[写真]久石譲ミュージック・フューチャー・コンサート(5)

久石譲

 音楽家・久石譲が主宰する『ミュージック・フューチャー Vol.2』コンサートが9月24日・25日に、東京・よみうり大手町ホールにて開催された。

 これは『未来につながる音楽を紹介する場』として昨年からスタートしたコンサート・シリーズ。前回は東欧系のミニマル・ミュージックやポストクラシカル系で構成されていたが、今年はアメリカ系でプログラムした。

 難しい音楽ジャンルと思われがちだが、先入観なしで純粋に現代の音楽を楽しんで貰おうと始めたもの。冒頭、ステージに立った久石はこの日の演奏曲をわかりやすく解説し、「理屈はどうでもいいです。聴いて面白かったとか、興奮したとか。みなさんがそれぞれが感じて貰って聴いて欲しい。寝ない程度にね(笑)」と緊張気味の客席を和ませる。

 1曲目はミニマル・ミュージックの古典的作品でスティーヴ・ライヒの「エイト・ラインズ」。2台のピアノがリズム楽器となり、禅の修行僧のように淡々とストイックにビートを刻む。その上を弦楽器と管楽器がかくれんぼしてるように、消えたり出てきたりと変化自在に飛び回る。むず痒いような、くすぐったいような、それでいて心地よい不思議な感覚を体感。

[写真]久石譲ミュージック・フューチャー・コンサート(3)

コンサートの様子

 2曲目は3つの楽章で構成されるジョン・アダムズの「室内交響曲」。隣の部屋で息子がカートゥーン・アニメを見ている時に作曲したそうで、おもちゃ箱をひっくり返したような楽しさが詰まった曲だ。

 第1楽章「雑種のアリア」は、各楽器が好き勝手な音を奏で賑々しく始まる。その間を縫うようにパーカッションが様々な音を喧しく立てて大活躍。まさに子供部屋にいるような感覚だ。

 第2楽章「バスの歩行を伴うアリア」はタイトル通り、バスーンとコントラバスが忙しく動き回る。なんだか秘密の地下室に迷い込んだ時の、怖いけど先に進んでみたい。そんな感じを思い起こさせてくれる曲だ。

 第3楽章「ロードランナー」は、運動会に参加してるかのような楽しげな楽曲。各楽器が勝手気ままに演奏するも、ポイントにパーカッションが入りキリリと締め、気がついたら高揚感が高まってくる。タクトを振る久石もリズミカルで実に楽しそう。ここまでが第1部。いずれの曲も次に何が飛び出して来るかのドキドキやワクワクの連続で、実にスリリングだ。

[写真]久石譲ミュージック・フューチャー・コンサート(6)

コンサートの様子

 インターミッション明けの第2部はポストクラシカルの若手作曲家、ブライス・デスナーの「Aheym」。デスナーはNYブルックリンのロックバンド、The Nationalのギタリストとしても活動する異色の経歴で、やはりポップ・フィールドでも活動する久石とは立ち位置が近い。ここでは弦楽四重奏で演奏。弦楽器4つで演奏するという制約があるだけで、時にはチェロがリズム楽器になったりと自由自在に飛び回る。

 続いては久石譲の「Single Track Music1」。8月にリリースされた『ミニマリズム2』に収録された楽曲で、サックス四重奏と打楽器で演奏を担う。終始、単音のユニゾンで構成され、少しづつズレていくのが聴いてて心地よい。

 ここで久石は再び指揮に立ち、最後の「室内交響曲」にのぞむ。本コンサートの為に書き下ろされた新曲で、まだ世界でも稀な6弦のエレクトリック・ヴァイオリンをフィーチャーした全3楽章から成る大作だ。

 昨年のこのコンサートで、ニコ・ミューリーの「Seeing is Believing」を演奏するために、この珍しいヴァイオリンを購入。『せっかく買ったので、(この楽器使って)なんか曲を書かなきゃ』という動機で作曲したそう。ステージにはクラシック系ホールでは珍しいギターアンプが置かれている。昨年の公演ではラインを通じてPAから音を出していたが、コンサートマスターでもあり奏者の西江辰郎は、今年はエレクトリック・ヴァイオリンを直接アンプに繋ぐ手法に打って出た。

[写真]久石譲ミュージック・フューチャー・コンサート(1)

久石譲

 第1楽章は、ディストーション(ひずみ)をたっぷり利かせたエレクトリック・ヴァイオリンがホール内に高らかと響き渡るド派手なオープニングで幕を開けた。かつてウッドストックでジミ・ヘンドリックスが弾いた「星条旗よ永遠なれ」に匹敵する程の衝撃が客席を走る。

 第2楽章ではステージからは女性コーラスのような、あり得ない音がきこえてくる。これはブラス隊の3人がマウスピースを直接口にくわえて作り出した仰天の奏法。こんな茶目っ気たっぷりの悪戯を仕掛けるところが、いかにも久石らしい。

 第3楽章では金管、木管、パーカッションにピアノの音が一斉に花開いたように宙を飛び交い、うなりを上げて客席に突き刺さる。プレイヤーひとりひとりの技と技がぶつかり合いながら爆ぜる、凄まじささえ感じさせる演奏。混沌の美学、ここに極まれり。そして再び、エレクトリック・ヴァイオリンが顔を出しエコーマシンを駆使したトリッキーなプレイまでもを披露し、ザラザラとした硬質のディストーション・サウンドで締めた

 。実に攻撃的で緊張感を強いられる曲でありながら、聴いた(もしくは体感)後に残るのは興奮と爽快感。オーディエンスも、ただただ圧倒され万雷の拍手で応える。クラシック系の楽器でこそ編成されてはいるが、これはもはやプログレッシブ・ロック。久石譲が主宰するミュージック・フューチャー・コンサートは羊の皮を被ったオオカミだ。果たして、来年は何を仕掛けてくるか―。

[写真]久石譲ミュージック・フューチャー・コンサート(4)

コンサートの様子

■セットリスト

▽第1部
スティーヴ・ライヒ「エイト・ラインズ(1983)」/ジョン・アダムズ「室内交響曲(1982)」
ブライス・デスナー「Aheym(2009)」(日本初演)

▽第2部
久石譲「Single Track Music 1 for 4 Saxophones and Percussion」(世界初演)
久石譲「室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra」(世界初演)

▽出演
久石譲(指揮)、西江辰郎(Future Orchestra コンサートマスター)、崎谷直人(弦楽四重奏)ほか

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[写真]久石譲ミュージック・フューチャー・コンサート(1)
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[写真]久石譲ミュージック・フューチャー・コンサート(6)

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