なぜ「RockCorps」を立ち上げたのか、創設者スティーブン氏に聞く
INTERVIEW

なぜ「RockCorps」を立ち上げたのか、創設者スティーブン氏に聞く


記者:木村武雄

撮影:

掲載:16年08月17日

読了時間:約13分

今や世界的に展開を広げている「RockCorps」だが、創設当時は困難なことも。カニエも救世主の一人?

今や世界的に展開を広げている「RockCorps」だが、創設当時は困難なことも。カニエも救世主の一人?

 4時間のボランティアをおこなうと『セレブレーション』という音楽イベントを観覧、参加する事が出来る『RockCorps』。海外では2005年に米NYで初開催され、レディー・ガガ、リアーナ、マルーン5らが参加してきた。日本では、2014年にアジアで初めておこなわれ、以降は毎年実施。3回目の今年は、高橋みなみが公式アンバサダーに就任。国内勢はASIAN KUNG-FU GENERATION、HY、Aqua Timez。海外勢はカーリー・レイ・ジェプセンの出演が決まっている。セレブレーション出演アーティストもボランティアに参加するなど、一体となってイベントを盛り上げる。今回は、共同創設者兼CEOのスティーブン・グリーン氏にインタビュー。このイベントに寄せる思いや音楽の力について話を聞いた。

音楽がゴール

スティーブン・グリーン氏

スティーブン・グリーン氏

――RockCorpsを立ち上げたきっかけは?

 まず「音楽」というものが、人々のインスピレーションになり、音楽のために自分達の時間や労力を使うためのものを創りたかったという思いがあったんです。音楽をダウンロードしたり、ライブに行くためにお金を払ったりする事で人々と音楽は繋がっていると思うのですが、そうではなく、「自分達の時間を投資する」ために、「音楽」の力で人々の心をインスパイアしたかったという事がそもそもの始まりです。

――お金を払って音楽を聴くのではなく、自分の労力を対価にして?

 音楽を使って何か違う形で人々をインスピレーションしたかったんです。

――音楽配信やストリーミングなど、昨今では音楽の消費形態が変化してきていることも影響はありますか?

 ボブ・ゲルドフが1985年に始めた「ライヴエイド(LIVE AID)」といいう取り組みがあったんです。それは、もともとはNY、東京、ロンドンで、アフリカの基金のためにおこなわれたものなんですね。そして、2005年にそれが更に発展して、NY、ロンドン、パリ、東京、リオで展開されました。「そこで集まったお金をチャリティーに使う」という仕組みで、「音楽の力で人々を集めて何か世の中にとって良い事をやろう」という、すごくいいコンセプトだと思いました。

 そのコンセプトがすごく気に入っていて取り入れたんだけど、私はその仕組みを逆転させたんです。チャリティーコンサートの「音楽によって人々が集まって、それによって得たお金でアクションを起こす」ではなくて、「アクションを起こした事によって、コンサートに集まってくる」という逆転の発想で創ったのが「RockCorps」なんです。だからRockCorpsに集まってくる人々は、既に何かしらのアクションを起こした人なんです。

――なぜ逆転の発想で先にアクションを起こさせようと思ったのでしょうか?

 例えば、好きな出演アーティストを目当てにチャリティライブに行って、そこで何かを感じ取って実際に自分達でも行動を起こすという人達は全体の10%くらいなんです。だから、最初にアクションを起こさせる仕組みが良いと思うし、既にアクションを起こしてからライブに参加する方法は、人々をパワフルにするために、最も効果的に影響を与えるやり方なんです。

――その方法だと「アーティストが好きだから行く」という動機以外にも、「ボランティアがしたい」という事や「何か行動を起こしたい」という事など、様々な種類の動機によって人々を動かすことができそうですね。

 どっちも音楽がきっかけなんだけど、従来の「起点が音楽」という場合よりも、この場合は「音楽がゴール」なんです。何かを起こして、そして音楽を楽しみに来る。そういう意味ではみんなのモチベーションや意識は高いんです。

――「ボランティアを生活の一部にしたいと」いうコンセプトに合っていますね。

 そうですね。

不安があった

描いた壁画をバックに、一般参加者と記念撮影にのぞむ高橋みなみ(撮影・小池直也)

一般参加者とボランティアに臨んだ高橋みなみ(撮影・小池直也)

――他のインタビューでは、数人が集まって話し合っているなかで「RockCorps」案が出てきたという事を話しておられましたが、その時は「これはいける」という確信はあったのでしょうか?

 全然思っていなかったです。実は怖かったんです。初めて開催した時、2週間くらいは眠れなくて不安でたまらなかったですね。一番初めにNYへ行って2カ月に渡りボランティアをして、5千人くらい来てくれてチケットを渡したんです。でもコンサート当日19時半開始で、その時点では200人しか集まってなかったんです。ただ、MTVは決まっていたんですよ。MTVの番組枠を押さえたのに、スタート時間の19時半に200人しか集まっていないという状況で。200人の前にステージに立った時、MTVの人はすごく怒っていましたよ。「こんなコンサートで200人しか集まっていないなんて!」という具合にね。

 だから「あと30分待ってくれ」ってお願いしたんです。そして20時になったら400人くらいになったんですけど、「400人しか集まらなくてごめんなさい。本当に台無しです…」って謝りました。でもやるしかないんで、20時に400人だったけど、始めて下さいって合図を出したんです。

 最初のアーティストは、ラッパーのポール・ウォールだったんです。彼はカニエ・ウェストとのフィーチャリングで、「ドライヴ・スロウ」という曲が有名ですね。それでこっちは彼にお願いしていないんですけど、ポール・ウォールが「友達を呼んできた」って言って、カニエ・ウェストがステージに上がってきたんです!

――それすごいですね!

 カニエ・ウェストは「Gold Digger」という彼の有名曲を歌いだして、それが始まったとたんにどんどん人が集まってきて、最終的には5千人来てくれたというね(笑)。もう本当にヒヤヒヤしたけど、それを見てもう大丈夫だなって一安心したんです。

――それを経験してしまえばもう怖いものはないですね。

 いやいや、何しろNYなんでね。まだまだ安心はできないですよ(笑)。

――2回目は緊張しましたか?

 今まで50回近くやっていますけど、毎回緊張感はありますね。回を重ねる度に、みんなこのユニークなライブを楽しんでくれているのを感じるので、徐々に不安はなくなってはきていますがね。

――どうしても人は結果で物事を見てしまうと思うのですが、今話された、最初の結果はなかなか聞けないものなので凄く重要な話だと思います。

 やっぱり悪い噂が立っちゃうとアーティストの出演のハードルが高くなってしまうので、アーティストが本当にいいコンサートだったと思ってもらえる事が一番大事ですね。アーティストが「出たい」って思ってくれる事がね。

――「RockCorps」のネーミングで、何故“Rock”を付けたのでしょうか?

 “音楽”という言葉に代わって、さらにパワフルな言葉が“Rock”なんです。“Rock”なんだけど、HIP HOPやポップとかエレクトロミュージックなんかも含む事が出来るしね。あとは“カッコいい”という意味でも使います。素晴らしいものを見た時に「それすごいロックンロールだね!」とか「ロックだね」という表現をするし、そういう文化的な側面もあるんです。

 さらに、何か凄い事を成し遂げた人に対して、日本では「よくやったね!」などの言葉をかけますが、アメリカでは「ロックだったね!」という言い方もするんです。音楽だけのただの“Rock”だけじゃなくて、いろいろグレイトな意味が含まれているんです。あとはちょっと危険な側面もあるっていうのもね(笑)。ロックスターは危険な側面が付き物っていう、そういうところも好きですしね。

――ボランティアが4時間というのはなぜでしょうか?

 4時間は参加しやすい時間なんです。「4時間だから君もおいでよ!」という感じで気軽に参加できるというのが一番の理由ですね。なおかつ4時間だと、始まった時と終わった時の成果が目に見えてわかるんです。例えば汚れていた所をみんなで4時間かけて清掃すると、終わった時に綺麗になったのをちゃんと見る事ができる、というのが4時間なんです。

 4時間をかけて一人でやった事はそれがどれだけ社会に貢献出来たかという成果があまり目に見えないと思うのですが、何十人単位でやったらその結果が顕著に見られるんです。さらにライブに行くとそこには何千人の人がいるんです。そうなると「何千人で4時間やったら…」というのが理解できるんです。たった4時間でも人の役に立っているんだなというのを感じてもらえる時間なんです。

求めている「シェアする体験」

日本で初開催されたときにボランティアに参加したNE-YO

日本で初開催されたときにボランティアに参加したNE-YO (C)RockCorps supported by JT

――スティーブンさんも参加されていた写真を拝見しました。そこで一般の人達と参加されて、みんなの表情などが変化していくのが目に見えてわかりましたか?

 昨日も福島でボランティアをしていたのですが、そこではきゅうり農家のお手伝いをさせて頂いたんです。ビニールハウスできゅうりの収穫が終わった時期で、枯れ木の掃除などをしました。そこの大きなビニールハウスの管理をしていたのは高齢の方でしたね。何でも、震災から5年経った今でも福島は風評被害が酷くてなかなか福島産のものが売れないそうなんです。それもあって人手が足りない状況だそうです。

 そこは老夫婦2人でやっているのですが、2人でその大きなビニールハウスひとつを綺麗に掃除するのに1~2日はかかってしまうそうなんです。でも50人が一気に作業したら20分で終わったんです。ボランティアの人も「みんなが集まればあっという間に綺麗になるんだね!」と感動してましたし、私もそう感じました。それはやはりみんなの表情を見ていたら充分に伝わりましたね。

――現代はネット社会で、なかなか実際に行動に移す人が少ない中、そうやって行動を起こしてみんなで汗を一緒に流して活動するという事はとても大事な事だと思います。改めて「ネット社会」をどのように捉えていますか?

 「デジタル革命」や「ソーシャルメディア革命」と言われていますが、それは良い事でもあると思います。もちろん、使い方が正しければの話ですが。例えば、自然や観光地に行って写真をアップロードしたり、おいしい食事の写真をアップしたりしますよね? それはソーシャルメディアでみんなと共有したいからであり、“シェアするための体験”を人々は求めているんです。そういうところを上手く使えれば、人々を活発にする事が出来ると考えているんです。

――バーチャル・リアリティで音楽を楽しむ時代が来るのではないかと言われていますが、それは実際に何かをやるという事から遠くなると思うのです。

 私は未来の予想は出来ませんが、人間が求める「何かを誰かと一緒に体験して共有したい」という、人間が元々持っている本質は変わらないと思うんです。例えばそのバーチャル・リアリティの世界が発展したとしても、こういった「人と人との繋がり」というのはずっと続いていくものだと思います。

 Spotify(編注=2016年現在世界最大手の音楽ストリーミング配信サービス)とかストリーミングとか、今は昔よりも簡単に誰もが音楽を手に入れられる時代だけど、昔以上にライブに足を運ぶ人々は増えているんです。それは、「実際に音楽を体験したい」「誰かとその時間を共有したい」という思いがあるからで、デジタルが発展しても人間の持っている“リアルな体験を求める”という事は変わらないんじゃないかと思います。

 先日、カニエ・ウェストが「Famous」という曲のMVを発表したんです。LAのフォーラムでチケット代25ドルという中で公開されたんですね。そこには何千人の人々が25ドルを払って、わざわざMVを観るだけのために集まったんです。もちろん自宅のPCでそれを観る事は出来ますよね? でも、わざわざお金を払って数千人が友達なんかと一緒に観に行っていたんです。それはやっぱり人間が変わらずに持っている欲求だと思うんです。繋がりや、一緒に何かを体験するという事ですね。

 だからデジタルやテクノロジーも、そうやって人々と一緒に何かをするために使われるのはすごくいい事だと思っているんです。もし自分がRockCorpsでバーチャル・リアリティを上手く活用できて、「世界中の何100万人もの人々が同時にそれを観ている」という事が状況が作れる環境なら是非私もやってみたいですね。期待していて下さい!

――RockCorpsではコンセプト、手法として「音楽」を選んだのは元の参考があったという事で理解できました。その他にも何か理由があればお伺いしたいです。スポーツなど他の選択肢もあったと思うのですが?

 “世界各国共通”という意味で音楽は国際的なものだと思うんです。例えば、ちょっと楽譜を書いてみようか。(五線譜とト音記号を書きながら)ほら、これだと言葉は違っても世界中の誰でも「音楽」だとわかりますよね? 読める人だったら楽譜として読めますしね。それが日本人でも、中国人でも、タイ人、ブラジル人、アメリカ人、フランス人…みんなわかるんです。「楽譜」はどこの国の人でもそれとわかるし、ビートの乗り方も世界共通だし“純粋な共通言語”ですよね。

 スポーツだったら、例えばサッカーは世界共通でみんな知っています。「人々を繋ぐ」という意味ではサッカーが一番高いところにあると思うんだけど、どっちかと言ったら男女では男性の方がサッカーに興味を持つし、男性の方がわかり合えるものだと思うんですね。だけど音楽は性別も年齢も超えた共通の言語だと思うんです。

――とは言いましても、音楽には歌詞という「言葉の壁」がどうしてもあると思います。海外の音楽は日本でも受け入れられていますが、日本の音楽が海外に浸透するのは簡単ではないと。それについてどう思われますか?

 言葉については難しいところだと思います。確かに「言葉の壁」というのはあって、日本語は日本でしか話されていないから、日本語の歌詞という壁、言葉、そういう意味では世界で受け入れられるには時間がかかるかもしれないですが、ジャズなど歌詞がない音楽もあるので、曲という意味で言うと世界共通の部分があると思います。

人との繋がり

スティーブン・グリーン氏

スティーブン・グリーン氏

――日本での「RockCorps supported by JT」第1回開催ではNE-YOが出演するなど、毎年海外のアーティストが参加するのには何か理由が?

 外国のアーティストを呼ぶ事によって「これが世界的なライブで、世界と繋がっている」という事をより感じてもらえるのではないかと思っているんです。日本のアーティストに参加してもらうためにも「これは世界のイベントなんだよ」という事で注目をしてもらえるんじゃないかと思っています。“グローバルな活動”という事で、国際的に活躍しているアーティストを入れているんです。

 今は特にデジタル以外の部分で「人との繋がり」を感じなければいけない時代だと思っているんです。EU離脱の話や、ドナルド・トランプ氏が「メキシコとの間に壁を作る」なんていう話だったりとか、そういう「別れる」ようなニュースが国際的に飛び交う中で、それでも「世界と繋がっている」「人と繋がっている」という事を訴え続けたいと思っています。

――スティーブンさんにとって「音楽」とは?

 そうですね…。音楽を言葉にして話すのは難しいですね。音楽は言葉以上のものがありますからね。音楽は自分のマインド、意識的な事や無意識的な事を違う感覚にしてくれるもので、違うフィーリングで世界の物事を捉えたり出来るものなんです。意識的な事にも無意識的な事にもはたらきかけてくれるものなんです。人間にとって必要不可欠な事、何か食べたり水を飲んだりする事のように自分にとって音楽は必要不可欠なものなんです。

――RockCorpsが人類にとって必要不可欠なものになるといいですね。

 RockCorpsをプラットフォームとして、人々がボランティアを通じて地域に関わったり人との繋がりを持つという事を必要不可欠なものにしていけたらいいですね。

――スティーブンさんのお話を通して音楽の素晴らしさを改めて実感し、幸せな気持ちになりました。

 どうもありがとうございます。今回のように、音楽の媒体を運営されていて「音楽の力」を理解されている方と話すのはすごく楽しかったです。

――“音楽様様”ですね。

 そうですね(笑)。今日は本当にありがとうございました。

(取材・木村陽仁)

 ※ボランティアなどの詳細は「RockCorps supported by JT 2016」オフィシャルサイト(http://rockcorps.yahoo.co.jp/2016/)にて。

この記事の写真

記事タグ 

コメントを書く(ユーザー登録不要)

関連する記事