ゲスの極み乙女。がロック界に投じた新しいラップの解釈
第7回CDショップ大賞で入賞したゲスの極み乙女。の「魅力がすごいよ」
全国のCDショップ店員が「これぞ」と思う作品を投票で決める「第7回CDショップ大賞」で特別枠として「BEST ARTIST賞」を受賞したゲスの極み乙女。ショップ店員による彼らの評価は「久々に“音が時代とマッチした”瞬間に立ち会った気がします」や「彼らが奏でる音楽は艶やかで、攻撃的で、酔いしれるほど魅力的な表現力がある」といったものなどだ。
日本のロックシーンにおいて急速に人気を集めているゲスの極み乙女。やKANA-BOONなどといった若手バンド。彼らに共通するのはロックをベースにしながら色々な音楽性を組み合わせていることが挙げられる。なかでもゲスの極み乙女。は、楽曲の一部に「ラップ」を取り入れていることが他のバントと異なる点と言えるだろう。
一部で現在のロックシーンのトレンドである4つ打ちロックが頭打ちの状態だと言われているが、今日の超情報化社会やYouTubeやニコニコ動画などの新しいメディアの台頭の影響でジャンルの壁を越えて新たな音楽を創作していく傾向が顕著である。と言っても「ジャンルの枠組みを壊す」というような反骨心というよりかは、既成概念を持たないデジタルネイティヴ達が自由気ままにやっているという印象である。
プログレヒップホップバンド
ゲスの極み乙女。は「プログレヒップホップバンド」と名乗っている。ロックという言葉が内包するとげとげしさとは裏腹なメンバーの風貌から「草食系4つ打ちロック+ファンクサウンド」、若しくは「草食系ミクスチャーバンド」という見方もできるが、ここでは触れない。しかし彼らの「ラップ」はヒップホップのそれとは明らかに異なる点がみられる。ここで彼らの「ヒップホップ感覚」について考えてみたい。
例えばゲスの極み乙女。の同世代のゆとり世代ラッパーの代表として、SALUが挙げられる。ゲスの極み乙女。とSALUの音楽的な一番の相違点は楽曲のbpm (1分間に於けるビートの速さ)とそれに乗るラップの関係にある。
ヒップホップの楽曲は割とゆったりとしたビートの上にリズムが揺らいだ(フロウした)ラップが乗り、音程よりリズムやグルーヴといった側面が強調されている。対してゲスの極み乙女。は速いテンポの曲にラップが乗っているのと音程を外しながらもリズムは揺らがず一定である。音程は外しながらもメロディアスであり、ラップをスロー再生しても普通にメロディとして聴くことが可能だ。
これと似たような状況が他のミュージシャンの楽曲にもある。例えば、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの「新世紀のラブソング」、そしてRADWIMPSの「おしゃかしゃま」だ。やはりどれもラップが、リズムが揺らがずメロディアスだ。
ラップにおけるライム(韻の踏み方)は、かつてジョンレノンも「歌詞はダジャレでつくる」と発言している通り、ロックもヒップホップも重要度は共通しているだろうが、フロウなのかメロディなのかという解釈に興味深い差が現在生じている、と考えた方がよいだろう。
新しいヒップホップの解釈がロックから出現
過去を振り返ってみれば日本におけるロックとヒップホップの蜜月だった1999年、Dragon Ashの「Grateful Days」が発表された。この時ZEEBRAに現代的なフロウのベクトルが見えると言えども全体的なラップの質感で降谷建志と差は無かったと思われる。しかしこれ以降の両者は道を分かちヒップホップサイドはbpmの低下と自由なフロウへと駒を進め、ロックサイドは「拡張された歌」としてラップを導入していく。
さらにゲスの極み乙女。と同世代のヒップホップバンドであるSANABAGUNの演奏を比べてみるとその違いは明らかである。音楽大学ジャズ科卒のメンバーも入り混じるSANABAGUNはブラックミュージック直系のバンドサウンド。一方のゲスの極み乙女。は前述の通りやはりロックバンドなのである。
しかしここで興味深いのはブラックミュージックを直接的ではなく、その構造としてだけ内在化してきた現在のJロックに於いて新進のバンドが自らを「プログレヒップホップバンド」と名乗ったことなのである。
ブラックミュージックを下地にするファンク、ヒップホップやR&Bのアーティストがヒップホップという言葉を使うのは必然であり容易いことだ。しかし、今ロックバンドがプログレという言葉を伴って「ヒップホップ」と名乗っている。
これはこれまでの枠にとらわれない新しいヒップホップの解釈がロック側から出現した、というあまり語られない事件であり、Jロック界においてはこれまでの流れ、いわばゲームがひっくり返った瞬間とも捉えることができる。この新しい角度からの「ヒップホップ感覚」がこれからのロックを変えていくのかもしれない。 【文・小池直也】
ゲスの極み乙女。とは
2012年5月に「indigo la End」のボーカルでもある川谷絵音(Vo/Gt)を中心に、休日課長(Ba)、ちゃんMARI(Key)、ほな・いこか(Dr)の4人で結成。その奇抜なバンド名は当時、ちゃんMARIが持っていたトートバッグに書いてあった文字から採用。
2013年3月に1stミニアルバム『ドレスの脱ぎ方』で全国CDデビュー。同年12月リリースの2ndミニアルバム『踊れないなら、ゲスになってしまえよ』で「第6回CDショップ大賞2014」入賞。年末に開催された『COUNTDOWN JAPAN 13/14』では入場規制がかかる程の観客を集めた。
2014年4月に3rdミニアルバム『みんなノーマル』で、ワーナーミュージック・ジャパン(unBORDE)からメジャーデビューした。第7回CDショップ大賞では『みんなノーマル』と『魅力がすごいよ」の2作品がノミネート、このうち『魅力がすごいよ』が入賞。多数の支持を集めたため今年は特別枠として「BEST ARTIST 賞」を受賞した。
高い演奏技術や独特の雰囲気を醸し出すボーカルの声が魅力。プログレ、ヒップホップをベースとしながらも独自のポップメロディを奏で、彼らから発せられる楽曲は若い世代を中心に支持を集めている。