日本武道館で単独公演を行った花澤香菜

日本武道館で単独公演を行った花澤香菜

 声優として絶大な人気を誇り、シンガーとしてもヒットを連発、最近では実写映画にも主演するなど幅広く活躍する花澤香菜(26)が去る3日、東京・日本武道館で最新アルバム『Blue Avenue』のリリースツアーをスタートさせた。本公演のレポートを通じて声優が日本武道館で単独公演を行うことの偉大性、そして彼女の魅力を伝えたい。  【文・桂伸也】

声優にとって日本武道館とは

写真・花澤香菜の日本武道館公演10

 「昔は声優の仕事は、普通の俳優の仕事と比べると、ランクの低い仕事という認識をされていたんです」――。

 筆者がかつて、あるベテラン声優にインタビューを行った際にそのような話を聞いたことがあった。ようやくアニメというものが日本の芸術としての市民権を獲得し、声優という存在が大きく取り上げられ始めている昨今でも、日本武道館という舞台は大きなチャレンジであることに間違いはない。

 花澤は幼い頃より子役として活動、14歳のときに声優としてのデビューを飾った。そのキャリアを重ねながら、2012年に歌手としてのデビューを発表。以後、8枚のシングルと今回のアルバムを含め3枚のアルバムをリリース。2013年のファーストアルバム『claire』リリース時には、歌手デビュー1年で東京・渋谷公会堂、大阪・NHKホールへの出演を果たすなど急成長を遂げ、まさに押しも押されもせぬ存在として現在、多くの支持を集めている。

 今年3月には自身初主演となった映画『君がいなくちゃだめなんだ』が公開されるなど、アーティストとしてさらに表現の幅を広げた花澤だが、それでも彼女にとってこのステージへの挑戦は、大きな重圧としてのしかかったに違いない。その一部始終を見届けるべく、会場には多くの人々が詰めかけ、彼女の登場を待ちわびていた。

飾り気のない親しみ易さと暖かさこそが花澤の魅力

写真・花澤香菜の日本武道館公演6

 今回のこのステージは、彼女らがアルバムの制作でも訪れたNewYorkをイメージしたセットがすえつけられていた。定刻より少し時間が押した開演。間もなく訪れるスタートを告げる「Enjoy the New York like “Blue Avenue”」というアナウンスが会場に流れると、フロアの観衆は声を上げ「いよいよ」という気構えと共に、それぞれの手に持ったサイリウムやペンライトに灯をともした。

 そしていよいよステージの幕開け直前、会場が暗転すると、その明かりがあちこちに浮かび上がった。文字通り、ツアータイトルに謳われた『Blue Avenue』の出現だ。やがてステージにライトがあてられると、花澤のバンドであるディスティネーションズのメンバーが既にスタンバイしていた。そしてプレイが始まると、いよいよ花澤が多くの歓声に迎えられながら、ステージに登場した。

 「みんな! 1回きりの武道館、楽しんでいってね!」。ステージ中央に駆け込むように登場した花澤の表情は、喜びに満ちあふれていた。そんな彼女につられるように、観衆もまた大きな喜びの歓声を上げた。

 オープニングナンバーは最新アルバムの1曲目「I LOVE(正表記はハートマーク) NEW DAY !」。今日というこの特別な日を祝うかのような晴れやかなナンバーだ。あふれるほどの笑顔をずっと絶やさない花澤。「次はこっちに行くよ!」とステージの下手、次には上手と駆け回り、さらには観衆とのコール&レスポンスと、彼女の思いを次々と観衆に伝えていく。

 花澤の歌を多く手がけているのが、ディスティネーションズのリーダーでもある北川勝利。彼の描いた楽曲は、70年代から80年代のジャズ、フュージョン、クロスオーバー、AORに通じるテイストのグルーヴィーかつ清々しいサウンドをベースに、様々な色彩感を作り出し、花澤の歌にまさしく「花」を添えている。

 そしてその曲を自身の声でシンプルに歌い上げ、ステージに立つうれしさを体いっぱいで表現する花澤。彼女のステージングに特別なパフォーマンスや表現はないが、その様子を見ているだけで、見るものの気持ちは彼女にどんどん惹き付けられていく。

 現実離れした美しさよりも、自身からにじみ出る飾り気のない親しみと温かさ、それこそが花澤の魅力といえるだろう。「身近にこんな友達がいれば」と感じるものも多くいるかもしれない。彼女といるこのライヴの空間を共有する、それだけでなおさらその気持ちを強く感じることができる。

記事の続き:花澤とファンたち、お互いが「いなくちゃだめ」な存在

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