INTERVIEW

坂東龍汰

「ボクシングシーンにすべてをかけていた」リアルを追求した撮影の舞台裏:映画『春に散る』


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:23年08月26日

読了時間:約5分

 俳優の坂東龍汰が、映画『春に散る』(8月25日公開)に出演。世界戦を控えたボクサー、真拳ジムのホープ大塚俊を演じる。原作はノンフィクション作家・小説家の沢木耕太郎の同作が実写映画化。主演に佐藤浩市と横浜流星。共演に橋本環奈、片岡鶴太郎、哀川翔、窪田正孝、山口智子らが集結。瀬々敬久監督がメガホンを握った。ボクシングを通して、世代も考え方も千差万別な人間と人間が、ぶつかり合いながらも愛や絆を見つけようともがく姿を描く。インタビューでは、リアルを追求した本作での舞台裏、どのような意識で役に臨んだのか、坂東龍汰に話を聞いた。

試合のシーンで何を残せるのか

村上順一

坂東龍汰

――ドラマ『未来への10カウント』(テレビ朝日系)に続いて、2回目のボクサー役ということですが、臨む姿勢も違ったのでは?

 そうですね。今作から初めてボクシングをやるとなった場合、かなり厳しかったと思うのですが、半年間ぐらい松浦慎一郎さんと一緒にトレーニングしていたので、そういうところでも安心感ありました。

――『未来への10カウント』の時はボクシングが初めてだったこともあり、体力もあまりなかったとお聞きしています。

 最初は1ラウンドでへたばっていました。でも今回は1ラウンド2分という尺なのですが、4〜5ラウンドはスパーリングしてもへこたれない体力がついていたので、しっかり成長できていることを実感しました。

――演じるにあたって意識されていたことは?

 今回僕が演じた大塚俊は東洋チャンピオンで、試合では上裸になって体が見えるシーンが多いので、フィジカル的な見栄えを意識してトレーニングしてきました。『未来への10カウント』の時は高校生役で、衣装がタンクトップだったので、そこまで意識していなかったんです。そして、僕は流星くんとスパーリングや試合のシーンが多かったので、そこで何を残せるのかというのは勝負どころでした。ボクシングシーンにすべてを掛けていたので仕上がりには満足しています。

――今回、相当リアルを追求されていて、試合シーンの迫力がすごいですよね。

 パンチは寸止めではなく、顔以外は実際に当てているところもあって、そういう部分のリアルさはすごいと思います。松浦さんの作ってくださるボクシングは感情をしっかり意識して作られていて、大塚俊の感情というものを優先して作ってくださっているので、すごくやりやすかったです。ただガムシャラに殴り合っているわけではなく、アッパー、ジャブ、ワン・ツー(パンチ)の時など、大塚俊はどういう気持ちで打っているのか、一つひとつのアクションの意味が理解しやすかったです。

――大塚俊という人物はどのように捉えて演じていましたか。

 おそらく彼は大きな挫折とか負けというもの、これまで知らずにやってきた強い人で、真摯にボクシングをやり続けてきていて、もう自分にはボクシングしかないという人物だと思います。その中で初めて敗北というものをスパーリングで知って、一気に気持ちが変わっていく。ボクシングの捉え方、勝負というものに取り憑かれていく大塚俊の心境の変化というのも感じられると思います。

――演じていく中でどのようなことを感じましたか。

 大塚俊はチャンピオンで、東洋チャンピオンベルトを持っている。毎回格闘家の方々は大きな試合で負けた時は、いろいろな選択肢が頭の中によぎるんだろうなというのは演じていて感じました。実際に芝居をしている瞬間にもいろいろな感情がわき上がってきました。試合シーンを撮り終わったときはアドレナリンが出ているし、哀川翔さん演じるトレーナーの藤原次郎との関係性も相まって、グッとくるものがありました。

――主演の横浜流星さんとはお話しされました?

 ボクシングや体格の話をけっこうしました。「胸の筋肉が厚くて羨ましい」と言ってもらえたり(笑)。流星くんは「俺は胸の厚みがないんだよな」とか言っていましたけど、僕から見ると「いやいや、十分あります」みたいな。流星くんはとくに背中の筋肉がすごかった。鏡の前で上裸になって「そこ大きいね 」とか2人でわちゃわちゃしていた記憶があります。

俳優業は生きる希望になっている

村上順一

坂東龍汰

――格闘技やスポーツ全般に言えることだと思うのですが、集中力が高まるとスローモーションに見えたりする。ゾーンに入る瞬間というのがあると思うのですが、坂東さんはお芝居をしていて、ゾーンに入った経験はありますか。

 感情が溢れすぎて記憶が飛ぶ、みたいなことはありました。それがゾーンに入っているのかは判断が難しいのですが。ゾーンに入った時って実はあんまり覚えていなくて。いつの間にか入って、いつの間にか冷めているといった不思議な感覚です。

 そうそう、松浦さんと本格的にスパーリングをしたのですが、松浦さんがスローモーションになって顎が見えた瞬間があったんです。そんなふうに顎が見えることは普段はなかったのですが、アッパーをしてみたら松浦さんの顎にキレイに入って。松浦さんから、「成長したな」と言ってもらえて嬉しかったです。

――記憶が飛んだシーンというのは、試写で改めて客観的に見るとどのように感じているんですか。

 反省点もありますし、逆にそういう時にしか出せない表現だったりするのかなと。それこそ流星くんとの試合のシーンは、ゾーンという表現があっているのかわかりませんが、その時にしか撮れないものがあったと感じています。積み重ねてきたことがそこでひとつ幕を閉じる。大塚俊そのものになっていたのでリアルに悔しくて。「まだ戦えるぞ」という気持ちが芽生えたり、それはリングの中で一緒に手を合わせてやっているからこそ、出てきたものなのかなと思います。

――普段とは違う感覚になることが、ゾーンなのかなと思います。

 リングの上というのは神聖な感じがしています。 今まで戦った人たちの魂みたいなものがあるような気がして、不思議な感覚になりました。松浦さんもおっしゃっていたのですが、「実際リングに立つとリングに飲まれるよ。不思議な力があるから気をつけて」と話してくださったのですが、確かにその通りだなと、その言葉を実感しました。

――お芝居とかそういうものを超越されていたんですね。

 それこそ試合のシーンは、カメラを意識することが1回もなかったと思います。

――最後に本作は「どう生きるか」というのもテーマにあると思います。坂東さんは、生きるというところで、お芝居はどのような存在になっていますか。

 今はありがたいことにお芝居ができる環境にいますけど、もし今後一切芝居ができないという状況になると、生きる希望がその瞬間はなくなってしまうかもしれないです。きっとお芝居の代わりになる何かを探すと思うのですが、メンタル的にかなりきついと思います。このお仕事を始めてからまだ6年ほどなのですが、芝居を諦めろといわれても諦められないくらい、僕の中で俳優業は生きる希望になっています。この作品のストーリーに通ずるものがあります。

――お芝居は自分の人生にとって欠かせないものになっていると。

 そうです。お仕事は自分が頑張らなければいただけないものですし、他の人がいて生かされる職業でもあるので、みなさんの期待を裏切らないよう頑張ろうと思います。

(おわり)

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