ボランティアも文化、「RockCorps」創設者 東京五輪を見据えて
INTERVIEW

ボランティアも文化、「RockCorps」創設者 東京五輪を見据えて


記者:松尾模糊

撮影:

掲載:17年08月20日

読了時間:約10分

ボランティア活動を文化にしたいと語る「RockCorps」共同創設者兼CEOのスティーブン・グリーン氏

 ボランティア活動と音楽フェスを融合させたイベント『RockCorps supported by JT 2017』が9月2日に、千葉・幕張メッセで開催される。4時間のボランティアをおこなうと『セレブレーション』という音楽イベントを観覧、参加する事が出来る「RockCorps」。2005年に米・ニューヨークで初開催され、レディー・ガガ、リアーナ、マルーン5など、世界のトップアーティストらが参加してきた。2014年に日本でアジア初開催、以降は毎年実施。4回目の今年は、昨年に引き続き高橋みなみが公式アンバサダーに就任、アーティストとして初出演する。海外勢はフィフス・ハーモニー、国内勢はmiwa、SPYAIR、andropの出演が決まっている。セレブレーション出演アーティストもボランティアに参加するなど、一体となってイベントを盛り上げる。今回、共同創設者兼CEOのスティーブン・グリーン氏にインタビュー。彼は「人々が持つボランティアのイメージ、ボランティアの在り方というのも一つのカルチャーとして浸透させたい」と2020年の東京オリンピックに向けてボランティア活動を文化として根付かせたいと語る。日本と米国のボランティア活動の違い、音楽の持つ可能性について話を聞いた。

福島から首都圏へ

スティーブン・グリーン氏

――会場が福島から千葉・幕張メッセの方へ移りますが、その経緯は?

 まず日本の「RockCorps」は3年前に福島で生まれました。3年前は、「ボランティアって何だろう?」というようなリアクションだったのですが、この3年間で多くの方がボランティアに参加して、セレブレーションを楽しんだことによって、皆さんにすごくボランティアと「RockCorps」というものを深く理解して頂いたと思っています。今や「RockCorps」のボランティアに関しては、参加してくれた福島の方々のパーソナリティーの1つ、自分の生活の一部になっているところまで浸透させることができた。

 この3年間、福島で出来たことが凄く意義のあることで大きかったと思っています。良い変化に繋がっている。4年目を迎え、関東に持ってきた理由は、福島でボランティアを通して育てたものを今度は関東で、福島県以外の方々にも、もう少し大きなムーブメントとして広げたい、一つの文化にしたいという想いからです。

――実際に今回の会場となる幕張メッセは御覧になりました?

 見に行きました。天井が物凄く高いので、舞台や会場制作にかなりいろいろ努力は必要だと思います。色々な工夫が必要であるということも実感しています。ただ、通常の音楽コンサートと違って、皆さんがオーディエンスとしてアーティストを見に来て盛り上がるのではなく、アーティストがオーディエンスというか、参加者を盛り上げる。「みんな4時間頑張ったね」というお祝いをする場なので、舞台や会場の作り方もそれを踏まえて工夫したいですね。

――この3年間で、具体的な変化、感じるところ、見えることは何かありますか?

 変化というものは感じています。この前も福島に行って内堀雅雄福島県知事と一緒にボランティアをしてきました。相馬市の海岸で、40人くらい集まって一緒に。相馬津波で甚大なる被害を受けた地域で、3年前に海岸の清掃ボランティアを始めてときは、砂浜の下に瓦礫や巨木が埋まっていたりしたのですが、今では子供たちが走り回れるくらい綺麗な海岸になってきています。

 また、コミュニティー、人との繋がりという部分の変化も感じています。6年前に震災が起きて、そこで色んなものが崩れたり、壊れてしまいました。また人がそこから離れていったことによって、どんどんコミュニティーというものが薄れていった。「RockCorps」が毎年、いくつものボランティアを福島、東北で実施することは、違うコミュニティーが、同じ場所で同じ時間(4時間)同じ仕事をやってもらうことで、人と人との繋がりが生まれ、新たなコミュニティーを作るという狙いもあります。

 この3年相馬のプロジェクトを見てきて、知っている顔も増えてきました。この間行ったときには皆さん笑顔でプロジェクトに関わってくれていて、3年前より笑顔が増えた気がしています。

多彩なアーティストが出演

スティーブン・グリーン氏

――今回出演する、フィフス・ハーモニーや、日本のアーティストについてどういう印象を持っていますか?

 「RockCorps」の雰囲気にとても合った、あとオーディエンスにもあった完璧なアーティストだと思います。彼女たちのステージパフォーマンスは本当に素晴らしいです。音楽性やジャンルというものが、物凄くお祝いに向いているというか、会場が盛り上がる曲調になっているので、ベストなアーティストだと思います。

 日本のアーティストについては、たまたま全然ジャンルの違うアーティストが出演されるので、フィフス・ハーモニーのファン層とmiwaさんのファン層、高橋みなみさんのファン層…それぞれのアーティストが持つファン層があると思いますが、そこが一緒になることで何か面白い相乗効果、色んな新しいことが生まれるのではないかと。

――高橋みなみさんは去年もアンバサダーを務めて、2年連続の出演になります。高橋みなみさんと何かエピソードはありますか?

 彼女に最初に会ったとき、とても小さくて可愛らしい印象でした。凄く温かいフィーリングを持っていて、東北の震災の後、すぐに何回もボランティアをしに行ってサポートしている経験を持っている方ですよね。僕自身も世界各国でボランティアしてきているので、会った途端に、そういったボランティア精神とか人をサポートとするエネルギーという所での繋がりを感じて、一瞬にして打ち解けました。彼女は、もちろんアンバサダーでもあるのですが、「RockCorps」のフレンド、友達という位置づけでも僕は誇りに思っています。

――米国でスタートして、日本では4年目ですが双方で違いみたいなものはありますか?

 日本人はとてもシャイで、あまり「RockCorps」やこういうイベントが好きではないのかな?という心配がありました。逆に米国人というのは物凄くアグレッシブで、すぐに飛び跳ねて音楽にノれるような方たちで、オーディエンスのタイプが違う。

 ただ、セレブレーションを1年目2年目とやっていくうちに、気づいたことは、日本人は実はシャイではない。勿論、最初の行動は凄くシャイなのですが、すごくハードワーカーであったり、一生懸命何かに取り組める、そしてすごく温かい気持ちで、それを楽しめるという、自分がイメージした最初の日本人の印象とは異なっていましたね。

――今の音楽シーンやライブに対して思うことなどはありますか?

 世界の音楽業界をいろいろと見てきましたが、日本のコンサートに行ったときに全てが整理整頓されていると思いました。スピーカーの位置も、3メートル間隔にスピーカーがあって、行った人たちも入ったときに何処のセクションで観るというのが、物凄く細かく事前に準備されていて、それに少し驚きましたね。その状態で音楽を聴いても、聴く側の印象が違うのではないか? と思ったのですが、音楽の力というのは世界も日本も一緒で、別にスピーカーが適当に置いてあろうが、整理整頓されてきちんと配列されていようが、オーディエンスが楽しめる空間、音楽を楽しむということは変わらないと思います。

――そうした中で今、好きな音楽はありますか?

 もちろん、「RockCorps」のコンサートで参加して演奏してくれたアーティストのことは全員好きです!元々は、グレイトフル・デッド(米・ロックバンド)の大ファンで、21歳から24歳までは彼らの追っかけをしていました。彼らのステージは毎回違っていて、3日間公演だったとしても、全てのライブパフォーマンスが毎回違うんです。これは全部のライブに行くしかないなっていう感じでね。(笑)

 あと、クラシックミュージックが凄く好きです。今、クラシックミュージックはとてもフォーマルなイメージがあるのですが、実は1700年代から1800年代に関しては、モーツァルトが、キース・リチャーズ(ローリング・ストーンズのギタリスト)のような存在だったかもしれないし、その時は凄くロックな感じで聴いていた可能性もある。クラシックミュージックは、ロックミュージックとして好きですね。

ボランティアの未来型

スティーブン・グリーン氏

――これからの展望は考えていますか?

 会場を移すというのは、物凄く大きなチャレンジです。福島で第1回目を始めたときぐらいのチャレンジで、どういう風なプロジェクトなのか? どういう風に人を集めるのか? どういう風にプロモーションしていくのか? など、まだまだ課題があります。ただ、福島で経験したように2年、3年と関東でも継続できれば「RockCorps」の知名度というのも上がってくるでしょう。

 人々が持つボランティアのイメージ、ボランティアの在り方が一つのカルチャーとして、今よりも皆さんの意識の中に浸透していると思います。ちょうど3年後、2020年に、東京オリンピックがあって、そこでもの凄い数のボランティアの人数が必要になりますよね。今のうちから、「RockCorps」を通じてボランティアを経験してもらうことで、ボランティアをすることへのハードルを下げられると思っています。2020年のオリンピックも視野に入れたうえで、会場を関東に移しました。

――ボランティアを創出する上で事前に決めていることはあるのでしょうか?

 ボランティアを採用するときに、3つ、ポイントがあります。1つは「実際に体を動かす」ということ。ボランティアの時間を4時間と決めているのは、自分たちの活動の成果が目に見える時間だから。汚れていた海岸が4時間後には綺麗になっている。実際に目で見ることで、短い時間の中でも達成感というか、体を動かしてやり切った感を感じてもらえるプロジェクトにしています。もう1つは、「リピート」。初めてボランティアに参加した方に、楽しい!と思ってもらうことが、1回だけではなく、2回目、3回目と繰り返して「リピート」してボランティアをしてくれることにつながると思っています。3つ目は「ローカル」。地元の人たちと一緒に汗を流して、その地域に何を還元できるかということを常に意識しています。結局地域の人たちに喜んでもらえるものでないと、単なる自己満足で終わってしまいますからね。

――これはとても良いボランティアだと思うものなどありますか?

 ブルックリンでは、自転車の路上駐車(放置自転車)が多く、フェンスにはたくさんの自転車が停められています。路上駐車の取締り方法としては、警察がチェーンを切って回収して捨てる、とういうだけの状況でした。最近一つボランティアの団体が、警察に回収される前に自転車を工場に持っていってリサイクルするという活動を行っています。工場にボランティアの方たちをいっぱい集めて、自転車のハンドルやサドルを取り外し、そこから新しい自転車を作り、後は地元の方たちにそのリサイクルバイクを配ったりしています。

 私が一番ボランティアで必要だと思うのは、何も生まれなかったところに人の力が入ることによって、何か新しいものが生まれていくということです。それがボランティアの素晴らしい所だと思います。この活動は、新しいものを生む力を持ったボランティアの素晴らしい例だと思います。

 また、『グッド・ジム』という英国のボランティアの例で言うと、このボランティアは大体日本円で1800円から2000円ぐらいの会費を払うと、3キロぐらい離れた所に住んでいる老人のコーチをつけることができます。週に1回コーチのところに走りに行くと、会話をしたり、色々な人生相談をすることができる。走ってコーチに会いに行くことが前提なので、このプログラムを通じて、ランニングやジョギングもできますし、老人のコーチと色んな会話をすることで、人との繋がり、が生まれます。体力つくりとコミュニケーションの創出、一石二鳥ですよね。非常に考えられたコンビネーションであると思います。

――最後にその今年4年目の「RockCorps」について意気込みを。
 
 まず、参加して欲しいというのが第一です。少しでも多くの人に参加して欲しい。RockCorpsのスローガンが「Give, Get Given」なのですが、これは単なる4時間のボランティアをしてコンサートのチケットを手に入れるというメッセージではありません。4時間のボランティア活動に参加することによって、得られるのはコンサートチケット一枚ではなく、例えばそこでできる新しい友達や、ボランティアで汗を流すという新しい興味関心、もしくは、新しいボーイフレンドやガールフレンドなど、新しい経験を得ることができます。RockCorpsのボランティアを経験したことで、東京オリンピックのボランティアをやろうというきっかになるかもしれない…色んな可能性を秘めている。

 最初のきっかけとして4時間のボランティアで1枚のチケットを手に入れるという意識で参加してもらうことはもちろん大歓迎です。その一歩を踏み出してもらうことで、自分の今後に返ってくる何かを与えられる可能性があると思います。まずは、参加してください。セレブレーションを関東に移し、今までで一番スケールの大きい「RockCorps」になります。お待ちしています。

【取材・撮影=松尾模糊】

公演情報

『RockCorps supported by JT 2017』
セレブレーション(ライブイベント)
開催日:9月2日
会場:千葉・幕張メッセ
出演アーティスト:フィフス・ハーモニー、高橋みなみ、miwa、SPYAIR、androp
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