スピッツとの接点や通じることを感じて、ねごと あの名曲カバー
INTERVIEW

スピッツとの接点や通じることを感じて、ねごと あの名曲カバー


記者:榑林史章

撮影:

掲載:17年09月10日

読了時間:約10分

今作は1994年のスピッツの名曲「空も飛べるはず」をカバーしたねごと

 女性4人組ロックバンドのねごとが8月30日に、両A面シングル「空も飛べるはず / ALL RIGHT」をリリース。これまでにアニメや映画など数多くのタイアップ曲を手掛けるなど幅広く活躍している彼女たち。今作は映画『トリガール!』の主題歌と挿入曲で、1994年のスピッツの名曲「空も飛べるはず」をカバー。「スピッツさんとねごとの接点や、どこか通じるものを感じて欲しくて」との想いで、原曲の魅力を最大限に活かして制作した。「ALL RIGHT」は、バンドとして飛躍したい気持ちや、解放されて空を飛んでいるような気持ちをイメージして制作したという。ねごとが考えるスピッツの魅力とは? そしてねごとにとっての翼とは? メンバー4人、蒼山幸子(Vo、Key)、沙田瑞紀(G)、藤咲佑(B)、澤村小夜子(Dr)に話を聞いた。

原曲の魅力を活かしつつ、ねごと流にカバー

蒼山幸子

――スピッツの名曲「空も飛べるはず」をカバーすることになった時は、どんな風に思いましたか?

蒼山幸子 映画『トリガール!』の英勉監督がもともと、ねごとのことを知って下さっていて。『トリガール!』の主題歌として「空も飛べるはず」をカバーして、挿入曲を書き下ろして欲しいと。素直にすごく嬉しかったです。

藤咲佑 ねごととしては、メジャーデビューした翌年の2011年にスピッツさん主催イベント『SPITZ 2011 SUMMER ロックのほそ道』と、2013年の『ロックロックこんにちは!Ver.17』に呼んでいただいたことがあって。それから約4年を経て今回のカバーということで、すごく光栄な機会だなと思いましたね。

――「空も飛べるはず」はシンプルで、コピーは出来ても、オリジナルを活かしつつそこに自分たちの個性を加えるのは、難しそうですね。

沙田瑞紀 誰もが知っている曲ですし、曲としても本当に完成度が高くて。その本来の良さを壊さずに、どう私たちの音で鳴らすかということが課題でした。でも本当にナチュラルに、無理の無い形でできたと思います。

蒼山幸子 きっとこの映画を見る世代は、私たちよりも若い世代だろうなと思って。だから、もしかするとスピッツさんの原曲は、実は聴いたことがない人もけっこういるのではないかと。それで、原曲を極力壊さないことを意識して。たとえばテンポを大幅に変えるなど、そういうことはせずにアレンジ出来たら良いなと思いました。

――キーは変えて?

沙田瑞紀

蒼山幸子 キーは変えました。でも、スピッツの草野(マサムネ)さんの声は男の人にしては高いほうなので、原曲のキーからほんの少し上げた程度です。

藤咲佑 スピッツさんの曲では、ベースの田村明浩さんがメロディに寄り添うような、ベースソロでも良いのではないかと思うくらいの、きれいなラインを弾かれるので…。今回は、(沙田)瑞紀がアレンジして、実はすべてががらりと変わっていますけど、ベースは原曲のように歌っているようなラインです。こういうベースラインを弾くのはほぼ初めてだったので、とても新鮮でした。

――がらりと変わっているのですか? ほとんど変わっていないのかと思っていました。

沙田瑞紀 そう感じてもらえたほうが、私としては嬉しいです。カバーとは言え、奇をてらうようなことは絶対にしたくなくて。パッと聴いた時の印象は、変えない前提でアレンジしました。スピッツさんの曲を聴いた時も、ねごとのカバーを聴いた時も、接点を感じてもらえるような、どこか通じるものがあるものにしたくて。だから、キーを変えたことでコード進行が変わっていたり、ちょっとした味付けはしてありますが、ドラムのフレーズやベースラインの要所要所では、原曲を引き継いだ部分も多いです。

 私のイメージとしては、昼休みにみんなで「気持ちいいね」と言っているみたいな、穏やかな時間が流れているような雰囲気に出来たら良いなと。だから、原曲の印象を壊すような主張の強い音は入れていません。

――イントロのフレーズは、やっぱりギターですよね。

沙田瑞紀 そうですね。イントロをシンセで弾くという手もあったと思いますが、やはりあれはギターで弾くからこその良さが絶対的にあると思ったので。

――今回、シンセやキーボードは?

沙田瑞紀 原曲では、キーボードやシンセは入っていなくて。ウーリッツァー(エレクトリックピアノの一種)みたいな音が、少し入っているくらいです。

蒼山幸子 私たちのカバーでは、少し古い感じのエレピみたいな音を全体に入れていて。でも、それもあまりオンタイムじゃないと言うか、ポロポロンという感じで入っているので、そこはねごとっぽいと思ってもらえるかと。

――スピッツの魅力を理解している、みなさんだからこそのカバーになりましたね。

澤村小夜子 自分の手癖でやろうと思ったら、いくらでもやれますから。でも瑞紀の言った、原曲の印象は壊したくないということは、みんなも思っていたので。スピッツさんの原曲の魅力とねごとの魅力が、上手くバランスを取って共存したものに出来たと思います。

ねごとが思うスピッツの魅力

藤咲佑

――みなさんが最初にスピッツを聴いたのは、いくつくらいの時ですか?

藤咲佑 小学校の時に「空も飛べるはず」は、音楽の教科書に載っていましたね。その時点で、もう伝説のバンドと言うか。音楽の授業で「チェリー」や「ロビンソン」を教材に使っていた学校もありました。卒業式で歌うところもありましたよ。

沙田瑞紀 だからロックバンドの曲という意識は、最初はまったくなくて、普通に国民的な曲という感覚でした。当時からすてきな曲だと思ってはいましたが、大人になって改めて聴き返すと、聴くたびに良さを理解し直すことが出来ると言うか。

澤村小夜子 私の中でのスピッツさんは、父がすごく好きで、車でいつも聴いていた思い出があります。父が聴いていたものを私が聴いて、それを今もこうして新鮮に聴けるのは、本当にすごいことだと思います。実際にスピッツさんのライブを見に行くと、お父さん世代や赤ちゃんを連れて来ているご夫婦もいらしたり、すごく幅広い世代から愛されていることが分かるし。

――改めて思う、スピッツの魅力は何でしょうか? バンドという枠を越えた名曲も多い一方、「8823」のようなバンド感満載の曲もあって。

蒼山幸子 ロックはすごく感じるけれど、音楽のスタイルとしては、アツさよりもダークさや切ない世界観を持っていて、それがすごく凛としていてかっこいいなという印象です。それには草野さんの作る歌詞の世界観はすごく大きいし、メロディも独特だなと思いますね。

沙田瑞紀 何て言うか、声とメロディと歌詞が、三位一体となってジワ〜ッと胸に響くと言うか。それがすごく普遍的なものになっていて。どの曲も、良いところ取りですよね(笑)。

――スピッツで、好きな曲は何ですか?

澤村小夜子 私は、ねごとの前にコピーバンドをやっていて、「君が思い出になる前に」や「8823」を好きでやっていました。

沙田瑞紀 「チェリー」や「スピカ」は、ねごとでもカバーしたことがあって、好きな曲ですね。

藤咲佑 私は「夢追い虫」です。ライブのアンコールでやってくれた時があって、その時はめっちゃ泣きました。代表曲だけど、あまりやる機会がないレア曲でもあって、「今日はやらないかもな〜」と思っていたらやってくれて、すごく嬉しかったです。

蒼山幸子 私は、好きな曲がありすぎて、選べません(笑)。アルバムの曲も良い曲ばかりだし。でも強いて挙げるなら、『三日月ロック』に収録されている「ババロア」かな。すごく切ないけど疾走感のある曲で、めちゃめちゃかっこ良いです。メロディがジェットコースターみたいに流れる。この曲は、今も頻繁に聴きますね。

今回のシングルは、ねごとにとっての翼

澤村小夜子

――挿入曲の「ALL RIGHT」は、ねごとらしい曲ですね。

蒼山幸子 監督からも、ねごとの持っている疾走感やどんどん構成が変わるところやコーラスワーク、そういった持ち味を、全面に押し出した曲を作って欲しいと。

沙田瑞紀 このシーンで流れますと、映画の映像も見せていただいて教えていただいていたので。

澤村小夜子 でもこういう曲は、実はけっこう久しぶりに録ったなという印象でした。2月に出したアルバム『ETERNALBEAT』では、個人個人で録った曲もたくさんあったし、曲調もいろいろチャレンジしたものだったし。こういうバンドっぽい曲で、リズムを(藤咲)佑と一緒に録ったのも久しぶりの感覚で。

藤咲佑 そうそう。どっちの曲だったかな? 瑞紀もいて。「あ、3人で鳴らしてる!」と思って、ちょっと懐かしく感じました。

――そういうバンド感は、映画『トリガール!』の持っているものと通じていそうですね。

澤村小夜子 みんなで一緒に力を合わせるみたいな。

――歌は、どういうことを意識しましたか?

蒼山幸子 タイトルにもなっている「ALL RIGHT」という言葉は、メロディを作った時に一緒に浮かんでいて。それで、土屋太鳳さん演じる主人公の鳥山ゆきなちゃんの強気な感じを、頭の片隅に置きながら。曲自体は、エネルギッシュで前を向いている曲なので、メッセージ性としては前向きなことを歌えたらと思って。肩肘張らずに、そういうことが歌えたら良いなと思いました。

沙田瑞紀 BPM(テンポ)が速い曲は久しぶりでしたが、映画のシーンとの相乗効果もあって、良い曲が出来たなと思います。

――映画『トリガール!』は、鳥人間コンテストが題材です。空を飛ぶためには翼が必要ですが、ねごとにとっての翼は何ですか?

沙田瑞紀 アルバム『ETERNALBEAT』の表題曲の歌詞で<飛びたい>と歌っていて…。空を飛びたいという直接的な話ではないのですが、飛躍したい気持ちや、解放されて空を飛んでいるような気持ちになりたいという想いは、『ETERNALBEAT』の時からずっと抱いていて。そんな流れの中で今回のお話をいただいて、今の自分たちにすごくぴったりだと感じました。<飛びたい>と歌っていたら『トリガール!』の話が来た、みたいな。その時の自分たちの気持ちと、すごくリンクしていたなと思います。

蒼山幸子 このお話をいただいた時は、ねごとにとってすごく大きなチャンスだと思いました。今までねごとを知らなかった人にも、知ってもらえる機会になるし。翼というわけではないけれど、そういう“風をちゃんと掴みたい”という気持ちがあって。アルバム『ETERNALBEAT』の時とは、サウンド的にもテンション感的にも違うけれど、今の私たちだからこそ出来るものと言うか。決して余裕があるわけではないのですが、自信を持って引き受けることが出来たと思っています。

藤咲佑 私は、この機会をもらえたことで、ねごとが好き、バンドが好きと言ってくれる方が、さらに増えることを願っています。それに最近は海外でライブをやる機会が、増えていて。これからも国内外問わず、もっと活動の場を広げて行けたら良いなと思いますね。

澤村小夜子 夏フェスでもこの2曲はやっていたのですが、久しぶりにアップテンポで生バンドサウンドが全面に出た曲をやって、「やっぱりバンドって楽しいな」と、再確認出来る機会になりました。エレクトリックなサウンドも楽しいけれど、こういうバンドサウンドも違った楽しさがあって。両方出来るのが、ねごとの良いところだなと改めて思いますね。

――つまりこのシングルは、ねごとをいろんな気持ちや新しいところへ連れて行ってくれる翼ということですね。

蒼山幸子 そうだと思います。

【取材・撮影=榑林史章】

作品情報

ねごと
Double A Side Single「空も飛べるはず / ALL RIGHT」
8月30日発売

【初回生産限定盤】(CD+DVD)1300円(税抜)KSCL-2964 ~ KSCL-2965
【通常盤】(CD)-初回仕様-「トリガール!」アナザージャケット封入1000円(税抜)KSCL-2966

▽CD収録内容
01. 空も飛べるはず
02. ALL RIGHT
03. 空も飛べるはず -Instrumental-
04. ALL RIGHT -Instrumental-

▽初回生産限定盤DVD収録内容
01. 空も飛べるはず -Music Video-
02. ALL RIGHT -Music Video-

公演情報

▽BAYCAMP 2017
9月9日 神奈川・川崎市東扇島東公園 特設ステージ

▽秋の夜長SPECIAL 〜VSシリーズ〜
9月26日 千葉・千葉LOOK

▽MEGA★ROCKS 2017
10月1日 宮城 Date fm 35th Anniversary MEGA★ROCKS 2017

▽学園祭「風紋祭」
10月8日 鳥取 鳥取大学学園祭「風紋祭」

▽学園祭第50回摩耶祭
10月15日 東京 武蔵野大学武蔵野キャンパス 第50回摩耶祭

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