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玉城ティナが、映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』(5月23日公開)に出演。本作で彼女が演じるのは、物語の舞台・ヴェネツィアの迷宮へ露伴を誘う仮面職人・マリアという謎めいた女性。玉城は女性ファッション誌「ViVi」の専属モデルとして若い女性を中心に人気を集め、2019年に同誌を卒業して以降は、TVや映画などジャンルを超え女優として活躍している。
今回出演する『岸辺露伴は動かない』は、荒木飛呂彦氏による人気漫画『ジョジョの奇妙な冒険』から派生したスピンオフ作品で、シリーズ累計発行部数は1億2千万部を超える。本作はその中でも特に人気の高いエピソード「懺悔室」の実写映画化であり、邦画初となる“全編ヴェネツィアロケ”を敢行。主人公・岸辺露伴役を高橋一生、泉京香役を飯豊まりえが務め、さらに井浦新、戸次重幸、大東駿介らが脇を固める。
インタビューでは、「ヴェネツィアで撮影したからこそ得られたものがあった」という、ヴェネツィアロケの裏側から、自己よりも“運命”を重視して生きてきたと話すマリアと向き合い感じたこと、役者活動への葛藤について話を聞いた。(取材・撮影=村上順一)
自分の存在をプラスにできるか、原作を読んで考えた
――『岸辺露伴は動かない』にはどんな印象を持っていましたか?
熱狂的なファンが多い作品というイメージが強かったです。私自身、これまではしっかりと読んだことがなかったのですが、今回出演が決まってから『岸辺露伴』の原作を読みました。どこから作品に入っていくかは人によって違うと思うのですが、私の場合は飯豊まりえちゃんと高校時代から仲が良くて、彼女がこのシリーズに出ていることが最初のきっかけでした。なので、映画を通して初めてこの作品を知る方もきっといると思いますし、原作ファンの方々もすごく楽しみにしてくださっていて。情報が解禁されたときから大きな反響があり、少しプレッシャーを感じるほどでした。
――原作を読んでみて、どう感じましたか?
まず、高橋さんが演じる岸辺露伴が本当にぴったりで驚きました。キャラクターへの解釈がとても的確で素晴らしいです。この作品全体からも、原作を壊さずに、実写化する意義をしっかりと模索しながら作られているという強い意志を感じました。私がこのチームの一員として加わる以上、どんなふうに自分の存在をプラスにできるか、原作を読んですごく考えました。
――出演が決まって飯豊まりえさんと、やり取りはありましたか?
私たちは日常的に頻繁に連絡を取るタイプではないのですが、「一緒にヴェネツィアに行けるのが楽しみだね」というメッセージをもらいました。
――岸辺露伴の世界観のどこに魅力を感じましたか?
正直、漫画の実写化には賛否がある印象でしたが、この作品については、ネガティブな声をほとんど聞きません。みんなが「やるからには徹底的にやろう」と同じ方向を向いて取り組んでいるからこそ、この独自の世界観が成立しているのだと思います。各話ごとにキャストが変わるスタイルもユニークで、そこも魅力的でした。
露伴のスタンスがエピソードによって微妙に異なっていて、その表現は難しそうだなと感じました。でも、それを受け入れて演じきる高橋さんの懐の深さや、監督の柔軟な演出に支えられていると実感しました。
衣装やロケ地などの要素も本当に素晴らしくて、今回は特に“全編ヴェネツィアロケ”というのが大きなポイントです。私自身の衣装も特注品と既製品を組み合わせて、何パターンか用意されていて、ウェディングドレスを着るシーンもあり、原作の魅力と実写だからこそできる表現がうまく融合していると感じています。
――そのウェディングドレスを着用されていかがでしたか。
ウェディングドレスは、モデルのお仕事では何回も着たことはありました。ただ、ベールをつけたり、こういった映像作品でウェディングドレスを着るというのはあまりなかったので、ヴェネツィアという場所で着るとまた違うものがありました。
マリアは観客に最も近い存在
――ご自身が演じるマリアをどう捉えましたか?
彼女は生まれながらに呪いを背負った存在。そのせいか、自己よりも“運命”を重視して生きてきたように感じます。物語では、そんな彼女の前に“一番好きな人”が現れ、運命との葛藤が描かれます。フィクションですが、親から受け継いだ価値観や家族のしきたりに苦しむ感覚は、多くの人に共通するものかもしれません。マリアは決して派手なキャラクターではないけれど、その静かな言葉のひとつひとつに、観客が寄り添えるような力があると感じました。私は彼女が、観客に最も近い存在だと思いながら演じていました。
――仮面職人の役作りでレッスンも受けたそうですね。
実際の仮面工房で、職人の方に教わりながら、金紙を貼ったりニスを塗ったりする作業を体験しました。仮面って、人の手によって命が吹き込まれるというのを実感しました。壁一面に並ぶ仮面の迫力は圧巻で、まるで見透かされているような気分になりました。マリアがなぜ仮面職人という道を選んだのか、そういった背景にも思いを馳せながら演じました。
――「一番好きなものではなく、二番目を選びなさい」と言われ続けてきたマリアに共感できる部分はありますか?
「一番好きな人じゃなくて、二番目の人を選ぶ」という感覚、昔からなんとなく聞いたことはあります。納得できる部分もありますが、マリアの場合は“呪い”が理由。幸せすぎると不幸になると教えられて育った彼女の背景を想像すると、やっぱり辛いです。私は、やっぱり一番好きなものを選んで生きていきたいなと思いました。
――『岸辺露伴は動かない』シリーズに途中から参加する上で、意識したことはありましたか?
マリアというキャラクターには“マリア節”のような特徴的な要素はあまりありません。彼女は呪いを背負い、それを受け入れて生きている女性。巻き込まれながらも、どこか強い意思を持っている人です。ただ、悲劇的な人物として描かれるのではなく、あくまで人間らしさを大事にしたかったので、表情や声のトーンを通してそのニュアンスを探りました。また、私が演じるマリアの“現在”は原作には描かれていないので、脚本を頼りに自分なりに解釈して演じました。
違いに触れることが大きな学びに
――ヴェネツィアでの撮影はいかがでしたか?
3週間ほど現地で過ごしたのですが、目が覚めるたびに、「ここがヴェネツィアか」と感動していました。目に入るすべてが美しくて、朝日や夕日、石畳や教会、仮面工房など…どこを見ても映画の一部のよう。住民や観光客が行き交う中で、「ここを離れたくない」と思わせる不思議な魅力がありました。ただ、撮影もありましたし、浮かれてばかりもいられず、常に緊張感はありました。それでも、撮影の合間にはまりえ(飯豊)とお茶をしたり散歩したり。車のない街なので、船か徒歩での移動が主で、乗合する水上バスがあったので、最終的には水上バスをうまく使いこなせるようになりました(笑)。
――本作を通して、俳優としての価値観や気持ちに変化はありましたか?
やっぱりヴェネツィアで撮影したからこそ得られたものが、とても大きかったです。現場にはイタリアと日本のスタッフが混在していて、撮影中は文化や価値観の違いを肌で感じる場面がたくさんありました。日本の作品では当たり前のように通じていたことが、向こうでは通用しないこともあって。でも、そうした違いに触れること自体が、自分にとって大きな学びでした。
きっちり決めるところは決めるけれど、全体的にはどこか陽気で柔らかい空気が流れている。それがイタリアのスタッフの魅力でした。挨拶一つ取っても、すごく明るくて。そんな空気に助けられた部分もありました。作品自体はシリアスな内容ですが、撮影現場ではそうした重さを引きずらず、温かい雰囲気で過ごせました。
役に向き合うことの繰り返しが、今の自分をつくっている
――「懺悔室」は『岸辺露伴は動かない』の原点とも言われる作品ですが、玉城さんにとって「原点」と聞いて思い出すものはありますか?
私はモデルとして活動を始めて、ずっと雑誌に関わってきました。なので、役者の仕事でもファッションやメイクなど、自分自身を作り込んで表現するような役を多くいただいてきたと思います。それは、自分の強みでもあると感じていますし、今回のマリアという役も、自分なりにしっかり形にできたのはとても嬉しかったです。雑誌の専属モデルを卒業した年に出演したのが、『惡の華』(2019)と『ダイナー』(2019)で、どちらも強烈なキャラクターでした。あの2作品で、「役者・玉城ティナ」というイメージを持っていただけたのかなと思っていて、ある意味で、自分にとっての原点ともいえる作品たちです。
――役者として活動する中で、葛藤することはありますか?
もう、毎回あります(笑)。「これで正解なんだろうか?」とか、「この解釈で合っているのかな?」という不安は常につきまといます。そもそも“演じる”とは何か? という根本的な問いもずっと頭の中にあります。なので、撮影が終わってすぐに「やりきった」と満足できることって、実はあまりないんです。それでも、毎回悩みながらも、役に向き合うことの繰り返しが、今の自分をつくっているんだと思います。
――最後に、タイトルが「懺悔室」ですが、玉城さんが懺悔したいことはありますか?
ここでは言えません(笑)。でも、誰かの秘密をこっそり知りたくなる気持ちって、共感できますよね。人は誰しも秘密を抱えていて、それに押しつぶされそうになったとき、吐き出す場所が必要なんだなと、この作品を通じて感じました。
(おわり)
作品情報
出演:高橋一生 飯豊まりえ / 玉城ティナ 戸次重幸 大東駿介 / 井浦新
原作:荒木飛呂彦「岸辺露伴は動かない 懺悔室」(集英社ジャンプ コミックス刊)
監督:渡辺一貴
脚本:小林靖子
音楽:菊地成孔/新音楽制作工房
人物デザイン監修・衣裳デザイン:柘植伊佐夫
製作:『岸辺露伴は動かない 懺悔室』 製作委員会
制作プロダクション: NHKエンタープライズ、P.I.C.S.
配給:アスミック・エース
■コピーライト:© 2025「岸辺露伴は動かない 懺悔室」製作委員会 © LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
■公式サイト:kishiberohan-movie.asmik-ace.co.jp
【玉城ティナPROFILE】
1997年10月8日生まれ、沖縄県出身。2012年にデビュー後、ViVi の最年少専属モデルに。2014年の女優デビュー後、多くの作品に出演。近年の主な出演作に、『ういらぶ。』(18)、『Dinerダイナー』(19)、『惡の華』(19)、『竜とそばかすの姫』(21)、『ホリック xxxHOLiC』(22)、『窓辺にて』(22)、「君と世界が終わる日に Season4/Season5」(23、24/Hulu)、『恋のいばら』(23)、『#ミトヤマネ』(23)、「君が獣になる前に」(24)、『366 日』(25)などがある。さらに『アクターズ・ショート・フィルム』(22)では脚本と監督を務めるなど、多彩な活躍をみせている。
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