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今年4月13日に発売された、STU48の8thシングル「花は誰のもの?」が異例のヒットを続けている。USENの「J-POPチャート」では発売週に13位、翌週に7位を記録。その後順位を下げたがここにきて3位に再浮上。更に地上波テレビが放送する音楽番組への出演も増え、今月9日にはテレビ朝日系『ミュージックステーション』への出演も果たした。ヒットの主な要因は「平和を願うメッセージソング」。くしくもウクライナ侵攻が始まり、世界的にも平和への想いが高まっているなかでの曲。原爆投下された広島、瀬戸内を拠点とする彼女たちだからこそそのメッセージ性はより説得力を持つ。8月6日の「広島原爆の日」と重なったアイドルフェス『TOKYO IDOL FESTIVAL 2022』ではアイドルグループの垣根を越えて広島出身者でこの歌を披露した。歌は歌い紡がれ成長していくというが、現状を当事者はどう見ているのか。広島出身で本作のトライアングルセンターの一翼を担う石田千穂、そして、元チェッカーズで同曲の作曲者でもある鶴久政治に話を聞いた。【取材・撮影=木村武雄】
綺麗な歌声
――率直に現状をどう捉えていますか?
鶴久政治 秋元(康)さんが詞をのせてくれて仮歌を聴いた時にイメージが現実的にすごく広がりました。「こうなればいいな」ではなくて「この曲はこうなる」というのがずっとあるんです。なので今のところ思い描いている通りです。
――石田さんはどうですか?
石田千穂 初めて聴いた時は、壮大でメッセージ性がすごく強くて、今までの曲以上に日本だけじゃなく世界のたくさんの方に知っていただきたい曲だなって思いました。ドラマミュージックビデオとかダンスリリックビデオとか今までやってこなかったことにもたくさん挑戦していますし、目標でもあった歌番組にもたくさん出させていただいて本当にうれしいです。今の世界の状況下で、秋元先生が、鶴久さんの素敵な曲をSTU48に選んでくださったことも意味があることだと思うので、この曲を歌い続け平和を伝えていきたいです。STU48としては今が一番のチャンスだと思って頑張りたいです。
――鶴久さんはSNSで「年末に憧れの景色を見せてあげたい」とも綴っていて、親心みたいな感じも?
鶴久政治 親心とかじゃなくて、秋元さんにまず選んでもらって、そこに彼女たちが綺麗な歌声を入れてくれたことに感謝しています。それがないと形にできないですから。このバランスが非常に好きで、秋元さんが書かれた今の若い子たちが歌うメッセージ、そして彼女たちの爽やかな歌声とのバランスが非常に耳触りがいいというか。マイナーコードの曲なので歌う人によってはもっと重くなったり暗い方にいくんですけど全くそれがないんですよね。しかも重たいメッセージが込められているのにそんな感じがしない。マッチングしたなと思って。
――初めからマイナーコードでやろうって思っていたんですか?
鶴久政治 元々、手ごたえはあって、秋元さんに出す前に出来上がって自分で歌った時にハマりがすごく良かったんです。何回歌っても。洋服をパッと着た時に肩幅も袖の長さもぴったりはまっているような。そんな感じが自分の中にあって。どんなものができるんだろうと楽しみにしていたら歌詞が素晴らしくて。もう自分の中では「よっしゃ!」という感じで。メロディーを認めてくれたからこそ、この素敵なメッセージのある歌詞を書いてくれたんだろうなと思いました。
――イントロもすごく良いですよね。
鶴久政治 イントロはその曲が出来上がった後に最後につけれたりもするんですよ。だから、曲の中が充実していないといいイントロはつかないですね。僕が一番嬉しかったのは、デモ曲を男性の方が歌っているんですけど、あまりにも男性のコーラスがでかすぎて、一緒に聴いてた人が「このバランス何じゃ」って(笑)。でもそれがうれしくて。たぶんそのコーラスの方はこの曲を気に入ってくれて、気持ちが上がって盛り上がったんだろうなと。僕はコーラスやっていたからその気持ち分かるんですよ。その方と話したいもん(笑)
――違う方の曲でもコーラスが大きいと思うことはありますが、実はそういう裏があったんですね(笑)。
鶴久政治 そうそう。気に入っているんですよ。もしかしたらメンバーみんながみんなこの曲のことを100%好きと思っていないかもしれない。やっぱりデビュー曲がいいとかそれぞれあると思うんです。でも今回はこれで彼女たちが花を咲かせる瞬間だから、イントロがかかった瞬間にみんなスクラムを組んでいくぞみたいな感じにならないと。そこの絆はメンバーしか分からないけどね。「ギザギザハートの子守唄」の時は「なんでこの曲やらなきゃいけないの?」みたいな反発心から売れたから。それは7人にしか分かんない気持ちだからね。
――クラップも入っていますが、それは鶴久さんが?
鶴久政治 そうしておきましょうか(笑)いや、打ち込み!打ち込み!
――鶴久さんにはクラップのイメージもあるので、狙って入れたんですよね?
鶴久政治 そうそう。これをやろうよって(アレンジャーの)HIROYA.Tに言って、一番いいこれを入れてくれて。重ねてちょっとずらして複数でやってるような感じにして。こういうキメを曲の中にいっぱい入れた方が踊る時に決まるんだよね。
石田千穂 本当にそうです!踊りやすいです!
鶴久政治 クラップの音がすごくいいんですよ。だから、レコーディングですごくやっていました。居酒屋にもいいんだよ。店員さんが振り向いてくれるから(笑)
歌に説得性
――平和を歌ったメッセージソングですが、歌い続けてきて捉え方に変化は出ていますか?
石田千穂 最初から今の世界の状況の中で、この曲を瀬戸内を拠点として活動しているSTU48が歌わせていただけるのはすごい意味があることだなって思っていました。世界各国のたくさんの方に聴いていただいて、平和について考えるきっかけや何か動き出すきっかけになったらなと思っていて、今も変わらずその気持ちはあります。
鶴久政治 STU48じゃないと歌えないんだよね。他のアイドルの子が歌えば話題になったかもしれないけど、ちょっと違うでしょうって。瀬戸内の子たちは生まれた時から、じいちゃんばあちゃんから「戦争は大変だったんだよ」とか、「みんな力を合わせて頑張ったから今の広島があるんだよ」とか聞いているから他の土地の子たちとはちょっと感覚が違うと思う。これ聴いて一番鳥肌立っているのは本当はメンバーの子たちかもしれないね。
――広島出身の石田さん、どうですか?
石田千穂 すごく共感しています。曲と歌詞が重なったものを初めて聴かせていただいた時、ちょうどミュージックビデオの撮影中で、みんなで夕焼けの海を見ながら、曲を聴いて。ちょうど戦争(ウクライナ侵攻)が始まったぐらいの時期だったので、本当に平和について考えるきっかけになりましたし、おじいちゃんとかひいおじいちゃんとかから戦争の話をよく聞いてたので、風化させないように歌い続けていきたいなって思いました。
――最初の頃のリリースイベントが、原爆ドーム横の「おりづるタワー」でしたが、特別な思いは?
石田千穂 観光とかで広島に来てくださった方が原爆ドームや資料館とかに行く時に近くにありますし、平和について考える場所で平和について考える曲を歌わせていただけたのも意味があるなって思いました。
――「TOKYO IDOL FESTIVAL 2022」でも他のアイドルグループの広島出身者と一緒に歌っていて。やっぱりそれも特別でしたか。
石田千穂 歌詞でも「国境が消えたら」と歌っていて、グループの垣根を越えて歌うことも意味あることだと思いました。こういう垣根を越えて歌い続けていく曲をSTU48として歌っていきたいというのはもちろんありますし、AKB48さんでしたら「恋するフォーチュンクッキー」とか日本を越えてアジアや世界の方々が歌っているので、そういう曲になっていったら嬉しいなって思います。
それぞれの印象
――鶴久さんはいろいろなアイドルを見てきていますが、今のSTU48にやっぱり手ごたえを?
鶴久政治 それはもう最初から。最初からいい流れは来るだろうなと思ってたんですけど、本当に順調にきています。今まで5年間苦労してきたから、ここで花を咲かせようとレコード会社も事務所の人たちも本当に一生懸命に支えて頑張っている。プレッシャーもあると思いますが、このチャンスはなかなか来ないし今もコロナの影響で以前みたいにお客さんはマスクしたままであおれないし、一緒に歌えないから本来の素敵なライブはまだできない。その中でスタッフの人たちは本気になってやってくれてるから、それに彼女たちも応えているのではないですかね。Mステでまた良いパフォーマンスをして評判が良かったらまた次も決まっていくと思います。
――そもそもSTU48の印象は?
鶴久政治 僕自身がガールズグループが大好きで1960年代に影響を受けているんです。なので秋元さんがAKB48を始めた時にいいなと思って、自分も曲作って選ばれるように頑張ろうと思っちゃって。だから毎回、いろんなグループの新曲が出るたびにPVとか見ていました。その中でもSTU48は楽曲が浮かれてない。キャピキャピのアイドルソングで一瞬だけしか花が咲かないような曲のタイプとは全く違うなっていうのが最初からのイメージでしたね。
――逆に石田さんから見た鶴久さんのイメージは?
石田千穂 もちろんすごい方ですし、鶴久さんの宣材写真を見た時に背景が黒くてちょっと怖い方なのかなと…(笑)
鶴久政治 意外と怖いんですよ(笑)チェッカーズは、高校の時は不良グループなんだから。地元では知らない人はいないぐらい(笑)
石田千穂 だから怖そうなイメージを少し持ってて、昨日はラジオの収録を2人でさせていただいたんですけど、でも全くそんなことはなくて、すごく柔和で本当に面白くて。今回は台本が全くなしの1時間話すラジオだったんですけど、最初は本当にやっていけるか怖くて不安でいたんですけど、めちゃくちゃ面白くてあっという間で。本当に素敵な方です。
――曲をもらってから、これまでに鶴久さんと会う機会はあったんですか。
石田千穂 昨日のラジオ収録の時が初めましてです。
鶴久政治 メンバーの子たちが僕のSNSをフォローしてくれたんです。だからフォローしてくれた人は全部フォローして。最初にキャプテンの今村さんが挨拶のメッセージをくれたんです。すごいのがメンバーの中でコメントくれるのはキャプテンと副キャプテンの福田さんだけ。だからメンバーできちっと決めているんだろうなと思って。ちゃんと統制がとれているなって。それか、全く俺に興味ないか(笑)
――そんなことないですよ(笑)鶴久さんがつぶやいているのは知っているんですもんね?
石田千穂 もちろんみんな知ってます。どこの情報を見るよりも、鶴久さんのSNSを見た方が早いですから(笑)。YouTubeの再生数の語呂がぴったりだった時も載せてくださったり、タモリさんの写真(等身大フィギュア)を添えて「STU48の皆さんお待ちしてます」とか、いろんなことをツイートしてくださるからメンバーみんなチェックさせていただいてます。
――STU48について秋元さんからは言われたことはなかったんですか?
鶴久政治 ないですけど、それは別に知る必要もないです。作詞家と作曲家の間では音でキャッチボールすれば分かりますし、歌声が入ったらこんなに広がるかって感じがするので、STU48で良かったなって。
曲が生まれた背景
――昨日のラジオの収録ではどんな話を?
石田千穂 曲ができた時の話を聞かせて頂きました。できた瞬間にレコード大賞とか紅白歌合戦とか行くと思ったみたいなエピソードを聞かせていただいて、私たちも紅白歌合戦とかレコード大賞とかに出て、忙しい年末を過ごすという目標を掲げていたんですけど、鶴久さんのお話を聞いて、絶対に忙しい年末を送りたいと思いました。
鶴久政治 去年の僕の誕生日にライブをやることが決まっていて、新曲を作ろうということになったんですよ。すぐにメロディーができる感じがあって、ギターを握った瞬間に最初のメロディができて。その時に一緒に作った今回のアレンジャーのHIROYA.Tが「この曲はメロディーがめっちゃ強いから取っておきましょうよ」と。なかなかそういうこと言わないんだけど、それを言われた瞬間に、これは秋元さんのところにコンペに出そうって言っているんだなと察して。
その1年前もコロナでバースデーライブが3日前に中止になって、その時買って揃えた衣装があって、ベッチンのジャケットに蝶ネクタイで。この曲でレコード大賞を取るから、蝶ネクタイを一緒にして俺らも行こうよという話をそこでしたら、HIROYA.Tはまだキョトンとしてたんです。でも自分は何かイメージが全部繋がって。だからそれ以来、ベッチンのジャケットは着てないんです。でもその時はまだ秋元さんのところに曲は行ってないし、STU48とも決まっていない。
それをコンペに出して2週間後に連絡がきて一応キープが入って。それから何カ月後かにAメロとBメロをちょっと変えてくれと連絡があってすぐ提出して。それから半年ぐらい連絡がないから、あの曲キープが入ったまま採用はないかなと思ったら、今年の2月に連絡が来て、STU48表題曲でレコーディングが入りますと。「あー、これは…」と手ごたえを感じて。でもその時はまだ歌詞がないから、秋元さんがどれぐらい本気になるかは歌詞の熱量で分かるなと思って。
最初「花は誰のもの?」というタイトルではなかったんです。国境でもなくて違うタイトルだったの。3日後ぐらいにこのタイトルがきたんだけど、その前のタイトルも僕ちょっといまひとつかなとか思っていたら、このタイトルが来た時に本当に全部ばっちりはまったんですよ。
流れ
――STU48としては決して順風満帆とは言えなくて、5周年コンサートも当初開催が予定されていた5月は、音楽番組への出演が多く決まっていて活動に更に弾みがつくと思われていたなかで中止を余儀なくされて。当時はメンバーも心が折れそうになったと思うんです。でも鶴久さんがはっきり「この曲で行く」と明言されているから勇気づけられたんじゃないかと。
石田千穂 こうやってはっきり言ってくださる方が周りにあんまりいなかったんです。それほど衝撃も大きくて。メンバー一人一人に目標があるけど、みんなで一致団結して本気で目指そうって言えるほどまだそれぞれの自信もそんなになかったというか、この楽曲をいただいた時に、鶴久さんがSNSでたくさん応援してくださったり「年末に…」と言ってくださるたびに胸を張ってグループとしての目標が言えるようになったというか。それまでモヤッとしていたものが晴れて色がくっきり見えるようになって。
――ご自身はそうですけど、他のメンバーもそんな風に見えますか。
石田千穂 他のメンバーも全然違うように感じます。
鶴久政治 やっぱり全然違うと思いますよ。(延期された5周年コンサートが実施された)7月10日は岡田奈々ちゃんもライブやっていて、あの曲を最後に歌うんです。あれがしびれた。ということは、いろんな人に、メンバーもそうだけどこの楽曲も愛されたなと思いました。
――鶴久さんがこれは行くっていう風に思ったとおっしゃったんですけど、世間の流れとして一番何か確信を得たところって何かあるんですか。
鶴久政治 確信は今もずっと続いてるんですけど、僕らはやっていた80年代の歌謡曲とかはマイナー(調)が多いじゃないですか。今の音楽シーンは、曲が出てちょっと売り上げが上がっても次の曲に行って、聴く人もデジタル化に変わってスピードが速いのでイントロからどんどん飛ばすから曲が捨てられる。
でも、僕らの時はアナログなので、アルバムを聴く時にレコード針を落としたら片面5曲は聴かなきゃいけない。外そうとすると傷が入るので。そうすると5曲聴くから全部の曲がどんどん好きになるんですね。でも、今の場合は飛ばせるからもったいないなって。本当は好きになるはずなのに。
たぶんこの曲は10年後も20年後もSTU48のみんなが歌ってるかもしれないし、他の誰かがカバーしているかもしれない。それぐらいの曲だと思います。秋元さんのメッセージも含めてね。4月13日に出て、最初にこの曲のタイプは有線(放送)で広まってくれるといいなと。8月ぐらいにいろんな番組に呼ばれるようになればいいし、絶対にそこがポイントだなと思っていました。
それで有線でまず1位になって、2位とか3位とかになって1カ月ぐらいベストテンに入ってて、一回20位30位に落ちたんですけど、また上がってきたんです。これはそういうイメージをファンの人たちがまず分かってくれてたっていう感じがしました。
その前に5月に5周年コンサートがコロナで一度中止になって、予定していた音楽番組への出演もなくなって。でも僕はそれをプラスに捉えていました。タイミング的には早すぎるなと。8月まで絶対に残って欲しいと思っていたので。そうしたら5周年コンサートが7月に開催されると決まって、更に8月にいろんな歌番組に呼んでもらって、反響がよくてそして「Mステ」じゃないですか。だからこの繋がりはずっと繋がっていくと思います。
良縁
――やっぱり鶴久さんから見てもメンバーの輝きは違いますか?
鶴久政治 違いますね。たぶん意識が変わっていると思うので、ちょっと前の写真と比べると顔が全然違うと思います。
――それは感じますね。改めて鶴久さんからSTU48に対して何か伝えたいことは。
鶴久政治 本当にメンバーのみんなにお礼を言いたくて。会うタイミングがあればとずっと思っていたんですよ。歌ってくれて、毎日MV観るし、車の中で何十回って聴いているからもう600回は超えていると思う。これが1000回を超えると、もう間違いなくドカンとくる。それはやっぱりチェッカーズでやってきた実体験があるから。未だに迷いは一切ないし、歌声入れてもらった時に一番鳥肌が立ちましたから。他のメンバーにも会った時にそれを本当に伝えたいです。
――逆に石田さんから伝えたい事は?
石田千穂 本当にありがとうございます。歌ってくれてありがとうって言ってくださってますけど、私たちは曲をいただけないと歌えないので、こんな素敵な曲をありがとうございますとお伝えしたいですし、「ありがとうございます」。
鶴久政治 これは本当にメロディーと歌詞に意味があるんですけど迷った箇所がないから。今まで何百曲って作ってきて、コンサートで僕は、チェッカーズの曲でも人前で歌ったことのないアルバムの曲とかもあったりするんですよってよく言うんですけど、人は結婚して離婚できるけど、メロディーと歌詞は一緒になったら離婚できないので一生なんです。だから、なるべくならいいところに自分が産んだメロディーが嫁いでくれて、幸せになってほしいと思うんです。
――そして生まれた曲がSTU48に嫁いだ。
石田千穂 本当にありがとうございます。大切に歌い続けていきたいです。
(おわり)
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