指原莉乃、渡辺麻友らが「最後の立候補」と宣言、柏木由紀、山本彩らは不出馬と、今回は開票前から様々な話題を呼んでいるAKB48選抜総選挙。昨年からはすでに島崎遥香、小嶋陽菜らもAKB48を抜け、その様相はガラッと変わり、決戦前から様々な憶測や批評が飛んでいる。

 だが、それも当然といえば当然のことだろう。近年は「次世代」「世代交代」という言葉がやたらと飛び交い、新たな局面を迎えつつあることに対して、未だ「指原莉乃、3連覇か?それとも渡辺麻友が…」と、世間からのこのグループの見方はあまり変わっていないようにも感じられる。乱暴な言い方かもしれないが、「世代交代」を現実に即した形とするために、グループ自体に荒療治が必要という考えがあってのことかもしれない。

 総合プロデューサーの秋元康氏は「彼女たちは芸能界を目指すオーディションを受けたところで、もう競争が始まっているんですね。だから、AKB48の中で競争しないということは、芸能界全体の中でも競争できないことになってしまう」(IT mediaビジネスonline 「ASIAGRAPH 2011 創賞受賞後のトークセッション」2011年10月28日、http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1110/28/news022.html)と、グループの中でメンバーがどう振る舞っていくかについての考えを示している。総選挙は、ある意味その普段からの立ち振る舞いの結果を示したものといえるだろう。

 その意味では「前世代」ながら未だにグループに在籍するメンバーたちは、すでにAKB48の次に待ち構えているさらに厳しい様々な試練に、ファンからは見えないところで戦っているとも考えられるだろう。その次元と総選挙を並べて考えてみると、確かにこちらでもあちらでもと両方の舞台で戦いを繰り広げていくのは違和感がある。そんな状況を考えると、今こうやって「前世代」が退いていくことは、当然のこととも思える。

 しかし、現状のAKB48グループ内部に「空洞化」的な構図が否めないことは、おそらくずっといわれていることだろう。「次世代」と呼ばれるメンバーは「前世代」の活躍があまりにも偉大過ぎ、かつAKB48という名前が大きくなり過ぎてしまい、AKB48を支えるということ自体に重圧も感じているのではないか、という影の部分も少なくない印象だ。そのためもあってか、総選挙に対しての緊張感も若干薄れ気味にも感じられる。つまり「競争」していないのではとまで感じられる。

 現在、AKB48のメンバーによるドラマ『豆腐プロレス』(テレビ朝日系)が放送されているが、皆さんはご覧になったことはあるだろうか? 女子高生プロレスという架空のプロレス団体による、プロレスの頂点を目指す熾烈な争いを、青春ストーリーとともに表した物語だ。

 このドラマでは、頂上争いの中に現在のAKB48におけるメインストリーム部分の構成が、そのまま設定されているような人物関係が組み込まれており、かつドラマの中ではプロレスで上を目指すために、礼儀正しく見せながら虎視眈々と上に上がるための隙を狙う者、あるいは勝つためにわざと怪我をした振りをして、相手を迷わせるという卑怯極まりない手を使ってでも勝とうとする者など、単に「苦しい下積みを乗り越えて花開いた」という綺麗ごとで描かれた構図だけでは済まない、「競争」におけるリアルな姿が描かれている。

 そんなドラマの中で、戦いの場で見せる出演者の闘志むき出しの表情からは「ああ、競争の場にいる人間とは、こういう表情だよな」と思わずにはいられない。このドラマと総選挙の差を考えると、「競争」し勝ち得ようとする目標を、実は見失ってきているのではと思わせるポイントも感じられる。どういう形でそれを解消すべきかという答えを、すぐに導き出すことはできないかもしれない。しかしその難問に果敢に挑んでいく姿勢がなければ、AKB48という名前は単に一時代を騒がした、過去の名前に過ぎない存在となっていくことだろう。

 一方で同じく『豆腐プロレス』を見て感じたことが、ひょっとしてこの状況の打開には、昨年の総選挙でも神7入りを果たした松井珠理奈、須田亜香里らの姿勢や動向は、一つのカギになるのではないだろうか。どちらかというと「前世代」に近い方であるが、彼女らはまだ総選挙出馬を辞める意向を見せていないだけでなく、頂上を取るという野心を示している。その様は、現在ドラマで彼女らが演じている役柄そのものにも感じられる。まだ近い位置にいる彼女らが自身の持つ大きな野望を、グループを超えてアピールし、その背中を追う者が一人、また一人と増えていけば、また状況を変えていくきっかけにもなるかもしれない。

 今のAKB48の状態は、ある種団塊世代と比較したバブル世代、あるいはその世代と比較したゆとり世代という現在社会の構図にも近いイメージがある。それだけに他人事のように注意を放っておくのは、もったいない気もする。今が彼女らの正念場であり、見る側としても、トップ争い以上に実は大きな見どころがあるとも思える。(文=桂 伸也)

【参考・中間順位】

1 荻野 由佳(NGT48 Team NIII)得票数 55,061票
2 松井 珠理奈(SKE48 Team S)得票数 34,641票
3 指原 莉乃(HKT48 Team H)得票数 32,340票
4 渡辺 麻友(AKB48 Team B)得票数 27,614票
5 本間 日陽(NGT48 Team NIII)得票数 25,032票
6 須田 亜香里(SKE48 Team E)得票数 24,947票
7 高倉 萌香(NGT48 Team NIII)得票数 21,667票
8 宮脇 咲良(HKT48 Team KIV)得票数 21,151票
9 高橋 朱里(AKB48 Team 4)得票数 17,047票
10 岡田 奈々(AKB48 Team 4)得票数 16,867票
11 加藤 夕夏(NMB48 Team M)得票数 12,396票
12 横山 由依(AKB48 Team A)得票数 12,031票
13 倉野尾 成美(AKB48 Team 8)得票数 11,961票
14 川本 紗矢(AKB48 Team 4)得票数 11,864票
15 沖田 彩華(NMB48 Team BII)得票数 11,373票
16 久保 怜音(AKB48 研究生)得票数 11,363票

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