INTERVIEW

吉本実憂

映画「室町無頼」で体感した“リアル” アクションが導いた新たな発見


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:25年02月03日

読了時間:約9分

 俳優の吉本実憂が、大泉洋が主演を務める映画『室町無頼』(公開中)に出演。堤真一演じる骨皮一味の隠密、お千を演じる。また、中村橋之助が主演を務める映画『シンペイ 歌こそすべて』(公開中)、1月11日からスタートした風間俊介、MEGUMIダブル主演のドラマ『それでも俺は、妻としたい』(テレビ大阪、以下『それ妻』)にも出演中だ。インタビューでは、構想から撮影まで8年を要したという大作映画『室町無頼』の撮影で発見したこと、「もっと個性的な役をどんどんやっていきたい」と話す俳優活動への思いについて、話を聞いた。【取材・撮影=村上順一

“感情”で動かなければという発見があった

吉本実憂

――『室町無頼』の撮影で特に印象的だったことは?

 アクション部さんが東京と京都から集まっていて、それぞれのやり方がある中で、それが交わっているところです。また、クライマックスの一揆を起こすシーンでは、人のCGは使っていないですし、エキストラさんが とても近い距離でいるなかで、私たちも戦っていたので、ケガもなく無事に終わったことも印象に残っています。

――過酷な撮影だったんですね。

 過酷だったからこそ達成感もありましたし、私自身あれほど大掛かりなセットでの撮影は初めてで、一揆のシーンはあれだけの大人数の中で、町が燃えていたり、壮大なセットで撮影できたことも貴重な経験になりました。

――細部までこだわった超大作になったと思いました。

 入江監督が8年にわたり構想し、やっと撮影に漕ぎつけたとおっしゃっていて、構想されてすぐに撮影に入っていたら私はたぶんこの作品携われていなかったんじゃないかと思いました。今回は殺陣を行いましたが、アクションとしての戦うお芝居に興味があり、オーディションを受けさせていただき、少しでもタイミングが違えば、この作品に関われていなかったんだろうなと思うと、タイミングってすごいなぁと思います。参加できてとても嬉しかったです。

――吉本さん演じるお千はセリフはないんですよね。表情で語る感じがとても印象的でした。

 私の役はまっすぐに堤真一さんが演じる骨皮道賢に仕えていて、その“道賢様のため”にという心だけは忘れないように心がけて現場にいました。また、堤さんは私が自然とそうなるような佇まいでした。頼りがいがあって、男らしくドシッとした姿で現場にいらっしゃったので、強く意識せずとも自然と堤さんを尊敬しながら演じることができました。

――ちなみに吉本さん、歴史への興味は?

 役に活かせるならたくさん勉強します。今回、『室町無頼』のスタッフさんが室町時代の資料を用意してくださって、それを読んで勉強しましたが、知らないことがたくさんあって面白かったです。

――蓮田兵衛を演じる主演の大泉洋さんとはお話しされました?

 はい。テレビで見るまんまの方でした。裏表がなくて、現場を和ませてくれる素敵な方だと思っていました。

――先ほど殺陣のお話がでましたが、吉本さんはアクション俳優で、アクションコーディネーターの坂口拓さんに師事されていますが、殺陣は全然別物といった感覚もありますか?

 技術としては別物だと思いました。刀を持つことで相手との距離感が変わるので難しかったですし、お侍さんが使う刀は何度か練習で使ったことはあるのですが、今回短刀でしたし、刀の持ち方も逆手。全てが初めての経験だったので、持ち方もどうしたらかっこよく見えるか、など試行錯誤しました。

――時代劇作品を見て研究されたりも?

 はい。入江監督が前に時代劇のドラマを撮影されていて、それを観て研究していました。

――昨年取材をさせていただいた時に、俳優として「どんどん自分を解放していきたい」とお話ししていたのですが、『室町無頼』の完成した映像を見て、どのように感じていますか。

 『室町無頼』で命がけの戦いができて、より自分自身を解放できたと思います。リアルなアクションがやりたくて坂口拓さんのところに弟子入りして、入江監督もおそらくリアルなお芝居が好きで求めていたんだと思いました。それを感じたのが私が武田梨奈さんと戦うシーンです。最初は二人で練習してきたことを出したいから、どこか綺麗な戦い方になってしまいました。そうしたら監督から「本気で殺し合ってほしい」というお話がありました。

――完成した映像は迫真のバトルシーンになっていましたね。

 ありがとうございます。生きるか死ぬかの戦いで、そのとき改めて自分がアクションに興味を持った理由と合致しました。私はリアルなアクションがやりたくて始めたんだって。だからこそ感情で動かなければいけないという発見がありました。

悩みや全ての感情をお芝居に活かせるようになった

吉本実憂

――つい先日公開された映画『シンペイ 歌こそすべて』やドラマ『それ妻』も違った役柄ですし、幅がすごく広がっていますよね。

 最近思うのが、ちょっと癖のある役や悪女の役が多かったり、最近は個性的な役、よくあるヒロイン像ではない役をいただくことが多いんです。もちろんそういった役もやりたいとは思っていたのですが、実はちょっと思うところもありました、一時期、悪女を演じるのがすごく楽しかったのですが、悪女の役が続くと「私って本当に悪い人なのかも」と思ってしまったときがありました。

――自分に対して疑心暗鬼になってしまう。

 はい。最近は前向きに考えられるようになって、私が個性的な役をやれると思ってくださっているから、お話をいただいているんだという思考になってから変わりました。今はやっていてとても楽しいですし、普段自分が発さない言葉を個性的な役の時は言えたりしますし、私と違う思考回路を持っているのでそれも楽しいです。もっと個性的な役をどんどんやっていきたいなと思っています。

――インパクトが強い役が多かったと思うので、それが続いてしまうとちょっと自分がわからなくなることもあるんですね。

 今はその悩みや全ての感情をお芝居に活かせるようになりました。俳優業は大好きなお仕事なので前向きに捉えています。

――自分自身のことがよく分かってきた。

 普段から何か一つ行動を起こす度に、「なぜそうするのか」と自問自答してきました。お芝居で役と向き合うには、自分自身と普段から向き合っていかないとリアルな感情を解放できないと思うんです。それは、自分ではない人生を生きることになるので、自分のことがわかっていないと、その役のことも深堀りできないと思います。これまで自分なりに向き合ってきたと思うので、どんどん活かされていけばいいなと思います。

――その中で今やってみたい役はどんな役ですか?

 先日公開されたindigo la Endさんの「夜凪 feat.にしな」のMVに出演させていただいたのですが、そのときの役が芸術大学に通っている柔らかい雰囲気の女の子の役でした。私はそれが新鮮に感じました。強い部分と柔らかい部分、両方とも自分にはあると思っていて、プライベートで他愛もない話ししている時は周りから「子供だね」と言われたりするので、素の自分をもっと活かせる役にも出会えたらいいなと思っています。

 今までは役と向き合う上で、自分と役で切り離して考えていました。それは役の人物の方が自分より素敵だと思っていたからなんです。ただ、お芝居を追求していく中で、どうやったらリアルな感情を出せるようになるのかと研究した時に、自分の心の底から生み出したものじゃないと画面を通して心に届かない、一緒にお芝居をしている相手にも伝わらないと思いました。それに気づいてからは自分のいろんな性格の一部を役に活かす作業をしています。

夫婦間のリアルを覗き見しているようなドキドキ感

――ドラマ『それ妻』も現代劇としてとても興味深い内容ですね。風間俊介さん演じる柳田豪太のママ友、みどりを演じてみていかがでした?

 今回のような役は自分はあまりなかったので新鮮でした。みどりは根が明るくてち言葉が荒いところもあるのですが、言っていることはとてもまっすぐで感情がわかりやすい。また、本作はほぼワンシーン・ワンカットで撮影されているのが特徴で、撮影が始まったら最後のセリフまでカットがかからないので、自由度が高くそれがドキドキワクワク感があり楽しいです。

――撮影で印象的だったことは?

 私が風間さんの方を向いてしゃべっている時にカメラの横に足立紳監督がいらして、私は風間さんを見ているから監督の姿はぼやけているのに、足立監督がニコニコしながらモニターを見ている姿がわかって、それがとても可愛いかったです(笑)。

――あはは(笑)

 その姿を見て足立監督に皆さんがついていく理由が分かった気がします。少年の心を忘れていないと言いますか、作品づくりが本当に好きな方なんだと思いました。監督が撮影中にニコニコしてくださっているのを見ると、自分もよりテンションが上がります。最初は足立組に参加するんだと緊張していましたが、すごく楽しくて充実した日々でした。

――吉本さんが思う『それ妻』のみどころは?

 作品として面白いとシンプルに思いました。私はまだ結婚もしてないですし、子どももいないので、本作を人対人で見ることしかできないですが、長年一緒にいたら風間さん演じる豪太が言いたいこともだんだん言えなくなるという気持ちもわかりますし、MEGUMIさん演じるチカが言っていることもわかります。ほぼ会話だけで30分間が成り立っているドラマは、最近では珍しいと思いましたし、その会話劇を楽しんでもらいたいのと、夫婦間のリアルな姿を覗き見しているようなドキドキ感、特に結婚されている方はより楽しんで観てもらえると思います。

いまハマっているのはSUPER BEAVER

吉本実憂

――ところで、先ほど撮影のときにSUPER BEAVERの曲を流していましたが、お好きなんですね。

 はい。SUPER BEAVERさんの「人として」という曲を友達からおすすめされたのがきっかけで、聴いてみたらハマってしまいました。そこからSUPER BEAVERさんの他の曲も聴いたら、全部刺さってしまって。

――何か自分自身と重なるところがあったんですね。

 私はまっすぐな曲がすごく好きで、真っ当が故の葛藤がある曲が沢山あるSUPER BEAVERさんが全部刺さるんです。

――他にはどんな音楽を聴いていますか。

 Mrs. GREEN APPLEさんとマルシィさんもよく聴いています。マルシィさんは2年前くらいにMVリリックビデオに出演させていただいたのをきっかけにハマりました。しかも私と同じ福岡から出てこられているので、東京で活動している親近感もあります。曲も繊細な歌詞にとても共感しています。(吉田)右京さんの声も聴いているととても落ち着くんです。

――前回の取材のときにカフェで勉強しているとお話ししていましたが、今も続いていますか。

 最近はカフェに行くのがちょっと億劫になってしまい、家で勉強しています(笑)。新たにデスクとチェアを用意して作業場所を作りました。

――家だと集中できないとおっしゃっていましたが、それはクリアできたんですね。

 はい。本で読んだのですが、ちょっとやる気がでない時でも机に向かって4分続ければ集中力が持続するらしく、騙されたと思って4分頑張ってみようと机に向かったら本当に集中力が続いたので、今はお家でも大丈夫になりました。

(おわり)

ヘアメイク:藤原玲子
スタイリスト:鈴江英夫(H)

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村上順一

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