BLUE ENCOUNT、田邊駿一「後悔させてはいけない」バンド活動への想いとは
INTERVIEW

BLUE ENCOUNT

田邊駿一「後悔させてはいけない」バンド活動への想いとは


記者:村上順一

撮影:

掲載:23年06月24日

読了時間:約11分

 来年メジャーデビュー10周年を迎える4人組ロックバンドのBLUE ENCOUNT(以下、ブルエン)が、ニューシングル「有罪布告」をリリースした。シングル発売に先行して配信されていたテレビ東京系ドラマ8『弁護士ソドム』主題歌「有罪布告」と、映画『映画刀剣乱舞-黎明-』主題歌「Destiny」の2曲を収録。アグレッシブなナンバーと新たな夜明けを感じさせる壮大なバラードという、表現の振り幅のあるシングルとなっている。MusicVoiceでは、田邊駿一(Vo.Gt)にインタビューを実施。楽曲制作の背景から、今どのような思いでブルエンの活動を続けているのか、話を聞いた。【取材=村上順一】

最後までブルエンの作品として作り上げることができた

「有罪布告」通常盤ジャケ写

――ベースの辻村さん、春にアメリカに旅立たれたとのことですが、連絡はとってますか?

 4月の末に渡米しました。行ってすぐに連絡取り合うと、もしかしたら彼もストレスになるかなと思ったので、1ヶ月ぐらいは様子を見ていたのですが、今は連絡は取っています。近況など聞いているのですが、辻村からは英語で返信がくるんですよ。でも僕はそれに対してまっすぐ日本語で返すという(笑)。近々また4人で「色々と打ち合わせしたいね 」と話をしていたので、次の制作に向けて動き出しています。

――今回2曲をパッケージしたシングルがリリースされました。配信とフィジカルの役割はどう感じていますか。

 どこでも音楽を体感できる時代になったので、配信は自由さが魅力なのかなと思っています。デビュー当時は「配信はしないでください」とか言ってたんですけど。元々ライブハウスでCDを手売りというのを10年間やっていたバンドなので、それが当たり前のことだったというのがありました。しかし、昨今CD ショップがどんどんなくなっていって...。

――インターネットの発展に伴って…。

 そういう背景もありつつですけど、結局僕らは何をしたいのかというところで、曲を届けたい、それをこの数年ですごく感じました。アニメのタイアップなどで海外の方に聴いてもらえる機会もすごく増えました。それってフィジカル(CD)だけだったら難しかったことだと思います。曲がちゃんと走るようにできる体勢であれば、今の僕らはフィジカルでも配信どちらで聴いてもらってもいい。そういう音源をいま作らなければというのが、この 1〜2 年で尽力していることです。

――さて、「有罪布告」はジャケ写のマカロンが印象的なのですが、どんな象徴としてあるのか気になりました。白いマカロンが潰れてたりするのもちょっと意味深ですよね。

 タイトルが「有罪布告」だったり、歌詞の内容自体も死刑だとか戦争とかシリアスな言葉を使っていて、最初はそれをどう表現するかというところで、銃火器のアイデアもありました。僕らのディレクターさんは女性で、10年一緒にやらせていただいているんですけど、ディレクターさんのアイデアがマカロンでした。鋭利とは真逆なものを鋭利にしたらどうなるのか?というところで、絶対に合いまみえないものが、実はそういう意味になってたという。1つの戦争という戦いの場所だと捉えて、白黒つけるという意味もあるのでオセロっぽくなっています。実際に誰が争いの中にいるかわかんないじゃないですか。

 ギミックをただ安直にせず、余白を広げていくというスタイルで、今回このデザインに決まりました。武器にしてしまうと、いよいよ戦争だなとか思ってしまったり、逆に今は何が武器になるかわからないなと思うところもあって。スマホで人を攻撃することもできるし、悪の多様性にも繋がっていると感じていますし、そう言った意味でもすごく秀逸なジャケ写になったと思います。これは絵ではなくて実物を写真に撮ったものなんですけど、陰影の付け方とかも気に入っています。

――「有罪布告」のフォントや色使いも面白いです。

 たくさんやりとりしました。色やフォントもたくさんいただいて、曲やジャケットのイメージと合うというところで、このデザインが僕の中でピンときました。

――「有罪布告」は『弁護士ソドム』の主題歌ですけど、どのような流れの中で作られたのでしょうか。

 最初にテーマをいただいて、台本は読まずに作り始めました。サビは昨年アイデアとして作ってあったものなのですが、これはドラマに合いそうだなというのがメンバーの中にもあったので、それを膨らませていこうというところからスタートしました。結果的にメロディーは変わっていったんですけど。

 僕は生粋のドラマファンなんです。サスペンス系、リーガル系のドラマが特に好きなので幸せなお仕事でした。インスピレーションがどんどん湧いてきて、それを肉付けしていきました。細かいところを修正してというのを繰り返していたのですが、それはブルエンでは珍しいことでした。基本ある程度決めて曲は作っていくので、「有罪布告」はコード感など、その都度変えていったりしてました。

――メンバーと確認しながら?

 今回に関してはディレクションしてくれる方もいたので、その方と僕の2人で基盤を作って、それをメンバーに投げて、どんなドラムやベース、ギターを入れるかという流れでした。ただ、中々全体像が浮かばなかった。アップテンポの曲の場合、ライブ映えする曲を作るべきなのか、それともドラマに寄せて行くのか? その振り幅をどうするかみたいな。それがなかなか決まらなくて、ギターの音色変えてみたり、リフもAメロだけ何テイクもいろんなパターン録ったり、トライ&エラーを繰り返してました。

――結果的に振り幅はどっちに振った感じになりました?

 中間と言ったら曖昧なんですけど、結果的にどちらでもなかったのかなと。メーターにない部分に落ち着いて、そこを超越した作品になったと思います。最後までブルエンの作品として作り上げることができたのが大きなポイントです。そして、ドラマファンというのは主題歌が好きなんですよ。いいところで流れてくる主題歌の絶妙な加減と言いますか、自分が小学生くらいからヘビーユーザーとしてドラマを見てきているので、なんとなくポイントはわかってるつもりです。

いかに自分を表現できるか? というところに挑戦している

――ちなみに田邊さんが印象に残っているドラマ主題歌は?

 色々あるんですけど、ラブストーリー系でいいなと思うのは、ドラマ『ビューティフルライフ』のB’zさんの「今夜月の見える丘に」です。稲葉(浩志)さんの歌も最高ですし、松本(孝弘)さんのギターのイントロも素晴らしくて、もう全てがいい。ドラマは余命わずかなヒロインと美容師の恋愛ストーリーなんですけど、そのストーリーの悲しさと強さも曲に入っていて、僕の中であれ以上の主題歌はないなと思っています。

――主題歌の制作はプレッシャーもすごそうですね。

 僕は主題歌も物語の一つだと思っています。今回のカップリング曲「Destiny」は『映画刀剣乱舞-黎明-』の主題歌なんですけど、そういう感覚で作るので、エンディングで流れるとなると最後を締める物語になるから、より気合が入るというのは常にあります。

――本作は『弁護士ソドム』の世界観もあるので割と鋭利な歌詞になるというのは想像に難くないのですが、近年のブルエンの歌詞も尖っているなと感じていて、これは田邊さんの今のマインドなんですか?

 やっと自分をさらけ出せるようになった、ということが大きいかもしれないです。僕は一喜一憂する癖もありますし、いろんなことに腹を立てる人間なので、その都度怒るツボも変わっていきます。自分が引っ掛かったことに対して全力で怒るので、周りからすると「何でそんなことに怒ってるの ?」と思われがちなのですが、高校のときからずっとそういうタイプの人間でした。

 デビュー当時は今とは違うイメージのブルエンを見せた方がいいんじゃないかというのがあったんです。でも、コロナ禍を経て、僕らは誰もがなれるわけじゃない職業についているわけで、もう自分を隠してる暇なんてないなと思ったのがこの3〜4年でありました。それがより自分のことを歌える、伝えに行きたいと思える相手に向けて歌える曲が増えた理由かもしれないです。

――「有罪布告」の歌詞の中で<全部、有罪。>というワードがあります。これには句点がついているのですが、すごく言い切ってる感覚があって、強さを感じました。

 元々仮歌の歌詞で<〜で有罪>と歌っていて、最初はそれで進んでたんです。ドラマサイドからもその歌詞でOKをもらっていたのですが、どこか自分の中で腑に落ちない感じがあったんです。それで、何が有罪なのか、あの人に対しなのか、 この物事なのか? 国に対してとか、いろんなことを思い浮かべました。ふと結局自分は何にでもムカついてるんだなと思って。

 例えば、飲みの席で言われたことに腹立つけど、結局自分もそうなんじゃないかと思うようになってきて。自分も下手したら誰かを怒らせてしまう時もあるかもしれない。よかれと思って言ったことが、実はそうじゃなかったということもあるし、考えたら全員にとっての正義なんてたくさんあって、その正義は裏にもなると考えたらみんなが罪人だと。それで歌詞を「全部有罪。」にしたら歌がすごく乗るようになって、レコーディングもほぼワンテイクで終わりました。せっかくだから何テイクか録りましたけど、結果最初に録ったテイクを使いましたし、稀に見る気持ちのノリ方だった気がします。

――僕が感じたのが、田邊さんの歌声が太くなっているなと思いました。

 すごく嬉しいです。この 1〜2年で歌の捉え方も変わってきたので、いかに自分を表現できるか? というところに挑戦しているんです。仮歌の段階ではちょっと弱めに歌ってみたりしていたのですが、結果歌詞に引っ張られた、歌詞に呼ばれてこの声が出た気がしています。マイク選びに何回か試し録りはしているんですけど、本番ではそれとは違った歌い方になったんです。何かが憑依した感覚はあります。

――それは「Destiny」でも感じるんですけど、この曲は結構前に録ってるんですよね?

 昨年の10月くらいです。でも、今回の2曲の歌は共通してすごくノってました。レコーディングもすごく楽しくて。全然違うタームで作ったはずなのに、自分の正直さがあると言いますか。どちらも主題歌として作品にアプローチして作った曲ですが、紛うことなき自分の想いが入ってるからこそ、歌録りがこんなに楽しかったのかなと思います。昔は「これがブルエンです、これが田邊です」という感じで歌いたかったんですけど、今はまさにサブスク時代にもなったというのも大きくて、正直ブルエンだと思って聴いてもらわなくてもいい気がしていて。

――というのは?

 ランダムに再生して突然出会うというのが今はあるので、その時にいかにブッ刺せるかというのが重要なんです。ライブだとフェスもそうじゃないですか? 興味なかったけど、とりあえず見てみよう。見たらめっちゃええやん、というフェスのスマホ版がサブスクだと思うんです。いろんなアーティストがスマホの中でライブをしていて、その中で出会って「これ好きかも」となるというのが一番いいところだと思うので、楽曲はどうやったって“ブルエン印”になるから、その曲に呼ばれる声質でいきたい、という感じあります。

――来年、結成20周年を迎えるにあたり、まだまだ進化していけるというのはすごいと思います。

 これだけやってるのにまだまだ表現の仕方ってあるんだなと思いました。インディーズの頃は無駄に経験を積んでいただけだったと思うんですけど、一つひとつの経験が自分たちになっていったんだと思うと感慨深いです。だから、今も一歩踏み込んで音楽がやれている理由なのかなと思います。

曲はそこで鳴らすために作っている

――「Destiny」の制作はどのように進んでいったのでしょうか。

 まだCGとかもできてないグリーンバッグの状態で映画を観させていただいて、音も全然ついてない状態のものでした。その時に浮かんできたのがこの曲でした。それを観た後にスタジオに入って、アコギではなく鍵盤から作っていきました。最初から順番通りにできた感じだったので、鍵盤入れては歌ってを繰り返してどんどん肉付けしていったのですが、仕上がるまでかなり早かったです。劇伴感覚で作った感じでした。

――映画の制作サイドからリクエストはありましたか?

 「黎明、新たな第一歩というテーマで歌詞を作ってほしい」というリクエストがありました。ブルエンもまさに黎明期なので、<新たな夜明けに>と歌っています。初期の頃からやっていただいてるエンジニアさんがこのパートを聴いて「本当に新たな夜明けになったね」と仰ってくださって。長年一緒にやっていた人も新たな感覚になれたという曲で、久々にいいバラードを作れたという感覚もありました。

――私の中で壮大なバラードを歌ってるイメージはそんなになかったので新鮮でした。

 インディーズ時代、メジャーデビュー直後はよく歌ってたんです。初期の頃はアルバムには必ずバラードを入れたいという感じでしたから。ただ、最近の僕はそのタームじゃなかったので作ろうとしてなかった。無理して作る必要もないし、曲と出会った時に作りたいという感じでした。

――「Destiny」すごくライブで聴いてみたいです。

 ありがとうございます。まだライブではやったことはなくて、今どんな感じ披露しようかと考え中なんです。最近の僕はライブでギターを持たない曲も増えたので、自分の表現に適した動きをしてみたいなと思ったり。

――どこで歌うのか、場所も重要ですね。

 ホールなのかアリーナなのかみたいな。そこはメンバーともよく話してて、この曲をいつどこでやるかという話します。曲はそこで鳴らすために作っているというのもあって、ブルエンの音楽というのは、ライブハウスで育ってきたバンドとして今があるんですよね。昨年横浜アリーナ、今年は武道館でやらせてもらって改めて思うのですが、大きな会場で鳴らす音楽もブルエンだなと思いました。そうなった時に、会場がどうのというわけではなく、どんなに広くても余すことなくその先の人に届くような音楽を作らなければという感覚でいま動いています。そうすれば、もうどんな曲でもできると思います。

――そういうことを考えなければいけないフェーズに入ってきたわけですね。最後に田邊さんはいまブルエンの活動にどんな想いを抱いていますか。

 楽曲に対する自由度や懸ける想いというのは、変わらずまっすぐにというのがあるんですけど、出会った人を後悔させないようにしなければいけないなと思っています。それは全ての人たちなんですけど、デビュー当時に出会うのと、いま出会うのとはまた感覚が違うんです。デビュー当時はスタートアップといいますか、走り出さなきゃいけない時期なので、みんな一緒にという気持ちが強いのですが、大事なことは誰かの人生と共に音楽を作っていくことなんです。

 その結果、自分から発するものだったり、生きていくことに対して、それを受け止めてくれる人たちを後悔させてはいけないと思っています。とにかく正直に生きたいですし、ちゃんと想いを伝えたいです。いま一緒にいる人たちといい景色を見に行けるか。心の中にある一番大事な部分がちょっとでも俺たちであればいいなと思っています。これからも出会いを無駄にしないような音楽観や人生観で活動していきたいです。

(おわり)

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