INTERVIEW

細谷佳正

「過ちを犯しても許されるチャンス」映画『ザ・フラッシュ』で感じたメッセージ


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:23年07月01日

読了時間:約6分

 声優の細谷佳正が、映画『ザ・フラッシュ』(6月16日公開)の日本版吹替声優として参加。エズラ・ミラー演じる主人公バリー・アレン(フラッシュ)の声を担当する。細谷は『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』オルガ・イツカ役、『メガロボクス』シリーズ、『進撃の巨人』ライナー・ブラウン役、吹替では『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』や『ミッシング ID』など参加。映画『ザ・フラッシュ』は、「DCエクステンデッド・ユニバース」の12番目となる作品で、フラッシュ単独作品としては初。“ジャスティス・リーグ”の一員として活躍し、スピードを武器に“時間”も“世界”も超えるフラッシュの物語だ。インタビューでは、本作の見どころから、アフレコで意識していたこと、これから追求していきたいことについて、話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

エズラ・ミラーがやっていることを忠実に

村上順一

細谷佳正

――映画『ザ・フラッシュ』の公開が決まり、アフレコを担当してどんな心境でしたか。

 やっと公開されるんだなと思いました。映画『ジャスティス・リーグ』の後に、『アクアマン』や『ワンダーウーマン』の単体作品があったので、フラッシュがメインの作品がいずれあるんじゃないかと話していたんです。それが正式に決まって素直に嬉しかったです。

――単独作品ということでセリフ量もすごく多いと思います。しかも現在過去のバリー・アレン2人を演じることについてどう考えていましたか。

 2人を使い分けるということをエズラ・ミラーさんはやっていたのかというと、僕はやっていないと思いました。声優を評価するときに「声が全然違うね。すごいね」という人、多いんです。声は同じだけど人が違うといった感じに作るタイプの演者もいて、僕はどちらかというとそういうタイプなので、特に意識的に演じ分けをどうするということではなくて、エズラ・ミラーさんがやっていることに忠実に合わせていこうと思いました。

 主人公のバリー・アレンは『ジャスティス・リーグ』の時とは違って、しっかり芯があって母親の死を止めたいという目的がはっきりしているキャラクター。でも、マルチバースの若き日のバリーはそんなことは全く考えてない。年齢も10代ですし、面白いものを見つけたら素直にそれが面白い、これが面白いという短絡的な目線で明るく楽しんでいるだけ。あまり深く物事を考えていないのではと感じてました。

© 2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved © & TM DC

――吹替は実際に演じる役者さんとのシンクロが大事だと聞いたことがあります。とある声優さんにお話伺った時に、その役者さんの顔、表情を真似してみるといい、という話を聞いたことがありまして。

 そういう方もいらっしゃるんでしょうね。僕らの仕事って分かりにくいところもあるので、誤解されてる部分もたくさんあるとは思うんですけど、無表情で動きのあるセリフを言っている人はあまりいないと思います。

――声を当てていく中で、特別な感覚はありますか。

 変な感覚なんですけど、自分が映像を見てアフレコをしながら、同時にその画面から出ている自分の声を精査しているんです。セリフを当てることだけに意識が集中しているわけでもないし、自分でセリフを言ってるんですけど、それを俯瞰しながらやっています。

――今回時間を遡りますけど、もし、細谷さんが過去に戻れたとしたら、やり直したいことはありますか。

 やり直したいことはないです。基本的にできないと思ってるし、もし出来たとしても今の自分ではなくなってしまうと思っていて。すごく現実的に考えてしまう(笑)。そういうことよりも今の自分のいいところ、自信が持てるポイントを探したりして、今を楽しくしていく方が僕には合ってると思います。後悔しても過去には戻れないからしょうがないし、それを強く思うことはないです。

――そのお答えを聞いて、今がすごく充実されているのが伝わってきます。さて、細谷さんがいま追求していること、もしくは追求していきたいことはありますか。

 若い頃からアニメも吹替も両方できる人になりたいと思っています。例えばアニメで頑張るとアニメの印象しかなくなったり、吹替で頑張ると吹替の印象しかないみたいなことが多かったんです。そこをシームレスに行き来できるような存在になりたいと思っているので、追求していきたいことのひとつです。

 あと、突き詰めていきたいことは「理解者を増やしたい」ですね。例えば、自分が発した言葉というものに対して、少なくとも誤解を生まないというジャッジをする。作品を観てくれる人や、こういった記事を読んでくれる方に、しっかり自分の言葉を届けたいということに僕はこだわっている気がしています。

過ちを犯しても許されるチャンス

村上順一

細谷佳正

――ところで、映画『ザ・フラッシュ』はワールドワイドな作品で、細谷さんは海外にもすごく興味があるとお聞きしました。先日イベントで海外に行かれていましたが、実際に南米に訪れてみていかがでしたか。

 チリで行われたイベントに参加させてもらったんです。それまでチリという国がどういうところなのか、自分の中で全くイメージがなかったんですけど、呼んでもらって嬉しかったです。ステージで僕が日本語で話すと通訳の方が翻訳してくださるんですけど、日本語を理解して日常会話で笑ってくれていたのでビックリしました。

――嬉しい誤算ですね!

 あと、日本ではできない経験もしました。自分がアフレコで参加した『メガロボクス』と『進撃の巨人』に興味のある方が当日はたくさん集まってくれたんですけど、僕が担当した『TRIGUN STAMPEDE』のニコラス・D・ウルフウッドのコスプレをした人がいて、僕はそれに触れてあげたいなと思ったんですね。そしたらその人が懐から箱を出して、僕に渡そうとしたんです。でも、僕は「届かなくてごめんね」と言ったら、スタッフが来て、その箱を受け取って僕に渡してくれて。日本ではそういうことは基本ないですし、警備の方に止められたりするんですけど、そういうことを普通にやってしまうのが海外っぽいなと思いました。

――驚きもあった海外体験だったんですね。最後に細谷さんが思う『ザ・フラッシュ』の見どころは?

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 今回、マルチバースという設定やド派手な演出、往年のバットマンが登場するというのは、特にお客さんの興味を引く見どころだと思います。この映画のアフレコが決まって、ある記事を読んだんですけど、トム・クルーズさんがこの映画を観た感想を「この映画は今の私たちに必要だ」というようなことを話していて。僕はどういう意味なんだろう? と思い返して、僕なりにこの作品が伝えたいものはなんだろう? と考えました。

――細谷さんが出した答えとは?

 例えば公人などが問題を起こしてしまうと、SNSでバッシングされたりするじゃないですか。そうなると復帰がすごく難しくなってくる。今回の映画で、バリーはルール違反を犯すわけです。現実は平穏かどうかわからないけど、時が進んでいるにも関わらず、母親への愛情が強すぎるが故に、過去に戻って母親の命を救おうとする。この話だけ聞くと美談として人の感動を誘うと思います。歴史を変えるという過ちを犯すけど、劇中ではそれが許されるんですよね。でも、僕らがいる現実の世界で、悪いことをしたらすぐにアウトになってしまいますよね?

――執行猶予がない。

 どういう意味でトム・クルーズさんが言ったのか、その真意はわからないけど、この作品で伝えたいメッセージというのは、過ちを犯しても許されるチャンスという見方もあるんじゃないかなと、僕はこの作品から感じました。

(おわり)

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