シンガーソングライターの藤巻亮太が、9月20日に3rdアルバム『北極星』をリリース。2000年にレミオロメンを結成し、「3月9日」や「粉雪」などのヒット曲を残して2012年に活動を休止。その同年に藤巻亮太としてシングル「光をあつめて」でソロデビューした。3rdアルバム『北極星』は、「レミオロメンとの相対関係でのソロではなく、本当の意味でのソロになれた」と話す自信作。さらに、今作にはレミオロメンのメンバー神宮司治と前田啓介が、数曲のレコーディングに参加。2人との久しぶりの共演も自然と楽しめたと話す。「マーケティングでは、クリエイティブなものは作れない。自分から湧き出るものを信じるほかない」と、苦悩しながらも導き出した、答えが詰まったアルバムになった。
タイトル曲の「北極星」は、原点である山梨で制作
――今作は、何かイメージしたことはありましたか?
何かを狙ったわけではないけど…。1作目の『オオカミ青年』は、自分の気持ちを吐露していくように、レミオロメンとしての10年からの反動で出来た。2作目の『日々是好日』は、レミオとソロの間に線を引いて視野が狭くなっていた自分を打ち消すことで、ある意味での開き直りの力で作った。その上で今回の3作目は、本当に日常の中から歌が出来ていったと言うか、本当に理由がないんです。理屈じゃないところで音楽が立ち上がっていった。そういう意味では、これが僕の本当のソロだなと思うものが出来たと思っています。
――事務所のスタジオに通って、曲作りをしたと聞きました。
それで最初に出来たのが「優しい星」です。大事なのは、曲が出来ても出来なくても、毎日スタジオに通って、自分の音楽と向き合うことだったと思います。たまに屋上でボ〜っと空を眺めながら「大丈夫かな俺、こんなんでソロなんかやっていけるのかな〜?」と、不安な気持ちになったりもして。でも、そうやって日々スタジオに通い続けた時間が、今回のソロアルバムを作ったと思います。
夏目漱石が、「小説を書くことが大事なのではなく、毎日机の前に座ることが大事だった」という言葉を残していて。やっぱり突然ソロになったわけじゃなくて、あてもなくスタジオに通い続けた日々を過ごしていく中で、徐々にソロの藤巻亮太になっていった実感があります。前の2作は、レミオとの相対的な関係としてのソロだった。でも今回は、比べるものは何もなく、ただのソロだと言えるものだなと。
――「優しい星」は、アコギと歌で始まる曲で、どこか明け方の涼しい空気感もありながら、力強く前に進むような曲ですね。同じ星の付く曲でも、タイトル曲の「北極星」は、山梨で公民館を借りて曲作りをしたとか。
東京で煮詰まって、ちょっと場所を変えてみようと思って。それで、ふと実家の近くにあった公民館のことを思い出して、お願いしたら貸してくれたので、ギターとかちょっとした機材を持ち込んで曲作りをしました。
ふと窓を開けたら、自分が生まれてから18年間見ていた、葡萄畑や南アルプスがある風景が広がっていて。それを見ながら、これが僕の原点なんだと、すごく思いましたね。そこで出会った人や経験したことが今の僕を作っていて、その中でも最大の出来事だったのは、(神宮司)治と(前田)啓介と出会ってレミオロメンを組んだことです。そのレミオも神社をスタジオ代わりに借りて1年間練習していた“神社時代”というのがあって、その神社時代の1年が僕らの原点だったし。そんなことを考えていたら、音楽や二人への想いがあふれ出して来て、あふれる想いのままに書いたのが「北極星」という曲です。
――「北極星」は、他の星のようには動かず、いつでもそこにある。道しるべとしての原点みたいなことで?
そうですね。音楽をやる上で、これからもきっとたくさん刺激を受けたり、ブレたり迷ったりすると思います。でも、最終的には自分の中からわき上がるものを信じるしかなくて。どんなに揺れても、また戻って来る場所と言うか。訳もなく楽しくてやっていた山梨での経験が、自分の中心にあるのかなと。それが僕にとっての、動かない星なのかもしれないと思って付けました。
――レミオロメンのメンバーの話も出ましたけど、今作にはその2人もレコーディングに参加していますね。
今回のアルバムについて、2つトピックを挙げるとしたら、藤巻亮太として「これがソロだ」と自信を持って言えるアルバムが出来たことが1つ。もう1つは、2人がレコーディングに参加してくれていることです。
今年の春に僕のライブを見に来てくれて、「今手応えのあるアルバムが出来そうなんだ」と話をしたら、2人から「手伝うよ」と自然に言ってくれて。治は「優しい星」と「紙飛行機」、啓介は「Blue Jet」と「Have a nice day」と「マスターキー」で演奏してくれました。
一緒に音を鳴らしたのは久しぶりだったけど、以前とまったく変わらなくて、すごく楽しいレコーディングだった。誰かが先導して集まったわけでもないし。きっと、そういうタイミングだったのだと思います。また一緒に音楽を鳴らすことが出来たことは、僕にとって幸せなトピックスです。
音楽は橋を架けることと似ている
――「マスターキー」という曲は、フォークっぽく早口で歌うところもあって。歌詞も、人生を深いところで表していますね。
曲の構成としても、自分ではやったことのなかった新しいものになりました。ソロになって、登山家の野口健さんと旅して世界の秘境に行ったことや、今まで見て来たいろんな景色が、ブワ〜っと見えてきて。歌詞はそういう言葉で構成された、今までやったことのないような書き方でした。でも、この歌詞はアルバムを象徴する1曲だと思っています。ソロになって一番良かったと思えたのは、この「マスターキー」のような曲を書けたことです。
レミオロメンからソロになって、レミオで培って来た価値観でソロを始めたけど、それではまったく歯が立たなかった。いろんなことが上手くいかなくて、大変なことが本当に多くて。そんな時に、状況を変えようとか、周りの人に合わせてもらおうとか、自分の周りを変えようとするんだけど、それではいっこうに上手くいかなくて…今思えば、当然ですけど。そこで勉強になったのは、自分が一番変わらなきゃいけないということ。自分が生きていく現実の中で、目の前にある扉の鍵穴に対する鍵に、自分がならないといけない。自分自身がトランスフォームしてマスターキーになって鍵を開けることで、新しい扉を開くことが出来る。そのことをすごく実感した曲です。
――サウンド面でのチャレンジもたくさんありますね。「Blue Jet」は、管楽器が使われて、どこか幻想的なムードもまとっていて。
「Blue Jet」は、去年チベットを旅したことがきっかけなので、音もどこか民族音楽っぽさがあると思います。チベットの標高6000メートルくらいのところにある湖の湖畔に泊まった時、音のない雷を見たんです。すごく幻想的な光景で、それを見た次の日に、車での移動中に後ろの席でギターを弾きながら、何となく降りて来た曲です。
――「Blue Jet」というタイトルは?
逆さ雷、地上から宇宙に向けて放電する雷のこと。これもすごく不思議な現象です。チベットで見たのは逆さ雷ではなかったけど、雷にちなんで「Blue Jet」という言葉の響きもいいので付けました。
雷って、言ってみれば橋なんですよね。電気の橋を架けるみたいな。今回の制作を通して、“音楽って橋を架けることと似ているな”と、すごく思ったんです。心にあるいろんな想いと想いを繋ぐ、僕と君、過去と今、夢と現実、いろんなものを繋いでいく橋と言うか。
――曲を聴いてもらうことが、橋を渡ることになると。
音楽をやっている以上、誰かに渡って欲しいけど、最初にその橋を渡るのは自分自身です。誰かに渡ってもらうのは未来のことで。でも、未来は今コントロール出来ないから、この曲をいいと言ってくれる人がいるかも、誰かがその橋を渡ってくれるかも分からない訳ですよ。でも音楽を作ることは、そういう未来よりも、今その橋を架けようとする切実な想いや、なぜ架けたいと思っているのか、そういう自分の想いと向き合っていくことなんです。
結果として、誰も渡ってくれなければ僕は失業ですけど(笑)。そういう怖さもありながら、自分を信じて進んで行く。結局それしか出来ないのかなと思いながら書きました。そういう覚悟みたいなものを、この曲を作りながら決めました。
――曲作りの過程で、スタッフから感想を聞いたり、何かアイデアをもらったりすることで、少しでも未来を確実なものにすることも出来るのでは?
スタッフの意見ももちろん参考にするけど、それもスタッフの経験からくるものなので、それってつまりはマーケティングの話ですよね。マーケティングでは、クリエイティブなものは作れない。マーケティングって結局過去だから、過去を真似しても新しいものは生まれないです。どうしてこの曲が出来たのか、どうしてこういうメロディが浮かんだのか…。どこからか分からないところから立ち上がってくるものがクリエイティビティで、それによって後になって何かを気づかされることもあって。そういうクリエイティブなものに出会いたいという願望があって、それを信じて作ったアルバムかもしれません。
【取材=榑林史章】
作品情報藤巻亮太 初回限定盤(CD+DVD)3300円(税抜)VICL-64845 ▽CD収録曲 Bonus Track(初回限定盤のみ収録) 公演情報▽藤巻亮太 Polestar Tour 2017 |