ロックバンド・赤い公園のギタリストでメインコンポーザーの津野米咲さんが18日、亡くなった。所属レーベルが19日、バンドの公式サイトで発表した。29歳だった。

ポップとオルタナティブを昇華させる独自性

 津野さんのソングライティング、ギタープレイ、音楽的アプローチは独自性があり、ポップさも併せ持っていた。津野さんにしか表現できないで世界観が楽曲、演奏、ライブステージングに表れていた。

 オルタナティヴ(もう一つの選択、代わりとなる、もう一つの普遍的な)とポップさを合わせ、全く新しい音楽とすること、そしてプレイしてリスナーの心に届けることは極めて難しいことだ。しかし、津野さんはそれをありとあらゆる方法で様々な楽曲、プレイとして体現した。

楽曲とギタープレイの稀有なオリジナリティ

 津野さんが手がける赤い公園の楽曲は、「Highway Cabriolet」などで聴けるポップでクールなアプローチ、とびきりガーリーな「黄色い花」などのメロディアスな表情もありながらも、「今更」「KOIKI」のように際どい和音で攻めたりする楽曲と、対比した部分もみられる。そして、「消えない」ではアウトラインギリギリのフレーズ(他の楽曲ではあえて不協和音を加えたりも)を奏で、生々しいギターサウンドで心をダイレクトに突き刺す鋭い感触の楽曲もある。さらに「絶対零度」では変拍子を取り入れつつもナチュラルに聴かせるというマジックも施されている。

 独自の世界観をもつ津野さんの音楽は、ポップな音楽を好むリスナーも、コアな音楽を好むリスナーも引き寄せる力がある。

 そして、津野さんが愛用していたストラトキャスターによるギタープレイは、大胆さと繊細さ、轟音にノイズにアンビエントと、非常にフレキシブルなサウンドを放っていた。

 具体的には、個性的なディレイの使い方で音の空間を美しく広げたり、独特な硬質の歪みサウンドメイク、ギターを高速で掻き鳴らすトレモロピッキングやフィードバック奏法など、あらゆるプレイを駆使していた。さらに細かい点だが、津野さんはエフェクター(ギターの足元の機材)をあえてオーソドックスな繋ぎ方とは逆にすることで、オリジナリティ溢れるサウンドメイクをしていたことを取材時に語っていた。

 ギターのテクニックや音楽理論的な部分、そこはもちろんだが、それらを凌駕した津野さんのプレイは、ギターの持つ本質を丸裸にしてアウトプットしていた。ライブで津野さんのプレイを全身で浴びたときの衝撃と恍惚感は、言葉では表現しがたいほどだった。

津野さんの音楽への真摯な姿勢

 昨年10月23日、新体制第1弾EP『消えない - EP』リリースの取材時、津野さんは5曲収録のEPに対し、候補曲を約30曲作っていたことを語っていた。明るく笑顔で聡明に話されていた中、音楽に対する真摯な姿勢が垣間見られたことが印象に残る。また、同作品に収録されている楽曲「Yo-Ho」ではHIP HOPを取り入れるなど、自身のバンドの音楽に対する新たな追求心があることを、ビート面やエディット面などを挙げ細かく語っていた。

 1月リリースのシングル「絶対零度」の取材時には、4月リリースのアルバム『THE PARK』の展望や当時のバンドの状態などを、きさくに笑顔で語っていた。また、インタビュー時など、本題とは少しそれた話になった時などでも、津野さんはとても明るく楽しそうに応じてくれた。彼女が手がける音楽やプレイ面の情熱と共に、温かい人間味を感じられた。

 津野さんは赤い公園の活動のほかにも作曲家としても活躍。過去にはSMAP「Joy!!」やモーニング娘。'16「泡沫サタデーナイト!」などの楽曲提供もしており、自身のバンドの音楽性の他にも深く幅広い才能を見せていた。

 唯一無二のソングライティング力、ギタープレイ、歌詞――数々のリスナーに愛され、心にダイレクトに突き刺さる津野さんが残した音楽は、永遠に消えない。【平吉賢治】

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