見た事もない迫力のリズム

撮影・上飯坂一

撮影・上飯坂一

 ブレイクを繰り返し、康司が笑顔で叫ぶ。「踊れる準備はできていますか、ありのままの姿できょうも踊り尽くしましょうよ! ダンスの時間ですよ。全員踊りましょうか」。健司も続く「楽しい人は手を挙げて。俺たちのロックで今を乗り越えていこうぜ!」。

 ラストスパートの“絶頂”という火に更にオイルを注いだのが「幸せっていう怪物」だった。原曲の「タタン、タンタンタン」というフレーズに合わせて手を叩く観客に、健司が「手拍子ちょうだい」と更に強い手拍子を求める。隆児もしてみせる。

 ここでこのフレーズを使ってのリズムゲームを展開。ギターを置いた健司は「楽しんでもらっていますか。2015年はフレデリズムという言葉を作りました。フレデリックのリズムとあなた達ひとり一人のリズムを一つにまとめて、ここリキッドルームで最強のリズム、最強のグルーヴで日本一、世界一になりたくてこの言葉を作りました。俺たちと史上最強のフレデリズムを作り上げませんか」と言って、観客から5人をステージに挙げて好きな楽器を選ばせ独自のリズムを叩くように促した。

 この間も同曲を弾き続ける康司。ゲームのルールを説明する健司。その内容は、健司のポージングに合わせて手を叩く音の強弱をつけるというもの。「日本最強、世界最強、宇宙最強のフレデリズムをつくりましょう。あなたと作るライブをずっとやりたかった。この恵比寿で夢を叶えたい。最強のリズムを作るんでよろしく」という言葉に合わせて観客、そしてステージ上の5人が手を強く叩く。その音の大きさと光景はこれまでに見た事もない迫力が伴っていて場内に旋風が起こるほどだった。楽器の音をも負かすほどの強烈な“パート”を担っていた。

 そして、その出来に健司は「OK! 最高のリズムです。これが俺たちと作った最高のフレデリズムです」と満足の表情を浮かべ、康司のベースと、隆児のギターは唸ってその喜びと満足感を表現した。

 曲を終えて珍しくざわめきは一切起こらず無音だった。力と感情を出し切ったかのようだった。

ダイレクトに届ける感情

見たこともない迫力のリズムが生まれたフレデリズムツアー(撮影・上飯坂一)

見たこともない迫力のリズムが生まれたフレデリズムツアー(撮影・上飯坂一)

 暫く経ってから健司が話す。「楽しい? 俺も来て良かった。7月に上京して、東京に拠点を移して活動を始めた。東京は日本の中心ということもあるし、フレデリックは日本全国をホームにして、家族にしてまわるぞと思ったから。ツアーではいろんな愛をもらってきました。ワンマンは何をもらうかが大事で、東京は愛をもらいました。ごめんな、不細工な笑顔って言って、キレイな笑顔もってんな。すげえ楽しい。今日は恵比寿を攻めにきた。お前らの愛を確かめにきた。大事な事は全部俺に言ってこい!」。観客を喜ばせる。

 そのまま「トウメイニンゲン」に入った。力を出し切りながらも疲れ知らずの観客は、再び声を挙げて、手を叩き狂いに狂った。同曲は「面と向かって言葉にしろ」「その人の目の前で意思を伝える」「本当に伝わるのは目の前にある声」という想いを込めた、いわばバンドと観客が直に触れて感情と存在を確かめ合う曲だ。その思いは、次曲の「愛の迷惑」に紡いでいく。

 曲の真意は知ってか知らずか、とにかくこの楽しい時間を、ジャンプや言葉を使って感情を表現する観客は激しく手を突きあげる。そして、健司も「恵比寿は迷惑なんです。ほんまおまえら愛しているんです」と歌詞を変えて応える。

 そのまま音を絞る。ゆっくり「オワラセナイト」を歌い始める。そして健司が叫ぶ。「フレデリックはここから始まりまっせ」。メンバー、観客の感情とリズムを吸い込んだこの日の「オワラセナイト」はこれまでとは異なるパワーを放っていた。そして、ミュージックビデオの振り付けを観客が一斉に真似て踊る。この出来過ぎた光景に鳥肌が立つほどだった。

 まだ、興奮が冷めやらぬなか曲を終えた3人は感謝の言葉を述べてステージをあとにした。その足取りは力を出し切ったようにふらふらとしていた。そして、それは観客も同じだった。踊り切った体。満足感が漂っているのかざわめきが先行する。それも間もなくしてアンコールの手拍子と変わる。しかし、その手拍子が続かない。手を叩く余力すら残っていないのである。それでも、あの時間を再び共有したいと手を叩く、異様な光景だった。

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