意思を持つマネキン

 次世代エンターテイメントという意味で、当日最大の驚きのあるライブを見せてくれたのは、マネキンダンスユニットFEMMとDaihei Shibataのコラボレーションだ。2014年のデビュー以来、日本だけでなく世界のメディアも注目し始めた2人の“意思を持つマネキン”であるRiRi(リリ)とLuLa(ルラ)で構成されるFEMMと、映像プロデューサーのDaihei Shibataが創りだすホログラフィック映像が、ステージ上でダンスとシンクロしていくVR演出が観客の注目を集めた。ステージ前部の透過スクリーンと背面のディスプレイに流れる映像は、ビートや曲調に合わせて変化していく。歌詞が空中に浮かんだり落下してFEMMを取り囲む装飾になったと思えば、突如CGダンサーが現れるなど、曲ごとに変わるテーマに沿って様々な世界観を作っていく。

 この日披露された新曲「circle」では、FEMMに加えてゲストにLil’ Fang(FAKY)、Yup’inが加わり、VR、ダンス、ボーカルが一体となるステージは、空気が変わるほど観客の眼差しがこの日一番熱くなった瞬間だった。アップテンポのダンスミュージック4曲が披露されたが、どの曲でもFEMMと映像がリアルタイムでシンクロした先進テクノロジーによる演出が、ふたりのアーティスト性をあらゆる角度から際立たせていた。VRなどテクノロジーが新しく変わったからといって音楽が変わるわけではない。ただテクノロジーの進化によって、アーティストの表現の幅が広がり、見せ方や接し方を違う角度で行うことができる。よりエモーショナルで複合的にメディア化されていくデジタル音楽の可能性をFEMMのライブは暗示しているようだった。

FEMMのRiRi(リリ)とLuLa(ルラ)

FEMMのRiRi(リリ)とLuLa(ルラ)

 最後に登場したのは、HifanaのKEIZOmachine!と、KezzardrixとSatoru Higaによる映像ユニットHEX PIXELSによるコラボレーション・ライブ。Hifanaでお馴染みのMPCやKAOSS PADなど機材に溢れたステージに立ったKEIZOmachine!がヒップホップのビートにエフェクトをかける即興パフォーマンスを見せると、CG映像が同調していく。途中からは、機材テーブルのGoProが映すKEIZOmachine!の手元のアクション、360度全方向カメラRICHO THETAが映すステージ全景がリアルタイムでレンダリングされるビジュアルへ切り替わる演出が始まり、ステージのパフォーマーを見ていたはずの観客の視点は対象がステージ全てへといつの間にか変わっていた。後半には、KEIZOmachine!がゲームコントローラーを使い、「スーパーマリオブラザーズ」をサンプリングした映像と音をリアルタイムでコントロールする即興演奏を披露。シアター中に鳴り響くお馴染みのゲームサウンドをループさせたヒップホップビートには、先進テクノロジーを革新させ、映像と音楽のシンクロを完成させてバーチャルな世界を創りだした、ゲーム業界へのリスペクトの意味も込められていた。

 ライブビジネスが世界的に成長する中で、ライブ体験の拡張は大きな可能性があると言える。ただ音楽をデジタル化すれば、変わるわけではない。社会のデジタル化が進んでも、音楽の中心は人間性だと思っている。そしてテクノロジーは音楽に内包されるアイデアをさまざまな角度から見せて、体験をさらにエキサイティングにしてくれるファッションアイテムのようなものかもしれない。アーティストや曲の世界観がテクノロジーでリアルタイムに拡張された瞬間にエモーショナルな興奮を感じる時代がやって来た。「VRDG+H」のステージに立ったアーティストたちは、そんな未来の音楽がテクノロジーとの垣根を飛び越え共に進む方向性を指し示してくれた。ライブとテクノロジーの関係は人と音楽を取り巻くリアルの世界の拡張であって、もはやバーチャルやオルタナティブな世界にとどまらない気がしてきた。(文・ジェイ・コウガミ)

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