奈落からの生還、LAMP IN TERREN 辿り着いたのは幻想世界
INTERVIEW

奈落からの生還、LAMP IN TERREN 辿り着いたのは幻想世界


記者:村上順一

撮影:

掲載:17年04月14日

読了時間:約22分

制作過程の何カ所かが記憶に残ってないんです

中原健仁(撮影=(C)山川哲矢)

――「オフコース」はカントリー調のアレンジでした。皆さんの中にこういった音楽のルーツもある?

川口大喜 ベーシックは大が持ってきて、そこから各々の個性を出すという感じですね。

松本大 ブラシはほぼやった事ないって言ってたもんね? スティックで出来たらそれでも良かったんですけど、サウンド的に違うねと。

川口大喜 「オフコース」はスティックではなくブラシでプレイしたんです。初挑戦ですね。レコーディング2日前に「ブラシでやって」と言われまして。基本的にサウンドのニュアンスや方向性は大の頭の中にあって、それをメンバーの個性を詰めながら理解していくという作業が基本的なウチのやり方ですね。

――大屋さん的にも初挑戦が?

大屋真太郎 1年9カ月ぶりのアルバムだけど、僕が戻ってきて初のアルバムという事で、曲によってレコーディングの感覚は変わると思うんですけど、これだけ彩りのある曲たちのアルバムのレコーディングだと1曲1曲が初挑戦という感覚があって新鮮でした。奏法に関してはそこまでは…。

――「涙星群の夜」はギターが難しい曲だとライブで話していました。

大屋真太郎 確かにリズムが難しかったりテンポが速かったりしますね。

松本大 「地球儀」のギターソロなんかはレコーディングで手を叩いて喜びましたね。「よくやった真ちゃん!」って(笑)

――「涙星群の夜」のラストの和音の響きがとてもクールですよね。何ていう名称のコードですか? 明るくもあり暗くもあり、何とも言えない響きで、この曲を象徴する締めくくりのコードだなと

大屋真太郎 僕も分からないんですよ。作りながら「変なコードだな」と思ったんですけどコードの名前が付けられないんです。レコーディングでけっこう何回もそこ弾いてたよね。

松本大 強弱とかも含めて色んなニュアンスを試しました。

――中原さんの初挑戦は?

中原健仁 今作は本当に1曲1曲の性格が明確で、例えば「不死身と七不思議」は今までで一番明るくてキャッチーだし、そうかと思えば「地球儀」は踊りだしたくなるようなグルーヴ感がある。これらは僕にとっては初挑戦で、音の表情を出すことに苦戦しました。だけど同時にすごく楽しかったです。自分の弱点も強みも分かったレコーディングだったので、ライブが本当に楽しみです。

――「涙星群の夜」をリードトラックにした理由は? どの曲もリードトラック級の完成度ですけど。

川口大喜 直感的に、メロディがあまりにも良過ぎてバンドのあり方として、先が見えるという点が最初にありました。ただ、制作過程の何カ所か記憶に残ってないんですよね。必死過ぎて「あれっ?」となる事が多いんです。

――忙しかったからそういうこともありますよね。確かに「涙星群の夜」はライブで聴いた時もメロディのインパクトが強かったです。そういえば、「キャラバン」の冒頭のギター音は「innocence」のシングルでは入っていませんでしたよね?

松本大 そうですね。元々録ってあった外の領域のものを持ってきただけです。歌始まりにしようか、ラジオっぽい音からにしようか、他にも色んな案がありましたが、新たに録ると音が変わってしまうのと、「地球儀」に時間がかかり過ぎてこの出だしで落ち着きました。

――ということは「地球儀」は難産?

松本大 難産でした。ギターが凄く難しかったり、僕もシンセを弾いていたり、コーラスワークもかなり考えたりして。

――「innocence」のインタビュー時に「シンセサイザーありきで、そこにバンドが合わせていく手法で録った特別な作品がある」と言っていましたが、それが「地球儀」?

松本大 そうです。その時からこの曲の構想がありました。この曲は、僕とメンバーが別軸で動いていました。僕はバンドに乗せる上モノを考えたり、歌詞を考えたりする。メンバーはひたすらこのダンスビートを身に付けるという感じで、凄く大変そうでした。

川口大喜 『fantasia』の楽曲は演奏難易度が高いので、それだけ表現力のレベルが上がってきたんです。「地球儀」はリズム隊が大変でした。そもそもLAMP IN TERRENはこういうリズムはやってこなかったので。お客さんからしたら新鮮かもしれないですね。グルーヴやニュアンスの音楽的な難しさがありました。

――「地球儀」というタイトルはスケールが大きいのか小さいのか、分からない感じがありますね。

松本大 それが狙いです。自分の「空想」をアイコンにしやすいのが「地球儀」でした。頭の中の空想って無限の大きさに思えるけど、結局それが起きているのって自分の小さい頭の中だし。地球儀くらいだったらその世界を掌握出来るんですよね。自分の空想を現実世界に落とし込むのって凄く大変。でも、逃げ込める場所でもあるからそこに居続けたらいけないと僕は思っていて、そういう事を考えていたら曲になっていました。

――「at (liberty)」についてですが“liberty”は自由という意味?

松本大 “勝ち取る自由”ですね。解放するという意味合いも含みます。

――どういった心境でこの曲を書かれましたか?

松本大 どこに居ても自由だけど、どこに居ても不自由で、不自由が無ければ自由を感じる事は無いと思うんです。自由になった途端に、その自由過ぎる空間は不自由なのでジレンマですね。自由を求めて飛んで自由を手にしてみたら「無限で膨大な時間があり過ぎて暇でこれは不自由」みたいな。一瞬一瞬を選ぶのは自分自身で。これはもうどうしようもないと思いまして。答えはないんですけど、これも自分の中ではコミカル路線です。

――こんなにシリアスな内容なのに?

松本大 そうなんですよ。ギリシャ神話のイカロスの話ですけど、イカロスは牢屋に入れられて、蝋と羽根で2枚の翼を作ってそこから抜け出そうとするんです。その時にイカロスの父のダイダロスが「低く飛び過ぎると水しぶきで翼は重くなって沈んでしまう」「高く飛び過ぎると太陽の熱で蝋が溶けてしまう」「だから丁度良い高さで飛び続けなさい」と言うんです。

 ダイダロスは最後まで丁度良い高さで飛び続けて岸まで辿り着くんですけど、イカロスは飛ぶのが楽しくなっちゃって、高く舞い上がり過ぎて落ちてしまうんです。ダイダロスの安定した飛び方の結末は語り継がれなくて、イカロスの失敗談だけが色濃くあるじゃないですか? 自由を求める気持ちってそういうものだなと思いまして。

 「失敗した!」と思いながら落ちていって。そのなかで、自分がイカロスだったと思っていて。それでも、何回地面に叩き付けられても俺は飛びたいなと思って、そういう気持ちと合致しています。そういう逸話と自分の気持ちを結びつける曲は、自分の中でコミカル路線ですね。

――今までもそういった発想から書いた曲はありますか?

松本大 「緑閃光」や「portrait」も僕の中ではそうです。「林檎の理」も万有引力の法則と、大喜を見ていて書いた曲です。自分の中で若干コミカル路線なんですよね。インディーズの曲でも多いですね。「Sleep Heroism」もコミカル路線ですし。

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