INTERVIEW

田代 輝

「夢のような撮影だった」。『CUBE 一度入ったら、最後』で異彩放つ13歳の俳優


記者:木村武雄

写真:木村武雄

掲載:21年10月29日

読了時間:約6分

 映画『CUBE 一度入ったら、最後』(清水康彦監督、公開中)で、主演を務めた菅田将暉を始め、杏、岡田将生、斎藤工、吉田鋼太郎と共にメインキャストを務めたのが撮影当時12歳だった田代輝(たしろ・ひかる)。芸能活動を0歳で始めた彼はTBS日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』などドラマへの出演経験はあるが、これほどの大役は初めて。「演じる上で大切なことを数えきれないほど教わりました。間違いなくターニングポイントになると思います」と幼さが残る声とは裏腹に力強い眼差しで語る。【取材・撮影=木村武雄】

田代輝

“宇野千陽”の心情の変化

 先日都内で行われた完成披露試写会では、緊張の面持ちもあったがマイクを口に近づけると「今は楽しみです」と笑顔で客席を見渡した。出演が決まった当時は嬉しさもあったが、次第に緊張と不安が襲ってきた。「これだけ豪華なキャストのなかでちゃんと演じられるか不安でした」

 その緊張を解いたのが菅田をはじめとするキャストらだ。「撮影初日から下の名前を呼んで下さり、撮影の合間にもたくさん話しかけて下さったので、緊張がほぐれました」

 本作は、密室スリラーの先駆けとして世界中でカルト的人気を誇るヴィンチェンゾ・ナタリ監督による映画『CUBE』(1997)が原案。突然放り込まれた男女6人が様々なトラップが仕掛けられた迷宮“CUBE”からの脱出を目指す。死と隣り合わせにある極限状態に陥るなかで露わになる人間の本性も本作の見どころの一つになっている。

 田代が演じた宇野千陽(うの・ちはる=13歳)は、中学校で壮絶ないじめに遭い、心を閉ざした少年。元々は明るい性格だったが、誰も信用できなくなってしまった。助けてくれなかった大人に対しては、特に強い嫌悪感を抱いている。田代は、千陽のそうした境遇を自分のこととして理解することが当初はなかなかできずに苦労した。

 「千陽は学校でいじめられているのに、助けてくれなかった周りの大人に嫌悪感を持っています。そのように心を閉ざした人の心境を理解しようと思っても、なかなかできませんでした。僕だったら助けに行くと思うので、誰も助けてくれなかった千陽は一体どういう気持ちだったのか。台本を何度も何度も読んで、時間をかけて理解していきました」

 千陽はそうした過去から「CUBE」に閉じ込められた同じ境遇の5人に対しても鋭い視線を送っている。

 「千陽は言葉に発しない分、心に溜め込んでいるものがたくさんあるだろうと思いました。何も分からないところに放り込まれて、大人も信用できず、さらに本当の気持ちを知られたくないから、あえて落ち着いているように見せていました。実際に最初の方は『誰も信用できない』ということを心で言いながらあそこに座っていました」

田代演じる宇野と杏演じる甲斐(C)2021「CUBE」製作委員会

 そんな千陽だが、次第に菅田演じる主人公の後藤裕一に心を開く。警戒心が解け表情は緩やかになっていくその変化を、田代は繊細に表現した。

 「それが伝わっただけでもすごく嬉しいです。自分の中でも意識しました。後藤さんは千陽の意見に耳を傾けてくれて疑うことなく信用してくれましたし、それを行動に移してくれました。その姿を見て千陽は『信用してくれる大人がいるんだ』と思ったはずです。心を開放していく、そんな千陽の成長も見てほしいです」

 どんな役でも演じるからにはその人物を愛する。田代も千陽という役を理解し、そして愛した。その中で気づいたのは、計算力と観察力があるということ。その2つが後に運命を分ける。とりわけ観察力は劇中では大きく描かれていないが、そこにも注目してほしいと語る。

 「千陽にはいじめに遭うなかで養われたものがあると思うんです。それが観察力です。人を信用していないからこそ、一つ一つの出来事、言動に敏感で、常に疑いの目を持っています。最初にこの場に来た後藤さんがすごく動揺しているなとか」

 警戒の観察眼は、杏が演じる甲斐麻子にも向けられる。「途中から現れた甲斐さんは目の前に死体があっても驚かなくて、なんか不思議だなと。千陽自身はそれを見た時に驚いて、僕も演じながら心臓がバクバクしていました。最後の方は甲斐さんに対して母性を感じるところがあったかもしれませんが、初めは冷静沈着で目に感情がない甲斐さんを果たして信用できる人なのかなと疑っていたと思います」

田代輝

多くを学んだ撮影、財産に

 「僕も慎重なタイプで、横断歩道を渡るときは信号が青になっても車が来ていないか何度も確認します」という田代。性格の一部が千陽に似ていただけではない。田代の変化は千陽にも少なからず影響を与えた。

 ほぼ順撮りに行われた撮影。豪華キャストと迎えたクランクインの緊張は、物語の序盤にある心を閉ざした千陽に重なった。撮影では何度も撮り直すこともあった。「皆さんに迷惑をかけている、自分のせいで撮影が押していると思うこともあって、どうしようどうしようと焦っていました」。そのプレッシャーからセリフがうまく言えなくなってしまった。そんなときに菅田から「大丈夫だよ、このシーンに1週間でも1カ月でも付き合うから安心して」と声をかけてもらい落ち着いた。それは後藤に心を開いていく千陽にも重なる。そして撮影、物語が進むにつれて成長していく田代と千陽――。

 菅田ら先輩キャストとの時間は多くの刺激を受けた。

 「岡田将生さんはこの作品の前に数学の教師役をなさっていたようなのですが、教師としてのふるまいだけでなくて役柄に合わせて数学を勉強されたと聞いて驚きました。その背景までも役に落とし込むということを学びました。それと今回、撮影場所に個室で広い楽屋を用意いただいていて、そのような経験がなかったのですごく嬉しくて、それを斎藤工さんに伝えたら『その思いをこの先も忘れないでね』と言って下さって。斎藤さんの優しさが心に刺さりました」

 スタジオには、巨大なセットが組まれた。オリジナルよりも大きく作られたCUBE。そのなかでの撮影は体力的にもきつかった。「クランクイン前に見学する機会がありました。実際にハッチを開けようとしてみましたが、固くて全然開けられなくて。撮影でできなかったらまずいと思って筋トレしました(笑)。それと上から下に降りるシーンは懸垂をしながら降りるのですが、命綱をつけていながらも腕力で自分の体重を支えないといけなくて滑ったら本当に落ちるかもしれない、という恐怖心がありました」

田代輝

 そして後藤と斎藤演じる井手が衣服を結んで作ったロープでメンバーを引っ張り上げるシーン。「あのシーンは合成でもなんでもなくて、実際に演じて撮りました。5、6メートルの高さがあってみんなで支え合って撮りましたが、特に菅田さんと斎藤さんは大変だったと思います僕も掴んでいる手がきつくて、あの時は体力との勝負でその疲労感がいい形で出ていると思います」

 まさに命がけともいえる撮影だった。そんな現場での経験全てが成長の養分になった。

 「もっといろんな役を演じたいと思いましたし、先輩方の話を聞いてとても刺激になりました。一つの作品を作っていく大変さ、そしてそれができた時の嬉しさを味わうことができて幸せです。この短期間で成長したと思いますし、大人の階段を一段、二段と上がったことを実感することもできました」

 初日舞台挨拶では「キャラクター一人一人に着目すると違う観方が出来て面白みが変わると思います」と呼び掛けた田代。千陽と同じような立場にいる人に向けては「SOSを出してほしいと思います。絶対に助けてくれる、信頼してくれる大人もいると思います。そして、自分を信じてほしいです。この映画がそういう人たちに一歩を踏み出せるきっかけになればといいなと思います」

 「夢のようだった」とも語るCUBEを抜け、新たな世界に目を輝かせる。「CUBEによって俳優としての新たなスタートラインに立てた気持ちです」

田代輝

(おわり)

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木村武雄

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