INTERVIEW

オースティン・バトラー

映画「エルヴィス」で見せたかったものとは


記者:村上順一

写真:Eric Ray Davidson

掲載:22年06月10日

読了時間:約7分

 世界史上最も売れたソロアーティスト、エルヴィス・プレスリー。エルヴィスの誰も知らなかった真実の物語を、『ムーラン・ルージュ』 のバズ・ラーマン監督が映画化した『エルヴィス』が7月1日に公開される。同作は数々の逆境を打ち破り世界を変えていくエルヴィスの生き様が描かれたミュージック・エンタテイメント映画だ。

 主人公のエルヴィスを演じるのはタランティーノ監督作品やジャームッシュ監督作品に出演したオースティン・バトラー。バズ・ラーマン監督に「エルヴィスそのもの」と言わしめるほどの完成度を見せた演技の背景には、映画『ボヘミアン・ラプソディ』主演のラミ・マレックの役作りも支えたポリー・ベネットがムーブメントコーチに就き、徹底的にエルヴィスの細かい所作を叩き込まれた。生涯にわたりエルヴィスのマネージャーを務めたトム・パーカー役に、二度のアカデミー賞受賞俳優トム・ハンクスが作品に花を添える。MusicVoiceではエルヴィス役のオースティン・バトラーにインタビューを実施。どのような意識で撮影に臨んだのか、エルヴィスとシンクロした瞬間など、話を聞いた。【取材=村上順一】

魂、命というものをいかに感じさせるか

『エルヴィス』場面写真

――役作りとしてどのようにアプローチしたいと考えていましたか。

 何よりも表現したかったのは人間性でした。彼の魂というものを感じさせたかったと同時に、私たちが見て聞いて知っている“素のエルヴィス”になるべく添いたい、核心に迫りたいという気持ちがありました。でも、そのコンビネーションはなかなかトリッキーで、彼の性質だったりリズム、そういったものを全部を表現すると、蝋人形のようになってしまう。そうならずに魂、命というものをいかに感じさせるか、というのは常に頭にありました。

――その人間性を表現するためには、どういうことが役立ちましたか。 

 すべてはリサーチから始まりました。出来るだけエルヴィスのすべてを吸収しようという姿勢で臨みました。素晴らしいドキュメンタリーも何本もあるし、ホームビデオで彼が冗談を言う様子も捉えたものもあります。それらは彼の人間性に迫るのにすごく役立ちました。加えて、エルヴィスがお母様を失った過去について知ることも助けになりました。その悲しみというのは僕も共感できたので、そういったことの一つ一つが彼の人間性を知る上での鍵になりました。

――役作りをしていく中で、自分に通ずるもの、共通するものはありましたか。

 映画を撮っている時も、そういう瞬間がたくさんあって、例えば1968年にカムバックした時のレザージャケット着ていたシーンは、プレッシャーも大きかったです。かなりビビっていたのですが、撮影する前に控え室で自分自身と会話をしました。その中で気がついたのは、ライブを数年やっていなかったエルヴィスが人前でパフォーマンスをする、このライブ自体がエルヴィスのキャリア全てがかかっているということでした。自分も状況は違うけれども気持ちの上で同じだなと思い、大きなプレッシャー、それこそ人生がかかっているという思いでした。その気持ちから逃げるのではなく、それをエネルギーとして、観客に向けて演じました。今回の撮影中にそういうことがたくさんあって、彼はもしかしてこんな風に感じていたんじゃないか、と思う瞬間は沢山ありました。

――ご自身が演じていく中で、一番エルヴィスさんとシンクロしたと思われる瞬間は?

 シンクロした瞬間はたくさんあったので、選ぶのは難しいけど、一つ例を挙げるならば、ラスベガスのショーのシーンです。トラックのリズムに合わせて、オーケストレーションをエルヴィスがアレンジしていく、ということをリハーサルとしてやっていましたが、当日に監督のバズが「生でやってみたら?」と提案してきて。なので、トラックを聴きながらではなく、実際にプロの演奏家に生演奏してもらって、それを自分がその場でアレンジしていくという形に変わりました。僕がエルヴィスとして演奏をアレンジしていかなければいけなかったのですが、その瞬間、僕の中で何か超越した感覚がありました。エルヴィスの魂というものが少しずつ見えてきた瞬間でもあったんです。

『エルヴィス』場面写真

――エルヴィスの奥さまプリシラさんから、絶賛されて、オースティンさんは感極まったとのことですが、どのような言葉を掛けられたのでしょうか。

 プリシラがバズにメッセージを送ってくれていて、バズと一緒にディナーに向かう車の中でそのメッセージをのことを教えてもらいました。僕の演じたエルヴィスをすごく気に入ってくれて、「エルヴィスの人生そのものを作ってくれた」と聞いて僕は嬉しくて泣いてしまいました。その後ニューヨークでお会いして、お話をする機会があったので、どんな瞬間に一番心動かされたのかなど詳しく聞きました。それは自分にとってとても意味のある瞬間でした。世界中にエルヴィスを愛する方がたくさんいらっしゃって、みんなそれぞれエルヴィスに対して思い入れがきっとあると思います。この映画を観て、みんながすごく幸せな気持ちになってもらうと同時に、エルヴィスに見合うだけのものを作ったね、と思ってもらえたら嬉しい。ただ、何よりもご家族にもそう感じてもらうことも重要だったので、すごく心が温かくなりました。

今までお会いした誰よりも会ってみたい

『エルヴィス』場面写真

――なぜエルヴィスさんはこんなにも支持されるアーティストになったとオースティンさんは思いますか。

 よく言われるのはIt factor、うまく言葉で表せない何かを持っているという言葉です。エルヴィスはスポンジのように全てを吸収してきました。いろんな音楽のジャンル、ゴスペル、スピリチュアル系、そして、B.B.キングなどの音楽も吸収しています。エルヴィスは元々はカントリーを聴いて育っているので、それら全てを一つにして何か新しいものを彼は生み出していったので、そういった彼を形成する全てのものが、その人をたらしめているのではないかと思います。

 加えて心理的なところだと、エルヴィスは双子の兄弟として生まれたのですが、その兄弟が生まれた時に亡くなってしまったことが大きいと思っています。特に母の目からすればエルヴィスが生まれたこと自体が奇跡でもあるので、逆にエルヴィスとしては2人分の人生を生きなければ、と責任感を感じていたと思う。おそらく自分の感情全てを音楽に翻訳して表現していたんじゃないかと。人に対して影響を与えられる能力を持っている、特にステージで観客と関係性を築くことができるというのは、凄い能力でエルヴィスは間違いなくそういう力を持っていたと思います。

――オースティンさんはエルヴィスのような影響力持ちたい、存在になりたいという気持ちは強いですか。

 エルヴィスを演じたことで本当にたくさんのことを学びました。その中で彼が持っていた観客と繋がる、というのはすごく興味深いものでした。舞台は役者として経験しているけど、音楽のステージは演劇とはちょっと違うんですよね。そのステージが終わったとしても、常に音楽に囲まれていて、皆さんと音楽を感じて、笑顔になったり。観客の目を見て繋がるというのは、自分の中でも中毒になりそうな感覚でした。そういう人になりたいか、というのは一旦横に置いておいて、僕はこれからも真実に迫るようなストーリーテラーでありたいし、自分が敬愛する素晴らしいアーティストたちと一緒に仕事をしていきたい。自分の持てるツール全てを使って表現していきたいと思っています。

――本作の見どころは?

 観てほしいシーンはたくさんあるけど、ライブシーンは特に見てほしいです。個人的には、警察からパフォーマンスで腰を振るなと警告されるけど、結果として腰を振ってしまうシーン。それは彼の反骨精神みたいなものを感じられ、ちょっとパンクロック的なシーンです。エルヴィスはもともとそういった面もあったと思うけど、特に動物的なパンクっぽい感じが出ているシーンで、スクリーンで観るのを僕も楽しみにしています。あとはラスベガスのショウのシーンもぜひ注目して欲しい。

――撮影中はエルヴィスの音楽をずっと聴いていたと思いますが、普段どういった音楽を聴いていますか。

 エルヴィスは今でもたくさん聴いています。他にはケンドリック・ラマーの新譜も良かったし、チェット・ベイカーとかジミ・ヘンドリックスも聴きます。幅広く色んな方の曲を聴くので、その時のムードで聴く音楽は変わりますね。

――もしエルヴィスが生きていたら、聞いてみたいことを一つ挙げるとしたら?

 今までお会いした誰よりも会ってみたいし、一緒に時間を過ごしたい方なんです。1つに絞るのはすごく難しいけど、この映画での自分のパフォーマンスをエルヴィスが見た時に、ちゃんと自分に見合うものであったのか、そして誇らしく思ってくれたかどうかはぜひ聞いてみたいです。

(おわり)

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