フレデリックという名の深い海

撮影・上飯坂一

撮影・上飯坂一

 暗闇のなかで音が流れる。波の音と海食洞(洞窟)にいるような空間音。それは、イタリア南部カプリ島の青の洞窟にいるようだった。間もなくして天井の白い幾多のライトが灯る。それはまさに星空。

 星明かりを頼りに届けられたのは「もう帰る汽船」。康司がメインボーカルを務める曲だ。3人の顔が赤く照らされる。時には緑色にも。それはクリスマスカラーにも見えた。まったりとした空気が流れる。観客は日が落ちた浜辺から、対岸の明かりをみるように体を波音に合わせ揺らしながら聴いた。しかし、こうした曲でも一筋縄ではいかないのがフレデリックだ。ゆったりと流れる曲に急にスピードをつける。ベースソロが始まり、渦まくように激しいサウンドが入り込む。こうした転調も観客を喜ばせた。

 この曲から彼らの深層に触れていく。康司の声を残したまま、ドラムカウントで「ほねのふね」を披露した。これもゆったりとした空気感が流れているものの、裏拍を刻んでグルーヴを作っている。一方で夜空の海辺で歌い捧げているようにも見えた。音の先には過去の自分たちを見ているのか、それとも今なのか、未来なのか――、いずれにせよ、このリズムは時間をコントロールして過去現在未来を一つにしているようだった。

スモークサプライズ

撮影・上飯坂一

撮影・上飯坂一

 曲を終えて再び暗くなる。汽笛が鳴る。スモークがたかれる。光はその合間を縫って会場を薄く照らす。「うわさのケムリの女の子」。朝焼けのような暖色。スモークが強過ぎて演奏しているメンバーは影しか浮き上がらない。そして、場内にもスモークが放たれる。その量は1メートル先が見えないほど。フレデリックという名の霧の深い海を彷徨っているようだった。

 姿が確認できないが健司が突き放すように話す。「恵比寿に帰ってきました。けむりごっつたいたで。お前らの顔が見えない。どうぜ不細工な笑顔で待ってくれていると思うけど」。ファンにたまらない言葉だが、あまりの“霧“の量に笑い声も漏れた。

 更に続ける。「全会場でソールドアウトです。ほんま有難う。その気持ちを俺たちはどんな形で返していこうかなと思ってスモークをたきました。足りんわ、もっとたいて欲しい。ワンマン楽しんで帰ろう。おまえらの不細工な笑顔をエビス顔にします。楽しんで帰ってね」。会場は笑みがこぼれた。

 ここでメンバー紹介を兼ねた挨拶。康司が言葉を紡ぐ。「東京という名の楽園やわ。見てこの景色。雲の上にいるみたい。めっちゃハッピーや。その気持ち持って帰ってね」。隆児はジョークを挟む。「ミスターエビス顔。赤頭隆児です。今日はリキッドルームやからキリっと頑張ります」。サポートドラムの高橋武は挨拶代わりにドラムソロを見せる。最後は健司。ファンとの過去の笑い話を紹介して和ます。

二次元と三次元の圧倒的な違い

撮影・上飯坂一

撮影・上飯坂一

 この日はネットで生中継されていた。ソールドアウトで見れないファンも多い。健司はそうしたファンに気遣いながらも「この二次元と三次元の違いを圧倒的にみせたいと思っている。フレデリック後半戦は踊る曲しか残っていない。俺たちは踊る曲で一つの答えを持ってきました。あなたたちはどうしますか。これからディスコゾーンに突入します」と煽った。

 後半戦は、康司のチョッパーを利かせたベースソロから始まった。曲を切らせないノンストップダンスミュージック。シンセが80年代のディスコブームを映し出す。観衆も手を挙げてノリノリだ。グルーヴを作るギターカッティングも気持ちが良い。「さよならカーテン」。この頃にはすっかりスモークは晴れていた。

 健司の歌声の残響がループ音と絡む。そのまま「ディスコプール」に突入する。ピンク、青、黄などのカラフルな色が煌びやかに交互に灯る。手を差し出して歌う健司の後ろで隆児と康司が向き合い見計らったように変調をしかける。健司が「涙のプールサイドは」の歌詞を「恵比寿のプールサイドは」と置き換えて歌う。大歓声が起きる。また、時折挟む曲調のトーンダウンは、高揚を更に押し上げた。赤く染まる観客の跳ね具合もすごい。そして3人で寄り添い合いながら奏でる。

 曲は途切れることなくそのままイントロが始まる。「踊れる準備ができていますか」と健司。粘り気のあるサウンドを届けて「プロレスごっこのフラフープ」。機械的な振付でソロを奏でる康司。そしてディストーションをかけまくる隆児。

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