昨年デビュー25周年を迎えたaikoが、ニューシングル「相思相愛」をリリース。<あたしはあなたにはなれない>というフレーズに心を奪われる「相思相愛」(劇場版「名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)」主題歌)、夢と現実を行き来するような感覚を味わえる「まさか夢」、自分のすべてを受け止めてくれる“あなた”への思いを描いた「あなたは優しい」を収録。本作を聴けば、aikoのラブソングがさらに豊かさを増していることを実感してもらえるはずだ。インタビューでは、ニューシングル「相思相愛」の制作背景から、25周年を経てこれからの活動への想いを聞いた。
「好きだな」と思うときって、必ず尊敬の気持ちが入っている
――「相思相愛」は劇場版「名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)」主題歌。すごく切なくて、愛らしい“相思相愛”だなと感じました。
このタイトルは曲が出来た後に付けたんですけど、とてもしっくり来た感じがしました。“相思相愛”という言葉は相手に対して好きという気持ちだけでなく、尊敬の気持ちがないと言えないような気がしていて。この曲が完成した時「あなたをとても大切で大好きで尊敬している想い」でいっぱいの曲だなって。
――“好き”と”尊敬“はいつも共存している?
私はそうですね。「好きだな」と思うときって、必ず尊敬の気持ちが入っているので。ただ、どんなに好きでもすべてが重なり合って、分かり合えることってないじゃないですか。パズルの隙間があいてるような感じがいつもあって...。たとえば相手の人が「おなかが痛い」って言ったとき、「大丈夫?」って心配することはできるけど、どれくらい痛いのか、どんなふうに痛いのかまではわからない。そういう小さいことからはじまって、“一緒になれない”という切なさを描いた歌なのかなと。
――なるほど。でも、聴き終わったときはなぜか前向きな気持ちになれるんですよね。
そうかもしれないです。この曲、デモの段階ではバラードだったんですよ。編曲をトオミヨウさんにお願いしたんですけど、「僕なりにチャレンジしていいですか?」と言ってくださって。上がってきたアレンジを聴いたら、ちょっとテンポが上がっていたんです。それがすごく良くて。曲の見え方が少し変わったんです。
――すぐそばで語り掛けているようなボーカルも印象的でした。
マイクからなるべく離れないようにして、節回しやイントネーションを強く出さないように心がけました。独り言のような、でも、思わず言葉にしてしまったような強い気持ちを歌いたくて一言一言を大切にして歌いました。それはレコーディングのときに気づいたことなんです。バンドの皆さんがリズム録りをしてるときにガイドボーカルを歌っていて、そのときに「あまり語尾を伸ばさず、普通に話すように歌ったほうがいいな」と思ったので。
――劇場版「名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)」も絶賛公開中です。
凄く面白くて、めちゃくちゃ感動しました! 最初に観たのは0号試写だったんですけど、背もたれを使わず、ずっと食い入るように見ちゃいました。帰り道でも「あれってさ……」って映画の内容についてずっと考察して。エンドロールで「相思相愛」が流れるんですけど、歌詞にルビが振ってあったんですよ。小さいお子さんもわかるように。それがすごくうれしかったです。
見た夢がそのまま歌詞になることはめっちゃある
――カップリング曲の「まさか夢」は、目まぐるしく展開するサウンドが楽しいアップテンポの曲。曲名は“正夢”と“逆夢”を合わせた言葉だとか。
そうなんです。私、めっちゃ夢を見るんですよ。一度に3話くらい見ることもあって(笑)。めっちゃ美味しいものをお腹いっぱい食べる夢を見て、起きてからも満たされていたり。甘いものを食べてて、マウスピースをモグモグしてたりとか(笑)。そういうときはハッピーなんですけど、逆に夢のなかで好きな人に意地悪されたり、険悪になることもあって。そういうときはホントに落ち込んじゃうし、そんな日は1日けっこう夢に引っ張られるんですよね。あと、そのときに気にしていることや寝る直前に目にしていたものが出てきたりするじゃないですか。夢に出てくると「やっぱり気になってるのかな」「ということは好きってことかな」みたいに思ったり、現実なのか夢なのかわからなくなる瞬間もあって、「なんやろう、この感じは?」っていう。モヤモヤしてたら変な夢を見ちゃうし……みたいなことを歌詞にしてみました。
――見た夢がそのまま歌詞になることもあるんですか?
めっちゃあります。<昨日も今日も夢に出てきたあなたはしっかり笑顔でいた>(「それだけ」)という歌詞もあるし。あと「この人、夢の中ではなんでこんなに優しいんだろう?」「優しくしてほしいと思ってるんやろうな」みたいなことを考えることもあるので。歌詞の話とはちょっと違うけど、ライブの夢もときどき観ますね。自分のツアーのつもりでステージに上がったらTHE HIGH-LOWS(ザ・ハイロウズ)のライブだったという夢を見たこともありました(笑)。
――それはビックリしちゃいますね(笑)。
「開演時間が来てもお客さんがぜんぜん入ってない」という夢もツアー前にはすごくよく見ます。「ちょっと待ってね」って焦りながらトークでその場を繋いてたら、お客さんが「はよ歌って」って言い出して。「やばい、握手会に切り替えよう」と思ったら、「そんなんちゃうねん!」って怒られる、みたいな(笑)。
ずっと変わらず、でも、少しずつ変わっていけたら
――もう1曲の「あなたは優しい」は心地よいグルーヴが印象的なミディアムチューン。<そして泣けてくるほどあなたは優しい>というフレーズがありますが、この曲の“あなた”は本当に優しいですね……。
そう、優しいんです!
――人には言えないような<真っ黒な部分>も受け止めてくれて。
そうなんですよ。私はフィルターをかけて人を見るところがあって。そんな事ないんですけど「男の人ってみんな浮気する」じゃないけど(笑)、疑いの眼差しが最初に来ちゃうことがあるんです。でも、優しい人っているんですよね。この曲では恋愛のことを歌ってますけど、それ以外のところでもちゃんと自分に向き合ってくれる人はいるし、「この人は絶対に嘘をついてないな」と純粋に思わせてくれる人もいて。「前世は天使だったんかな?」みたいな人のことを想って書いた曲ですね、「あなたは優しい」は。
――アレンジも素晴らしいですね。ジャズのテイストではじまって、そこからいろんな風景が見えてくるようなサウンドで。
この曲は少し前からあって。以前トオミさんにアレンジしてもらって、アルバムに入れようと思ってたんですけど、そのときは「バランス的に他の曲のほうがいいな」と思って収録しなかったんです。今回改めてトオミさんにお伝えしたら、「僕、こんな攻めたアレンジしてたんですね。ブラッシュアップします」ってさらに手を入れていただいて。基本は変わってないんですけど、いろんな音色が加わって、キラキラしたものが増えた感じがして、更に素敵に仕上げてくださいました。大好きな曲です。
――収録曲それぞれにしっかり個性があって、聴きごたえがあるシングルだと思います。25周年を経て、現在のaikoさんはどのようなモードで音楽活動に臨んでいますか?
通常運転です。ずっと変わらず、でも、少しずつ変わっていけたらなって。商店街のなかにある自転車屋さんみたいな感じでやっていきたいです(笑)。
――25周年を過ぎたからと言って、特別なことをやるわけではなく。
そうですね。でも、長く続けたいからこそ「もっとがんばらないとな」って思っています。若い頃みたいに「最後は筋力で乗り越える」みたいなことはできないかもしれないけど、これまで勉強してきたことを活かして、さらに前を向けたらなって。相変わらず不安だし、新しい曲をレコーディングしたときは「いい曲だと思うけど、大丈夫かな?」って思っちゃうんですけどね。曲の制作もライブも慣れることはないですけど、そうやってドキドキしながらやっているのがいいのかもしれないです。
(おわり)