BLUE ENCOUNT「柔軟に対応していくことが今のロック」困難の中で見つけた光
INTERVIEW

BLUE ENCOUNT


記者:村上順一

撮影:

掲載:20年09月02日

読了時間:約12分

 4人組ロックバンドのBLUE ENCOUNT(ブルエン)が9月2日、シングル「ユメミグサ」をリリース。今年に入ってからも精力的に新曲を発表するブルエン。今作は作家の住野よる氏原作の映画『青くて痛くて脆い』(狩山俊輔監督、8月28日公開)の主題歌。儚さを感じさせるミディアムナンバーで作品の世界観を彩る。インタビューでは、ライブバンドとして感じた配信ライブで気づいたことをはじめ、「ユメミグサ」で描きたかった世界観やメッセージ、メンバーのこだわったところなど多岐にわたり話を聞いた。【取材=村上順一】

ライブというマインドを絶やさないことが大事

「ユメミグサ」通常盤ジャケ写

――不自由な感じもある現状ですが、音楽の無力さを感じてしまっている部分などありますか。

田邊駿一 一昔前にこの状況になっていたら何も出来なかったと思うんです。音楽に関して言えば、サブスクで聴けるサービスがあって良かったなと感じています。CDなどフィジカルなものの難点は、こういった時に展開することが難しいと思うんです。SNSやサブスクがあったおかげで、アーティストは日々繋がれている感覚もありますし、生配信ライブもできる時代になったので。

 自分たちはサブスクに難色をしめていた方で、CDを届けていくことが大事だと考えて、ここまできたというのもあるので。でも、今はネットワークというものの大切さに助けられていて、それがなかったらブルエンはとっくに終わっていたんじゃないかなと。今は音楽を届けていく方法をフレキシブルに考えていきたいと思っています。なので落胆と言うよりは希望はあって、柔軟に対応していくことが今のロックなのかなとも思います。

――ライブをすごく大事にしていると思うのですが、配信ライブをやってみた手応えは?

辻村勇太 1回目は緊張もしましたし、お客さんがいない感じもどうなんだろう、と不安もありました。拍手がないのはやっぱり寂しいですけど、配信での見せ方というのも、少しずつ出来るようになってきていると思います。気づきもあって、お客さんが待っていてくれる感じはライブならではで、それに対して自分たちが答え合わせをしているんだなと。コロナが収束してどんなライブが出来るのか、というのも今の楽しみの一つです。

――高村さんは配信ライブはいかがでした。

高村佳秀 やっぱり配信ライブというのは生のライブとは違う感覚はあって、なかなか聴けない曲だったり、メンバーの表情が見れるというのが醍醐味なので、配信ならではのシチュエーションを届けたいなと思っています。

――配信ライブをやってみて気づきはありましたか。

高村佳秀 カメラワークです。MVでは色んな角度から撮っているんですけど、それと同じようなことがリアルタイムで見れるわけじゃないですか。より、それぞれの表情が届けやすくなったなと感じました。なので、そこは自分も意識して、その時に感じた感情は表情に出すようにしています。 

江口雄也 最初は普段と同じような感覚でライブをやろうとして、自分の中での落とし所を見つけました。実際にやってみて、うまくいかないところがあったので、通常のライブと同じような感覚ではダメだなと気づいたんです。自分の中で配信ライブは新たな文化の一つとして捉えるようにしています。同じように考えるとやっぱり、お客さんの歓声が恋しくなってしまうんです。

――色んな気づきや経験していく中で、来年4月に開催される横浜アリーナでのライブは特別なものになりそうですね。そこまでのモチベーションの持っていき方とか、どのように考えていますか。

田邊駿一 モチベーションは、焦らされれば焦らされるほど高まるものはあると思っています。もう横浜アリーナは欲望を貪る日になるんじゃないかなと。それを一番良い状態で届ける方法を、これから時間をかけて考えていかなければと思っています。配信ライブはそこまでの予告編、みんなの希望を繋ぐものとしてやっていきたいと思っていて、今はライブというマインドを絶やさないことが大事になってくると思います。

30代という目線で青春を描きたかった

――そんな中で「ユメミグサ」がリリースされますが、どんな手応えを感じていますか。

田邊駿一 ジャケットのアートワークに初めてのイラストレーターさんとタッグを組んだり、MVの撮影も、新しいことをやれたんじゃないかなと思っています。でも、芯にあるものはBLUE ENCOUNTなので、僕らにとっても重要な1曲です。

――今作のタイトルは「ユメミグサ」で、桜の別称なのですが、このタイトルにした意図は?

田邊駿一 7年前に作っていた曲で歌詞も全部できていました。その時の仮タイトルは「sakura桜」でした。歌詞の内容は桜が舞い散る朝に別れる男女の恋の終わり、を描いていました。今回、この映画『青くて痛くて脆い』のお話をいただいて曲を作ろうとなった時に、恋愛の曲ではないなと感じ、全部書き直しました。映画は夏の終わりに公開、曲は秋の始まりにリリースということで、桜にしてしまったら、ちぐはぐな感じになるんじゃないかなと思い、最初は桜というワードを使わずに書いていたんです。

――季節的に難しいですよね。

田邊駿一 はい。でも書き終えた時に何か物足りないと思い、やっぱり歌詞の中に桜を入れようと思いました。この季節に桜をどう入れるのかを逆算して、<桜舞うあの日に帰り>と頭の中でのタイムスリップした楽曲にしよう、あの日の後悔を抱きしめられる曲にしたいと思いました。「ユメミグサ」という言葉は以前から調べていて、良い言葉だなと思っていたので、この言葉がハマる時が来たなと。「ユメミグサ」の由来は諸説あるみたいなのですが、桜の花が散る姿の儚さから、夢の終わりみたいものを表現しているところから来ているみたいで、今回の楽曲に相応しいかなと思いました。

――幻想的で趣のある素敵な言葉ですよね。歌詞では<紡いだ「糸」を「半(2つ)」にして分け合うことが「絆」なら 何を結び合えてたのかな?>が印象的でした。

田邊駿一 ちょうど昨年のツアーで鹿児島に行った時のことです。母の親戚が鹿児島に住んでいるんですけど、そこに僕にギターを教えてくれたおじさんがいるんです。そのおじさんとセッションしながら話していて、この歌詞の前身になるような話をしていたんです。絆は出会いの糸をたぐり寄せて結び合うことだと。そこから生まれた言葉でした。

――熱い会話が繰り広げられたんですね。今作は原作者の住野よるさんから『青くて痛くて脆い』を映画化するときはブルエンにお願いしたい、とラブコールがあったようですね。

江口雄也 『君の膵臓をたべたい』の小説が出た時に、僕がその小説読んで面白くて好きになり、住野先生のSNSをフォローさせていただきました。そこから先生が僕らのライブによく来てくれていたことが判明しまして、僕らのライブの感想を送ってくれたりして、親交が始まりました。

 それで原作『青くて痛くて脆い』を執筆されるにあたって、僕らの「もっと光を」という曲をテーマソングにしていたこともあり、今回タッグを組んで何かやりませんか、という話に進みました。それで小説ができた時に「もっと光を」を正式にテーマソングにしていただいて、書店でプロモーションしたり、対談もさせていただいたり。その中で映画化することがあったらブルエンに曲を担当して欲しい、という話もしていて、今回それが実現しました。

――「もっと光を」と「ユメミグサ」の関連性はあるのでしょうか。

田邊駿一 関連づけて進めていくのもありだと思うんですけど、「“もっと光を2”」を書こうとは全く考えていませんでした。僕は33歳になるんですけど、30代という目線で青春を描きたかったというのがありました。『青くて痛くて脆い』の物語は大人と子どもの狭間から、大人への一歩という成長も描かれていると思うんです。今の自分から10代の自分を見た時の想いを書きました。

――辻村さんは今作でどのような新たな試みがありましたか。

辻村勇太 今回、サビでギターのコードが変わるところがあるんですけど、そこの変わり方がけっこうエモーショナルでグッとくるんです。今までの僕ならルート音で合わせていたと思うんです。今回はあえてそこでベースを動かすということを初めてやりました。詳しく説明するとルート音+構成音でディミニッシュのベースラインになっているんです。それによって広がりが出たんじゃないかなと思います。

――効果的にベースラインが動いているのが分かります。

辻村勇太 この曲はロックにするかポップスにするかで迷ったんです。もっとポップスっぽくすることもできたんですけど、僕らはロックに行きたいというのもあり、ドラムとベースはガッツリとロックにして、その中でエモいと言ってもらえたら、僕らとしてはニヤリというのがあります。でもロック過ぎず、細かいところはメロディに寄り添っているところが、自分は気持ち良いところでした。

――高村さんはどんなことを意識してレコーディングに臨みましたか。

高村佳秀 楽曲としてはポップな感じだと思うんですけど、優しくは叩かない、というのが僕の中にありました。じっくりこの曲は聴いていただいても良いんですけど、心がギュッとなって、思わず拳を掲げてしまうようなエモーショナルさが欲しかったんです。ライブでこの曲を演奏するにあたって、そこをイメージして、ロックとエモさを自分の中で感じながら叩きました。おそらくライブでは音源よりも、良い意味で荒ぶったプレイになると思うんですけど、そこに近いものを音源としてパッケージしたかったんです。

――新しい機材を導入されたりしましたか。

高村佳秀 新しいものは導入していなくて、いつもの機材でプレイしました。それが合うという確信があったので。新しいということよりも、今まで培ってきたものの中で最大限をぶつけようと思いました。

――江口さんはいかがですか。

江口雄也 僕は高村が情熱的にプレイしている一方、繊細さを表現したいと考えていました。それで、楽器もレコーディングではあまり使ってこなかったストラト(キャスター=フェンダー社のエレキギター)を使いました。僕のメインはES-335(ギブソン社のセミアコースティックギター)なんですけど、去年購入したストラトなんです。なぜ、ストラトを選んだのかというと、この曲の持つ繊細さや儚さ、雰囲気のある感じのギターにしたかったんです。

――ES-335からストラトだと演奏のタッチが変わると思うんですけど、弾き辛さみたいなものはありますか。

江口雄也 ES-335に慣れているので、それは少なからずありました。レスポール(ギブソン社のエレキギター)を使ったりもしていたので、手を置く位置がストラトだと変わってしまうんです。その置き所が分からなくて、その置く場所が悪いと音が上手く鳴らなくなったりしてしまうんです。そこは弾き慣れていなかったのでレコーディングで苦戦したところではありました。

――サビではディレイ(※ギターに使う空間系エフェクター)がすごく印象的で、楽曲の情景を美しく彩ってますよね。

江口雄也 BPM(テンポ)に対して付点8分のディレイをかけています。桜が散っていく様子を表現したいなと思ったんです。それを感じていただけたなら嬉しいです。

――田邊さん、ボーカルレコーディングはいかがでしたか。

田邊駿一 今回もプロデューサーは玉井(健二)さんで、ご指導いただきました。僕はこういった曲は淡々と歌ってしまうことが多いんですけど、語尾に抑揚を付けることによって、よりメロディに味が出てくることを教えていただきました。それもあってミディアムテンポの曲の価値観が変わりました。

どんな場所にいてもBLUE ENCOUNTを伝える

「ユメミグサ」初回盤ジャケ写

――<大人になんてなれやしないよ 大人になんてなりたくないよ>と歌詞がありますが、皆さんが大人になったなと思った瞬間はどんな時ですか。

田邊駿一 ここ2年ぐらいの話なんですけど、僕、蕎麦屋や鰻屋で飲むのが好きなんですけど、そこで小鉢で飲めるようになった時です。蕎麦も鰻も食べなくても小鉢とお酒だけでいけるという、心の余裕みたいなものが生まれました。今回の楽曲とそんなに離れた話でもなくて、心の余裕があって作れたと思うんです。30代になってから、一つのメッセージが届くにはどうしたらよいだろうと考えられるようになりましたから。アップテンポの曲にもできたと思うんですけど、あえてそうしなかった僕らの余裕みたいなものも出ている曲だと思います。積み重ねてきたものを信頼してできたので、大人になったという印象は似ているかなと。

――辻村さんは?

辻村勇太 僕は誰かを許したり、昔の自分を認めたりすることができた時が大人になったなと思えた瞬間でした。弱い部分はなるべく人には見せたくないじゃないですか。大人になったからこそ、そこを受け入れた上で人と接した方が本当の自分が見えてくるんじゃないかなと思いました。昔はそんな考え方できなかったですから。

――悟りを開きつつありますね。

辻村勇太 はは(笑)。最近、瞑想を始めたんです。誰かに怒りをぶつける事は自分にとってもよくないですし、相手のことを考えながら行動、理解してあげたいと思えるようになりましたから。

――高村さんはいかがですか。

高村佳秀 姉と兄がいるんですけど、姉が最近婚約しまして、婚姻届に記載する保証人になってほしいと頼まれました。高村家、3人兄弟で兄も一家の主人で姉も家庭に入る、僕はまだ結婚はしていないですけど、保証人のサインしながら色んなことを考えてしまいました。バンドマンとしてデビューして、僕も30歳を過ぎて認められたこともあって姉から頼まれたと思うので、大人になったなと感じた瞬間でした。

――信頼されている証拠でもありますよね。江口さんはどんな瞬間に大人になったと感じましたか。

江口雄也 お年玉をもらう立場から、あげる立場になった時です。ここ数年お年玉をあげているので、毎年実感します(笑)。でも、お年玉をもらう嬉しさというのは大人になってからもあると思うんですけど、もうもらえないという切なさを感じつつ、親戚の子どもたちがもらって喜んでいる様を見ると、昔の自分もこんな感じだったなと思い返しながら、大人になったなと感じます。

――さて、カップリングの「1%」に込めた想いを聞かせてください。

田邊駿一 99%の努力、それぐらい血の通った頑張り方をしなければいけないと。僕らもバンドをやっている時に奇跡が起こって、エレベーター式に上に行けないかと思っていましたけど、こうやって一歩一歩上がっていっているからこそ、出会える人も沢山いるし、繋がりがより深くなる、頑張った延長線上に起こるものに奇跡と名付けることができるのかな、と思ったんです。仮歌の段階からあったフレーズで、<99%の努力が今不可能を壊すから>と書いたのはそう思ったからなんです。

――レコーディングはいかがでした?

田邊駿一 この曲はギターを弾く真似をしながら歌いました(笑)。時々やるんですけど、本当にギターを持ってレコーディングすることもあるのですが、今回はエアギターで。ライブで歌っている自分を想起して歌いました。

――楽器隊の皆さんが注目してポイントはありますか。

高村佳秀 7~8年前ぐらいの僕だったらどう叩くかなと、考えました。今の自分だったらこのフレーズは入れないだろうな、というものを敢えて入れてみたり。Bメロや2番のサビのプレイに顕著に出ていると思うので、注目して聴いてみてください。

江口雄也 僕も高校生の頃の気持ちを思い出して弾きました。自分が当時よく弾いていた青春パンクの感じが、出ているんじゃないかなと思います。なので、プレイは若いですね。

辻村勇太 最後のサビのところで、僕だけコードをステイしているところがあるんですけど、そこはインディーズ時代に出した「走り出した感情」と、同じアプローチだったりします。同じアプローチですけど、プレイも機材も自分の成長を感じられました。今それを自分が浄化できたのは、個人的に嬉しいポイントでした。大人になった“アダルトステイ”が聴けると思います(笑)。

――最後に今のブルエンの課題や使命とは?

田邊駿一 今、よくメンバーと話しているんですけど、どんな場所にいてもBLUE ENCOUNTを伝えるという底力をより強くしないといけないなと感じています。配信ライブ、テレビやラジオもそうですけど、どんなところでもBLUE ENCOUNTを出せるようになっていきたいです。それができればまた再びみんなが集まってライブができた時に、相当強いバンドになると思います。BLUE ENCOUNTを出しながらもスキルが上がっているところを見せないといけない、1周回ってインディーズの頃に戻ったかのような、マインドとしては原点に帰っている感覚になっています。初陣を忘れない野風増(のふうぞ=中国地方の方言でやんちゃ、生意気などの意)でありたいです。

(おわり)

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