スリーピースバンドのWEAVERが9月13日に、コンセプトEP『A/W』をリリースする。前作『S/S』に続く第2弾。デビューから8年を経てバンドは変革期を迎えている。ピアノという枠にとらわれず、大胆にシンセサイザーを導入し、ダンスミュージック的なアプローチで展開。前作『S/S』では、Charaなどを手掛ける人気サウンドクリエーター、mabanua(マバヌア)が製作に携わった。今作は三代目J SOUL BROTHERS「R.Y.U.S.E.I.」などを手がけるトラックメイカーのMaozonを「Another World」で起用。シンセのエキスパートとともに生のサウンドとの融合を試みた意欲作。杉本雄治は「もっとサウンドも含めて変えていって、チャレンジをしたいということを感じている時期」と話す。3人が考えるサウンドと世界観の関係性、ダンスミュージックの“わびさび”など、音楽的な観点から話を聞いた。
手応えも感じつつ課題も見えたツアー
――5月からおこなわれていたツアー『WEAVER 12th TOUR 2017「Shake! Shake!」』を終えてみていかがでした?
杉本雄治 21カ所のライブハウスをまわったのですが、今回のツアーは今まで以上にシンセに振り切った曲が増えたので、お客さんの反応も気になるところでした。WEAVERのお客さんは、僕らのやることに対して真剣に向き合ってくれる部分があるから。
中にはピアノサウンドの方がいいという人もいるのですが、新しいものをちゃんと受け入れて、楽しんでくれているという感覚が手応えとして感じられたツアーでした。自分達も今までやらなかったアプローチをやることで自分達も楽しめるし、手応えも感じつつ課題も見えたツアーになりました。
奥野翔太 セットリストにしても、序盤にピークをもってくるような感じにしたり、クラブミュージック寄りのインストの繋ぎを作ったりして。最初、お客さんはどう乗ってよいのか、わからない様子もあったので、メンバーで「もっとこうしたら乗ってもらえるんじゃない?」と話し合ったり、PAの方にライブハウスだけどクラブに来たような音の出し方をしてもらったりして微調整をしました。
ツアーの最後の方になると、お客さんの乗り方も全然変わってきて、自分達でも今WEAVERがやりたいことに近づけたツアーになったと思います。
――PAさんにリクエストをするといったことは今までもあったのでしょうか?
奥野翔太 ずっとやってもらっているPAさんなので、言葉にしなくても汲んでくれていた部分はあります。今回は地方のイベントスタッフさんが「もっと攻めていいんじゃないの?」と言ってくれまして。
――そうなってくると、ドラムのキックとベースの存在感が重要ポイントになりそうですね。
奥野翔太 音量感も違ってきますね。やっぱり4分のビート感やLowの感じで全然違ってくるので、そこは肝になると思いました。
――河邉さんはツアーはどうでしたか?
河邉徹 前作『S/S』を携えてのツアーだったのですが、「Shake! Shake!」は今まで以上にシンセサウンドが際立った楽曲だったので、お客さんにとって新鮮だったんじゃないかなと思いました。セルフカバーをした曲も、今の流れに合わせたシンセサウンドでアレンジをし直して、ライブの1曲目でやっていました。今までの曲でもこれだけ表情が違うんだということで、お客さんにも今までのWEAVERとは今回のツアーは違う、ということを感じてもらえたと思います。
神戸出身の僕達が、神戸開港150年を記念して作らせてもらった「海のある街」は生の音とストリングスの音が効いた曲です。そういう曲を中盤でやることで、ピアノやストリングスの温かみがシンセサウンドに挟まって、バリエーションのあるWEAVERのサウンドを楽しんでもらえたツアーだったと思います。
――しっかりと新しいWEAVERを見せることができたみたいですね。前作『S/S』から続いてのコンセプトアルバム『A/W』ですが、この流れはもともとあったのでしょうか?
杉本雄治 『S/S』『A/W』というテーマは一番最初からあった訳ではないのですが、春頃と秋頃に出す作品として対になったらいいなというイメージはありました。WEAVERは季節感を出す作品がわりと少なかったので、今回は季節を表す作品にしたら面白いのではと思いました。最近はダンスミュージック的なアプローチが増えてきて、ファッション的な部分もそこと合わせて変えていけたらというイメージもあったので。こういった表記はファッション業界でよく使われていますし。
――“Autumn/Winter”など確かによくファッション業界では目にします。この発想はどこから?
杉本雄治 アイディアは河邉が出してくれました。
河邉徹 ファッションと音楽というのは親和性もあると思いますし、他のアーティストでこういった発想は少なかったので、アーティスト写真も含めて上手く出来たら面白いのではという話で、『S/S』『A/W』という対になる作品が出来ました。
――前作ではmabanuaさんがフィーチャーされていましたが、今作はMaozonさんですね。
杉本雄治 MaozonさんはEXILEさんなどでEDMなサウンドを主にやっている方です。「Shake! Shake!」でmabanuaさんがやってくれて凄く手応えを感じて、またやってくれたらなと思っていたのですが、「Another World」のデモがちょっと暗いイメージがあったので、もう少し華やかさが出せたらなとディレクターと話していたところ、「振り切ってMaozonさんみたいな方とやっても面白いんじゃないかな」というアイディアを頂きました。
――皆さんからみてMaozonさんの特色はどのようなところにありますか?
杉本雄治 シンセの作り方にクセがあると感じました。サビの裏で流れているEDM的なシンセアプローチは、僕らからはまだ出てこないです。そういった部分で「Maozonさんだから出せるグルーヴ感だ」ということを感じました。
――リズムは基本的には3人でアレンジを?
杉本雄治 リズムの音色のレイヤーの仕方などはアドバイスをもらいました。完全にMmaozonさん色に染まるという訳でもなく、Maozonさんも生バンドでやってみたいという思いがあったみたいで。
――Maozonさんも生バンドは今回が初の試みだったのですね。
杉本雄治 そうです。Maozonさんも、生の音の混ぜ方を探りながらだった部分があるので、そこは対等な立場で意見を出し合って、お互いが作りたい音がバランス良くできたのではないかと思います。
――「Another World」というタイトルにはどのような想いが?
河邉徹 『S/S』に「Shake! Shake!」というタイトルがあったように、『A/W』も頭文字を合わせようという感じで選びました。他にも候補はいっぱいあったのですが、なかなかいい言葉を探すのが大変でした。
――AとWだと難しそうですよね。
河邉徹 Wの方が難しかったですね。Aはたくさんあるんですけど。そんな中で「Another World」という言葉が閃いて、先にタイトルありきで歌詞を考えていたのですが、曲の憂いなどを上手く活かせられる歌詞になればいいなと思っていて。
歌詞のコンセプトとしては、「今生きている場所が全てという風に感じてしまうけど、手を伸ばしたほんの少し先に全然違う世界が広がっていて、自分が生きている場所が全てではない」ということを歌えるような曲になればいいなと思いました。
――タイトルが先にあった方が物語を進めやすいですか?
河邉徹 今回は本当に苦戦しました。「A/W」に縛られていたということもありますけど、だからこそ生まれた言葉という意味では凄く面白い試みだったと思います。
もっとサウンドも含めて変えていってチャレンジをしたい
――2曲目の「だから僕は僕を手放す」は、6月の『Amuse Fes』でも演奏していましたね。
杉本雄治 ツアーの中では演奏していたのですが、ああいった外の場でやるのは初めてで。
――リズムが面白いと感じました。いしわたり淳治さんが編曲に携わっていますね。
杉本雄治 この作品に関しては、どちらかというと歌詞を手伝ってもらってプロデュースしてもらった部分が強いかもしれないです。もちろんサウンドもやって頂いたのですが、デモの段階で曲の方向性は固まっていたので、サウンドに関しては、そこをよりブラッシュアップしてもらったというイメージです。
今のWEAVERの中でも3人それぞれが貪欲に制作に携わったら、また今までに出てこなかった新しいものが出てくるんじゃないかなということで、歌詞は3人が書いて、どれがいいという感じのコンペっぽくやりました。
今まで僕はそんなに歌詞を書いてきていなかったので、言葉の使い方やメロディの響かせ方というのも、お客さんにとっては新鮮に聴こえていたみたいで、春のツアーの中でもずっとやっていて、今までよりもメロディの伸び方が全然違うというような反応をもらえていました。
――タイトルがまた哲学的ですよね。
杉本雄治 インスピレーションはアニメ『サクラダリセット』からもらいました。タイトルは最後に出てきました。
――『サクラダリセット』のどういった部分にインスピレーションを受けました?
杉本雄治 主人公があの世界では超能力を使えるんです。僕達は超能力は使えないけど、自分達が描く理想の世界だったり、大切な人を守ったり、そうしていく中で今自分がこだわって守っているものを手放して変えていくことも大事なんじゃないかな、と思いました。
それはバンドをやっている中でも共感できる部分だったので、今のバンドの、特に自分の意思を表せる歌詞にできたらという思いがあって、アニメにも寄り添ったものになったし、ちゃんと自分の意思も描けた歌詞になったと思います。
――確かにWEAVERとリンクしていますね。
杉本雄治 WEAVERは3人とも頭が固いとよく言われるのですが、そこを崩して新しいことにどんどん挑んでいく中で生まれる面白さというのは、たくさんあると思います。特に今の音楽シーンって色んなもので溢れていて、そこに沿って歩いていったらある程度、形になるものが出来るじゃないですか?
曲自体が商品化されていて、音を色々試す時間や予算が削られて、ありきたりというか偏ったものしか出来ていないということを感じています。そんな中で、もっとサウンドも含めて変えていって、チャレンジをしたいということを感じている時期ではあります。
――予算や時間の制限などがあるというのは、発信をする側としては切実なことですよね。
杉本雄治 僕らが一番聴いていたJ-POPの時代って、凄く色んなことを試していた時代だと思うんです。ザ・ブルーハーツなどもそうですが、急にピアノを入れたりして。今の時代のバンドって、そういうことをあまりやらないと思うんです。新しい音楽を生み出すということは、そういうところなのではないかなと。
――そんな中、My Little Loverの1995年のヒット曲「Hello, Again 〜昔からある場所〜」をカバーされていますね。この曲が選ばれた理由は?
杉本雄治 スタッフさんなどを交えた打ち上げで「あの曲いいよね」という話の中で、この曲がよく挙がっていまして。でも、選曲はけっこう悩みました。最初のテーマが「往年の名曲」だったので、90年代を外していたのです。でも、なかなか決まらなくて。それであるときに話していて「『Hello, Again 〜』は?」と名前が挙がって。それで今回カバーを収録するということになりました。
――男性が歌うとまたイメージが違っていい感じですね。他にも候補曲にはどんなものがありました?
杉本雄治 候補の中にはKinki Kidsさんの「硝子の少年」などもありました。
もがいたまま終わるような世界観を出したい
――今作のレコーディングはどのように進行しましたか?
杉本雄治 「Another World」に関しては、もともとこういったハウス感を出したいというイメージがありました。「Shake! Shake!」もそうなのですが、わりとWEAVERはポップで明るくて、歌詞も最終的にはハッピーエンドなものが多いという印象があったので、こういった憂いというか、「途中で、もがいたまま終わるような世界観を出したい」という思いがあったんです。そういったテイストの部分で新しい試みだったと思います。
シンセのアプローチに関しても、メインのフレーズはストリングスでも面白いのかなと思っていたのですが、やはりそこは今シンセサウンドを続けてやってきているので、そこを継承していきたいという思いがありました。
――そのシンセのフレーズにはどういったイメージがあったのでしょうか?
杉本雄治 冬の外の木や花だったり、そんなに咲いていなくて、どちらかと言ったら枯れた景色です。そういったものはイメージにありました。
――理論的に進めて行く部分もある?
杉本雄治 最初は手癖だったりもするのですが、それを毎回どこで崩すかという作業が多かった気がします。だから一度出来たものを寝かして作り直したりします。Bメロのコード進行も同じループの進行に聴こえるけど、最後の3つ目のコードでセブンスを混ぜたりなど、何回も繰り返し聴いて探って作っています。
WEAVERとしての美しいメロディ、いわゆるJ-POP的なメロディを作るのは凄く得意な部分ではあるのですが、そこを崩したリズム的なメロディアプローチだったり、そういったことを新しくやりたいなというものが今回の曲の中にあって、それが特に出ているのがBメロだったりすると思います。
――ベースに関してはどうでしょうか?
奥野翔太 こういったシンセが入ったりしてクラブサウンドっぽくなってくると、ベースラインがより冷たくなります。でもそれがカッコ良くて、この曲で2サビと3サビで凄いドラムフィルが入ってきたりすると温度感が違ったりして。
J-POPって、やっぱり2番と3番でフレーズを変えたくなるんです。高揚感を出すようなラインが多いのですが、こういう曲はそれをしないことで保てるカッコ良さだったり、リズムのタイトさがあったりするので、そういう意味では割と今までとハマるポジショニングが違うというか、J-POPでやるときとは違うパートを演奏しているつもりで、この曲に臨みました。
――基本的に今回も6弦ベースですか?
奥野翔太 基本的にはそうなのですが、本当はこういうジャンルは6弦ベースはいらないなという部分もあります。良い音で良いリズムを出すのが大事といいますか。グルーヴが大事になってくるジャンルだと思います。フレージングに関しては、杉本が作るデモの段階でかなり固められています。
――まずはそこを再現してから?
奥野翔太 まずはさらっていってという感じなのですが、デモと実際のベースを弾くのとでは鳴りが違う部分などが出てくるので、そこは直しつつという作業になってきます。
――温度感がけっこう難しそうですね。どうしても盛り上がってくる箇所があるから、そこでベースも動きたくなりますよね。
奥野翔太 僕が動きたくなるんですけど、こういう曲ではドラムは動かない方が格好良いんですよ。
杉本雄治 わりと全てがループで淡々としているから、動きたくなる箇所ってけっこうみんな一緒で(笑)。
奥野翔太 そうそう(笑)。みんな動くと「やりすぎ!」ってなりますから。
河邉徹 ピアノトリオサウンドのときは、色々と工夫をしてという感じだったのですが、こうやってシンセの音に頼れるようになると、僕らドラムとベースはシンプルにいられます。そこに対する苦痛なんかは全くなくて、リズム体のあるべき姿を演奏しているような気持ちもあります。
特に今回の「Another World」はリズムパートにレイヤーが効いている曲で、打ち込まれている音と生音のミックスが凄く大事になってくるところなので、レコーディングのときも、そこにガッツリ合う演奏をしようという話をして、シンバルなどの音の伸びが長い楽器は、後の音処理がしにくくなるので、「そこは一度シンバルを外して、まずは太鼓から録ってみようか」ということで丸々一曲録ってみたりして。フィルインだけ録ったりもしました。
WEAVERは3人「せーの」で録って終わらせることが多いのですが、「Another World」はベースと一緒に一回録って、その上からシンバルだけ、フィルだけ録るという、今までにはあまりない珍しい流れだったんです。それもあって、今までの楽曲とは全然違うものになったと思います。
――音処理効果としても、カブリが少なくなってタイトなサウンドになりそうですね。
河邉徹 絶対そうだと思います。バラバラで録ることでそれぞれの音を後から調節しやすかったりする効果は大いにありましたし、こういう楽曲は今回のような録り方が凄く合うなと思いました。逆に「Photographs」は生音が凄く効いているので、3人同時に録ることに価値があると思います。今作のEPの中でもその違いを楽しめるという部分があると思います。
――「だから僕は僕を手放す」はまたアプローチが異なっていて、ベースフレーズが凄く効いていますね。
奥野翔太 これはいわゆるJ-POPやJ-ROCKのフレージングというか、そういう作り方です。リズム感が1曲を通してこういったラテンな感じで。わりとJ-ROCKでもこういったリズム感でやるバンドもいます。イントロとサビのフレージングがちょっと違ったり、そういう風にしてリズムのメリハリをつけたりして、メロディに沿うフレージングを大事にしています。
フィルインや歌わせるところでは、メロディとちゃんとハモることを一番大事にしています。最後のサビだけ盛り上がったフレーズにしたり、こういったのも違ったWEAVERの一面でベーシスト冥利に尽きるというか、凄く楽しかったです。
――機材的には新たな導入はありましたか?
杉本雄治 シンセはハードよりもソフトシンセを使うことが多いのですが、その中でもArturiaのシンセは前回のmabanuaさんのときから結構使っています。プロフェットなどアナログ系のモデリングを使ったりもします。アナログのモジュラーは画面上で直感的に使えたりするので、そういった部分では一番使いやすいです。(*プロフェット=アナログシンセサイザー)
奥野翔太 最近はけっこう固まっていて、ラインの音がメインになるのですが、歪みを曲によってはかませたりするので、Darkglass ElectronicsのMicrotubes B7K(ベースプリアンプ)を「Another World」では使用しました。「Shake! Shake!」はシンセサウンドだったり、エレクトロなレイヤーされたドラムサウンドで、それにマッチングするのはラインっぽい音だったので、前回に関してはアンプを全く使わずにレコーディングしました。今回はもうちょっとバンド感が欲しかったので、歪みを入れました。
河邉徹 ドラムに関しては、特に新しい機材をレコーディング中に導入したということはないのですが、チューニングは自分でして表情を変えています。エンジニアの方と話し合いながら音を作って、今回の5曲はそれぞれのテイストが違いますが、それぞれに合わせてのレコーディングの音作りも少しずつわかってきました。
ライブではパッドを使う機会が増えてきて、前回のツアーのときも半分くらいはパッドを使っていました。次のツアー『WEAVER 13th TOUR 2017「A/W TOUR~You and I will find Another World~」』でも、またパッドを使うシーンがあると思うので、そういったところも観て頂きたいなと思います。
【取材=村上順一/撮影=冨田味我】
作品情報EP 「A/W」 9月13日リリース 収録曲: 品番 / 価格 封入特典: ツアー情報10月21日 東京・Zepp DiverCity [3名招待] |