まるで一本の舞台や物語を見たような満足度の高いライブを見せてくれたシナリオアート(撮影=佐藤広理)

 男女ツインボーカルバンドのシナリオアートが7日に、東京・EX THEATER ROPPONGIで全国ツアー『[Scene #3]-World Journey-』のファイナル公演をおこなった。「ジャーニー」や「エポックパレード」などアンコール含め全21曲を披露。バンド演奏とライティングのみというシンプルなステージだったが、シナリオアートの音楽の持つドラマ性や多彩な曲の表情によって様々なシーンが目の前に広がり、まるで一本の舞台や物語を見たような満足度の高いライブを見せてくれた。9月には、アコースティックスタイルのライブ『[Chapter #14]-ウタノストーリーティリング-』を東名阪で開催することも発表した。

一緒に旅しましょう

ハットリクミコ(撮影=佐藤広理)

 「もし明日、世界が終わるとしたら、あなたはどんな一日を過ごしますか?最後の日を迎えた“ファクションワールド”という世界の様々な国を、一緒に旅しましょう」というナレーションで始まったライブ。アップテンポのナンバー「ジャーニー」で、物語が幕を開けると、観客は手拍子をしながら一緒に歌い、シナリオアートの世界へと一気に引き込まれた様子。ハットリクミコ(Vo、Dr)が、「ようこそ、二度と忘れることの出来ない日にしましょう」と呼びかけ、ハヤシコウスケ(Vo、Gt、Prog)は「今から少しだけ僕たちの音楽に身を委ねてください」と優しく語りかけた。

 このライブの舞台になっている、最新アルバム『Faction World』の収録曲を多数披露したステージ。「パペットダンス」は、途中でジャズやフラメンコの展開もあり、おもちゃ箱をひっくり返したような楽しさで、ヤマシタタカヒサ(Ba、Cho)の<オーレ!>という掛け声も飛び出す。可愛らしさがありながら、神様が人類を滅ぼそうとする、曲調とは裏腹に少し怖い部分もある歌詞を、ハヤシは子どもに絵本を読み聞かせるように歌った。

 少林寺拳法をモチーフにした「ジンギスカンフー」では、ハットリが大活躍。観客と共に、<ウッ! ハッ! ウッハッ!>という掛け声をかけながら、正拳突きのような振り付けで盛り上がり、最後には「みんなシェーシェー!」と挨拶して締めくくった。

 カントリー調の軽快なサウンドの「ビューティフルパーティー」では、「今日という特別な日をさらに特別な日にしたいので、この中からパーティーのメンバーに一人を招待したいと思います」と、当日誕生日の人を募り、客席から「アベさん」が選ばれた。ハットリは、「選ばれしアベのために歌います!」と、なぜか呼び捨てで笑いを取りながら、歌詞にアベという苗字を入れ込んで歌い、会場は実にアットホームな空気に包まれた。

ハヤシコウスケ(撮影=佐藤広理)

 中盤では、スケールの大きな「コールドプラネット」を披露した。ヤマシタはシンセを弾き、3人で美しいハーモニーを聴かせる。静まりかえった会場に響く、<この星で最後の恋をしよう♪>というハヤシの歌声に、観客は酔いしれたようだった。

 「ホワイトレインコートマン」は、怪獣が街を襲った後の時代という設定の歌詞が秀逸。突き抜けるようなサビメロと疾走感溢れるビートとともに、独自のサウンドで、破壊力のあるノイジーな演奏を聴かせて観客を曲の世界観に惹き込んだ。

 和のテイストの「イージーオーマツリ」では、ハヤシ「人間は100%分かり合えるわけじゃないけど、音楽では一つになりましょう」と語りかけた。ハットリは、ステージの前に出てお祭りっぽいビートで和太鼓を叩き、ヤマシタはシンセやお祭りの鐘を鳴らして、ハヤシもフロアタムを叩く。会場はまるで、一つの輪になって踊る盆踊り会場のような一体感に包まれた。

探していたものは案外こんなに近くにあった

ヤマシタタカヒサ(撮影=佐藤広理)

 この約2時間ともに巡って来た物語の終盤、いよいよ世界の最後のときが来た。スケールが大きく、切ないながらも、どこか温かいものが胸に広がる「ラブマゲドン」では、観客がこの物語のすべてを受け取り、腑に落ちたといった感じで、彼らと一緒に歌いながらステージに向けて手を伸ばす。ハヤシが「アイラブユー!」と叫び、ハットリはそれを包み込むような歌声で<その瞬間まで踊り続けよう>と歌うと、ドーンという凄まじい爆発音が、衝撃とともに会場を包んだ。

 本編の最後には、映画のエンドロールのように「エポックパレード」を披露した。「この旅で探していたものは、案外こんなに近くにあった」と、客席をうれしそうに眺めながら話したハヤシ。「誰一人欠けず、みんながいてライブが出来ているのは、みんなのおかげです。ありがとう」と感謝を述べた。

 新しい時代の幕開けを祝うようなファンファーレが響く「エポックパレード」に出てくる、<幸せになりたくて生きている人は手を叩け><不幸になりたくて生きてない人は手を叩け>という歌詞に合わせて、会場にはパンパン!と、これ以上ないくらい大きな音で、観客のクラップが響いた。

 どこかアニメや小説、ファンタジー映画などのような、シニカルな物語を彷彿とさせてくれる歌詞。ソリッドなロックから温かいポップナンバーまで、多彩なジャンルを内包しながら、その物語をそのまま音に変換したようなアイデア満載のサウンド。そんな彼ら独自の音楽性で、前回のツアーでは、ライブを潜水艦に見立てて海中の旅へと連れて行ってくれた。そして今回は、“ファクションワールド”という世界の最後の日へといざなって、様々なことを考えさせてくれた。

 9月には、インディーズ時代から続く[Chapter]シリーズの、アコースティックスタイルのライブ『[Chapter #14]-ウタノストーリーティリング-』を東名阪で開催するとの発表もあった。今度は、これまでの旅の土産話を、じっくり聞かせてくれるようなライブになりそうだ。

(取材=榑林史章)

セットリスト

01.ジャーニー
02.サンライトハーモニー
03.モウモクカクメイ
04.シュッシュポップ
05.パペットダンス
06.ジンギスカンフー
07.ビューティフルパーティー
08.コールドプラネット
09.シニカルデトックス
10.レムファクション
11.ホワイトレインコートマン
12.ナナヒツジ
13.イージーオーマツリ
14.フランキーファンキー
15.トウキョウメランコリー
16.アオイコドク
17.スペイシー
18.ラブマゲドン
19.エポックパレード

アンコール

EN1.ハロウシンパシー
EN2.ワンダーボックスII

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