まだ知らない人に知ってほしい 和楽器バンド、唯一無二の存在感
INTERVIEW

まだ知らない人に知ってほしい 和楽器バンド、唯一無二の存在感


記者:小池直也

撮影:

掲載:17年09月08日

読了時間:約11分

「まだ知らない人に知ってほしい」とその願いを明かす和楽器バンド

 和楽器バンドが9月6日に、1stシングル「雨のち感情論」をリリースする。日本の伝統楽器である箏や尺八、津軽三味線、和太鼓がバンドに加わっているユニークな8人組。鈴華ゆう子(Vo)、いぶくろ聖志(箏)、神永大輔(尺八)、蜷川べに(津軽三味線)、黒流(和太鼓)、町屋(Gt)、亜沙(Ba)、山葵(Dr)のメンバーで活動。詩吟、和楽器とロックバンドを融合させた“新感覚ロックエンタテインメントバンド”を標榜する彼らは、2014年4月にアルバム『ボカロ三昧』でデビュー。2015年9月に発売した2ndアルバム『八奏絵巻』で第57回「輝く! 日本レコード大賞 企画賞」を受賞。さらに、このデビューからの3年間で東京・日本武道館での公演、日光東照宮などでの奉納演奏、米・ニューヨークでの単独公演など、数々の大舞台を凄まじいスピード感で経験してきている。デビュー4年目にして、初のシングル。そのファン層は幅広いが、「まだ知らない人に知ってほしい」とその願いを明かす。8人という大所帯で、和楽器と洋楽器をいかに融合させるか、彼らのこだわりや、数多くのライブを経て感じたことなど、彼らに話を聞いた。

やっとインディーズ期間以上の経験値を得た

1stシングル「雨のち感情論」ジャケット写真

――初のシングルですが、手応えはいかがですか?

鈴華ゆう子 デビューしてから、私達の活動は凄くスピード感がありました。国内でも毎年会場を大きくしていきながら、やってきました。海外での経験もこの3年間で沢山させて頂いて、武道館もやらせて頂いて、「では、この先どうしよう?」というタイミングで初のシングルを出そう、という話が出ました。これまでは3枚アルバムを出して来たのですが、シングルを出すという事を今までしていなかったので。

 3年で培ってきた物をここに集約させ、また新たなスタートを切る事で、国内のもっと沢山の方に知って頂きたいと思って。今までは、まだまだバンドとしても足りなかった部分もありました。でも、メンバーと一緒に経験を積んできて、ある程度“バンドらしさ”みたいな物が見えてきた、という事もあります。今回の「雨のち感情論」も私が書いた曲になるのですが、その内容も『ここから再スタートして、伝説を残していこう』という想いを込めています。

――その“バンドらしさ”とは、具体的にどのようなものでしょうか。

町屋 このバンドはデビューに至るまでの準備期間が、もの凄く短かったんです。結成して割とすぐにデビューが決まったので、初期の頃はメンバーがお互いを知らなかったりして。合奏する絶対的な時間や経験値は、何年もやっているバンドさんよりも圧倒的に少なかった。そういうところがデビューしてからの3年、相当やってきたので追いついてきたかなと。メジャーデビューはしていたのですが、やっとインディーズ期間以上の経験値を得る事ができたと思います。

鈴華ゆう子 私が知り合いに声を掛けたのが、今のメンバーです。初顔合わせの人もいましたが、早くデビューできたので、8人揃って音を作るまでの期間があまりなかったです。

神永大輔 「和楽器バンドとは一体どういうものなのか?」、「どういうバンドで、どういう物を目指しているのか」。最初は、このメンバーでやったら面白そうだと思って、集まったのですが、その時点だと色々な可能性が考えられるじゃないですか。この3年、活動していく中で共通の“和楽器バンド像”みたいな物を形作る事が出来たのかなと。

鈴華ゆう子 よく海外で公演すると「ジャンルは何ですか?」と聞かれていたのですが、ジャンルに拘らない事が、逆に“和楽器バンドらしさ”に繋がっているのを最近実感しています。私たちは、全員が曲を書きます。そうすると、それぞれのよく聴いてきた音楽などを落とし込んでいくじゃないですか。そうすると全てが和楽器バンドになる感じです、どんなロックでもポップスでも。そこを全員がなんとなく感覚で共有し合えてきた3年間だったな、と感じます。

――今回の楽曲はいつ頃から取り組まれていたのですか?

鈴華ゆう子 今年4月からおこなっていたツアー(『和楽器バンド HALL TOUR 2017 四季ノ彩 -Shiki no Irodori-』)中に曲が出来ました。ホテルとかでも作業したりしていましたね。シングルを出そうという話になってから、皆で話し合いをして、5月に曲が決まった感じです。

町屋 全トラックの録音が終わったのは、7月頭でした。僕は割とアレンジの骨格を作る事が多いです。このバンドは、ギターのレコーディングを1番最後にやります。「ここのコード感が薄いから、ギターは支える様に」、「ここは勢いが欲しいからパンチのある感じで」など、周りのバランスを聴いてから、最後にギターで整えるという役割。他にもシンセを足したりもします。そういう作業を、他のパートを全部取り終えてからする感じです。

 基本は、音を間引いていかないと和楽器は引き立たないです。なので、ギターが入っていなくても成立しているのがベスト。その上で、ギターをどうするかが問題ですね。この編成だと、ギターが1番融通の利く楽器だと思うので。

鈴華ゆう子 私が曲を作る時はピアノの弾き語りで、打ち込んでいきます。何となく、ここは箏で始まる、ここはベースソロ、三味線のソロ、などパッと聴いてわかる様にはしておきますね。あとは雰囲気を読んで、皆が格好良くアレンジしてくれます。

和楽器と洋楽器でも8人が平等のアンサンブル

和楽器バンド

――蜷川さんは、ギターと一緒に音を出す時に気を付ける事などありますか?

蜷川べに ギターとはそんなにかち合う事はないですね。三味線の音は、ピッチ感というよりも、バチで叩いた時のアタック音の方が強く出てしまいます。聴いていても箏と聴き分けられない時がある、という話を聞いた事があります。レコ―ディングの時もリズム隊(ドラム・和太鼓・ベース)を録ってから、三味線か箏を録って、尺八という流れなのですが。なるべく箏と音が被らない様に意識していますね。

神永大輔 この3年やってきて、和楽器と洋楽器が一緒にやっている事に特別感を感じなくなってきたという事もあります。元々そういうメンバーが集まってはいるのですが、8人でやっている中で増々、「和楽器/洋楽器」という構図の混ぜにくさというよりは、単純に1つの楽器どうしとしてアンサンブルを考えて、楽曲を作っています。

山葵 僕も違うバンドをやっていましたが、和太鼓とドラムがいるという環境で5年くらいやって慣れてきました。黒流さんがどういう事が得意だったり、こういう風にやればかみ合うなという事が、最近自然に出来る様になってきたなと感じています。それがこの曲に出ていて、リズムアレンジもスムーズにまとまりました。

黒流 打楽器が2人いて、8人編成という事もあるので僕らが好き勝手にやってしまうと、2人のリズムの住み分けも出来ないですし、それ以上に他のメンバーの音も消してしまう事になってしまいます。だから上物(うわもの=リズム隊以外の楽器の意)にどう混じっていくかですよね。「邪魔をしない」という事だけを考えてしまうと無個性になってしまって、意味が無くなってしまう。だから存在感を出していく事を考えています。

 洋楽器と和楽器が一緒に演奏する時「和楽器を際立たせるためにどうしたら良いか?」という事が話題になります。でも、このバンドは8人が平等で、和楽器に厳しかったりもします、転調なども含めて。普通、和楽器の人だったら「できません」と言うのは、転調がある曲になりがちなのですが(*編注:和楽器は洋楽器の様に容易な転調ができないので、チューニングし直したり、楽器を持ち替えて対応しなくてはならない)、それに和楽器チームが対応していくので、メンバーそれぞれが対等です。和楽器が入っているバンドは沢山ありますけど、そこを全員が楽しんでやっている点が、バンドとしては珍しいと思います。

鈴華ゆう子 昔は転調しない様にしていたのに、最近は容赦なく転調しまくりなんだよね(笑)。今回の楽曲もAメロから転調していますし。

町屋 このバンドの曲で転調しない曲は、ほとんどないです。和楽器の奏者がコピーしようとすると物凄く難しいと思います。メンバーが頭を悩ませながらやってきた積み重ねで成立している部分が凄く大きいので。

蜷川べに 困りますよね(笑)。曲によってチューニングを全部変えているのですが、それでも雨が降っていたり天候が悪いと、糸が緩んで弾いている途中でも音がズレてしまう。そういう時は、耳で聴きながら演奏中にポジションで調整しながら弾いています。

いぶくろ聖志 僕は常に2つの調が混在するチューニングで演奏する事が多いです(*編注:通常は1つの調に合わせる)。曲中に調弦を変えることもあるのですが、そうしないと転調に対応できないので。“和楽器らしさ”は、音階(ドレミファソラシドなどの音の並び方)にもあると思います。だから、時々コードの中にない音も弾いてしまう時があって。和楽器らしさも出して、コードの進行感もでる様に町屋さんにギターで整理して貰っている感じです。

――「雨のち感情論」のタイトルはどのように決めたのですか?

鈴華ゆう子 皆、それぞれと出会った時の事を思い出しながら書きました。みんな凄く音楽の才能があるのだけど「ここからどうやっていこうか?」というところで悩んでいる時に、私たちは出会ったわけです。3年を経て、階段を昇りつつも常に悩みはその都度あるのですが、それを皆で乗り越えているなという想いを曲にしようと思ったのです。

 当初は「雨のち晴れ」みたいな曲にしようかな、と考えていたのです。それだけだとつまらないから、私たちらしさを出そうと思って、このタイトルにしました。私の場合は歌詞とともにタイトルが決まってくるので、サビを考える時になんとなくタイトルをイメージしています。

――カップリング曲には「月に叫ぶ夜」が収録されていますが、この曲も同時期に?

黒流 僕が作詞作曲しました。以前にも「起死回生」という曲を書かせて頂きましたが、まさか自分が曲を書く様になるとは、何年か前まで思っていなかったです。和楽器が入ったロックは自分も昔からやってきたのですが、特に激しいロックに合うという気はしていました。物悲しさや情緒があったり、音色に凄く力があるので、それとロックを合わせるのが好きで。今回もその物悲しさを曲にしています。

――レコーディングはどのように?

亜沙 僕は宅録(自宅の機材でレコーディングする事)で録りました。今回から録り方を変えました。これまで一般的に「アンプから出す音の方が良い」と言われているので、アンプで出して録っていたのですが、ずっとしっくりきてなかった…。僕はそれまでライン(アンプを通さずに機材に直接音を入力すること)で録音してきたので、原点に帰ろうと思い、家で録音しました。

 アンプシュミレータ(アンプを通さずにアンプを模した音作りができる機材や機能)も最近は良いものが出てきていて、これはこれで有りだなと思いました。それは新しい試みでしたね。このバンドは楽器数が多いので、アンプで鳴らそうが慣らさまいが、混ざるとあんまりよくわからないという事もありますけど(笑)。

 あと今までは、スタジオに機材を持ち込まなきゃいけないし、エンジニアさんとのやりとりも大変でしたが、それがなくなってレコーディングが早く終わりましたね。

町屋 他のメンバーは、レコーディングスタジオに集まって録っています。最初は録音する前の仮のベースを聴きながら録って。その後リズムと他の和楽器が入ったデータを亜沙に送りました。そうしたら、送って1時間くらいでベースの録音送ってきて。

亜沙 送られてきて、パッと聴いて「良いんじゃないか」と思って、パッと弾いて送りました。そうしたら「早!」って(笑)。別に手を抜いている訳ではないのですが。

町屋 今の録り方の方が良いですね。エンジニアさんとのやりとりのタイムラグや、スタジオを借りていられる限られた時間など、そういうものを気にせずやる方が向いていると思う。反対の人もいると思いますが、亜沙の場合は自分のペースで出来た方がはるかに効率が上がりました。

自然を後押しされた平安神宮での奉納演奏

和楽器バンド

――平安神宮での奉納演奏(8月5日、6日・『和楽器バンド 平安神宮単独奉納ライブ in 和楽器サミット2017』)も大成功でしたね。

鈴華ゆう子 和楽器奏者や、私はここでの経験があったのですが、和楽器バンドとして初めて奉納演奏したのは世界遺産の日光東照宮(2016年・『日光東照宮御鎮座四百年記念 Special Concert』)でした。設置したステージではなくて、そこに元々存在している物と一体感を出せた、というのが一番自分達で気持ち良かった点です。自分で言うのもあれですが、ここまでマッチできるバンドもあんまりいないのではないですかね。「日が沈んでいく自然の照明とか、1曲目で披露した私の詩吟の最中に羽ばたいていった鳥たちさえも演出に見えるくらいだった」と、お客様がおっしゃってくださいました。

 私たちの曲は日本の花、月、風、星などの歌詞が多いです。そういったものをセットリストの中で多く取り入れてきたのですが、そういう物も上手くブレンドしたな、という印象です。ステージ上でも何かパワーを感じました。このバンドは演奏だけではなくて、パフォーマンスも重視しているので、和楽器だけのセクションで見せたり、ショウの様なセクションで見せたり、色々な演出があって。初めて見てくださった海外のお客さんも場所を含めて楽しんで頂けた様でした。

神永大輔 今回は土日で公演があったのですが、特に2日目は本番直前まで凄い大雨でした。雷も鳴ったり…。実際サウンドチェックも本番前はできなくて、直前まで「5分押したらこの曲を削ろう、10分押したらこの曲を削ろう」という話まで実際にしてから、ステージに臨みました。でも1曲目の直前でほぼ止んで、演奏が始まると完全に止んで、すぐ月も見えてきて凄く美しい空を拝見できました。不思議な力を感じた2日間でしたね。

山葵 僕はあんなドラムと和太鼓のバトルを神社でやっても良いのかな? と思いました(笑)。あんな神聖な所なのに、皆で声を出して叫んだり、手を叩いたりする楽しみ方が出来るのが僕らのライブならでは、だったと思います。日常の時に平安神宮であんなこと、絶対できないじゃないですか。

鈴華ゆう子 神社に背を向けて演奏する事になるので、リハーサルの音を出す前に二礼二拍手一礼を全員でしてから、始めたのも印象深いです。

――最後にシングル、これからの活動について、読者にメッセージをお願いします。

鈴華ゆう子 今回のシングルで一番願っているのは、「まだ知らない人に知ってほしい」という事です。私たちのライブは年齢層が幅広くて、来年1月27日に横浜アリーナおこなう『和楽器バンド 大新年会2018』はキッズエリアを用意します。そういう試みもしているので、まずは観て頂きたいです。

【取材=小池直也/撮影=半田安政】

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