aiko「ずっといるよねって言われ続けたい」アーティストとしての姿勢
INTERVIEW

aiko

「ずっといるよねって言われ続けたい」アーティストとしての姿勢


記者:編集部

撮影:

掲載:22年10月16日

読了時間:約7分

 aikoが、10月12日に自身43枚目となるシングル「果てしない二人」をリリース。前作「ねがう夜」から約半年ぶりのリリースとなった。「果てしない二人」は10月14日公開された映画『もっと超越した所へ。』の主題歌。カップリングにはカルビーポテトチップスのCMソング「夏恋のライフ」、「号泣中」、「果てしない二人(instrumental)」の全4曲を収録。インタビューでは、「果てしない二人」の制作背景に迫りながら、来年25周年を迎えるaikoに、アーティストとしての完成度は現在何%なのか、話を聞いた。【取材=もりひでゆき】

今まで以上に自分自身を信じよう

aiko「果てしない二人」通常盤ジャケ写

――新曲「果てしない二人」は、公開中の映画「もっと超越した所へ。」の主題歌に起用されていますね。

 はい。主題歌のお話をいただいた後、実際に映画を観せていただいたんですけど、とてもおもしろくてで爽快な内容だったんですよ。観終わったときには凄く興奮していて、『この映画の主題歌に私を選んでくれたんだ!』と思ったら本当にうれしくてたまりませんでした。

――で、そこから曲を形にしていったと。

 数年前に作っていたデモがあって。『この映画に合うかも!』と思ったので、それを元にしながら今回あらためていろいろと肉付けしていった感じでした。AメロとBメロは元々違うメロディがついていたんですけど、映画を観たことで別の新たなメロディが浮かんできたりもして。ただただハッピーなラブソングを作りたいなと思っていたけど、無意識のうちに映画の内容にいい形で引っ張られていた部分があったのかもしれないですね。

――『果てしない二人』というタイトルがいいですよね。その意味を受けた、深い関係性を持つ2人の姿を描いた歌詞も素敵です。信頼する相手に“何もかも守ったげる ベイビー”って言われたらもう最高ですよ。

 あははは。ありがとうございます。この曲では、時には喧嘩をしたり、時には老夫婦のように穏やかな時を過ごしたり、そんな恋人同士の間にあるいろいろな全てを表現したかったんですよね。恋愛はもちろん、人生に関しても、なんとなくで過ごすのってもったいないじゃないですか。毎回、やりすぎと思うくらいの気持ちで向き合ったほうが絶対楽しいと思うんです。そんな気持ちが『果てしない二人』というタイトルに繋がっていきました。タイトルはボーカル録りをしているくらいの時期に決めたんですけど、あんまり悩まずに浮かびましたね。

――なんとなくではなく、やりすぎと思うくらいの気持ちで向き合うというのは、aikoさんの音楽に対する姿勢にも通ずるものですよね。

 はい、そうだと思います。限界はできれば自分で作りたくないですね。年を重ねるにつれて、“自分はこうなんだ”って思い込んでしまうところがあるけど、そうは思わないようにしたいんです。この曲のレコーディングを通して、あらためてそんなことを再確認できたような気がしました。今まで以上に自分自身を信じよう、もっともっと音楽を楽しもうという気持ちは、ここ数年でより強まってきていると思いますね。

――アレンジは島田昌典さん。そのサウンド上で響いているaikoさんの歌声も本当にハッピーで楽しそうですね。

 気分爽快になるアレンジを島田さんに作っていただいたので、レコーディングはとにかく楽しかったです。息が足りなくてめっちゃしんどいんですけど、それすらも楽しめている感じがありました。

――サビのラストには気持ちよく上昇していくロングトーンが待ち構えていますからね。歌うのはなかなか大変そう。

 そうそう。そこのところはもう酸素が“残り2”くらいで赤いランプが点灯してますから(笑)。歌い重ねていくことで、そういうしんどい部分もしっかり乗り越えていきたいなって思います。

『昔のaikoっぽくていいね』って言われるのがすごく悔しかった

aiko「果てしない二人」初回盤ジャケ写

――2曲目に収録されるのは、カルビー「ポテトチップス うすしお味」「じゃがいもチップス」CMソングとなっている「夏
恋のライフ」。aikoさんが19歳のときに作られた楽曲なんですよね。

 そうなんです。友人から歌詞と一緒に『この曲、出さへんの?』っていう連絡がきたのをきっかけに、昔のデモテープをレコード会社の方に聴いてもらったところ、『いいですね!』って言ってもらえて。とんとん拍子でリリースできることになりました。しかも去年に続いてポテトチップスのCMにも使っていただけることになって。ずっと出したかった曲だったのですごくうれしいですね。

――今のaikoさんが歌ってもまったく違和感のない楽曲だと思いますが、先行配信されたときにはTwitterなどで「懐かしい雰囲気がある」というコメントがたくさん見られましたよね。

 ちょっと前やと、『昔のaikoっぽくていいね』って言われるのがすごく悔しかったんですよ。『じゃあ今の私はイマイチなのかな』って思ってしまって、その言葉をどう受け止めていいのかわからなかったというか。でも今ではそういう感覚からも抜け出して、『昔のaikoっぽい』という言葉をすごく嬉しく思えるようになったんですよね。そう感じてくれたということは、それだけ昔からaikoの曲を聴いてくれてるということですから。今回の曲は実際に19歳の自分が書いた曲でもあったので、そういう感想はすごく嬉しかったです。

――この曲のアレンジも島田昌典さんが手がけています。サウンドのアプローチに関しては何かイメージを共有していたんですか?

 あんまり渋くなりすぎないロッカバラードにしたいなというイメージはあったので、そのあたりは島田さんと何度かやり取りをさせていただきましたね。結果、ノスタルジーでかつ風が吹いているようなアレンジにしていただけたのがうれしかったです。特にサビに入る直前のところは、大好きです。

――ボーカル面では、けっこうコブシを聴かせた歌い方をされている印象があって。フレーズの最後に“Ah”“yeah”といった短いフェイクを入れたりしているところも含め、やっぱりちょっとした懐かしさを感じるところもあったんですよね。

 そういうの入れたがりますよね(笑)。自分でも『すぐ入れたがる!』って思いました。19才の私イキってるなぁって思うのと同時に、あの頃の自分を羨ましく思うところもどこかにはあって。なので、今回は基本的に昔のデモのまんまの歌い方をしたんですよね。キーや歌いまわしを変えることなく今の自分として歌うというのが、この曲における課題だったかもしれないです。

――3曲目の「号泣中」は、いわゆるトラックものと言えるような、打ち込みを大胆に盛り込んだ1曲。最高にかっこいいです。

 うれしい! “楽器を弾けない人がアレンジをしたらどうなるんだろう”というアプローチを、アレンジャーのトオミヨウさんが試してくださいました。今回はベースとギター以外は打ち込みになりました。トオミさん的に『やりすぎたかな』って不安もあったそうなんですけど、私はもう聴いた瞬間に『めっちゃ好き!』って思いました。アレンジをいただいた日には感謝を伝える長文のLINEを送りましたね(笑)。

――別れた相手に対しての揺れ動く感情が紡がれた歌詞にも引き込まれます。ラストに用意されている、ちょっと景色の変わるパートでは“心臓食べた”という強力なフレーズが使われていますね。「ハニーメモリー」の“心臓は5個あったらいいな”をちょっと思い出しましたが。

 相手にとってはただのなんてことのない一言だったとしても、自分にとってはそれが日々を乗り越えるパワーを与えてくれる言葉になることってあるじゃないですか。そんな一言を投げかけられたときに私は“心臓を食べられたな”って思うんです。そうやって、その人にどんどん蝕まれていくっていう(笑)。

――この曲ではおもしろい言い回し、表現が多いですよね。“何晩目”とか。

「“何番目”って言うより“何晩目”って書いた方がリアルでいいなと思って。あと“身も札もない”とか。相手に対してぶつかれるカラダも、出せるカードもないっていう意味ですね」

――この曲もキーはかなり高いですよね。

 めっちゃ高かったです。レコーディングのとき、バンドの方には『どこから声出てるんですか!?』って言われました(笑)。しかも、ビリビリ棒みたいに超狭いところに声を通していくような感覚があるので、この曲はもっともっと歌いこんでいきたいなって思いました。身構えて歌うのではなく、どんなときにもすぐこの声が出せるように、ずっと歌い続けて行きたいです。

――aikoさんは来年でデビュー25周年を迎えますが、未だ向上心がなくなることがないですよね。ご自身の中のアーティストとしての理想像を100%だとすると、現在って何%くらいだと思います?

 えー、難しいな。48%くらい? 100%になるっていうのは、それはもう歌うのを辞めるときやと思うんですよ。何年やってもそこに辿り着かないから、私はずっと歌を続けることができているんだと思う。今の48%っていうのも、ひとつずつ自分で積み重ねてきた点数だから、決して悪い数字ではないと思います。まだまだ頑張りたいですね。『なんやかんや言って、aikoってずっといるよね』って言われ続けたいです(笑)。

(おわり)

この記事の写真

記事タグ 

コメントを書く(ユーザー登録不要)

関連する記事