違う曲を聴いているかのよう、ゴスペラーズ 偶然一致した世界観
INTERVIEW

違う曲を聴いているかのよう、ゴスペラーズ 偶然一致した世界観


記者:桂 伸也

撮影:

掲載:17年03月31日

読了時間:約11分

海外ドラマ『タイムレス』の日本語版エンディング曲を歌うゴスペラーズ

 5人組ボーカルグループのゴスペラーズの楽曲「Let it shine」が、海外ドラマ専門チャンネル・AXNで4月3日(月曜日、午前11時)から放送される海外ドラマ『タイムレス』の日本語版エンディング曲に決まった。

 『タイムレス』は、アメリカ政府が秘密裏に開発したタイムマシンを巡り、それを奪い過去に戻って歴史を変えようとする謎の男と、それを阻止しようとする歴史学教授、タイムマシン技術者、軍人たちの対立を、タイムトラベルを通して描いた歴史体感サスペンス。このドラマのエンディングで流れる「Let it shine」は、とある男女が過去に抱いた恋愛感情を、哀愁感たっぷりに描いたバラードナンバーで、3月22日にリリースされたゴスペラーズのニューアルバム『Soul Renaissance』に収録される。

 楽曲の作詩・作曲はもともとアルバム制作を前提におこなわれており、ドラマの要素は事前に全く聞かされずに作った楽曲であったという。しかし、それにもかかわらず楽曲の世界観は、現在と過去が交錯するドラマのイメージに程よく溶け合い、ストーリーから感じられるイマジネーション、雰囲気をさらにスケール豊かなものにしている。

 今回はゴスペラーズのメンバーそれぞれに、この楽曲制作時やタイアップの経緯、エピソードとともに、ドラマのタイムトラベルというコンセプトに合わせ、メンバーそれぞれの思い入れのある自身のエピソードなどを語ってもらった。

曲を作っていたころの過去と、このドラマと出会う未来が、思わぬ形でつながるような思いをしました

ワンシーン(C) 2016 Sony Pictures Television Inc. and Universal Television LLC. All Rights Reserved.

――楽曲「Let it shine」が海外ドラマ『タイムレス』の日本語版エンディング曲に起用されての感想をお願いします。

安岡 優 この曲はもともと「もしあの時、自分が別の行動をしていたら、僕ら二人はどうなっていただろう」というイメージのラブソングでしたが、タイムトラベルをテーマにしたこのドラマに、まさにピッタリだと思いました。ドラマを見た後にもう一度自分たちの曲を聴いたら、より僕らの歌の情景も広がっていくような、そんな感じもしました。

――「Let it shine」の歌詩は、もともとアルバムの曲であることを前提として作られた曲を日本語版エンディング曲として生かされたということですが、歌詩の内容として「もう、戻れない」とか、本当にドラマにピッタリな感じですよね。何か歌詩の部分で、元の曲から変えられたところもあるのでしょうか?

安岡 優 いや、それがないんです。あのドラマを見て書いたかのような感じになっているんですけど、本当に偶然。「あの日あの時、世界は形を変えた」なんてフレーズが、本当にドンピシャでハマっていて、まさにドラマみたいに僕がタイムマシンに乗って、先にこのドラマを見ていたような“デキ”で(笑)。自分でも怖いなと…。

北山陽一 この前、僕らの歌に、映像を合わせたプロモーション映像を見させていただいたんですけど、知っている曲なのに違う曲を聴いているような気もして、鳥肌が立ちましたね。

安岡 優 僕らにとっても、曲を作っていたころの過去と、このドラマと出会う未来が思わぬ形でつながるような思いをしました。

――この曲を初めて歌われた時の感じは?

安岡 優 この曲は堀向彦輝くんという、今まで何曲かアレンジでお世話になっているクリエイターが作ってくれた曲なんです。僕らより若い世代なんですけど、本当にボーカルグループのための曲というか、いろんなフレーズを複数人のいろんな歌い方で歌い継がれる格好の構成になっているので、歌い甲斐のある曲だなと思いました。

 前の人の歌を聴いて、次の歌い方の世界を作っていく、そうやってつなげていく曲です。ゴスペラーズのレコーディングは基本的に一人ずつ録っていきますが、今回の曲はそうした“フォーム“になっているので、レコーディング当日も、前に歌うメンバーの様子を見て、聴いて「では自分としてはこうしよう」とか、そういうものを決めていった感じです。

村上てつや この曲には、もともと持っている旋律感にちょっと少し冷えた感じというか、冷えた情熱みたいなもの、クールだけど、内に秘めた感というものがあって、緊迫感が感じられる曲なんです。温かく包み込むような曲じゃないところに、すごくこの曲のかっこよさがある。だからその世界を壊さないことを意識しました。

北山陽一 最初に堀向くんが歌っているデモテープを聴いた時には、その時点でメチャメチャかっこよかったんです。もう「堀向くんが歌えばいいじゃん!」と思っちゃうくらい(笑)。本当にみんなでかっこいいと言っていたんですが、それを僕らがどうやってゴスペラーズ色に染めていけるのか、チャレンジできることにもワクワクしました。楽しかったですね。

――一人ひとり歌い継ぐ中で、次の人にはプレッシャーみたいなものも?(笑)

北山陽一 (笑)。まあプレッシャーというほどの変なものはないですけど(笑)、実際にブースに入って、前の人の歌を聴いて「あっ、なるほど、これだけ歌えているところで次は、俺はどうやって入ろうかな?」という感じの中にある緊張感は常にありました。

 どちらかというとキャッチボールみたいな感じというか。必ずしも受け取りやすい球を放っているのがいいわけではないので、たまに楽曲の特性上、剛速球を投げ込んでくる場合もあるわけで「これ、どうやって入ったらいいかな」みたいに迷いが出てくるような(笑)。でもその意味では、この曲も歌うことは楽しかったですね。リードチェンジも多いし。

安岡 優 そう、僕らの曲の中でもリードチェンジが多い曲なんですよね。

北山陽一 もちろんバトンが渡っていくことで、一人で歌うよりも簡単な部分というのもあるけど、リードが変わるだけでドラマチックになるというところもあるし、楽しさだけじゃなくて、そういう刺激の掛け合いみたいなのはあります。

村上てつや この曲は例えば、カラオケで皆さんが歌おうとすると結構難しい曲だと思うんですよね。まず音楽的にはメロディのリズムが難しいし。

酒井雄二 それで「また、おまらえの曲、歌いにくいんだよ!」と、地元の同級生に言われるんですよ(笑)。でもこの入り乱れる感じが、一人で最初から最後まで歌うのと違う曲の良さであり、こういうドラマに合う楽曲だと思うんです。

安岡 優 この曲も歌っている人が変わる時に、場面のシーンが変わるんですが、今の自分の話やちょっと思い出に浸っている時間とか、あるいは、違う未来を想像している時間だったり、リードボーカルがチェンジした時に歌詩の持つ背景、歌の持つ後ろの背景の形式みたいなものがチェンジしていくのを楽しんでもらうと、まさにこのドラマの世界観と一致してくるのではと思いますね。

もし昔に戻れるなら、直したいところも。ただ「あの選択は間違いだった」はなかったから、今でも歌っている

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――今回の例は、ドラマとのコラボの際には、もう曲ができていたという状態ですが、例えば次にコラボの機会があって、ドラマが出来上がった後に音楽を担当することにとなったら、どんなドラマをやってみたいと思いますか? 例えばゴスペラーズのバラードからはあまり想像できないですけど、アクションとか…。

黒沢 薫 それ、やってみたいですね! 我々はわりとアップテンポな曲もあるんですけど、思ったほど世間的に認知されていないですから。ファンの人は知っているけど、一般的にはバラード、アカペラのイメージが強いので、時にはそんなドラマのイメージに合うアップテンポで、元気のある曲もやってみたいです。

安岡 優 確かに、やってみたいですね。それと刑事モノって、かっこいいものがいっぱいあるでしょ? 僕らの若いころは、結構、刑事モノが流行した世代だったので、刑事モノ、探偵モノとかね。昔のドラマの主題歌ってかっこいいものだらけだったし。ハードボイルド、というか意外に僕らの曲にもそういうものはあるので、そういう作品を書いてみたいという気持ちはあります。

北山陽一 せっかく、なんかそういうストーリーの力を借りて別の世界に行けるんだとすると、僕らもやっぱり僕らの持っているイメージじゃないところに行って「えっ!」とみんなが驚くようなことをしてみたい、という思いはあります。

酒井雄二 音の衣装を着るのがゴスペラーズのやり方でして。5人分の声に今っぽいバックトラックが付いていることもあれば、古いものをあえて着ることもある。これは『タイムレス』っぽいですよね(笑)。僕は和モノがやりたい。時代はどこでもいいんですけど、昔の日本の音楽って、ハーモニーが無いじゃないですか。日本の昔の伝統芸能にはハーモニーがないですから。だから逆にそういうところにも切り込んでいったら面白いんじゃないかと思っています。

――すごく面白そうですね。機会があったら是非聴いてみたいです。ちなみにタイムマシンがあって過去に行けるとしたら、この20年以上の活動の中で、ここを直したいという歴史とか、そういうところは?

安岡 優 ライブでの失敗かな(笑)。あと、僕らが一番恥ずかしかったのは、ファスナーを閉めずにステージに出ちゃったことがね(笑)。そういうのは直せるなら…。思い出しただけで、口の中が酸っぱくなるよね(笑)

村上てつや (笑)。ただ「あの選択は間違いだった」ということだけはないから、こうして20年以上もメジャーで歌っているわけだし。

――ではゴスペラーズ結成以前というとどうでしょうか?

村上てつや 例えば、僕は高校でサッカーをやっていたんですけど、大学でやっていたらどうなっていたかな?って。確か大学に入るか入らないかくらいのころにJリーグが発足して、話題になったころで。だから大学入学が決まった時にはスポーツに興味があったし、選手というだけでなく、ひょっとして大学でもサッカーをやっていたら、なんてね。まあ例えば選手でなくても、ほかにもいろいろんな道があるわけあるわけじゃないですか。

黒沢 薫 それは…サッカーやらなくてよかった。危ないところでした、僕ら(笑)。

村上てつや そうだね。俺たち、『タイムレス』の主題歌を歌えないところだったよ(笑)。

安岡 優 僕は子供のころから、引っ越しの多い家だったんですけど、幼稚園で2回、小学校で2回、中学校で2回も。でも、もし引っ越しも転校もしなくて、地元の福岡で生まれてそのまま育っていたら、東京の大学でこうやって仲間と会うこともなかったし、歌手、少なくともゴスペラーズにはなってなかっただろうなって。他にも途中、名古屋にも行ったけど、そこだったらどうだったろう? とか、本当にどの引っ越しが一つ欠けても、今とは違う人生になったと思いますね…。

村上てつや 博多のままだったら、もっと酒飲みになっていたね(笑)。

安岡 優 うん、あと音楽性も違っていて、ロックに走っていたね(笑)。

北山陽一 僕は今の仕事ということでも関係するんですけど、昔ピアノを習っていたんです。その時に一度、女の方なんですが、すごくいい先生と巡り合って「ピアノをまじめにやろう」と思ったことがあったんですけど、その先生が悪い男にだまされて駆け落ちしちゃって。

――すごいエピソードですね…。

北山陽一 それで、その時の自分のところに行って、「挫けるな!」「お前はまだピアノを続けられるはずだ」と言いたい(笑)。いい先生は、もっといるかもしれないんだからって。その時、僕は意気消沈して、ピアノをやめちゃったんで…。でもやっていれば今、もっとピアノができてゴスペラーズでも楽ができたかもしれないですしね。

――どれも実現してゴスペラーズができなくなった未来を考えると、ちょっとゾッとしますね(笑)。では最後に、このドラマを楽しみにしていただいている方に、ゴスペラーズとしてのドラマのアピールを、メッセージとしていただければと思います。

村上てつや このドラマでは、歴史上のいろんな自分の知らなかったエピソードの中で「自分だったらどうしよう?」みたいなことを考えることで、自分のこと自体も分かることができるドラマだと思う。皆さんもそういう風に見ていただければ、すごく楽しめるのではないかと思います。

黒沢 薫 見た後に、実際の歴史はどうだったか? みたいなことを今は手軽に調べられるので、そんな風に調べながら見ると面白いかな、と思います。そういう楽しみの一方で、実はラブストーリー的なところもすごくあるし、いろんな楽しみ方がありますよ!

安岡 優 この作品は、ドラマを見ている時間だけではなく、次の回を待つ1週間に「あそこはどんな秘密があるんだろう?」「あのときどうしたらいいんだろう」と考える時間すら魅力になると思います。この「Let it shine」が、皆さんがそんな風に考えるモードに入る手助けができる曲になればいいなと思います。

酒井雄二 こういうストーリーは延長していくのがすごく難しい気もしますが、見ているとシーズン2を期待したくもなりました。だからきれいにまとめてくれという気持ちと、終わらないでくれという気持ちが出てきちゃった、そういう作品。皆さんもシーズン2を期待する一票を、是非入れていただければと思います(笑)。

北山陽一 製作総指揮がドラマ『スーパーナチュラル』を手掛けたエリック・クリプキなんだけど、この人は伏線を結構長い時間放置しながら、ちゃんとうまいところに着地することができるという感じの人なんです。そんな雰囲気を見せる仕掛けやら工夫が、この『タイムレス』には最初からすごい勢いで投下されている印象がありますね。

 結構海外ドラマを見ている身としては、ゼロから新しいところばかりというわけじゃないけど、クリプキの良いところだけで構成されている感じがあって、まだ4話くらいまでしか見ていないんですけど、これからの展開もすごく楽しみ。皆さんにも是非見てもらいたいですね。

(取材=桂 伸也)

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