Evan Call×琴音、音楽家・アーティストとして覚悟を決めた瞬間とは:『金の国 水の国』
INTERVIEW

琴音×Evan Call


記者:村上順一

撮影:村上順一

掲載:23年02月02日

読了時間:約9分

 「このマンガがすごい!」(オンナ編)史上初2作連続1位の作家・岩本ナオ氏が原作のアニメーション映画『金の国 水の国』が1月27日に公開。アニメーションスタジオ・マッドハウスが手掛けた、その映像美に彩りを与えるテーマ曲アーティストに抜てきされたのは、シンガーソングライターの琴音。オーディション番組から見出されて以来、数々のドラマや映画音楽の歌唱でテーマ曲を担当する気鋭のアーティストだ。本作でも中盤から流れるテーマ曲(劇中歌)「Brand New World」で、美しい映像をさらに盛り上げている。

 そして、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』や大ヒットアニメーション『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』などの音楽で幅広い層を魅了するEvan Callが劇伴と劇中歌の制作を担当。

 インタビューでは、劇中歌を歌唱した琴音と作曲家のEvan Callの2人に、楽曲制作について、映画『金の国 水の国』の見どころ、2人がアーティストとして覚悟を決めた瞬間など、話を聞いた。

キャラのアイデンティティも音楽で表現

――楽曲を作るにあたって、どこからアプローチされたのでしょうか。

Evan Call 本作の設定としてある2つの国、そして、登場人物のアイデンティティも音楽で表現し、キャラクターに寄せた音楽をメインポイントとして作っていきました。劇伴はチームで作るものなので、最初に制作スタッフの皆さんと打ち合わせをして、このシーンではこんな曲がいいのでは? といった提案をいただいてリストアップしていきます。

 シンクロするポイントは基本的に自分が任されているのですが、もう少しテンション落としたい、逆にテンションを上げたいというのは、その都度出てくるので、皆さんの意見と擦り合わせて制作していきます。シーンにあった最高のものを作るのが目的なので、細かくコミュニケーションを取っていきました。

村上順一

Evan Call

――琴音さんは今回3曲歌唱されていますけど、曲をいただいた時、どんな印象を持ちましたか。

琴音 「優しい予感」と「Love Birds」は、子守歌のような印象を受けました。例えば「優しい予感」は、本作の主人公、ナランバヤルとサーラの2人が出会う微笑ましいシーンで流れるのですが、ひなたぼっこしながら眠ってしまいたくなる、そういったことがすごく想像しやすかったので、迷いなく歌うことができました。

――音から伝わるイメージが明確だったんですね。

琴音 はい。「優しい予感」、「Love Birds」は柔らかい雰囲気で、ウィスパーっぽい感じ、「Brand New World」は力強い感じで歌ってほしいというリクエストをいただきました。Evanさんは事前に私の曲も聴いて、制作に入られたというお話を聞いていたのですが、何曲か聴いただけでこんなにも私が活きるメロディー、サウンド感のある曲を書けるというのは、すごいなと思いました。

村上順一

琴音

――Evanさんは琴音さんの歌声を生で聴いた時、どんな印象を?

Evan Call 楽曲を作る時は仮のメロディーをシンセサイザーで入れるんですが、その段階からきっと琴音さんの歌声とこのメロディーはマッチするだろうと思いました。そして、初めてレコーディングしたものを聴いた時も素晴らしいなと思い、テンションが上がったのを覚えています。ウィスパー系の「優しい予感」と「Love Birds」も、人の心に響くものがありますし、「Brand New World」は情熱的でパワフルな歌い方をする1曲で、他の2曲とは雰囲気が全然違うのですが、すごくマッチしていると思います。

――どんな曲でも合う声なんですね。Evanさんは『金の国 水の国』の持っているメッセージを音楽にどのように落とし込もうと思いましたか。

Evan Call 愛が大きなテーマとしてあります。愛の力で国や歴史を変えていくナランバヤルとサーラ、2人の関係性を音楽で表現しました。2人の出会いからエンディングまで、音楽で気持ちの変化を表現したいと思い、より気持ちよく愛というものが伝わるように落とし込んでいきました。

――これまで使ったことがない楽器も使ったとお聞きしていますが、それも大きなファクターになっていそうですね。

Evan Call 2つの国の違いというのも、この作品の大きな題材になっています。オーケストラだけでも色々できるのですが、せっかくなので音楽で何か差をつけたいと思い、色んな楽器を使ってみました。

――そんなEvanさんが一番苦労された曲は?

Evan Call 「The Golden Sky Shines Upon Us All」という曲です。8分くらいある曲なのですが、曲の後半で消えていくようなパートがあったので、映像の中で曲を少し早目に終わらせて、琴音さんが歌唱する「Love Birds」に引き継ぐような形にしました。「The Golden Sky Shines Upon Us All」では、2人の出会いのシーンで使っていた旋律を使用しているのですが、それがより感情が深く伝わるのではないかなと思います。約8分という長さの曲なので苦労しましたが、思い出深い1曲になりました。

――ところで、お2人の初対面の印象はいかがでした?

Evan Call 琴音さんに初めてお会いした時は、これから始まるレコーディング、歌に集中しているといった感じでした。のちに聞いたのですが、歌う前は声を温存といいますか、レコーディングのために喉をキープしていたこともあり、静かな方という印象だったんです。

――琴音さん、レコーディングに集中されていたんですね。

琴音 レコーディングはその時しかないので、気持ちが高まっていたのもありますが、緊張もしていました。私はEvanさんにお会いする前にこれまでの経歴や、写真でお顔を拝見していました。私が見たお写真がたまたまそうだったのかもしれないですが、けっこう厳格な感じの表情をされていたので、気難しい人だったらどうしようと思っていました。

Evan Call (笑)。

琴音 でも、会った瞬間からすごく朗らかな方で、温かい人なんだろうなと感じ、厳格なイメージのEvanさんは私の中から吹き飛んでいきました。

Evan Call 初対面の時、映像も撮っていたみたいで、カメラを回わしていたから、余計に私たちは緊張していたんだと思います(笑)。

2人が覚悟を決めた瞬間とは?

(C)岩本ナオ/小学館 (C)2023「金の国 水の国」製作委員会

――楽曲を制作していく中で印象的だったことは?

Evan Call 劇中歌を作る前に、とある場面の音楽を作っていたのですが、色々な意見があって、このシーンは歌ものにしましょうと変更になりました。それは制作が始まって1年後ぐらいに決まったことなのですが、それもいいアイディアだなと思いましたね。実際に琴音さんの歌声でそのシーンを見ると、ハートウォーミングさがより増すと感じました。新しく琴音さんの歌う曲として作り直したものが、すごく魅力的だったので、やって良かったです。

琴音 自分のこれまでの作品では、1曲の中にウィスパーのパートを入れたり、サビでちょっと歌い上げたりという感じが多かったのですが、『金の国 水の国』の劇中歌のように、1曲まるまるウィスパーとか、勇ましい感じといったように、パキッと分かれている曲というのはなかったんです。3曲全て私が歌うので、それぞれの曲でどこまで色をつけられるか、今の自分のレベルみたいなものを再確認するきっかけにもなり、多くの発見もありました。ウィスパーな曲はエコーがかかった感じにしていただいたり、サウンドの違いもあると思うのですが、曲ごとに違った世界観、歌声で2面性を作ることができたというのは、新たな自信に繋がったのかなと思います。

――本作で、「いつでも難しい方の道を選んで下さい」というサーラがナランバヤルに向けたセリフがあるのですが、難しい方を選ぶことは覚悟も必要だと感じています。お2人が“音楽でやっていくんだ”と覚悟を決めた瞬間は?

琴音 私はどこかのタイミングで決意があったというよりかは、少しずつ日々が過ぎていく中で、そうなっていったと思っています。両親の影響もあって昔から音楽は好きでしたし、私が歌うと周りの人たちも喜んでくれたり、認めてくれたり良いことがたくさんありました。私はシャイだったので、自分を表現する方法としても「歌っていいな」と思い、気づいたら音楽をやって生きていきたいと、いつの間にか覚悟が決まっていたという感じでした。

Evan Call 大学に行くまでは音楽を職業にしようとは思っていませんでした。でも、作曲をすることはすごく好きだったので、これをキャリアにしたいと思いました。大学にはローンを組んで入学しましたが、学費を返済しなければいけないので、失敗は許されない、と覚悟を決めた瞬間でした。両親は「それがやりたいことならやってみる価値はある」と言ってくれましたし、逆にローンを組んだことで、それがプレッシャーになりすごく集中して学ぶことができたと思います。日本に来てからはアシスタントをしながら自分の曲を作っていたのですが、辛いことも多かったです。でも、これが自分が歩みたい道だと思って、それらを乗り越えて今に至ります。

――特に辛かったことというのは?

Evan Call 当時から日本語は少しできたのですが、会話もメールも全て日本語でやりとりしなければいけないということが大変でした。日本語を覚えながらアシスタントの作業をして、その中で自分の曲も作るとなるとスケジュール管理も大変で。今もスケジュールの中で時間が足りないということもあるのですが、当時は仕事をやり始めたばかりだったこともあり、辛く感じました。でも、だんだん慣れていって、数年経つと自分は何ができるのか、できないのかがわかってきたので、コントロールができるようになっていきました。

――琴音さんは心が折れそうになった時や、これは難しいなと感じた瞬間は?

琴音 上手くいかないことというのはいっぱいありました。私は実はラブソングを作るのが苦手なのですが、リクエストをいただいて、作らなければいけない状況になっても、全然アイディアが出てこないことがあって。なんとか頑張って作っても、「これが私だ」と納得できるようなものにならないといったことはありました。結局自分自身と向き合って解決していかなければいけないことなので、何かしら行動を起こすか、自分と向き合って解決するか、という方法で乗り越えてきましたね。

――“自分会議”があるんですね。

琴音 常にあります(笑)。今の私と似たような自分と話し合うこともありますし、天使と悪魔のような時もあります。あと、今の自分とは違う琴音がいて、常に私のことを俯瞰しているのですが、彼女はあまり性格がよろしくないんです(笑)。ずっと私のことを見ている意地悪な自分に笑い物にされながら、それを尻目に打ち勝たなければといった時もあります。

――最後に、お2人が思う映画『金の国 水の国』の見どころは?

琴音 戦争は良くない、愛情って大事だよね、というメッセージが大前提にありつつ、作品の節々には、2国間での偏見だったり、根も葉もない噂話があったりもします。それはアニメの世界だけではなく現実でもあることで、蔑む対象みたいな感じで考えてしまう人もいたりすることが、この『金の国 水の国』にはあると思いました。でも、そういうことにも打ち勝って、愛情というものを見つめ直していけるような作品だと思いました。掘れば掘るほど味わい深くなるところが魅力であり、見どころだと思います。

Evan Call 主人公のナランバヤルとサーラが出会い、2人の関係性がどんどん深くなっていき、2つの国が大きく変わっていくところが見どころだと思います。2人のストーリーを見ていてすごい関係性だなと感じました。ぜひ2人のキャラクターと、そして音楽を存分に楽しんでいただきたいと思います。

(おわり)

この記事の写真
村上順一
村上順一
村上順一

記事タグ 

コメントを書く(ユーザー登録不要)

関連する記事