シンガーソングライターのmajikoが2月15日発売のミニアルバム『CLOUD 7』でメジャーデビューした。今作は、芥川龍之介の小説「蜘蛛の糸」のような世界観を群像劇として表現。極楽から地獄に蜘蛛の糸を垂らすように「prelude」から始まり紆余曲折を経て「Lucifer」へと向かう。自身が手掛けた6枚のアナザージャケットイラストも曲の物語と重なる。今回のインタビューの前編では、“多彩なミュージシャン”majikoが形成されていく変遷を追った。後編では、今作の収録曲に寄せる思いを紹介する。
過去の清算
――『CLOUD 7』の収録曲はこれまでの曲とはイメージが違いますね。
変わっている気がします。結構グッと大人になったかなと。
――曲調が幅広いというか。もともとその引き出しは自分にはあったんですか。「昨夜未明」はプログレっぽいし、「ノクチルカの夜」はジャズテイストですし。
「昨夜未明」の曲調は元々好きな感じではあります。私、システム・オブ・ア・ダウン(米バンド)が大好きなんですよ。
――それも専門学校に行って海外の曲と出会うようになって広がってきた?
昔から、色んな音楽を親が家でかけていたので、中学生の頃から名前はわからないけれど様々なジャンルの音楽を自然と耳にする環境にいた気がします。ソウル、ロック、民族音楽、ファンク、プログレ、ジャズ、ごちゃごちゃの中にいたんで。私がそれを聴いて「これ何?」という感じでしたね。今思うとなんて良い環境なんだって。
――楽曲から繊細さが出ている気がします。majikoさんは繊細な心の持ち主なのでしょう。
どうでしょう。でも凄く気を使っちゃいますね。「相手に今これを言っちゃったらこう思っちゃうんじゃないか?」とか、「今この人がこれを言ったのはこういう意味があるのでは?」とかを凄く考えちゃうので、凄く疲れちゃうんですけど。でも極力、誰もが傷つきたくないじゃないですか。無意識だって相手が傷ついたら「罪だ」とも思っていて。これって凄く疲れますよね。
――その繊細さは曲作りや歌い方にも表れているとも。
うーん。どうなんでしょう。まだ誰かを救えるような曲は書けてないんじゃないかな、と自分では思ってます。自分自身が癒されるような曲しか書けていないというか。それは過去の自分の清算とも言えますし。毎回、このアルバムで過去は清算しつくしたかなと思っても、どうしても私のことを離してくれないんですよね、まだ。
――過去がmajikoさんを離してくれない?
過去が離してくれなくて。何度もとらわれてちゃうんですよね。私は自分のことが好きじゃなくて。自分の世界の話だったら、自分だけのことなんで、誰かが傷付くとか気を使わなくていいというか。私、弱音とかをあんまり言いたくないんですけど、でもそういうのはどんどん溜まってくるじゃないですか。言えないからこそ、歌詞に書いているというか。ここの音楽だけが私の捌け口な気がしています。
ギャップ
――「ノクチルカの夜」は凄く面白くて、曲を書くきっかけになった出来事と曲の世界観があまりリンクしていませんよね。石につまずいて転んで半べそをかきながら信号待ちしている時に浮かんだ曲のわりにジャズテイストで、しかも冒頭に<私の生命線は とても短いのです♪>とくる。
凄いギャップですよね。良くそういうことは言われるんです。「こんな状況でこの曲をよく書こうと思ったね」と。私はネガティブなんで、転んだし、衣服は破れていないのに膝だけ血が出ているみたいな…血が出るとネガティブになるじゃないですか。痛いなんていうのは。中身が飛び出ちゃったコンビニの袋を持ちながら赤信号で止まってたんですよ。その時も悩んでるときで、立ち止まりたいというか。青信号だったら渡らなきゃ、歩きださなきゃいけないじゃないですか。「いっそこのまま赤信号ならいいのにな。そしたら動き出さなくてもいいし。」という思いがあって。実際転んで良かったなあと思いますね(笑)。
――転んだ恥ずかしさもあってその場から立ち去りたくて早く青になって欲しいというのが一般的な考えとも言えますが。
その時は人が周りにいなくて。しかも暗闇で。自分の中の感情がグルグルし始める時間帯というか。
――そのとき手のひらは見たんですか?
昔から、自分の生命線は短いなってずっと思っていました。本当に生命線が短いんです。子供の頃から「中途半端だから、もうなくてよくない?」と思って、こすって消そうとしてたんですよ。そのことを歌詞にしようと思って。なんでそのことを第一チョイスにしたのかは未だに分からないんですけど(笑)。そのときの感情とあの時の感情はちょっと似てるかもって自分の中で思ったんだろうなって。多分、生命線が消えてしまえって感覚と、私なんか消えてしまえって感覚は似てるんだと思います。だから歌詞に織り交ぜたような気がしますね。
――でも曲って永遠に残っていくものですよね。消えてしまえ、という思いと真逆のような気もしますが。
私が書く歌詞は大体そうですね、皮肉屋なんで。残るものに対して消えたいって言うのも、それはそれで皮肉っぽくていいなと思うし。
――ライブは映像作品にはなりますが、基本的には生もので残りませんよね。ライブはどうですか。
水物ですよね。それでしか見せられないパフォーマンスもあります。一回一回を大事にはしたいと思うんですけど、一回一回に全霊を捧ぐというか、死んでもいいと思えるほどの満足感に浸れるライブがしたいんですよね。将来的には。まだ全然できてないんですけど。それが夢でもあったりします。
影を持っている曲
――先ほど皮肉という話がありました。皮肉を込める行為のなかに「影」を感じます。
私が書く曲って暗いじゃないですか? 最近、色んなライブを見たり色んな人と交流したり、優しさに触れたりして、この真っ暗な所から見上げている光こそ、みんなが求めてるものなんじゃないかなって思ったんですよね。私は底抜けに明るい曲や幸せな曲はあんまり好きじゃなくて。どこか影を持っている曲が好きなんです。私の曲は「影しかなくてところどころに光はあるもの」という感じなんですけど。別に、光を見上げてる訳ではなくて。光は差しているけど下向いてる曲が多くて。徐々に見上げていきたいとは思いますね。
――深刻になりがちな歌詞の世界観を、プログレやハードロック、ジャズの曲調が中和させている感じがします。「shinigami」は曲のタイトルこそ不吉ですが、歌詞はそこまで深刻ではないというか。
そうなんですよ。「shinigami」というタイトルをつけたのもちょっとした狙いで、死神って負のイメージがありますよね。あえて払拭したいというか。私の中の死神というタイトルをつけたものの曲は柔らかめという。「結構暗いの期待したでしょ?」というのを思ってつけました。
アルバムは「蜘蛛の糸」という群像劇
――2曲目の「SILK」。作詞作曲はCozy(車谷浩司)さん。これは物語の「蜘蛛の糸」と重ねて?
そうです。<あなたを 連れ出す 私は 蜘蛛の糸 紡ぐ人♪>という歌詞が凄く好きで。タイトルも「蜘蛛の糸」から来ています。私、高校生の頃から車谷さんの曲は凄く聴いていて。まさかこうやって曲を書いてくださるとは夢にも思ってなかったです。この曲の最後のコーラスで車谷さんも歌ってくださっているんですけど、そこに自分も声を重ねてデュエットみたいにして。「うひょー」って自分の中で高まりましたね(笑)。
――これを2曲目にした意図は?
ミニアルバム自体を「CLOUD 7」という、いわゆる群像劇にしようと思っていて。そのときに「SILK」と「Lucifer」(直訳=堕天使)が決まっていたので「Lucifer」を最後として蜘蛛の糸を垂らすように、曲を降り下げていくというイメージから「SILK」を2曲目にしました。このアナザージャケット(購入特典)のイラスト通りですね。イラストを描くことによって改めて自分の中に落とし込んで考えたら、この順番かなと。「SILK」「Lucifer」「shinigami」(死神)とかありつつも「ノクチルカの夜」とか、私たちが住んでいる世界の中でこういう様々なことが同時に繰り広げられてるという、まさしく群像劇です。
――イラストも凄いですね。
ありがとうございます! めっちゃ頑張ったんですよ!(笑) イラストを描くことは、歌うぐらいに好きなんです。実は、このために色の付け方も勉強して。海の感じとか、ちょっと分かりづらいかもしれないけど、「昨夜未明」の後ろの森とか。一番大変だったのが「Lucifer」の地獄なんですけど、岩とか溶岩を表現するのは本当に頑張って描きました。
――いずれこういう世界観のライブをするのでしょうか。
やりたいなとは思っています。イラストをライブに絡ませられたら面白いですよね。付加価値ってないよりはあった方がいいし、ライブでもどんどんいろんな挑戦をしていきたいなって思いますね。
majikoの広さ
――ところで「昨夜未明」もそうですが、曲の所々に電子音などのワンポイントが入っていますよね。
合わなかったら外せばいいから、まずは色んなことを試すべきだと思っています。例えば、全部詰め込んで足し算しちゃったら引き算しかない。「なんかごちゃごちゃしている」と思った曲ってやっぱりなんか多いんですよね。あるいは何かが足りない。でも何が足りないんだ!? ギターも間に合っている、ベースもあれだけど、ピアノも入れるのもちょっと違う。そういう時は、じゃあ、エフェクトなり逆再生とかネタみたいなのを意図的に入れよう、とは思いますね。
――先ほども言いましたが今回はジャズやプログレの曲調はありますし、民族楽器のようなテイストもある。音数も増えている気はします。
とりあえず「入れてみた」というのが強いですね。音数は『Magic』(2ndアルバム)の方がバリバリ入っていて。「ノクチルカの夜」はメインとなるのはドラムとウッドベース、そして、ピアノ。あとからギターの素材を使ったみたいな感じです。いかにジャズって少人数で音数を増やすかなのかなとも思っていて。ジャズを本格的に学んでいる訳ではないので、ちょっと実験的ですけど。
民族調だったり、プログレ調だったりジャズだったり、アンビエントなり、エレクトロだったり。ミニアルバムを聴いてくださった方々からは、今回「攻めたね」と言われました(笑)。
――計算的によりもインスピレーション?
そうですね。インスピレーションで楽曲を制作して、今回は楽曲をイメージしたイラストも描かせてもらって(購入特典のアナザージャケット)。イラストも含めて一つの作品というか、「全部自分でやったぞ」という満足感はありますね。私、変な所で負けず嫌いなんですよ。全部デモから作ります、歌詞もアレンジも作ります、コーラスもハモリも全部作ります、みたいなことを完膚なきまでにしたいんです。まだまだなところはありますけど、そういう意識は常にあります。本当に負けず嫌いだから(笑)。数あるうちの一人になりたくないっていうのはありますね。
――最初のドラムも一生懸命やっていたというのは負けず嫌いからですよね。その性格はもともと?
もともとですね。子供の頃から負けず嫌いだし、最近その頃を知る叔母と話す機会があったんですけど「子供のころからプライドが高かったよ」と言われたんですよ(笑)。私自身もそう思っていますが、かなりプライドが高い。母もプライドが高かったんで、私もその血を継いでるのかな (笑)。でもそのプライドのおかげで、叩かれたり逆境に立たされてもなんとなく這い上ってこれたんだなとは思います。
――這い上れる原動力とは
音楽、歌じゃないですかね。応援してくれてる皆さんがいるから。私自身は、ずっと孤独、一人ぼっちな存在だと思っているんですよ。でも心配してくれる声があるんですよ。呑み行こうよ、明日ライブがあるから来なよ、あの曲めっちゃいいねとか。そういう友人やファンの皆さんの優しさに私は支えられてるんだって思って。めげていられないなって思いますね。
(取材=木村陽仁)
◆majiko 母親がボーカリスト・ボーカルトレーナーということもあり幼少の頃からROCK、SOUL、JAZZ、ときには民俗音楽も流れる音楽の絶えない環境で育つ。2010年6月に動画共有サイトに自身の歌を初投稿。2013年12月に人気ライブイベントETA(EXIT TUNES ACADEMY)に初出演を果たすと、その圧倒的な歌唱力で、観衆、共演者、関係者をも驚愕させる。2015年4月、1stアルバムとなる「Contrast」をリリース。2015年6月、自身初のワンマンライブを東京キネマ倶楽部で開催。チケットはソールドアウト。近年は海外のライブイベントにも多数出演。2017年2月、アーティスト名を「まじ娘」から「majiko」へと変更し、ポニーキャニオンよりメジャーデビューが決定。
作品情報
majiko「CLOUD 7」 2017年2月15日(水)発売 品番:PCCA-04473 価格:1,620円(税込) 収録曲 タイアップ情報 majiko「ノクチルカの夜」 majiko「CLOUD 7」販売店別先着購入者特典 各販売店にて先着購入特典として、majikoオリジナル特典をプレゼント。 majiko 描き下ろし「CLOUD 7」アナザージャケット6種 ○アニメイト/ゲーマーズ(オンラインショップ含む) 上記特典実施店以外(一部店舗を除く)の応援店には、majiko「CLOUD 7」告知ポスターをプレゼント。応援店詳細は後日オフィシャルHPで発表となる。 |