INTERVIEW

大沢たかお

「言えないことを言わなければいけない」エンタメの役割と可能性


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:24年02月15日

読了時間:約9分

 俳優の大沢たかおが主演を務めるAmazonオリジナルドラマ『沈黙の艦隊 シーズン1 ~東京湾大海戦~』が、2月9日から Prime Videoで世界独占配信される。大沢は原子力潜水艦を奪い、独立国家「やまと」を宣言した艦長の海江田四郎を演じる。本作は、2023年9月29日に公開された実写映画『沈黙の艦隊』をベースにした全8話の連続ドラマ。劇場版未公開シーンに加え、劇場版の続きとなる沖縄沖海戦、東京湾海戦を描く。インタビューでは、本作のプロデューサーも務める大沢に、連続ドラマとしての配信で期待していることから、「エンタメだからこそドキュメンタリーや現実で言えないことをちゃんと言わなければいけない」、その真意について話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

日本以外の国の人たちがどう見るのか

村上順一

大沢たかお

――劇場版に続いての配信では、海江田が具体的な目標を持って行動し始めますが、配信されるにあたりどのような期待感を持っていますか。

 本作のような連続ドラマというのも、いろんな意味でテーマ性やスケール感も含めてなかなか日本ではできなかったことだと思います。同時にそれが世界配信になり、日本以外の国の人たちがどう見るのかというのも未知数で、一生懸命みんなでやってきたので、楽しみにしているというのもありますが、同時にある程度ジャッジをされるわけなので、不安も同じぐらいあります。僕はチャレンジ精神が強い方だと思っているんですけど、チャレンジをしなければ不安は減るので、減らしたいと思うところもありますが、チャレンジをしないと成長はないし、お客さんも楽しくない。挑戦する以上ついてまわるものなので、これは仕方がないことだと思っています。

――今回プロデューサーとしても深く作品に関わっていますが、プロデューサーとして関わろうと思ったきっかけは?

 元々はプロデューサーとして関わろうと思っていたわけではなくて。プロデューサーであろうがなかろうが、参加させていただく以上責任はあります。自分が協力できることは何でもしたいと思いますし、主演、脇役、サポートだろうと関係ないんです。やることが多いのは事実ですが、自分ができることをやり切るという意味では同じだと思っています。

――海江田はどのような人物だと解釈をされて演じられていたのでしょうか。

 お客さんに掴ませないということです。何度原作を読み返しても海江田の顔が凛々しくて、「きっと世界を変える素敵な人」みたいなイメージでした。きっとその方がドラマや映画は分かりやすいからいいだろうなと思ったのですが、令和になってそういう主人公にみんなが吸い付くように見るのだろうかと。それは原作を映像化する上で一番難しいことだなと思いました。

 海江田の行動は視点によってはテロリストの暴挙なのですが、それを前面に押し出したらどうなるのかと思いました。皆さん普通に生きるのも大変になってきて物価も上がってお金も大変、考えられないことが起きるような連続の世の中で、『沈黙の艦隊』の存在意義とはなんだろうと、ずっと悶々としていました。海江田という主人公は正統派を意識したというのをかわぐち(かいじ)先生は書かれているのですが、そうではない感じにしたらどうなるのか、どうしたら新しい時代と合うのか、お客さんが最後までドキドキワクワク、ヒヤヒヤしながら見てくれるのかを考えました。

――スケール感の大きな作品になりました。日本の映画やドラマが1歩先に進めるような期待感もありました。

 先の進め方って360度いくらでもあると思っていて、一方向だけじゃないと思っています。あらゆる可能性と方法がエンターテインメントにもあって、僕らはたまたまエンターテインメント直球のスケール感と政治性みたいなところで今回はやりましたけど、もっとお金を使わないすごく小さな世界観でもできますし、もうちょっとドキュメンタリー的な方向や、音楽ベースの世界観など可能性は無限大にあると思います。

 ただ、曖昧なこととか、躊躇したり置きに行くようなことはやったらダメだと思っています。世界の各エンターテインメントも1 点突破で来るわけです。そこに行くには我々も忖度せず言うべきセリフをしっかり残して、躊躇してはいけないんです。

――対峙する相手がアメリカというのも興味深いですね。

 原作だと中国とか他の国も色々出てくるのですが、そこをどうするのか、という問題もありました。結論として敵が曖昧でわからなくなってしまいました。映像だと漫画のような説明が難しいので、今回敵を明確にしたのは、なるべくお客さんに分かりやすいようにするというのがありました。

 我々の国のあり方やそれに対峙していくということが、この作品の面白いところです。マスコミや国民の問題になったり、政府や官僚に対して我々は腹を括れるのか、というのをエンターテインメントとして見せていくのが面白い。そこを曖昧にしてしまうと面白くない。

 日本政府の描写が歯切れが良くてバンバン決めてしまう感じだったらおかしいですし、皆さんの顔色を伺ったり、「そんなことしたらアメリカは怒るんじゃないか?」みたいなところなど、アメリカ人がこのやりとりを見たら疑問に感じると思います。でも、おそらく日本人は不自然に思わない。それは我々が日本ってそういう国だと認識しているからで、それは僕らにしかできない切り口です。それらを世界の人がどう見るのか興味深いです。

満足していたら芝居はやめている

村上順一

大沢たかお

――海江田を演じていく中で感じたことはありましたか。たとえば海江田のような人物になってみたいなど...。

 いやいや、海江田にはなれない(笑)。彼は頭がとてつもなくいいんでしょうね。海底の地形などデータを全部頭に入れて、原作では各国と対峙したときのシミュレーションもできて、交渉術もあって、読心術にも長けている。言葉の端々、相手の動き、計画の一つ先を読んでいきます。そういう意味では僕が彼みたいな人物になるのは到底無理です。僕は本能で生きているただの俳優なので海江田とは真逆。ただ、あそこまで頭が良くて物事を考えられたら、ああいう行動もしなくもないのかな? とは思ったりはしました。

――人がやらないことをやる、チャレンジングなところは大沢さんと海江田は重なるんじゃないかなと思いました。

 僕の場合はスリル好きというのがあるんですけど、シンプルに問題意識なんだと思います。現状が面白くないんですよね。現状何か違うと思っているから違う挑戦をするんです。

――ということは、大沢さんは現状に満足はされていない?

 満足していたら芝居はやめていると思います。こんなにも大変な仕事はなかなかないです。でも何か問題を感じていて、もしかしたら突破できるんじゃないかと思いながら、いろいろな企画に飛び込んでいく感じはあります。次元は違うけど海江田も問題を抱えていて、その問題を解決する最終手段が潜水艦を奪うという、ある種の犯罪にいってしまった。僕の挑戦は犯罪ではないけど、海江田は部下の命を預かってまでやるなんてスリルどころの騒ぎじゃない。そこまで彼の中では問題が深刻だったんだと思います。

――現状に満足していたら辞めているというお話がありましたが、大沢さんがこの仕事を続ける意味、役者の醍醐味はどこにありますか。

 人気商売なので何十年も続けられるほど甘い仕事ではなくてたまたま続いている、続いたというだけなんです。そもそも役者というくくりがちょっと良くないなと思っていて、それはいろいろな役者さんがいて、その在り方は自由なんです。映画が好き、お金を稼ぐため、自己主張の場、女の子にモテたい、役を通して別人になりたい、取材でいろいろな人に会いたいからなどたくさんあると思います。シンプルに僕は作品を通してみんなが楽しんでくれたり、ドラマを見て元気になった、勇気をもらった、来週が楽しみでしょうがないなど、顔も見たことがない人たちにそう言ってもらえることに幸せを感じています。とても恵まれた仕事をさせてもらっていて、知らない人の心の中まで届けることができる仕事もなかなかないですから。

 例えば僕に家族がいて子供を育てなければいけない、お金を稼がなければいけないとなったらまた違う俳優のあり方に僕はシフトすると思います。僕が独り身だというのと挑戦が好きなので、どんどんエッジがある方に行ってしまっている。ジェットコースターが好きな人ってどんどん怖いものを探していくじゃないですか。スリル好きな人はスカイダイビングや、ウイングスーツを着て飛ぶ人もいたり、永遠にスリルを求めていくわけです。でもそこに整合性も合理性も関係ないんです。そういう意味ではいずれ僕も飛んでいるかもしれない(笑)。

エンタメだからこそちゃんと言わなければいけない

村上順一

大沢たかお

――さて、海江田はクラシック音楽を聴きながらいろいろ考えたり、作戦を実行することがありますが、大沢さんにもそういった音楽はありますか。

 僕の場合、作品によって変わっていきます。全く音楽を聴かないこともあるし、例えば『沈黙の艦隊』では部屋に戻ったら劇中で流れているクラシックだったり、音楽を流してそれを聴きながらいろいろ考えたりしていました。それは役と作品への糸口が見えないときに、少しでもきっかけを作りたいからなのですが、音楽のときもありますし、湿度だったりするときもあります。

――湿度ですか?

 雨の中、外を歩いていたらうまくいかない仕事に対して思いついたことがあったんです。ある撮影で雨のシーンがあって、雨に濡れた瞬間に過去にうまくいったことを思い出して、それから必ず本番前にスタッフさんからお水を借りて、手を濡らして2ヶ月間撮影をやっていました。またそれがきっかけで思いついたアイデアがあって、ちょっとしたことで糸口が見つかることがあるんです。

――バタフライエフェクトですね。

 物事の発明って最初からすごいものはないと思います。まさにこの『沈黙の艦隊』も海江田という1人の男が巻き起こしたことがやがて世界中を巻き込んでいく。もしかしたらそれが未来を変えるぐらいのことになるかもしれない。でもそれは最初はちょっとした疑問からで、全ては小さなきっかけからだと思います。

――大沢さんはこの作品からどのような発見がありましたか。

 エンタメだからこそドキュメンタリーや現実で言えないことをちゃんと言わなければいけない。エンタメだとそれができるんです。だから逆にリアルだったりするんだなと今回思いました。潜水艦もエンタメ、映画じゃなければ貸していただけなかった。「エンターテインメントとしてですよね?」と再確認される。日本の皆さんが楽しんでくれるなら海上自衛隊も協力させていただきますと。この作品がドキュメンタリーだったら難しかったと思います。気づくことがたくさんあった作品でした。

――さて、もし現実に海江田がいたら、大沢さんは友達になれそうですか。

 彼は無口だから無理だろうなあ。たまにしか連絡こなさそうじゃないですか。それは厳しいですよ(笑)。

――気難しそうな海江田とも、大沢さんだったら友達になれるんじゃないかと思いました。

 あはは(笑)。ただ彼のミッションに利用される末端にはなれるかもしれない。海江田のいいように手の上で転がされるんじゃないかなと思います(笑)。

(おわり)

ST:黒田領
HM:松本あきお(beautiful ambition)
衣装クレジット:
ニット/ルフォン(シアン PR)、その他スタイリスト私物

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村上順一
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