シンガーソングライターの琴音が24日、1stアルバム『キョウソウカ』をリリース。『Eggs presents ワン!チャン!!~ビクターロック祭り2018への挑戦~』でグランプリ受賞、テレビ朝日『今夜、誕生!音楽チャンプ』グランドチャンプとなり、2019年3月にE.P.『明日へ』でメジャーデビュー。昨年はテレビ東京ドラマBiz『ハル~総合商社の女~』オープニングテーマ「白く塗りつぶせ」で話題となった。『キョウソウカ』は、彼女の原点である弾き語りの他、ラップやジャズなど多彩な楽曲を収録。美しい歌声と表現力の高さ、感受性の瑞々しさを感じさせる作品となった。制作エピソードを通して、彼女の音楽に対する想いに迫った。【取材=榑林史章】
ラブソングと英語詞の作詞に挑戦
――高校卒業後初の作品となりますが、どんなアルバムになりましたか?
高校を卒業するまでの集大成みたいな感じでもあるけど、自分としては新たな挑戦ができ、制作を通して成長もできたので特別な作品になったと思います。
――『キョウソウカ』というタイトルにはどういう意味が?
『キョウソウカ』は造語なんですけど、「キョウソウ」は狂騒や協奏など「カ」は歌や華など、いろんな字を当てはめることができて。このアルバムを聴いてくださった方が、いろんな捉え方をしてくれることで、その人がアルバムを自分の中に取り込むきっかけになれば良いなと思って付けました。
――アルバムと同名の「キョウソウカ」という曲も収録されていますが、こちらにはどんな思いを込めていますか?
クラシックで「狂想曲」というのがあって、カプリッチョとも言うんですけど、それは自由で型にはまっていない曲を意味しているんです。この曲もセンシティブな内容で、ある種型にはまっていない独特な感じがあるなと思ったので「キョウソウカ」と付けました。
――いつくらいに作った曲ですか?
高校2年生の時に作った曲なんです。当時個人で音楽活動をやっていて、よくご一緒していたご夫婦のユニットバンドの旦那さんが亡くなって。そのお葬式で、自分は何の励ましの言葉もかけることが出来ず、自分には何も出来ないと無力感を感じてしまって。それで曲を作ろうと思った時に、どこかで気持ちが腐っていくような感じに変わっていったんです。
それで「どんなに意思を込めて作っても、聴く人にとっては娯楽のための曲の一つでしかない」「どうせ曲を受け取ってくれない」みたいな、腐った気持ちがあって作ったんです。でもこの曲を聴いたスタッフさんやプロデューサーさんは、「キョウソウカ」という曲をすごく温かい意味合いで捉えてくださって、いろいろな捉え方が出来るのは良いなと思って、歌詞を再考して収録することになりました。
――どうしようもない無力感のなかで、琴音さんが頑張って何かを伝えようとしている気持ちが伝わります。コロナ禍でやるせない気持ちがある中で背中を押される感じがありました。
ありがとうございます。最後のほうで<それでも私は歌うよ>と歌っているところがあるのですが、誰かを励ましたり支えたりする時に、歌うことが自分にとっての軸だし、この曲にとってもそれが軸となるものだと思っていて。あくまでも私のパーソナルな部分ではあるのですが、ナチュラルな自分の感情を落とし込めたという部分でも、自分にとって大きな意味を持つ曲になりました。
――「The moon is beautiful」という英語詞の曲もあって、琴音さんが作詞もおこなっていますね。
「The moon is beautiful」はラブソングで、自分でラブソングの歌詞を書いたのは初めてだったので、すごく大きな経験になりました。今まで提供曲でラブソングを歌うことはあったんですが、自分に作れると思わなくて避けていたんです。でも今回、やってみないかと促されてチャレンジすることにしました。
――今までラブソングが書けなかったのは、どういう理由からだったんですか?
試みたことはあったんですけど、どう書いていいか分からなくて。だから今回も最初は躊躇したんですけど、チャレンジしてみたら題材によっては書けるという発見があって。「The moon is beautiful」や「昨日より」は、相手に好きな気持ちを伝える形のラブソングで、書けないと思っていたところから考えると、2曲も書けたので、成長したんだなと実感しました。自分の自信にもなりましたね。
――人を好きになる気持ちは、恋愛経験のあるなしに関係ないですからね。
はい。でも多くのアーティストさんは、ラブソングを歌っている率が高くて、なんなら「ラブソングしか書いとらんよ!」って思う方もいて。そういう人はすごいなって、改めて思います。
――全編英語詞で作詞したという部分も、チャレンジしたことのひとつですね。
自分の中で英語の歌と言うと、愛情溢れる内容で、ちょっとジャジーでオシャレというイメージがあったので、そういう曲を自分でも作ってみたいと思いました。「The moon is beautiful」というタイトルは、真偽は定かではありませんが、夏目漱石が“I LOVE YOU”を「月がきれいですね」と訳した逸話に由来していて。幼い頃にその話を聞いて、日本人独特の味わい深さに驚いたことがあって。
――幼い頃にそれを感じたというのも驚きですが。
そのときはオシャレだな~、格好いい~みたいな気持ちだったんですけど。それがずっと頭のどこかに残っていて、英語詞の歌を作ろうと思ったときにパッと出てきました。“I LOVE YOU”に対する日本的な捉え方をあえて英語で歌って、温かくて愛のある曲が作れたら面白いんじゃないかと。
――つまりタイトルの「The moon is beautiful」は、「愛してる」という意味になるんですね。
そういうことです。サウンド感も外国のオシャレなライブハウスやバーで、ドレスを着た女性が歌っているイメージにしたいと提案させていただいたら、編曲でムーディーなサックスや厚いコーラスを入れた編曲にしてくださって。エコーもアルバムの中では一番効いているので、ライブハウスやホールで鳴っている感じも出ているかなと思います。
地元の先輩アーティストを自慢したい
――ラストの「昨日より」は弾き語りですね。
「昨日より」の音の雰囲気は、小さい部屋の隅っこで、ひとりでギターを弾いているみたいな。ひとりでギターを弾いていたら、だんだんテンションが上がっちゃった感じの、こじんまりとした雰囲気にしたいと思って録りました。曲自体が素朴でほのぼのとした感じですし、そういうサウンド感がすごくマッチしたなと思います。
――途中で演奏が止まるのも面白いですね。
途中で止まるのは、ひとりで弾いていればそりゃあ伴奏が止まることもあるよねっていう感じでやってみた、ちょっとしたおふざけです(笑)。
――星野源さんの「うちで踊ろう」の動画のような質感と言うか、アーティストが自宅の部屋から弾き語りを配信したりしているような、親近感とか深夜感が伝わるような曲だと思いました。ひとりで聴くのにおすすめですね。
まさしくです。ありがとうございます。
――今作では、曲ごとに部屋やライブハウスなど、いろいろなシチュエーションを想定して音を作っているんですね。
幅広くいろんな曲を入れてみたいと思ったので。そういう部分で言うと、5曲目の「いざ、さぁ」という曲は、ラップの曲をやってみたいと思って、言葉の詰まった歌詞を書いていただいて。自分からやりたいと言ったものの、言葉のアクセントの付け方が難しかったし、早口になるからブレスも大変で。
――どうしてラップの曲を歌ってみたいと思ったんですか?
アニメや声優さんが好きな友だちからヒプノシスマイクさんが流行っていると聞いたのと、その時にちょうどくるりさんのラップの曲「琥珀色の街、上海蟹の朝」に家族でハマっていて。親から「あんたもこういうラップみたいな曲をやらないの?」って言われて、面白いかもな~と思ったのがきっかけでした。
――「いざ、さぁ」とその後の「真価論」は、サウンドも洋楽テイストで格好いいですね。
「真価論」は海外のクリエーターさんからの提供曲ということもあるので、より洋楽感が強いものになりました。若い世代の方には、特に好んでもらえそうだなって思います。
――歌詞にWi-Fiが出てきたり、十代らしい葛藤を歌っていて。十代の琴音さんならではだなと思いました。
作詞家さんが、曲の雰囲気から汲み取って書いてくださったのだと思います。でも後になって感じるのは、自分にも通じているということ。自分は軸を持って生きていきたいと思っているので、そういう部分が歌詞からも感じてもらえると思います。
――あと「あなたのようになるために」は、グッと胸に響きました。これは誰か尊敬する人に宛てた曲ですよね。
個人で活動をしていたときにお世話になった、地元の先輩アーティストの方に宛てた曲です。メジャーデビューしてからは、先輩アーティストのみなさんと関わる機会がなくなってしまって。相手側も遠慮されていたのだと思いますが、会う機会すらなくて、自分のなかで寂しい気持ちがあって、でも何かしらの形で繋がっていたいと思って作りました。
それにその先輩アーティストのみなさんは素晴らしい方ばかりなので、曲にすることで聴いてくれた人に自慢したいなと思ったのもありますね。私にとってはそういう曲ですけど、聴いてくれる人にとっては、その人が尊敬する人や憧れの人に対する思いとリンクさせて聴いてもらえたらうれしいです。
――先輩には、実際に聴いてもらった?
人づてにその先輩の耳に入っていたみたいで。MVが公開されたときに連絡をしたら、「話は聞いてる。すごく嬉しいよ」と言ってくださって。「大変なときだけどお互い頑張ろうね」と声をかけてくださり、本当に素敵な先輩だなと改めて思いました。
――曲を通して繋がっていますね。
またそういう曲を作りたいですね。次はどの先輩を自慢しようかなって(笑)。
――そして「明日への手紙」のカバーも収録しています。これは琴音さんがデビュー前に出場してグランドチャンプを獲得した、テレビ朝日『今夜、誕生!音楽チャンプ』で歌った曲です。
はい。私のことを多くの人に知っていただいたきっかけの曲でもあり、ファンの方から「カバーして欲しい」という声も多かったので、今回収録しようと思いました。それで、どうせやるなら私なりの個性を持たせたほうが良いなと思って。
――アレンジが独特のバンドサウンドで、すごく凝っていますね。
ギターの伴奏もそうですし、特にコーラスにはこだわりました。『音楽チャンプ』で歌ったときから感じていたことなのですが、この曲はどこか神々しい神秘的な部分があると思っていて。コーラスでその神々しさが出せたらと思って。最後のサビのコーラスは、特に聴いてほしいですね。
――すごく壮大になりますね。
はい。神々しさも出しながら、柔らかく包まれているような感じのコーラスにするにはどうしたら良いかと考えて、歌い方のニュアンスもすごく工夫しています。
――今回のレコーディングで歌ったときに、どんなことを感じましたか?
当時は毎日カラオケに通って何百回と歌って、歌いすぎて体調を崩すくらい入れ込んでいて。その感覚がまだ残っていて、今回レコーディングしながら「ここはこういう風に歌っていたな」とか「ここの強弱の付け方が難しかった」「ここがしんどかった」など、当時のことが思い起こされました。懐かしい感慨にひたるような感じもあって、歌いながら泣きそうになりました。
(おわり)
作品情報
琴音
『キョウソウカ』
6月24日発売
ビクター
通常盤(CD)3000円(税抜)
初回限定盤(CD+DVD)4000円(税抜)
【CD収録内容(共通)】
1.咲かない花
2.今 [1st Single]
3.あなたのようになるために
4.キョウソウカ
5.いざ、さぁ
6.真価論
7.The moon is beautiful
8.白く塗りつぶせ[2nd Single]
9.君を知ったから
10.きっと愛だ
11.明日への手紙[cover]
12.昨日より
【初回限定盤DVD収録内容】
「2nd note TOUR 2019 -白く塗りつぶせ- 2019.12.21 Live Movie」
「Aries」「今」「ラブレター」「願い」「夢物語」「飛行機」「ここにいること」「あなたのようになるために」「まだ見ぬ今日が 未知なる明日が」「白く塗りつぶせ」
※全10曲の映像を収録