これで嫌いなら傷つく 赤い公園、自信満ちた「純情ランドセル」
INTERVIEW

新種のガールズバンド「赤い公園」が自信をもって送り出す作品とは


記者:平吉賢治

撮影:

掲載:16年03月22日

読了時間:約22分

「純情ランドセル」で光るシンセサイザーのサウンド

津野米咲(Gt)

津野米咲(Gt)

――今作の印象的なシンセサイザーのサウンド、プレイについてですが。

津野米咲 あれはデモで私が入れていったMIDI(編注=音楽演奏データ)もありますし、新たに島田昌典さんが足して下さったものもあります。でも全部音は島田さんの所のシンセで作って下さってて。

――独特なサウンドで面白いんです。

津野米咲 確かに。あんまり聴いた事ない音、 ちょっとブラスっぽさもありますし。あれはアナログシンセのはずです。打ち込んでいったものだけではなく足していってもらったのもあるので、生っぽさがあります。島田さんとやらせて頂いた3曲は、最後にテープに落としていて、その時シンセの音が更に丸っこくなって聴こえが違いましたね。シンセの音に“奥行き”があるんです。

――全体的にも空気感があります。

津野米咲 きっと位相が良いのもありますね。直列、一列に居ないというか、アイドルのサビのフォーメーションみたいな感じで楽器が何列も。

――そういう音の定位の絶妙なバランスが生む空気感は、洋楽などでは多いのですが、邦楽ではさほど積極的ではない部分があるというか。

津野米咲 今回エンジニアさんが凄い音作りが面白かったんですよ。

――ミックスも立ち会って、けっこう意見を出したり?

津野米咲 はい。でも「ボール」(アルバム1曲目収録)はなかったね。

佐藤千明 「ボール」はなかった!あと、今回はいろんなマイクを試させてもらって。それも凄い新鮮でした。歌っている途中でどんどんマイクを変えていくんですよ。歌ってる方では「これはどんな感じになってるんだろ?」と思っていたものが、ヘッドホンで自分が聴こえる声と、いろいろ機材を通してミックスルームで聴く声が違くて、こんなに違うんだというくらいマイクによって輪郭が変わるので、それが今回すごい驚きましたね。

名前そのものに着想があった楽曲「ショートホープ」

――「純情ランドセル」収録曲のタイトルについて、いくつか面白いなと感じたのがありまして。まず5曲目の「ショートホープ」ですが、これは煙草の事ですか。

津野米咲 愛煙家は私しかいないんですが、私の大好きなショートホープ。

――渋いチョイスですね。

津野米咲 「スーパーライト」なんですけどね。

――と言う事は煙草がテーマの楽曲なのでしょうか?

津野米咲 煙草の歌というより「ショートホープって名前がなあ」と思って作った歌なんです。

――アレンジは蔦谷好位置さんですが、どのように進みましたか?

津野米咲 スムーズにオシャレになっていく感じありましたけど、オシャレなコード進行についていくのが凄い大変だったのと、もう発見でした。凄い楽しかった、自分でも限界までオシャレにして曲を渡したつもりだったんですけど、「もっとそうなる!もっとそうなる!」ってテンションコード(編注=複音程を加えた多声和音)を乗っけてって。そういう風にはしたいと思っていたけど、サビの1拍づつコードが変わっていくようなコード進行が実際どうなっているのかというのを意外と追求した事がなかったので。だからすごい楽しかったです。

――コードなどは全て確信的に組み立てていると思っていましたが、どちらかというと感覚的に? 3曲目「Canvas」の導入の6度のコードも狙ってやったのだと感じていましたが。

津野米咲 こういう響きになってほしいと思ってやったけど、あれが6度という事はそんなに意識してないです(笑)

――6度のコードの響きの強調が似合うバンドってあまりいないと思います。明るいとも暗いとも、不思議とも普通とも言えないつかみ所のない響きで。

佐藤千明 じゃあ、赤い公園の他の曲でも「6度コード」ってよく出てきますか?

――あると思いますよ。

津野米咲 じゃあ私は「6度」が好きなのかもしれません。

――曲の頭から使うのは珍しいと思います。

津野米咲 「Canvas」最初の4小節は、ギューっと糸が張りつめてて、その後で「ふわんっ」と緩むイメージだったので。そこで正攻法に戻って欲しかった、というのはあります。

――感覚でやってらっしゃるんですね。楽曲はコード進行などではなく楽譜でメンバーとやりとりするのでしょうか?

津野米咲 楽譜はコードよりかは積みの音符で読みますけど、赤い公園の曲に楽譜がある事はほとんどないです。

――どういう風に音を伝えてるのですか?

津野米咲 耳コピですね。

――そうだったのですか。楽曲「ショートホープ」に話は戻りますが、イントロからのクールなビート、あのブレイクビーツ的な発想は?

津野米咲 これは蔦谷好位置さんです!これ、死ぬもの狂いで練習してましたね、歌川(Dr)が。

――これは人力で、生プレイなのですか?録音したドラムパートをブレイクビーツに仕立てたのではなく?

津野米咲 人力です。「ヒィッ!ヒィッ...!」って言いながらやってました。でも最後は余裕で出来るように。

――そこにとてもメロウな歌、あらゆる和音、ソウルフルなギターカッティングが入って...近年稀にみるクールな楽曲だと思いました。蔦谷好位置さんのアレンジが映えた?

津野米咲 そうですね。ピアノがそもそも映えた。蔦谷さんに弾いて頂いて。もともとこういうタイプの曲だったんですけど、もうちょっとポップだったのかな?

佐藤千明 うん、そうだね。

津野米咲 ポップっていうか、デモの段階だともうちょっと“チープ”だった。ギター、ベース、ドラム、跳ねているけど、もっと愉快に跳ねてた感じがあったんですけど、「ズッタン、ターンッタ!」みたいに“跳ねてまっせ!”みたいな跳ね方をしていたんですけど、蔦谷さんから「そこはもうちょっと跳ねを抑えよう」というので、“リヴァーヴィなシンセが入って、遠くでコーラスが鳴っているような大人っぽい感じ”にしよう、という事で。

――歌もすごく大人っぽい感じですが、それは特に何かを意識したりはせずに、自然に歌っていた感じなんでしょうか。

佐藤千明 そうですね。蔦谷さんのピアノはレコーディングしているその場で足されたりしていって、その感じがもともと曲が持つイメージだったりとか。あと、蔦谷さんが乗せてくるアレンジがどんどん“アダルティ”になっていって、「これは幼い声では歌えないな」と思って(笑)。もともと声は全然幼くないので、ストレートな声で歌いましたけど。シュールにならないように気を付けようと思いました。

――佐藤さんのボーカルは例えようがないと言うか、なかなかいない感じだと思うんです。どんな色かと言いますか。

津野米咲 色にしたら確実に暖色です。今の23歳って言うからみんなちょっと幼い感じを想像するかもしれないですけど、“昭和の23歳のレディ”ですよね。

――なんか一発で納得します。

津野米咲 その感じですね、自分のイメージは。生物学的には歳相応だし。お母さんとかの時代の23歳。

デビュー前に制作された楽曲「ナルコレプシー」裏話

自信Jに満ちた赤い公園のアルバム『純情ランドセル』

自信Jに満ちた赤い公園のアルバム『純情ランドセル』

――11曲目の「ナルコレプシー」という楽曲ですが、この曲もタイトルが気になりました。コンセプトなどはなんでしょう?(編注=ナルコレプシー:日中に強烈な眠気に襲われる過眠症の一種)

津野米咲 うちの歌川が「ねむい、ねむい」って言ってて、ナルコレプシーっていう病気なんじゃないか?みたいな事がありまして。けっこう本当に突然寝るくらい眠い時があるみたいで。でも「病院行ったら違かった!」って。

――診察を受けに行くほど?

津野米咲 結局違かったんでしょ?

佐藤千明 うん。違うみたい。

津野米咲 違かったんですけど、そうだと思って帰っちゃったんですよね…。で、眠い曲です。私が「歌詞キツいわぁ、もう書けないわ」という時に藤本(Ba)が「わたしが書くよ!」って。怖いでしょ?(笑)それで歌詞を持ってきたんです。それにメロディを付けて、前後を付けて、という風に。これもデビュー前にみんなで合宿で作った曲なんです。

――そうだったんですか。でも良かったですねナルコレプシーではなくて。

津野米咲 良かったですよ。ナルコレプシーで悩んでいる方はたくさんいるし。本当に突然寝る。

――サウンド面がとても面白くて、イントロから左右交互に鳴るフィンガースナップ(指パッチン)のアイディアは?

津野米咲 これは亀田さんが最初にアレンジして下さった時に、そのリズムが手拍子で入っていて、それを亀田さんと相談して「指パッチンにしようぜ」という風に変えていきました。

全色彩を名器ギター“ストラトキャスター”で表現

――ストラトギターの音色が絶妙ですね。

津野米咲 私のギター、眠そうじゃいけない時も眠そうな音をするんですよ。普段からちょっと眠そうな音してるんです。だからアイツ(愛器のストラトギター)がもう「出番キター!」って感じで。もう“まんま”です。眠そうに弾いた訳でも何でもなく、いつもの音なんです(笑)この曲ですごく活き活きとしてましたね。

――メインのギターの名刺変わり的な曲ですね。

津野米咲 ホントそうですよ!この眠さの右に出る者はいない(笑)

――愛器・ストラトキャスターについてもう少し、アルバム「純情ランドセル」を通して聴いて思ったのですが、全てギターはストラトを使ったのでしょうか?

津野米咲 ほとんどストラトですけど、持ち替えてはいます。

――アルバム制作だと、様々なギターを使用するという方が多い中、赤い公園では多様な音楽性、曲調があっても、ギターのチョイスはひとつにしているという意図があるのかなと思いまして。

津野米咲 同じ音で違う事がしたかったりというのもありますし、周りの楽器が違うだけで聴こえが全然違いますし。1人でやるのであったら「この曲はこのギターの音で」とかやるんでしょうけど。アンプもほぼずっとマーシャルで。

津野米咲 ギターはテレキャスもあるし、ハムバッカーのを持ってきてもらったりだとか、あとは自分の持っているシンツインのギターもあるんですけど、試しても試しても......。結局ストラトになる。録音の時はストラト3本ありました。

――ストラトだけでここまで広くサウンドを追求しているバンドって、最近ではあまり耳にしません。

津野米咲 ストラトっていろんな事に使えるギターだって聞いてたんですけども。

――らしいですね。

津野米咲 本当にそうです。

――実際に津野さんはストラトをカッティング、ノイズ、フィードバックプレイと、多岐に渡るサウンドを展開させているので、ストラトで出来る事を全部やっているくらいに感じます。9曲目「14」ではハーフトーンのサウンドを前面に出したようなサウンドが気持ち良かったりと。

津野米咲 うん、あれはハーフトーンだった気がする。ピックアップ(編注=ギターの音を拾い増幅させる部分。リア、センター、フロントは、その位置を指し、各位置を選択する事により音色が変わる)はけっこう使い切ったかもしれないです。いろいろ音を重ねる時はリアにしたり。

――ストラトのポテンシャルを最大限引き出していますね。

津野米咲 ボリュームをちょっと絞るだけでもだいぶ違いますしね。「リアにしてボリュームを絞る“丸さ”」とか「センターにしてボリューム、トーン全開にしての“開き”」なのかとか、いくらでも選択肢がありますから。

――そういったマニュアル感みたいな点が良かったり?

津野米咲 何なんですかね?あまり考えた事ないですけど、自分のいつもの設定で違うから楽器を変えるというのも何かもったいない気がして。ギターの設定を変えていける場合がほとんどなので。

――エフェクターはどういった物を?

津野米咲 アンプはクリーンで作って、歪みは「チューブスクリーマー(IBANEZ TS9)」か「ラット(PROCO RAT)」。どっちかです。私はFAZZを持っていないので、ブーストする時は「宇宙人の意味がわからない見た目の歪み(エフェクター)」があって、それか「スーパーオーバードライブ(BOSS SD-1)」を更にかけてますね。

4月より展開される「赤い公園全国“マンマン”ツアー」

――3rdアルバム曲とそのサウンド、津野さんの機材についても詳しくお話いただけ、ありがとうございました。春からはワンマンツアーが始まりますね。

津野米咲 マンマン。

――「ワンマン」ツアーではなく、何故「マンマン」ツアーという名に?

津野米咲 我々もかつては「ワンマンツアー」と謳っておりましたところ、公式Twitterでマネージャーが「“マンマン”ツアー」って間違えて。

――誤字?

津野米咲 誤字です!一番大事な情報解禁の時に「マンマンツアー」って言っちゃったのがきっかけで。でも「間違えを本当にしてやろう。あなたは悪くない、未来を見据えていただけなんだ」という小馬鹿にした気持ちで、そのまま「マンマンツアー」になってます(笑)だから皆さんには多大なご迷惑をおかけして(笑)“マンマン”以外のところの文章がまたちゃんとしているものだから「まさか?」と思いますよね。

佐藤千明 確かにそう思うよね。

――ツアーでは16カ所回るんですね。

佐藤千明 過去最大規模です。

津野米咲 ここまで細かく回るというのは初めてなので、それから先もずっとしていきたいなと思います。初めましての所もあるので、カッコいいところを見せたいです。

――それでは、今回のアルバム「純情ランドセル」について一言お願いします。

津野米咲 「赤い公園」という名前ですが、怖がらずに「純情ランドセル」を聴いてみて頂きたいです。そうすると、皆さんの日々感じているような事や、皆さんの日常にスッと入ってくるようなものが、今回の作品では意外とあると思うんです。「今まで赤い公園には手を出した事がなかった」という人にこそ、聴いてみて頂きたい一枚になりましたので是非、構えず、軽い気持ちで聴いてみて欲しいです。

佐藤千明 この中で、今世に出ている曲が「KOIKI」「Canvas」「黄色い花」で、これらを聴いてもらって頂いているのですけど、津野も言ってましたが「赤い公園」というバンド名から、けっこう怖がられる事もあるんですけど、今出ている曲らを聴いて「手が伸ばしやすそうだな」というものがありつつも、一枚まるっと聴いて頂けると「これ、俺の知っている赤い公園だ」という曲もありますし、すごく新しい事に挑戦している曲もありますし、いろんな人が楽しめる一枚になっていると思いますので、是非是非、もう一回「今の赤い公園」を知る気持ちで聴いて欲しいなと思います。どうか気楽に。

津野米咲 「怪しいものではございませんよ」という感じです! フフフ......。

――3rdアルバム「純情ランドセル」は“赤い公園入門盤”としてはどうでしょうか?

津野米咲 正に、すごくイイと思います!

(取材・平吉賢治)

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