。「DON'T SPEAK FOR ME」を切なく歌い上げながらも、同時にお茶目な姿を見せるアンドリューに会場には笑顔が漏れる。

 「MAPS FOR THE GETAWAY」の長めのアウトロで頭を振りながらピアノを叩いたアンドリューは、再びMCを挟む。「聞いてくれてありがとう! 皆元気? カンパーイ!」と日本語で呼びかけた。そこから、7拍子のユニークなイントロから始まる「AMY I」へ。ところで今回の公演は、全体の音を司る音響エンジニアも帯同してきた様で、サウンドには抜け目がなかった事も付記しておきたい。

エンターテインメントな男

アンドリュー・マクマホンのステージ(C) Yoshifumi Shimizu

 ここでバックバンドが退場。アンドリューが1人、ピアノによる弾き語りで「I'M READY」を歌った。規則正しいビートで展開するダンスミュージックやバンドサウンドとは違い、彼の息のリズムを追いかける様に注意して聴き入る。さらに「私は急性リンパ性白血病を克服しました」と自らの体験を短く話してから、アコーディオンとベース、ピアノで「SWIM」が演奏された。牧歌的な雰囲気の3拍子が、感情をむき出しにしたものに変わり、生への喜びや躍動感が溢れる。

 間を置かずに「SHOT OUT OF A CANNON」。ドラムが帰還し、再びバンドサウンドとダンスミュージックが混ざったサウンドが展開されていく。ところどころ挟まるブレイクで、アンドリューの声がピックアップされた。フロア前方では手が上がる。「I WOKE UP IN A CAR」では、ドラムのファンキーなビートにアンドリューのピアノが乗り込む。エンディングでアンドリューは、鍵盤の上に立ち不協和音を鳴らしてから、地面に大きくジャンプ。大胆なパフォーマンスは留まる事がなかった。

アンドリュー・マクマホン(C) Yoshifumi Shimizu

 そして、ダンスミュージック調の「SO CLOSE」が投下された。アンドリューは、キャッチーなサビでオーディエンスの心を奪う。ステージから下りて、同じ目線で歌うサービスも見せた彼は、とことんエンターテインメントな男だった。セットリスト最後は「SYNESTHESIA」。カラフルな巨大パラシュートをフロア前方から後方へ流す演出もみせた。最後はピアノの上に立ち、歌い続けるアンドリュー。そして、観客との大合唱へ。バンドが演奏を止めても彼は1人歌い続け、声が止んで演奏は終了し4人は退場した。

 ここからステージは、アンコールに突入する。アンドリューは、まずメロディアスで力強い「WATCH THE SKY」を1曲目に持ってきた。続いては彼がブルースハープを披露する「LA LA LIE」へ。少し遅めなシャッフル。サビでは、手を上げてアンドリューを鼓舞するオーディエンスたちの姿が。曲間でメンバーを紹介してから「ありがとう東京! またすぐに会いましょう!」と呼びかけ、熱を帯びた演奏で盛り上げてから、また足で鍵盤を踏み鳴らすアンドリュー。

 締めくくりは「CECILIA AND THE SATELLITE」。4つ打ちのリズムに乗せて歌を届ける。日本向けに歌詞を替えて歌う場面も。右手で鍵盤を弾きながら、左手でマイクを持って、オーディエンスに向かって前のめりに歌っていくアンドリュー。どんなに今の時代に適応しようとも、彼の中にあるロックな部分は隠しようがない様子だった。最後は「東京ありがとう!」と叫んで、この日のショウは幕を閉じた。

セットリスト

1FIRE ESCAPE
2CANYON MOON
3WALKING IN MY SLEEP
4HIGH DIVE
5DEAD MANS DOLLAR
6ISLAND RADIO
7DARK BLUE
8DON'T SPEAK FOR ME
9MAPS FOR THE GETAWAY
10AMY I
11I'M READY
12SWIM
13SHOT OUT OF A CANNON
14I WOKE UP IN A CAR
15SO CLOSE
16SYNESTHESIA

Encore

1WATCH THE SKY
2LA LA LIE
3CECILIA AND THE SATELLITE

この記事の写真

記事タグ 


コメントを書く(ユーザー登録不要)