トミタ栞(22)が12月7日に通算2枚目となるフルアルバム『SPIN』をリリースした。シングル「バレンタイン・キッス」でコラボした、ひげ女装パフォーマーのLadybeard(レディビアード)や、「カラーFULLコンボ!」をプロデュースした石野卓球、さらにROCKETMAN(ふかわりょう)などジャンルを飛び超えたコラボレーションによって引き出されたトミタ栞の様々な魅力がギュッと凝縮した作品となっている。自身でも作詞・作曲をおこなう彼女に、制作の裏側や歌詞に込められた想い、これからのスタンスについて話を聞いた。
明るいものになって返ってくる
――デビューから3年が経ちましたが、ご自身にどういった変化を感じていますか?
もうそんなに経っちゃったんですね。色んな形のライブをやっていくうちに、曲作りの中心がライブを意識したものに変わっていっています。それが一番変わった事ですね。
――それまでは「音源は音源」という感じ?
そうですね。1曲ずつと考えていました。
――「ライブのあり方」がこの3年間で一番変化していったのですね。
すごく自然体になったと思います。“自由さ”が増えたと思います。
――ちなみにフェスなどたくさん出演されていると思いますが、アウェイでのライブでは燃える方ですか?
だいぶちっちゃくなっちゃいますね…。けっこう気を遣う性格なんです。何も考えなかったら1人で居たいタイプだと思うんです。緊張や不安に押しつぶされそうになっちゃうので、いっぱい喋ったりしますね。
――トミタさんはポジティブで元気なイメージですが、そういった部分の裏返しでもあるのでしょうか。
そうかもしれないです。内に篭った感じに見られたくないという意地もあります。「こうなりたい自分」というのがあって、明るくて人の中心に居られるような存在になりたいんです。そういう理想はあるんですけど、実際には違う部分もあるんです。曲を作る時は1人で音の無い環境で作るんです。楽器を使わずにアカペラで作ります。そうすると不思議と暗い曲になっていってしまうんです。でも、オケを付けてもらうためにアレンジャーさんに渡すと、明るいものになって返ってくるんです。
――不思議ですね。
そうなんです。そこで「この曲ぜんぜん暗い曲じゃなかった!」と自信が持てる瞬間でもあるんです。メロディと歌詞だけだと決して明るくないかなとも思うんですけど。
――昔から聴いていた音楽が反映されているのでしょうか?
それは多分無いと思うんですけどね…。聴いてきた音楽に影響される部分はそんなにないと思います。ちなみにちっちゃい頃から聴いてきたのはサザンオールスターズですね。
――確かにサザンとは違いますね。今回の2ndアルバムではトミタ栞さんのキャラ、ジャンルが凝縮された様なイメージを持ちました。
嬉しいです! でもちょっと不安な部分もあって、色んな声、色んな歌を歌ったんですけど、それは全部私なんですけど「一つにまとまらない」とおっしゃる方もいるのではないかと思ったんです。だから、統一感があるかどうかというところは聞きたかったところでした。
――逆に「ジャンルレス」みたいなところがトミタさんの武器なのかなと思いました。曲順もライブのセットリストのような流れのあるアルバムとも感じました。
それは嬉しいです! そこはめちゃくちゃこだわりました!
――オープニングを飾る「恋な歌」の着想は? 副音声的な語りが面白いと思いました。
セリフと歌が入っている構成の曲に仕上がったんですけど、初めてライブで披露した時はそのセリフの部分は無くて歌だけだったんです。それだとちょっと普通過ぎるなということで、セリフというか副音声を入れて“変な歌”にしたいなと思ったんです。
――新しいですよね。
やった事なかったんです。「なんかつまんないよね、どうしよう?」という話をしていて、間奏が運動会などでよくかかる「天国と地獄」風のリズミカルでポップな感じなんですけど、ちょっと長いかなと思っていたんです。そこに何か入れたいなと思って、1カ所セリフを入れたら「意外と全部欲しい!」となって全部入れちゃったんです(笑)。それでこの曲を1曲目にガツンと持ってきました。
――オープニングにピッタリですよね。この曲も先ほど仰っていたように、最初は暗い歌だったんですか?
これも歌だけだったら寂しい感じしますよ。これもビックリしたアレンジの1つですね。私の作詞・作曲の曲をアカペラで想像してもらうと最初の原型が見えるから、それは面白いんじゃないかと思います。
――楽曲の本質が見えてきそうですね。作曲は苦労しましたか?
私は「作るぞ!」という風になると出来ないタイプなんです。帰り道に自転車を乗りながらの方がはかどる感じです。漕いでいるリズムが良いのかもしれません。夜に帰る事が多いので「夜」という時間帯もキーなのかもしれないですね。ちょっと寂しい感じが。昼帯はなぜかアイディアが出てこないんですよね…。
――不思議ですね。ちなみに歌詞とメロディは別々に作りますか?
同時です。後から付けようとすると大変なんです。
――楽曲を提供された時は後から付ける流れですよね?
そうなんです。それなのでけっこう苦戦するんです。「こんなニュアンスの言葉を入れたい」と思っても言葉がすぐ出てこないんです。辞書とか引きながら、ちょっとした勉強になっちゃうんです。
距離を調べていたら「300」という数字が出てきた
――「300」は作曲がnaoさんで、それにトミタさんが歌詞を付けているんですね。
これは一番苦労したなあ…。
――ちなみにタイトル「300」の意味は?
最後までタイトルに悩んでいたんです。締め切りギリギリ数時間前まで「naoさん曲(仮)」みたいな感じでした。距離を調べていたらちょうど「300」という数字が出てきたんです。
――距離?
とある“距離”の数字なんです。
――何の距離の数字なのかは内緒?
当たったら面白いんじゃないかなと思いまして(笑)。「歌詞で出てくる2カ所」みたいな所ですね。
――何でしょう、交差点ですかね…。
TVでよく映る交差点…。
――渋谷の?
どうですかね? ご想像にお任せします(笑)。「300」は「距離」という事で!
――では「300」はどういった思いで歌詞を書かれましたか?
最初は「恋愛」について書いた事が1つ、次は「家族の事」について書いた事が1つ、でも違うなと思っていって、最後は私が「上京した頃の気持ち」を書くのが一番しっくりきたんです。上京したのが18歳の頃だから4、5年前の自分の気持ちを今客観的に思って書いたのがこの歌詞です。
――ご自分のターニングポイントを書いたといった感じでしょうか?
そうです。たぶんその当時だったらリアル過ぎて書けなかった事だと思うんです。今だから書ける事なんです。
――数年経って歌った時はまた印象が違うでしょうし、年々変化していく曲になりそうですね。
もしかしたら歌詞が変わるかもしれないですね。
――この歌詞には色んな思い出がありそうですね。歌う時はどういった事を意識していますか?
最後の言葉がキーワードになっていて、最終的には自信を持とうという、今の自分自身に言っているように歌っています。レコーディングの時に歌詞を書き直したんですけど、同じ事を言っている部分を避けるために色々と苦労しましたね。
――今作は色んな方とコラボレーションしていますが、その中で自身に影響があったことはありますか?
ちなみに、どの方が興味深いですか?
――私はROCKETMANさん(ふかわりょう)の「あいたくちがふさがらない」が気になりました。
私もそうなんです。ふかわさんはTVのイメージが強くて、“サブカルの音楽のROCKETMAN”というのはまだそんなに知らなかったんです。そのふかわさんがTVとは全然違う顔を持っている事にびっくりしちゃいまして。よりアーティスト感がありましたね。
――レコーディングではどういったアドバイスがありましたか?
性格はTVで観るふかわさんそのままで、「栞ちゃんがやりたいようにまず歌って」という、自由なところからでした。一応意見を聞くと答えてくれるくらいで。全部「イイね!」と言ってくれるんですよ(笑)。それで毎回アップルパイを買って来てくれるんです。それを途中で食べたりとか。
――だいぶリラックスムードの中で進行していったのですね。楽曲提供して頂いた経緯は?
ふかわさんとは、以前アルバムに参加させて頂いたのがきっかけで「もう1曲出来たから使って」という事で頂いたんです。すぐ書けたらしいんです。私は『だめラジオ』という番組をやっていて、以前そこにふかわさんが来てくれたんです。その時もそうだし、大塚愛さんに頂いた「だめだめだ」という曲があって、その2つに共通する「だめ」という言葉がキーワードっぽくて、それを入れたかったという事をふかわさんは仰っていました。
――タイトルが全部ひらがなというのも。
そこも引っかかりますよね。曲作りに関してふかわさんは“アーティスト・ROCKETMAN”という感じがするんですよ。だから凄く真剣だし、「素敵だな」「感性が違うな」と思っています。
――影響も受けた部分もある?
歌い方が今までにない感じで、力を抜いて息を多めにして、マイクにかなり接近して歌ったんです。
――マイクから離れて録ると、空間も含めて録れると思うんですけど、距離が近いと声がダイレクトになるからでしょうか。
そうかもしれません。ライブでも近い距離で歌うんですけど、レコーディングでもそれと同じくらいの距離で録りました。あと、ふかわさんから上がってくる仮歌がミクちゃん(編注=ボーカロイド・初音ミク)みたいなんですよ。たぶん機械音なんですけど。なのですごくイメージが掴みやすいんです。人が歌ったものだとどうしても癖が入っているんですけど、ボーカロイドだと真っすぐ歌っているので。
――仮歌、デモとしてはその方が良いんですね。
引っ張られなくてすごく良いんです。あれはとてもありがたいんです。
もともと付いていたもので一区切りをつける
――コレサワさんが制作されたアルバムタイトルにもなっている「スピン」はいかがですか?
始めて聴いた時はこの曲を表題にするという事は決まっていなかったんです。作曲のコレサワさんから「何か直したい所があったら言って下さい」と言われてデモが送られてきたんですけど、何も直したい所は無くて、むしろどこも変えないで欲しいと思ったんです。試しに、「サビをもっとサビっぽく」というお願いを出してみたんですけど、やっぱり最初の感じには敵わなくて…。
――<もしもーし運命の人よ まだここには来ないで 君だけ見つめられるほど あたし暇じゃないし♪>と歌詞が出だしから強烈で、「何故こうなったのか」という事が紐解かれていくという流れ、これはコレサワさんの世界観でしょうか?
そうですね。私の好きなところがとても出ているんです。
――なぜ「スピン」というタイトルに?
歌入れが終わってMixの時にコレサワさんに会った時に、「タイトルが『スピン』になりました」と言われたんです。理由を聞いたら、本の紐のしおりの事を「スピン」というらしいんです。それで私の名前が「栞」というところから、そういったタイトルにしたそうなんです。栞なんだけど、別の所から持ってくる紙の栞ではなくて、もともと付いていたもので一区切りをつけるという意味があるんです。
――深いですね。
歌詞のやりとりの中で、コレサワさんに「今やりたい事を全部言って」と言われたんです。それで私は「猫を飼いたい」「仕事がもっと欲しい」「ハワイ行きたい」「稼ぎたい」「もっと色んな人に知って欲しい」と、めちゃくちゃいっぱい挙げたんです。その中からコレサワさんが選んで歌詞を書いたんです。
――曲の中にけっこう入っていますね。
そうなんです! だからこの曲が上がってきた時に「私の歌だ!」という実感があったんです。感動しましたね。
――こういった世界観を今後は出して行こうと?
もう、こういうのは凄く好きなんです!けど、難しいんですよね。“切なポップ”という感じ。
――この曲をアルバムタイトルにするのは必然でしたね。
コレサワさんに何故「スピン」というタイトルかという理由を聞いて、「コレしかないじゃん!」という感じでした。私がやりたい事をコレサワさんに投げまくって、それを曲にまとめてくれて、更にそこからまだまだ私はやりたい事があるという事を受け取ったんでしょうね。「22歳のトミタ栞という子は、すごくやりたい事があるんだ」という事を思ってもらえて「スピン」というタイトルを付けてくれたんだと思うんです。それがすごく嬉しくて「そのもの」だと思ったので、タイトルにしたんです。
――この先の路線のような事も考えたりしますか?
考えてはいますが、自分のブームが変わって行くのが激しいんです。「今やりたい事」もそうだし「好きな事」もそう。でもその中で「歌いたい」という事が軸にあるので、色んな事にチャレンジしたいという精神を歌に反映させていきたいと思っているんです。良い意味で“枠にはまらない”という感じが良いです。「決め込まない事」が私の性格上、長続きする秘訣でもあるんです。「こうしなきゃいけない」と決められてしまうと嫌いになっちゃったりする可能性があるんです。
だから、「トミタ栞はこういう歌」と自分で決め付けないで、人がそう捉えた事がそうだと思うんです。その人が「アイドルだ」と思ったら、その人からしたらトミタ栞はアイドルだし、「アーティストだ」と思ったらトミタ栞はアーティストだと思うんです。そういうのは自分で決めなくてもいいかなって思っているんです。“自分の概念”を決めつけないで、今はやっていきたいなと思っています。
――今作はまさにそういうアルバムに仕上がっていますよね。あとボーナストラックの「あぶりカルビのうた2016」も面白いですね。
最初はボーナストラックを作るという案もなくて、「神田莉緒香ちゃんとやる曲はボーナストラックに入れたい」と、ただそれだけでしたね。だったらボーナスっぽく、ゆるい感じというかキッチリ1曲にしなくてもいい、という感じで遊びました。
――「あぶりカルビのうた2016」は昔からあった曲なのでしょうか?
私が出ているラジオ番組に始めて莉緒香ちゃんが来てくれた時なので、1年半くらい前ですかね。「あぶりカルビゲーム」というのが今、女子高生の間で流行っているらしいんです。
――それは知らなかったです。
私も知らなかったので、ラジオのスタッフさんが「こんなゲームがあるからやってみよう」と案を出してくれたんです。声だけで遊べるゲームなので、ゲストさんとの距離を縮めるのに使っていたんです。莉緒香ちゃんは1カ月間のゲストだったんですけど、その間「あぶりカルビゲーム」をやっていたんです。それで最後に「これで曲を作ってみようよ」という話になって。それでノリでお願いしたら莉緒香ちゃんは次の週には作ってきてくれて、それがすごく私は好きだったんです。この歌を歌えば「あぶりカルビ」と言えるようになる魔法の歌なんです。それがきっかけですね。
――確かに「あぶりカルビ」は言いづらいですね。
「あぶりカブリ」になっちゃいますね(笑)。本当に自由に出来た曲ですね。莉緒香ちゃんと会ったら絶対この歌を歌うとか、そういうのが今後出来ていったらなと思っているんです。
――この曲は談笑しながら一発録りのような雰囲気ですが、キッチリとした形でレコーディングする予定は?
確かにそうですね! 生々しい感じが。でもこの空気感も含めてこれがキッチリとした形なんです。最後の終わり方も「お疲れさまでした〜!」という所からも録音を切っていなかったみたいで、ドアを閉める所までその場の音が入っていますね。
――それでは最後にリスナーの皆様にメッセージをお願いします。
とにかく“ライブに行きたくなる一枚”にしたので、ライブに来て下さい!始めて観るアーティストのライブって、曲を知らなければいけないというイメージがあると思うんですけど、今回、次のツアーが1月、2月に控えていて、それは今作『SPIN』をメインにワンマンをやるので、この1枚だけを聴いておけば曲が分かるので、是非遊びに来て欲しいです!
(取材/撮影・村上順一)
作品情報
トミタ栞2ndフルアルバム「SPIN」 発売日:12月7日(水) 発売元:EPICレコードジャパン 初回生産限定盤 [ESCL4714-5] CD+DVD 3518円(+税) 通常盤 [ESCL4716] CDのみ 2778円(+税) ▽CD収録内容(初回生産限定盤・通常盤共通) ▽DVD収録内容 |
ライブ情報
▽トミタ栞 SPIN TOUR~はじめてのTOURは横・東・名~ 2017年1月29(日) 横浜BayHall (神奈川県) OPEN 17:00 / START 18:00 2017年2月1日(水) 渋谷CLUB QUATTRO (東京都) OPEN 18:00 / START 19:00 2017年2月10日(金) 名古屋・池下CLUB UPSET (愛知県) OPEN 18:30 / START 19:00 |