石川恋

　モデルで女優の石川恋がデビュー10周年、30歳の節目に写真集『SIGNS』を特別限定版は９月２日、通常版は９月17日に発売する。フォトグラファーの富取正明氏が「新たな名刺代わりになるものを」と呼び掛け。「崩壊と再生」をテーマに東京や北海道、トルコなどで撮影した。一枚一枚の写真にコンセプトを設け、一人の女性が新たに生まれ変わるさまを映画のような規模感で撮影、表現した。商業性を超えた芸術性のある作品で石川恋の今後の活動に大きく弾みがつきそうだ。石川自身も企画から携わった意欲作。そのこだわり抜いた写真集の裏側に迫る。【取材・撮影＝木村武雄】

新たな名刺代わりに

――写真集発売の経緯は？

　デビュー10周年と30歳の節目に「何かを残せたら」と思っていたタイミングで富取さんから「30歳に向けて名刺代わりになるような写真集を出したい」とお話を頂きました。お客様に対しても一緒に仕事をしている関係者の皆様にも「石川恋はこういう表現ができる、こういう表現を求めていくことを伝えられる写真を一冊にまとめたい」と言って下さって、その思いに共感して一緒にやらせて頂くことになりました。私の仕事は用意された衣装のなかでテーマに沿って表現していくことですが、写真集は自分そのものを表現するものなので私も一から関わらせて頂きたいとお願いをしました。企画から予算、宣伝までを経験することで、一冊の写真集を作るのにどれだけの方が携わっていたのかを肌で感じて、改めて覚悟と責任感が生まれました。いろいろな思いがあるなかで発売まで辿り着けたのは感慨深いです。

――写真集の構成は富取さんと進められた？

　どう撮るかも含め構成は富取さん主導で決めて下さいましたが、撮影場所、どういう事を表したいのか、どういう衣装で臨みたいのかは随時話し合いました。そのなかで私が決めたのは「崩壊と再生」というテーマです。それが大枠にあって、それぞれの写真にもコンセプトを設けました。例えば、水を浸かった撮影でしたら「洗い流す」意味があったり、雪の北海道では純白の世界観を「真っ白な世界でこれから色をつけていく」と表現してみたり。洗い流した私が何の色にも染まっていないところから新たにスタートするという意味になっていて、その後にはトルコでの自分探しの旅や、最後の赤い衣装では新たな色が付く――、そんな構成になっています。

石川恋

――アイデアをどう形にしていったんですか？

　みんなそれぞれが持ったイメージを随時共有していきました。ロケーションを決めて下さったのは富取さんでしたので、その場所でどういう表現をするのかというのを他のメンバーとも話し合って固めていきました。この1年間は毎月のように撮影があり、撮影の度に次の撮影はどうするかというのを打ち合わせしていたので、一人ひとりがそれぞれアイデアを出し合って作り上げた感じです。

石川恋

過酷だった撮影で得た産物

――衣装も何着が用意されていたかと思いますが、それでも大自然を相手にしていることもあって相当難しかったのではないかと察します。特に氷点下25度の北海道は…。

　本当に難しかったです。旭川で撮りました。２月の北海道で、２パターンを撮るのに天候が心配で二泊三日のスケジュールを組みました。でも１日目は雲ってしまい衣装のイメージを変えましたが、こうして見ると曇りに赤の衣装が映えて素敵な写真になったと思います。次の日は晴れて真っ白なキラキラした写真が撮れました。全く同じ場所ではないけど、似たような景色のなかで曇りと晴れでは空気感が違い、しかも衣装も変わったことで対比が生まれて良かったです。

――先ほど「何色にも染まっていない」という趣旨を話されていましたが、朝焼けなのか夕陽なのか太陽の光を浴びて少し赤みがかった色になっていて、薄く色づく光景から既に何かが始まっているような暗示にも感じられます。

　そういうふうに見て考えて下さってすごく嬉しいです。ロケーションもそうなのですが、衣装にも様々な工夫がなされています。例えば、写真集の最後の方にある毛糸に巻かれた私が雨に打たれている写真。富取さんに「今まで見たこともないもので体を隠して欲しい」とスタイリストさんがオーダーされて、私もどういうものがいいか一緒に考えていたんですが、当日持ってきたのがあの毛糸でした。確かに今まで見たこともないですし、撮ったら富取さんも「面白いよ！見たことない！」と仰っていて。その撮影は写真集撮影の初日で「新しい事にみんなでチャレンジしてく！」という決意のような気持ちが初日に作られたのは良かったです。

石川恋

クリスマスの撮影

――毛糸にも深い意味がありそうですね。

　後にスタイリストさんに聞いたら「崩壊と再生」というテーマがあったので、これまで私が歩んできた道を、紡いでいる毛糸で表現して、新たに生まれ変わるためにそれを解いていくという意味を込めたと言っていて、本当に感動しました。

――文脈を読むようで面白いですね。最後に撮られたのはどの写真ですか？

　写真集の一番最後にある写真です。29歳からずっと追ってきてもらって30歳になった後に撮った１枚です。この撮影の時は既に写真集に掲載する写真のセレクトは終わっていて、この見開きが空いている状態でした。撮影はここに収まる写真と決まっていたので「これは1枚で勝負する」と富取さんが仰って。メイクもあまりしないでなるべく素顔に近い状態で「私の30代はこういうふうに生きていく」という気持ちのなかで私も勝負しました。

石川恋

――水のシーンはどう撮られたんですか。

　プールがあるスタジオで撮りました。プールに水を溜めて上からも水を降らせてという具合でしたので目は開かないですし、撮影日がクリスマスでプールの水を温かくしてもらいましたがすぐに冷めてしまって、ガタガタと震えながら撮り上がったらみんなでストーブを囲って「よっしゃ！もう一回行くか！」みたいな感じでした（笑）

――水がキラキラと光って結果的にクリスマスのようにもなってますね。

　確かにそうですね！面白いアイデアがどんどん生まれて、見たことのないような写真集になったと思います！

石川恋

彫刻のような美ボディ

――限定特別版の表紙がかっこいいですね。白の衣装に鍛え抜かれたボディが写し出されて。

　「黒と白の世界で撮る」という富取さんの世界があって全て対比で裏と表の二面性を表現しています。肌の露出にも同じ意味があります。ボディメイクにもすごくこだわって、もともとこの1年は気を付けていたんですが、水着やランジェリーを着ることが事前に分かる時は食事制限をしたりジムに通っていました。

――筋肉がすごいですね。お腹だけでなく、胸のあたりまで仕上がっていて彫刻のような…。

　彫刻のような筋肉を目指していたので、筋肉を褒められてすごく嬉しいです。

石川恋写真集『SIGNS』限定特別版

石川恋写真集『SIGNS』通常版

――それと桜をバックに撮られた写真。このロケーションを選んだ理由は？

　桜は何かが新しく始まる季節の象徴だと思うので、洗い流して何もない純白の世界で色がないなかで、「どうやって始まっていくか」という「始まり」をイメージしています。

――衣装をピンクにしたというのもスタイリストさんのアイデアですか。

　桜とピンクのセットアップが着たいと伝えました。

――このピンクの衣装が梅のような印象を受けました。梅はだいたい３月が見ごろで、桜は４月。梅と桜を混在させる意図があったのではないかとふと感じました。卒業の３月、新生活の４月という具合に。

　すごいですね！そういうふうに写真を見てこういうイメージなのかなって考えてもらえたら嬉しいです。捉え方は人それぞれですし、見た感想は人によって全然違うので、押し付けるものでもないですし、梅って言ってもらえてすごく素敵な感想をいただけたなって感動しています。

石川恋

伏線の回収場所、東京タワー

――東京タワーでのシーンはどんな舞台裏がありましたか？

　コロナ禍で直接ファンの皆様とお会いできるイベントが前回の写真集から何年もできていませんでした。常々イベントはやりたいと思っていたなかで、たまたまご縁があって９月に東京タワーのギャラリーで写真展を開催することができることになりました。そこに合わせるように急ピッチで撮りました。もともと撮る予定はなくて奇跡が重なって実現したと思います。私にとって東京は10年生きてきた場所ですし、東京タワーは東京を象徴する場所。そこで「これからも強く生きていくんだ」という気持ちを込めて撮りました。

――衣装を白にした理由は？

　北海道の撮影の時に、「色が付いていない」ということを表現するために白の衣装を集めてもらったなかで私がすごく気に入ったドレスです。ウェディングドレスのように見えますが、ビニール袋でできているんです。それがすごく面白くて。ただ北海道は氷点下25℃なので凍傷になってしまうから肌は出せないとなって諦めたものです。残念な気持ちでしたが東京タワーでの撮影が決まって「着たい！」とお願いしました。この日は大雨で最悪なコンデションだと思ったんですけど、撮ってみたら雨がキラキラを演出してくれ綺麗な写真になりました。「無理かも…」と思ったことも「こうなったら素敵かも」とみんなのアイデアと力でプラスに変えてきました。それが写真集に詰まっています。

――人生の歩みを象徴しているかのようですね。マイナスなことも天候も全てプラスに変える。いわばすべてを味方にしてきた写真集なんですね。

　その通りだと思います。写真集に携わってくれたみんなに感謝しています！

石川恋

（おわり）

衣装協力／furuta、e.m.、CHARLES & KEITH