LAMP IN TERREN「生きてまた会いましょう」響かせた“今”必要な歌
『Progress Report』
【撮影=(C)小杉歩】
LAMP IN TERRENが12月13日、ワンマンツアー『Progress Report』のファイナル公演を東京・恵比寿LIQUIDROOMで開催した。今年10月にリリースした『FRAGILE』を携えた全国20公演のワンマンツアーは、コロナ禍にあって過去最多公演。今までになく聴き手に寄り添った今作を、現在の特殊な環境でどう響かせるのかーーその集大成に彼らは挑んだ。
ステージ上には、見慣れないブラウン管のモニターがいくつも並ぶ。暗闇にショパンのノクターンが鳴る中、画面にノイジーなカラーバーが浮かび上がると、松本大(Vo,Gt,&Pf)が登場。グッと表現力を増した鍵盤の音色と共に、アルバムタイトルを冠した“Fragile”からこの日は幕は開けた。
ここからの冒頭のタームが、まず素晴らしかった。最新作の根幹をなす<孤独を分け合える>という言葉と共に、オーディエンスの集中力をグッとステージに惹きつけた“Fragile”。そこから飛び込んだ“宇宙船六畳間号”と“heartbeat”の繋がりが美しく胸を打った。前者はコロナ禍にあって、デジタル世界の中でのみ他者の存在を感じ合う姿を、伸びやかなメロディラインと共に描いている。対して後者は、実際に触れ合った時に感じる心臓の鼓動をモチーフに、他者との繋がりを描く。リリース時期が異なるのも関わらず、両者に存在するのは、他者との繋がりの中にこそ自らの存在があるという真理と、他者への渇望である。この時点で、単なるアルバムツアーとしてのライヴとは異なる光景が訪れる予感に満ち溢れていた。
その後も、最新曲が放つ新たな魅力と、彼らが辿ってきた歴史が手を繋ぎながら展開されていく。“Enchante”と“Beautiful”は互いに「落ちる」という表現を通して命の煌めきを、そして“balloon”と“風と船”は「風船」というモチーフを通して、孤独からの救済を語った。そして中盤戦、ラストを飾った“BABY STEP”は<僕が僕として生きることこそが/偉大な一歩目だから>と彼らの一つの旅の終着点を描き切った。
そして次のタームは、非常にミニマルな音像で描かれた“チョコレート”と“ベランダ”を通して、バンドとしての革新的な進化を披露した。川口大喜(Dr.)は柔らかで繊細なタッチのリズムを、優しくも存在感のある音抜けで全体を牽引。中原健仁(Ba.)は全体を埋めるというよりも、程よく音の隙間を作り上げることで、メロウな曲調の中でも楽曲の輪郭とダイナミズムを創出。そして大屋真太郎(Gt.)は 、“ベランダ”のギターソロに顕著だったように、歌詞の情景を描く音像の色彩を深く生み出していた。演奏隊の進化は松本の歌声をより自由に解き放ったようで、アレンジも多く取り入れながら、伸びやかに楽しんで歌う彼の姿が印象的だった。
そして松本は、ここで初めてゆっくりと言葉をオーディエンスに伝える。「僕は音楽を選んだだけの、ただの人間ですーー独りが嫌です。誰かと生きていきたいと思ってます」ーー当たり前のようで、ステージ上から語る言葉としてはあまりにも素直な言葉だった。この言葉は、飾らない自分自身で聴き手と共生していきたいという想いの証であり、直後に披露された”いつものこと ”と完全にリンクしている。特別ではない日常を過ごす自らの姿を<ね、綺麗でしょ>と語りかける、誰にとっても自分ごとになる歌は、間違いなくこの日のハイライトのひとつだった。
そして終盤は圧巻の多幸空間を披露。“ホワイトライクミー”は川口のタイトなリズムが光る展開の先に極大のエモーションを描き、“New Clothes”は強度を増したバンドサウンドで圧巻のグルーヴを見せつけた。そして辿り着いたラスト。「今後、どんな世界になっていくのかは全然わからないけど、それでも今出せる最大風速で生きていたいと思う。誰かと繋がりたいと思った、その手段に音楽を使った。ーーだからこそ、死に物狂いで、歌って帰ります。今日は本当にありがとうございました」……そう話した松本は鍵盤の音色と共に歌い始める。ラストはもちろん、最新作のパイロットソング“EYE”だ。
松本の弾き語り時点でフロアに熱が帯びる中、バンドイン後の彼らの姿は圧巻だった。すべてのパートが歌うように絡み合う演奏は、ラストの合唱と共に描かれるラスサビまで、邦楽ロックの枠を軽々と飛び越えるスケール感を見せつけた。デビュー当時の曲から最新作を通して、自分自身と他者との間に流れる繋がりを見つめ続ける旅ーー辿り着いたのは、眼に映る世界の中を、既にただひとつの存在である自分の姿のままで生きていけばいいという、シンプルなことだった。最後に彼が残した「生きてまた会いましょう、またね」という言葉は、<手を繋いで ずっと汚し合おう>と歌い切ったフィナーレにこそ、ふさわしいものだろう。強制的な孤独を体験した後の世界、より浮き彫りにとなった他者の存在という愛おしさ。そんな当たり前を、普段着で伝え切ったツアーはまさに大団円で終幕。LAMP IN TERRENが「今」必要な音楽を鳴らしている証明の夜となった【黒澤圭介】
セットリスト
Fragile
宇宙船六畳間号
heartbeat
Enchante(eはアキュート・アクセント付)
Beautiful
Balloon
風と船
BABY STEP
おまじない
チョコレート
ベランダ
いつものこと
ワーカホリック
ホワイトライクミー
New Clothes
Water Lily
EYE
Encore
ほむらの果て
オーバーフロー
地球儀