日本の“繊細で暗い”という感じが好き
――今作収録の「Un homme et une femme -男と女- with LE VELVETS」はLE VELVETS(ル・ヴェルヴェッツ)とコラボしての再録ですが、これはどういった経緯でしょうか?
男性コーラスグループと何かやりたいとずっと思っていたんです。この曲はこれまでに何度も歌っているんですけど、原曲に近い構成で歌いたいという事もあったんです。
ずっと前にブラジルのコーラスグループと一緒にやった事があって、オスカー・カストロ・ネヴィスのディレクションでやっていて凄く楽しかったので、またやりたいと思っていたんです。
そうしたら「日本にこういう人達がいる」と聞いて、じゃあ原曲に近い形でコーラスグループが活きるようにやりたいなと思っていたら、映画『男と女』のヒロインの夫役を演じたピエール・バルーが亡くなってしまったんです。
(編注=オスカー・カストロ・ネヴィスとは、ブラジルの作曲家・アレンジャー・ギタリスト。ボサノヴァの先駆者、中心的存在の一人。ピエール・バルーとは、フランスの音楽家・俳優。日本における「フレンチ・ボサ」ブームの火付け役も担った。映画『男と女』でヒロインの夫役を演じる。2016年12月28日死去)
――ピエール・バルー氏が亡くなった時はまだレコーディングされていなかった?
そうなんです。とても残念でした。
――LE VELVETSとのレコーディングはいかがでしたか?
やはり5人というのは圧巻でしたね。MVも一緒に撮ったんですけどそれも面白かったですね。「小津安二郎(映画監督・脚本家)の世界感で」というディレクションだったんです。それが初めての経験で新鮮でしたね。
――クレモンティーヌさん、MVの中で正座されていましたね。辛くなかったですか?
正座は大丈夫でしたよ(笑)。色もセピア色で古風な感じで良いでしょう?
――はい。日本でもMVで観られるような、純和風の部屋は少なくなってきていますからね。
ああいった日本の美しい所はもっと発信すれば良いのにと思いました。
――掛け軸など日本画を吟味しているシーンも印象深かったです。西洋画とは違う趣ですが、インスピレーションは受けましたか?
やはり日本のそういった芸術は繊細でとても大好きです。日本の文学に共通する繊細さと美しさが日本の絵画にはあって、“繊細で暗い”という感じが好きですね。日本文化が好きな母の影響で、小さい頃から日本の文学や美術に対してちゃんとお金をかけて触れていたんです。
――日本文学も読まれるんですよね。
たくさん読んでいますね。私にとっての最初の日本のイメージは日本文学で、その中から「日本ってこんな国なんだろうな」と思っていたんです。だから最初に日本に来た時はそんなにカルチャーショックはなかったんです。日本文学を通じて知っている部分がありましたからね。
――日本文学と実際の日本の文化とのギャップは感じませんでしたか?
日本文学で知っていた日本とは違うモダンな文化でしたけど、「人」は変わっていないと思いました。親切で、思いやりがあって…。そういう所は日本文学で知った日本と変わらないんだろうなと思いました。
――世界から見ても日本は「親切」というイメージがありますか?
例えば、17年ぶりに日本に来たサックス奏者は世界中を飛び回るミュージシャンなんですけど、「世界で日本が一番綺麗で、一番親切で、何の問題も無く何でも上手くいく」と言ってるんです。だから、どのミュージシャンを日本に誘っても喜んで来てくれるんです。
――それは日本人として非常に嬉しく思います。
でも、ヨーロッパ人はバブル期の日本人は割と嫌いだったんですよね。下品で、お金で何でも買えると思っている国という印象があって。でもそこから、子供達にとってはアニメ文化もありますし、あとは食文化が凄く良くて、日本は尊敬に値する国だとフランス人は思っているんです。
――食文化はフランスも凄く良いですよね。
そこは日本とフランスは似ているかもしれませんね。フランスに来た事はありますか?
――私はまだないんです。とても行きたい国なのですが、おすすめの場所はありますか?
良い天気で綺麗な風景が見たいのでしたら南仏ですね。是非いらして下さい。
――ちなみに、クレモンティーヌさんが日本に来て必ず行く場所はありますか?
子供が小さい時はキティランドに行っておもちゃを買っていましたね。今は大きくなったのでアップルストアに行ったりしますね。日本の方が安いんですよ。今日は浴衣を買いに行きます。今、浴衣が流行っていましてお風呂上がりに着るんです。
――バスローブとして浴衣を着るんですね?
部屋着としても凄く優秀なんです。
――日本人はお祭りの時や旅館などでは着ますけど、あまり普段は着たりしないんですよね。
そういう意味では緑茶もそうですよね。たぶんフランス人の方がよく飲んでいますよ(笑)。
――確かに僕らはコーヒーを飲む機会の方が多かったりしますね。
日本人にとってフランスパンが特別なものであったりするのと同じかもしれないですね。パンをあげたりする習慣があるのも日本人くらいです。「おいしいパン屋があったよ」と言ってパンを買って持っていったりするらしいじゃないですか? 西洋の人はしないですね。ごはんと一緒ですから。
――日本人にとっての「お米」にあたる訳ですね。
そうそう(笑)。
本来の価値観に戻ってきているの
――今作では最新曲の「etoile et toi (エトワール・エ・トワ)」も収録されています。
これは素晴らしい曲で、メロディも良いし何よりアレンジが凄いんです。久しぶりに“完成したダイナミックな楽曲”で、最後のエンディングの曲として演出されていて歌い甲斐がありました。
――音から情景が見える楽曲ですね。
本当に綺麗な曲なんです。どこに行っても通用するインターナショナルな楽曲です。
――アニメ『傷物語』のエンディングテーマ曲になっていますが、アニメ作品は観られましたか?
観ましたが、内容がかなり難しい作品でしたね! 哲学的でした。
――楽曲「etoile et toi」は、この『傷物語』と世界観が合うとの声が上がっているんです。
日本人のmeg rock(メグ・ロック)さんが歌詞を書いているんですけど、すごく良く書けているんです!フランス人かと思うくらいなんですよ。これにはびっくりしました。
――どういった内容の事を歌っているのでしょうか?
「星と、あなたと、私達はいつも一緒だから」みたいな“時空を超えた愛”という感じの内容なんです。アニメの方もそういった感じのある内容なんです。またこのチームとは一緒に制作してみたいですね。
――クレモンティーヌさんの音楽との関わり方は、今後どのようになっていくと思いますか。
音楽に限らず人生もそうなんですけど、明日どうなるか分からないと思うんです。なので、人との出会いを大切にしていきたいですね。CDは無くなるかもしれないですけど、音楽は無くならないから、一瞬一瞬を大切にしたいです。
――現在CDよりもダウンロードが主流になってきている傾向も見られますが、そういった音楽メディアの移り変わりについてはどう思われますか?
今はまたカセットやレコードが流行っているじゃないですか? だからいつどこにいくか分からないから、形が変わってもミュージック・マーケットというのはあり続けると思います。
――世界的に見て、形ある音楽メディアの流通はどういった状況でしょうか?
自分の子供達を見ていると「買わない」というところはありますね。それは音楽業界全体にとっては大きな問題だと思います。40代以降の方々は音楽は形あるものが欲しいと思っているけど、子供達はスマートフォンなどで聴くものと思っていますからね。
――形あるものから情報に変わっていってますよね。
今の40代の人達がいなくなった時に、音楽マーケットがどうなっているのか、というのは危うい事かもしれませんね。高い年齢層ほど形ある音楽媒体を購入しますから。
――レコードは音も良いんですけどね。
物としてもLPは良いですよね。
――そういう意味では悲観する事は無いのでしょうか。
ライブで生で観てもらって、気に入ってらえたら買ってくれると。以前はCDやレコードで聴いて予習をしてからライブに行ってましたが、それが昔と逆になったんですよね。レコード会社自体の景気が良くないから、フランスでは今の若者達はなかなかデビューができないんです。だからライブハウスが凄い勢いで増えて、皆ライブハウスで活動しているんです。
――原点に戻ってきていますね。レコードは生で聴けない人の為の物でもありましたしね。
本来の価値観の物に戻ってきているのかもしれませんね。
(取材=村上順一)
※本文中にある曲名「etoile et toi」のうち「etoile」の最初の「e」はシーニ・オルトグラフィーク(アクサンテギュ)が付く。
作品情報
『ALL TIME BEST』
発売日:2017年3月22日 |