INTERVIEW

田中麗奈

「世界観と人を大切に」キーパーソンとなる役で意識していたこと:『いちばんすきな花』


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:23年12月20日

読了時間:約7分

 女優の田中麗奈が、フジテレビ系ドラマ『いちばんすきな花』(毎週木曜よる10時~)に出演。4人の主人公たちが紡ぐ物語の中で重要な役どころともいえる志木美鳥を演じる。物語の主人公は潮ゆくえ(うしおゆくえ/多部未華子)、春木椿(はるきつばき/松下洸平)、深雪夜々(みゆきよよ/今田美桜)、佐藤紅葉(さとうもみじ/神尾楓珠)という別々の人生を送ってきた4人の男女が、それぞれの日常のなかで“友情”や“恋愛”にまつわる人間関係に直面する。境遇だけでなく、考え方も全く違う彼らが、ふとした出来事を機に巡り会い、“友情”と“愛情”というテーマに自然と向き合っていくことになるストーリー。インタビューでは、7話から登場し、SNS上でもその存在が話題となっていた志木美鳥をどのように演じようと考えていたのか、共演者とのエピソードなど撮影の裏側に迫った。【取材・撮影=村上順一】

ネガティブなワードを自分の中に入れて傷つかないようにしていた

ドラマ『いちばんすきな花』第9話キャプチャ(C)フジテレビ

――本作をご覧になっていた時の印象は?

 優しくて繊細、言葉がすごく耳に残るドラマだと思いました。哲学的な言葉、格言もあったりするのでリラックスして観ながらも、グサッと刺さるような不思議な感覚があります。また、自分が出演することが決まってからはドラマを見る目線も変わりました。ただ楽しいという感覚だけでは見られなくて、プレッシャーもあるので、イチ視聴者には戻れなくなってしまいました。

――プレッシャーを感じていたとのことですが、どのように乗り越えましたか。

 いまだにプレッシャーは感じていて乗り越えていないです。そのプレッシャーを表現の力に変えていくという考えで臨んでいます。

――本作のテーマとして男女間の友情は成立するのか、というのもあるかと思うのですが、その点について田中さんはどう思いますか?

 どちらもあると思っていて、イエス、ノーでは答えられないと思っています。それぞれの人生の状況で変わってくるので、小学生の気持ちのまま大人になるのもちょっと違うと思いますし、大人になったらなったで相手と自分の状況も変わってくるので、あるなしだけじゃないと思います。

――田中さんは経験上それを実感されていて。

 はい。結婚したり子どもができたり、生活する中で人間関係も変わることは自然なことですし、男女の友情あるなしというところでも、絶対あるよね。絶対ないよねというところではないんです。

――美鳥の存在がすごく注目されていたと思うのですが、視聴者の声はどのように受け取っていましたか。

 緊張とプレッシャーがありました。実際登場して「これは(想像していた)美鳥じゃないよ」、「なんだ田中麗奈か…」とか、そういったネガティブなワードをたくさん自分の中に入れて、傷つかないようにしていました。私は「美鳥が出た時にバッシングがきたら慰めてください」と夜々役の今田美桜さんに言ってましたから(笑)。

――実際はポジティブな言葉が多かったと思います。

 プロデューサーの村瀬(健)さんの涙を見られたことが一番嬉しかったです。実際放送された時、私は撮影をしていたので、反応は見られなかったのですが、放送が終わって撮影セットを出たところに村瀬さんがケータイを握りしめて立たれていて、「田中さんでよかったです」と言ってくださって。村瀬さんは「視聴者の反応を見て泣きそうになりました」と仰っていましたが、もう涙は出ていたんですけど(笑)。そのときまずは第一関門は突破したかなと思いました。

――美鳥を演じる上で大切にしていたことは?

 多部さん、松下さん、今田さん、神尾さんの4人がすごく良い雰囲気だったので、その世界観を大切にしたいと思っていて、その中のお1人と対峙した際にも、その人を大切にするということを意識していました。

――撮影を通して新しい発見、気づきみたいなものはありましたか。

ドラマ『いちばんすきな花』第10話キャプチャ(C)フジテレビ

 ゆくえとのシーンは、彼女の波長に合わせたい、彼女の発している周波数に入っていくようなものをイメージしていました。ゆくえがこのドラマの世界観を全て体現していると思ったので、声のトーンや強弱など合わせて臨みました。美鳥のベーシックな状態はゆくえと一緒にいる時だと思っていて、そこがバチっと合った時がすごく心地よくて。ゆくえのおかげで美鳥を作ってもらえていたんだという発見がありました。

――普段から声や波長など意識されるタイプ?

 すごく意識します。声で表現できることもたくさんあると思いますし、その要素は声のトーンにもあると思っていて、今回は余計敏感になっていたと思います。

――4人のお芝居はいかがでした?

 台本で15ページ以上ある長いおしゃべりのやり取りを皆さんはやられているので、本当にすごいなと思いました。今回は会話というよりおしゃべりという表現が近いと思いました。会話というのは一つひとつに意味があって、話す内容もちゃんとしていて話題としてわかりやすいと思うのですが、今回はそういう感じではなくおしゃべりが多いイメージです。テンポよく雑談を入れながら、動き回っておしゃべりをしているというのがこのドラマの1つの醍醐味だと思います。すごく難しいことなのに4人はナチュラルにやられていて、レベルの高い素晴らしい役者さんたちだなと思いました。その空気感が素敵でずっと見ていたいと思わせてくれました。

――そんな共演者の方とのエピソードはありますか。

 多部さんとはお互いの子どもの話、今田さんとは福岡出身というつながりもあるので、地元の話をしていました。神尾さんとはドラマの感想を私が話したり、松下さんは睡眠時間の話をしていました。また、松下さんは、「全スタッフ、キャスト陣が美鳥役を引き受けてくださってありがとうございますと思っていますよ」とお話ししてくださって。それはうれしかったのですが、私はそういったお話を聞けば聞くほどプレッシャーになって行って(笑)。あとは、カードゲームを4人でやっていたところに私も混ぜてもらったんですけど、それも面白かったです。こうやってアイコンタクトとかコミュニケーション能力を高めているんだと思いました。

夢は覚悟の1つでもある

村上順一

田中麗奈


 
――田中さん、いま夢はありますか?

 子どもの頃はお芝居のお仕事がしたいと思っていましたが、いま夢はないです。それでもいい気がしています。私が小さい頃は「夢を持て」とよく言われていました。夢を持つことはすごく素晴らしいことですが、ちょっと苦しいこともあると思います。子どもは夢を持たないとダメ、でも夢を持ったら持ったで今度は叶わないことが苦しいって。私は「夢なんか持たなきゃよかった」と思ったこともあります。この仕事をやりたいと思う気持ちや理想もあるけど、そこに届かないことが苦しすぎて、こんな夢を持たなければ良かったなって。

 夢ってある意味覚悟の1つでもあると思うので持ってしまうことで前進もできるけど、何もない時に自分を痛めつけるものでもあるから、小さい子に「夢を持ちなさい」と自分は言おうと思わなくて。好きなことを見つけて、やりたいと思ったらやればいいし、自分がそれを夢という名前をつけるのならば、それでいいと思います。

――さて、主題歌は藤井風さんの「花」ですが、この曲を聴いて感じたことはありますか。

 歌詞が今の自分にリンクしたり、ドラマを毎週観ていて、今日は「花」の歌詞のこの部分が入ってきたとか、ドラマの流れによって同じ歌でも違うように聴こえてきました。聴くたびに新鮮で発見があるので、すごい曲だなと思いました。

――ちなみに普段はどのような音楽を聴くことが多いですか。

 私は歌が入っていない音楽、たとえばビル・エヴァンスとかジャズが好きでお料理する時に流していることが多いです。また、今回の撮影に入る前はドラマ『silent』を一気に観ていたので、主題歌の「Subtitle」(Official髭男dism)を聴いてすごく元気をもらって、「よし頑張ろう!」と奮い立たせていました。

――最後に続きを楽しみにされている方へメッセージをお願いします。

 生方(美久)さんの脚本はクロスワードを解いていく、解読していくような面白さがあります。それはストーリーが進むとどんどん明確になっていきます。あそこが繋がってたんだ、とかこのテーマはここで解決するんだ、着地点はここだったんだ、など知的感覚みたいなものを満たしてくれるところもある作品です。10話、11 話に向けて更に盛り上がっていくので、言葉を大事に観ていただけたらうれしいです。

(おわり)

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