BLUE ENCOUNT「証明したかったことを形に」新譜で提示したアティチュード
INTERVIEW

BLUE ENCOUNT

「証明したかったことを形に」新譜で提示したアティチュード


記者:村上順一

撮影:

掲載:20年11月18日

読了時間:約11分

 4人組ロックバンドのBLUE ENCOUNT(ブルエン)が18日、4枚目となるフルアルバム『Q.E.D』をリリース。2年8カ月振りとなるフルアルバムは「ポラリス」や「ハミングバード」などシングルや配信リリースをした楽曲に加え、「STAY HOPE」「棘」など新曲を加えた全11曲を収録した。インタビューでは、『Q.E.D』のタイトルの意図、ニューアルバムの制作背景について4人に聞くとともに、ブルエンの音楽にかける姿勢に迫った。【取材=村上順一】

証明したかったことを形にした『Q.E.D』

「Q.E.D」通常盤

――『Q.E.D』というタイトルは証明終了という意味ですが、このタイトルに込めた意図は?

田邊駿一 単純に証明終了という事ではなくて、今できうるものだけを集めたというのが適切だと思っています。証明終了だとマイナスなイメージもあって、新しいフェーズに行くの? みたいな。僕らは『THE END』というアルバムでネクストフェーズに行こうと試みたんですけど、意外と行けないなと。行くにはすごいパワーが必要なことで、作る人が変わらない以上難しいことだと感じていて。なので、現状でブルエンができることの証明、それを形にしたという感じです。

――妥協のない作品が出来たわけで。

田邊駿一 もちろん妥協はなかったです。たまにこれ以上はもう出来ないなと感じる時があって、それで凹むんです。でも、まだやれることでやっていないことが沢山あって、今作もやれそうでやれていなかったものが詰まっています。直球勝負のような曲でもまだまだやれてなかった事があったんだなと発見もありました。

――みなさんは今作が完成して今どのようなお気持ちですか。

辻村勇太 納得したものが出来たなと感じています。これまでももちろん納得した作品を作ってきたのですが、昔から追い求めていたのはこういうことだったんだなと。インディーズ時代に「君らは何をやりたいの?」と聞かれた時に、上手く言葉に出来なかったんです。でも、その時に説明できなかったことが音と言葉で表せた一枚になったと思っています。ブルエンってどんなバンド? と聞かれたら、人それぞれ色んな捉え方があると思うんですけど、このアルバムに詰まっていると思います。

高村佳秀 アルバムとしては前作から2年8カ月が空いてしまったんですけど、これだけ時間があったら 色んな経験もできますし、新しいバンドに生まれ変わることも出来ると思うんです。でも、僕らは根底にあるものは変わらず、それを愚直に磨き続けてきて、そこは変わらずに来れたと思いました。それを持った上で新しい挑戦だったり、もう一歩先の表現が出来たと感じています。ブレずにここまで来れたことの証明になったアルバムだと思います。

江口雄也 僕は毎回アルバムを制作していく度に、自分が思うブルエンのカッコ良さを更新できたらと思っています。今回もそれがしっかり達成出来たと印象が強いです。

――田邊さんは、サブスクなど単曲が注目される中で、アルバムというコンテンツ自体どのように考えていますか。

田邊駿一 アルバムの価値観は変化してきました。インディーズ時代は、ミニアルバムを作るのが好きで、ずっとアルバムを作りたいと言っていたんです。僕らはその中で結果を出してきたバンドでもあります。僕の中では1曲1曲をバズらせて、それに負けない新曲でアルバムを構成するというのが、いまのアルバムの役割、新しい形なのかなと感じています。アルバムというのはいつの時代もバンドの「Q.E.D」ですし、ベストになっていると思うんです。最近僕らは以前よりも1曲1曲を大事にしていて、新曲、既発曲関係なく、その1曲が人生を変えてくれると思いながら、その集大成を目指しています。

良い意味でMC要らずのアルバムになる

「Q.E.D」完全限定生産盤

――それぞれ今作で新しい試みはありましたか。

辻村勇太 今回「VOLCANO DANCE」の構成から携わらせてもらったんです。それで、ライブのことやこのアルバムに入ることを考えて、EDM色があるアレンジになりました。メンバーからの反応も良かったので、良い方向で出来たなと手応えを感じています。僕らは田邊を基軸にして広げていくことが多いので、自分の色が多くなるというのは初めてで不安もあったんですけど、やって良かったなと。僕の場合、アルバムが完成して半年後とかに「ああすれば良かった」と後悔することに成長を感じるタイプなんですけど、既に「VOLCANO DANCE」にも生まれていて、成長を早くも実感しています。

――EDMっぽいサウンドが入っていたり、確かにこれまでのテイストとは異なりますよね。

辻村勇太 まさにEDMというワードも出てきていました。よっちゃん(高村佳秀)からもリズムのヒントをもらって進めていって。でも、完全にEDMサウンドを取り入れてしてしまうと、僕らのバンドカラーから離れすぎてしまう、ブルエンらしさを残しつつ新しい音にチャレンジしました。

――この曲はドラムもかなり難易度高いですよね。

高村佳秀 難しいですね。今回、コロナ禍というのもあって、フレーズをパソコン上で組み立てて行きました。パソコン上で完成させてからそれを練習するためにスタジオに入ったんですけど、そこは今までとは違うスタイルでした。それはチャレンジだったんですけど、パソコンで作ったからこそ出来たフレーズとか、間違えてズラしてしまったのが、たまたま良くて採用した曲もあったり。すごく選択肢を増やすことが出来たなと感じています。パソコンでのアレンジはスネアやキックも細かく見ていけるので、すぐに修正もできるし、良い経験になりました。

――その偶然ズラして良かった曲というのは?

高村佳秀 「棘」です。たまたまズレてしまったのがハマって(笑)。

――江口さんはどんな試みがありましたか。

江口雄也 僕の場合は新しいことを導入しなかったことが新しい試みかもしれないです。というのも自分がカッコいいと思えないと、新しいものを入れる意味がないんです。むしろ、今持っているもの、過去を引っ張ってきてやることが、今はいいのかなと思いました。昔自分が好きだった曲とか聴きなおして、自分を再構築するような感覚もあったんです。フレーズで特に気に入っているのは「棘」です。これまでの自分でありながら、一番遠くまで手を伸ばせた曲と言いますか。延長線上の端まで行けた感覚がこの曲にはあるんです。

――アルバムを聴いて、ギターの音色のバリエーションの豊かさを感じました。

江口雄也 確かにギターとアンプはたくさん使いました。それは自分がこれまで聴いてきた音源を、昔の雑誌とか引っ張りだしてきたりして研究しました。

――田邊さんは今作で推したい曲は?

田邊駿一 新しいフェーズという感覚では「棘」と「喝采」です。「棘」は意外とやってこなかった曲で、インディーズ時代に好きだったギターロックを奏でる先輩方の背中を思い出しながら作ったんです。ギターロックの魅力はギターとリズムの絡みかたとか、そこがカッコいいポイントだったりするんですけど、「棘」はリフもすごく考えました。今までやってなかった拍の置き方をしているんですけど、その作業もすごく楽しかったなと。

「喝采」は、今ライブが思うように出来ないなかで、ライブで言いたかったこととか、MCで喋っていたようなことを楽曲に込めたいなと思っていました。今の等身大の自分が表現出来ている曲だと思っていて、歌にも力が入っているんです。

――極端な話、「喝采」があればMCを入れなくても良いくらい?

田邊駿一 そんな感覚もあります。最近のブルエンの曲はそういう感じもあって、『SICK(S)』の「アンコール」という曲を配信ライブの最後にやったんですけど、無駄なことを言わないことで発揮された曲だったり。これまでのブルエンはフェスシーンに向けた流れ、MCがあって映える曲や盛り上がる曲を作ってきたんですけど、ここ1、2年は説明ではなくて曲をやることによって、その日の伝えたい全てがわかるみたいな感覚もあるんです。今作は良い意味でMC要らずのアルバムになるんだろうなと思っています。

――「刺」の歌詞を見た時、皆さんはどのように感じました? 小説のような雰囲気もありますけど。

江口雄也 この曲の歌詞は歌入れのタイミングで初めて見たんですけど、僕は田邊っぽいな思いました。

高村佳秀 こういう感じのたまに書いてくるんですよ。いつもどんなストーリー描いてくるのか楽しみにしている自分もいるんです。

田邊駿一 不毛な恋の終わりとか、恋人が亡くなった曲とか専門学生の時代から経験したこともないのに書いていて。それで専門の先生に「経験したことないことを書いちゃダメだよ」とアドバイスをもらったり(笑)。でも、フィクションを書きたいなと思う気持ちも常にあるんです。前のアルバムだったら「coffee, sugar, instant love」や「涙」がそうで、そこでデトックスをして次の曲に繋げたい、という思惑もあるんです。

サウンドにこだわった「STAY HOPE」

「Q.E.D」初回盤

――「STAY HOPE」は7月に行った配信ライブとタイトルが同じですね。その時からこの曲は出来ていたんですか。

田邊駿一 曲は出揃っていたんですけど、まだ曲のタイトルは決まっていなくて、保留にしていた曲だったんですけど、ライブを経てこのタイトルになりました。ちょうどライブが中止になっていた時期に作っていたこともあって、何がライブで伝えられるのかと考えていて。いろんな気持ちがあって臨んだ配信ライブだったんですけど、思いを吐き出す場所があって良かった、そしてライブをどんな形であっても続けていかなければという、一つの希望に出会えたんです。個人的にSTAY HOPEという言葉をずっと大事にしていきたい、そのテーマソングになりそうだなと思ったのがこの曲でした。逆算してついたタイトルではあったんですけど、それもアリだなと思いました。

――歌詞もメロディもすごく良いのですが、バンドが塊のように飛び込んでくるサウンドが印象的でした。

田邊駿一 今作の中で一番サウンドにこだわった曲で、トラックダウンを一回やり直しています。プリプロ自体は結構前にやっていて、曲自体は3年くらい前からあったんです。その時は手持ちの機材で特に深く考えずに録ったんですけど、その時の音がすごく良くて。なので、本番もそれに近づけたいと思っていたんですけど、なかなか上手くいかず…。エンジニアさんはアルバムの他の曲とのバランス、整合性を考えて音を作ってくれていると話してくれたんですけど。

江口雄也 1曲目と決まっていたので、それを無視して作って欲しいとリクエストして。

田邊駿一 むしろこの曲を軸にしたい、くらいの勢いで。他の曲を置いていくくらい、とてつもない起承転結の起を作って欲しいと。この曲はミックスが2パターンあって、振り切ってる方を選んだんです。

――オープニングに相応しい勢いがありますよね。ちなみに「喝采」は歌詞に<STAY WITH ME>と歌っているので、「STAY WITH ME」というタイトルになりそうな感じもありますよね? 「STAY HOPE」と繋がる感じもありますし。

田邊駿一 もともとは「STAY WITH ME」だったんですけど、どうしても日本語で行きたかったというのがあって。あと、あまりに安直過ぎるというのも良くない、メジャーでの活動の中で分かったことでもあったんです。タイトルはすごく大事で「喝采」に決まるまですごい時間がかかりました。締め切りのギリギリまでみんなで考えてました。

辻村勇太 ずっと「STAY WITH ME」でレコーディングまでしていたから、そのイメージから抜け出すのが大変で。すごい長いタイトルにしてみたり試行錯誤してました。

江口雄也 タイトルでいったら「棘」も最初は「モルタ」だったんですけど、悩んで最終的にはスタッフさんが考えてくれた「棘」を採用して。

田邊駿一 僕は最初キーボードで適当にタイトルを打つんですよ。楽曲が数十曲できるので、最初の段階で考えていられなくて。たぶん、“モルタル”と入れようとして“モルタ”になってしまったと思うんです。俯瞰で考えたい時はメンバーやスタッフさんに力を借りています。

――チーム一丸となって作っているんですね。さて、ジャケット写真はパソコンの起動マークみたいな雰囲気もあります。

田邊駿一 デザインはここ1年くらい一緒にやっているディレクターの方と制作しまして、『Q.E.D』の“Q”をどうしようかと話していて、上がってきたのがこのデザインでした。証明終了ではなくこれがやりたかった、というここからエンジンがかかり出すという想い、バンドの姿勢がこの起動マークに表れていると思っています。証明終了なのに起動マークという相反するデザインも面白いかなと。

――確かに。ジャケ写ではフォーマルな辻村さんが新鮮です。

辻村勇太 自分はスポーティな格好が多かったので、このフォーマルな服装にそわそわしてます(笑)。

――海に入って撮ってますね。

田邊駿一 撮った時ちょうど日が落ちるタイミングだったんです。夕焼けと夜が重なる時間のことをブルーアワーというみたいなんですけど、その瞬間を収めてBLUE ENCOUNTとしてのアイデンティティを打ち出した写真にしたいという話でした。この料理もフードコーディネーターの方が用意してくれて、実際に食べたり飲んだりしながら撮影してました。

辻村勇太 僕はずっとシャンパン飲んでました。みんなあまり飲んでいなかったので自分は逆に飲もうと思って(笑)。

田邊駿一 僕は空腹で撮影に行ってしまったので1杯飲んだらもうダメで。辻(村)はだんだん本気の顔になってきちゃって使えるテイクが少なくて(笑)。

――でも楽しく撮影していたのが伝わってきます。最後にいまブルエンが伝えていきたいことは?

江口雄也 まずはこのアルバムに込めたメッセージを届けることが一番にあります。それを聴いていろいろ皆さんに汲み取ってもらいたい、という願いがあるんです。そして、エンタメ業界自体がどうしたらいいのかという、各々の舵の取り方が注目されていると思うんです。僕らは周りに流されず自分たちが正しいと思うやり方、カッコいいと思えるものや楽しいと思うものを追求して、突き進んで行きたいです。

(おわり)

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