元チェッカーズの鶴久政治がプロデュースする、80年代アイドルを彷彿とさせる音楽ユニット「243と吉崎綾」が、新曲「青春のダイアリー」を発表。それに伴い、ミュージックビデオ(MV)を制作、このほど、公開された。MusicVoiceでは、このMVの撮影現場を取材。撮影の合間には243と吉崎に話を聞いた。今回の取材を通して見えてきたものは2人のピュアさだ。
淡い青春を描く物語
昭和歌謡曲の素晴らしさを伝えることを目的に発足したプロジェクト『243PROJECT』。そのプロジェクトの主役は女性歌手の243だ。これまで、小泉今日子や中森明菜などといった80年代のアイドルソングをカバーしてきたが、先日、自身初のオリジナル曲「恋のロマンス」を発売。どこか懐かしいメロディに、当時のアイドルを彷彿とさせる衣装や振付、そして、彼女達の歌声も手伝って、当時を知るファンや初めて耳にする若年層まで幅広く支持を得た。好評を得て発売されるのが、第二弾となる「青春のダイアリー」だ。
MVの舞台は学校。転校してきた男子生徒を巡る、淡き恋の物語。久美子を演じる243こと都志見久美子と、綾を演じる吉崎綾は同じ学校に通う高校二年の友人。いつものように屋上で昼食を摂ろうとしたとき、ふと男子生徒が現れる。どこか気になる。そうしたなか、その男子生徒が持っていたバスケットボールが彼女達のもとに転がる。恋心はボールと共に転がり出す。鶴久も男子生徒の父親役として出演した。
素顔効果
時折雨もちらつく天候。空はどんよりとした雲が立ち込めていたが、それでも日中はなんとか保っていた。舞台となる学校は繁華街を抜けた住宅街にひっそりと佇んでいた。廃校になった後、地元のレクリエーション施設として有効活用されている。むき出しのコンクリートに、薄暗い廊下。玄関には緑色のスリッパ。壁には多くの貼り紙。校庭は都心には珍しい砂のグラウンド、走るたびに砂埃が舞う。
2人は午前6時に現地入り。撮影は午前9時にスタート。屋上や校庭、教室などでおこなわれ、午後7時には終えた。衣装は2人のたっての希望だったセーラー服。撮影の合間、うきうきとはしゃぐ243と吉崎。その場でくるりと回転したり、ステップを踏んだり。彼女の“跳ねる心”を表すように紺のスカートもヒラヒラと舞う。時折、その裾を掴んではニッコリとほほ笑む。無邪気な表情からお気に入りの様子がうかがえた。
正体は明かされず、ライブ以外は仮面をつけての活動だった243は先日、NHK朝の連続ドラマにも出演する女優の都志見久美子であることが明かされた。それ以降では初の顔出しでのMV出演となる。「ライブでもMCの時しか仮面は付けていなくて。きょうは“素顔”での撮影ですけど、顔をこれから出していく恐怖感はあまりなくて、むしろ解放されたような感じです。完成したMVでは思う存分に表情を楽しめると思うので、その表情で話の中に入り込めたらいいなと思っています」と笑みをこぼした。
243曰く「青春の青い時期、もう戻れない感じ。楽しくなるような一面もあって、悲しくなるような一面もある」という今回のMV。243と吉崎は同い歳で、普段から仲が良いこともあって撮影でも息はぴったり。243の素の表情は吉崎にも良い影響を与えたそうで「素でいられる。仮面を付けているとやっぱり固い表情に切り替わることもある。でも見られても大丈夫という安心感はある。カメラが回っていても、普段からふざけあっているときの私達の素も出ているから」と吉崎は234の頬に突っつきながらそう答えた。
MVとドラマの違い
屋上での撮影は強い風にも悩まされたが、それでもすんなりと終えた。校庭での撮影も順調に終え、午後2時頃からは教室や廊下での撮影。機材が所狭しと置いてあるなかで、はしゃぐ2人。控室では時折、お菓子を頬張りながら談笑する。疲労感は全く見えない。扇風機の前でステップを踏む吉崎。対して、椅子に座り周りを見渡す243。似ている2人だが対象的なところも時折みえる。
幅広い階段の目の前には控室となる教室があり、その右隣が撮影で使われている教室。シーンに合わせてそこを出入りする。先ほどまで笑顔が溢れていた2人だが、いざ自身の出番となると表情は一転する。これまで面を付けていた243も、表情が険しくなるのがはっきりと分かった。廊下を走り、教室に入るシーンでは緊迫感が伝わってきた。
彼女達はドラマにも出演する。女優であり歌手でもある。ドラマとMVとでは演技に違いはあるのか。吉崎は「セリフが少ない分、顔の表情や動きを大きくして、見ている人に心模様や情景などが伝わりやすいようにしています」と語り、243も同様の考えがあるとしながら「歌っている私たちが出演していることもあって、どちかというと何かを演技をしているというよりも素の私達、等身大に近いところがあります」と述べた。
普段からカラオケに良く行き、歌の“自主練”をしている2人。MVでも撮影前にみっちり話し合ったという。
鶴久が語る彼女の魅力
日も落ちようとする頃、撮影も終盤に差し掛かっていた。控室では、鶴久と仲良く談笑する2人の姿があった。音楽業界からすれば、鶴久はそのシーンを引っ張てきた功労者だ。しかし2人はそうした様子も見せずにじゃれ合い、冗談を交わす。鶴久も笑顔で応える。
プロデューサーとアーティストというよりも、固い絆で結ばれ親子関係にも似ていた。吉崎は鶴久を「親友です。普段からふざけ合ったり、3ショットの変顔を撮ったりしますよ」と語れば、鶴久も「綾ちゃんに『今回のメロディどうですか?』って聞かれるけど、『8割くらいかな』って(笑)。そんな冗談が言える間柄の現場作りが楽しいもんね」とその関係性を説いた。
それを聞いた吉崎は襟を正して「凄い方なのに偉そうではなくて、いつもふざけてるし、優しいんです。本当に鶴久さんでよかったと243と吉崎は思っております」と讃えるも、鶴久は「僕はいつでも辞めたいんですけどね」と冗談で返す。それに対し、243は「嫌だ! あと30年は…」と伝えると、鶴久は「こういう奴らだから愛着がわくんですよね。2人とはずっとやりたいな」とも。仲睦まじい。
鶴久の出番が終え、娘を送り出すように、2人の最後の撮影を見守る。シーンは夕暮れ時の教室。隣り合わせで座る2人。「青春のダイアリー」が流れる中、神妙な面持ちの2人をカメラが捉える。リハをおこない本番。一瞬にして空気感が変わる。「ハイ!OK!」こうして撮影は全て終えた。
緊張した面持ちもなく、了後も変わらずの笑顔。さすがに疲労の様子はわずかにあったものの、それでも無邪気さはあった。鶴久と共演者と談笑して“写メ”を撮る。楽曲の世界観の通り、等身大の姿がそこにあった。ピュアな心。撮影の取材を通して見えてきたのは、80年代のアイドルソングにも繋がる、そうした2人の姿だった。
(取材・撮影=木村陽仁)